東方迷子伝   作:GA王

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【やってきたぜ!幻想郷】嫁候補三人目

 この日の冥界は見事な秋晴れ。秋、それは読書の秋、芸術の秋、スポーツの秋!

 

??「では、私がノルマを終えるまで素振りをしていて下さい」

??「かしこまっ!」

 

 庭先で真剣を手に、見事な技を繰り返す少女と、模擬刀を手に、基礎の基礎を淡々と繰り返す青年……否、ヲタク。

 修行の秋である。そして秋と言えばもう一つ……。

 

 

パクッ、パクッ、パクッ、パクッ

 

 

 縁側にテーブルを移動させ、映画鑑賞、スポーツ観戦でも楽しむかの様に、少女達を眺める屋敷の主人。団子を皿に山の様に置き、彼女は彼女の秋を、彼女なりに楽しんでいるご様子。

 やがて彼女の団子が無くなる頃、従者達も修行を終え、彼女の下へと歩みを進めていた。

 

海斗「あーッ! 幽々子様全部食べちゃったんですか!?」

 

 先に彼女の下へ辿り着いた彼。皿の上が掘削され尽くしたと知り、大絶叫。その声を聞くなり、おかっぱ頭も慌てて主人の下へ。

 そして現場を目撃。(たちま)ち顔色は真っ青になり……

 

妖夢「えぇぇぇーーーッ!?」

 

 彼女も大絶叫。

 

海斗「幽々子様、あれ今日のおやつ用なんですよ!?」

妖夢「さっき朝ご飯食べたばかりですよね!?」

 

 食べ物の恨みは怖い。人格を変える。この日のおやつが無くなったと知り、従者達は怒りを露わに。状況は2対1。この不利な状況下の中、主人が取った最終手段は……

 

幽々「テヘッ」ペロ

 

 頭を小突いて舌をペロリ。通称『テヘペロ』。

 

妖夢「……」

 

 従者其の壱、無言。肩をガックリと落とし、呆れ顔。

 

海斗「……」

 

 従者其の弐、無言。拳をガッツリと握り締め、歓喜。否、萌え。

 

妖夢「幽々子様の今日のおやつ、ありませんからね」

幽々「えーッ! ヤダヤダヤダヤダヤーダーッ!」

 

 

--ヲタク昼食中--

 

 

妖夢「え? 守矢神社へですか?」

 

 昼食を済ませ、従者達はジャパニーズティーでティータイム。主人、おやつが無しとなり、自室で不貞寝(ふてね)。2人が「午後からどうしようか」と雑談をしていると、ヲタクが突然、妖怪の山の山頂に建つ神社、「守矢神社に行きたい」と言い出したのだ。その目的は勿論(もちろん)、幻想郷観光。だがそれ以外にも目的がある模様。

 この依頼におかっぱ頭、嫌がる素振りを見せる事は無かったのだが、眉を八の字にして困り顔に。

 

妖夢「ご希望通りにしてあげたいのは山々なのですが、生憎今山頂までの索道(さくどう)が整備中でして……」

 

 妖怪の山。そこは人間達に理解のある天狗や河童等の妖怪達が暮らす地。しかしその標高はさることながら、神等の神聖な者達も暮らし、神聖な場所も多いが故、無断で侵入する者へは容赦(ようしゃ)が無い。

 そんな山の山頂に位置する神社。それが守矢神社である。辺鄙(へんぴ)な場所にあるため、参拝客が少なかったのだが、近年その問題の解決手段、ロープウェイが出来たのだ。山の麓から山頂まで、お手頃なお値段で、お時間20分程度で運んでくれる。その資金は『山の維持費』と言う名で、河童の新製品開発に割り当てられているとかいないとか……。

 そのリフトが現在整備中。それはつまり『空でも飛べない限り、今日中に辿り着くのは不可能』と言う事になる。

 この問題に直面した彼とおかっぱ頭。「うーむ……」と唸り声を上げながら、諦めつつ代替案を考えていた時だった。

 

??「索道ならもう少しで直る」

 

 何処からか声が。だがそれは彼らの直ぐ側。

 

海斗「え? 誰?」

 

 初めて聞く声に彼、頭上に『?』を浮かべるも、

 

海斗「(ゆかりんキターッ!)」

 

 と、ある程度予測していた。だが、

 

妖夢「何者ッ!? 姿を現しなさい!」

 

 おかっぱ頭は刀を手に取り、超警戒態勢。彼女のこの姿に彼は違和感を覚えた。なぜなら彼の事前情報では、彼女の主人と彼の予想人物は顔見知りであり、仲も良好の関係。彼女との接点も多いはずであった。そんな者であれば、声を聞けば「ああ、またあの人か」となるのが通常。

 だが今彼女は「何者ッ!?」と怒気を込めて尋ね、刀を構えたのだ。

 

海斗「みょん、この声ゆかりん……八雲(やくも)(ゆかり)じゃないのか?」

妖夢「違います! 私の知っている紫様は、こんな声ではありません!」

 

 そう説明する彼女の頬には、汗が一粒ゆっくりと流れていた。

 

妖夢「誰ですかっ!?」

 

 再び怒鳴る様に尋ねる彼女。その答えは……

 

??「圧倒的な力量の差があると知りながら、その口調にその姿勢。大した勇気だ。褒めて使わす。だが今は……まあ待て。少なくとも敵では無いとだけ伝えておこう」

 

 謎の声。だがそれには一言一言に重みと凄みがあった。剣の道をひたすら追求し、異変解決にも加担した彼女は、この時既に気付いていた。声の主は只者では無いと。その彼女に対し、

 

??「して、そこの外来人のお前」

 

 このヲタク、剣の道は超初心者に加え、その性格であるが故に、

 

海斗「俺? なんざんしょ?」

 

 KY。変わらずのリラックスモード。

 

??「……まあ良いだろう。お前、ここの主人からお守りは貰ったか?」

海斗「え? 何それ?」

??「博麗神社のありがたいお守りだ。その身を邪なるモノから守ってくれる。主人に尋ねるといい。既に渡してある」

 

 博麗神社。その固有名詞にヲタク、

 

海斗「マジでッ!? 誰か知らないけどあんがとー! 幽々子様ー!」

 

 大興奮。そして謎の人物に簡単に礼を済ませると、放たれた矢の様な速さでその場から去って行った。

 

??「……なんなんだあれ?」ボソッ

 

 彼の勢いに困惑といった様子の謎の声の主。ボソッと呟かれたその言葉は、未だに剣を握りしめたままのおかっぱ頭に、しっかりと聞こえていた。

 

妖夢「その件に関しては謝っておきます。居候(いそうろう)が無礼な態度をとってしまい、申し訳ありません」

??「出来た従者だな。再度褒めて使わす。して、疑っているやもしれんが、先程の索道の話は誠だ。さっきのお調子者を連れて行くといい」

妖夢「……分かりました。あなたを信じます。ですが、あなたはいったいどなたですか?それと目的は何ですか?」

 

 未だに姿を現さない者へ、2つの質問を尋ねるおかっぱ頭。だが、その答えは変えって来る事は無く、

 

妖夢「消えた……」

 

 肌にピリピリと感じていたプレッシャーも、その場から姿を隠した。

 

妖夢「いったい何が……」

 

 彼女がポツリとそう呟いていた頃、お調子者は主人の下にで「お守りを下さい」とおねだりをしていた。

 普段は温厚でおっとりとした白玉楼の主人。だが、彼からのおねだりに目を見開き、珍しく動揺していた。

 

幽々「海斗ちゃん、それをどうして……」

海斗「さっき居間で謎の声が教えてくれたんです」

幽々「そう……」

 

 彼の説明に主人は表情を暗くすると、ゴソゴソと懐へ手を伸ばし、

 

幽々「これがそうよ。ごめんなさいね。渡すのを忘れていて」

 

 赤色の『博麗神社』と書かれたお守りを差し出した。

 

海斗「いえ、全然OKです! ありがとうございます!」

 

 彼はそのお守りをありがたく両手で頂戴すると、すくにズボンのベルトループへと括りつけ、

 

海斗「今度霊夢の所にも行きたいな。お守りのお礼もしたいし」

 

 と呟き、再び主人に礼をしながら、笑顔でその場を後にした。

 自室に取り残された主人、瞳を閉じながら(うつむ)いていた。彼女には珍しく、眉間に皺を寄せながら。そしてこのタイミングで鳴る

 

 

グ〜……

 

 

 腹の音。腹ペコ主人、お腹を撫でながら一人呟く。

 

幽々「考え事していたらお腹空いちゃった。今日のおやつは……」

 

 おやつの前乗りを考えるが、そこは自業自得、身から出た錆。

 

幽々「ないんだー……」

 

 既に彼女の腹の中。現実を思い知らせられ、彼女、再び不貞寝。

 

 

--ヲタク移動中--

 

 

 謎の声の情報を信じ、肩を並べて野道を歩くお調子者とおかっぱ頭。足下にはタイヤの跡らしき物が、雑草を(えぐ)ってその下の土を浮き彫りにしており、同じ場所を何度も何度も通っていた事を窺わせるせる。やがて曲がりくねった道を終えた頃、彼等の目の前には色彩豊かな山が姿を現した。そこが彼等の目的地、現在進行形で秋真っ盛りの妖怪の山である。

 待望の有名地を初めて目の当たりにした彼は、

 

海斗「いや、見事。人里からも見えていたけど、近くに来ると迫力が違うな」

 

 素直に衝撃を受けていた。

 

妖夢「綺麗ですよね。私は春が一番好きですが、秋も好きです」

海斗「夏と冬は?」

妖夢「暑いと鍛錬の時に汗をかきますし、寒いと鍛錬の時に手が悴むので、あまり好きではありません」

海斗「そういう基準なの?」

 

 1に鍛錬、2に鍛錬、3、4も鍛錬、5に鍛錬。脳内は剣一色。分かっていた事とは言え、そんな彼女にお調子者、思わず「あはは……」と苦笑い。

 その後も雑談を続けながら歩を進め、やがて彼等の目に山頂へと伸びたワイヤーが飛び込んで来た。

 

海斗「お、あそこが?」

妖夢「はい、山頂までの索道の出発地点です」

 

 無事第一の目的地に到着した2人。だがどうやら様子がおかしい様で……

 

海斗「止まってない?」

 

 そう、動いていないのだ。リフトは乗り場でピタリと止まり、そこから先に進もうとしていない。だがこれは、

 

妖夢「ええ、利用する方がいなければ止まっているんです」

 

 デフォルト。所謂節電、省エネ、『電気を大切にね』なのだ。

 そう説明するこの世界の住人。しかし彼女にもまた、一つ疑問に思う事がある模様。

 

妖夢「誰もいませんね……」

海斗「いつもは誰かいるのか?」

妖夢「ええ、必ず河童か妖怪か天狗がいるはずなのですが……」

 

 そうボヤきながらロープウェイの駅を巡回して行く彼女。それ釣られて、彼も彼女とは別方向、リフトの方へと歩き出した。最近出来たとだけあって、リフトは綺麗な状態。塗装も落ちていない。「これのどこに不具合が?」と疑問を抱き始めた頃、

 

??「うーん、冷暖房設備を入れるのは難しいのかなー……」ブツブツ

 

 彼の足下、リフトの下から声が。それは空耳かと疑う程の小さな独り言。それを確かめるために彼、

 

海斗「おーい、誰かいるのかー?」

 

 声を掛けてみるも、返事が無かった。「やはり空耳か?」と自身を疑い始めた時、

 

妖夢「誰かいたんですか?」

 

 そこへおかっぱ頭参上。

 

海斗「いや、この下から声が聞こえたんだけどさ、呼び掛けても返事が無いんだ」

妖夢「そうですか、ちょっと様子を見て来ます」

 

 彼女は彼にそう告げると、リフトの下へと潜り込んだ。そして間も無く彼の足下から2人の会話が。

 

??「あれ? 珍しいね。何か用?」

妖夢「こんにちは。実は山頂に……」

??「え? あ、ごめん。音楽聴いてた。で、何?」

妖夢「山頂に行きたいんで、リフトを動かして欲しいんです」

??「なんで? 空飛べるでしょ? 飛べなくなったの?」

妖夢「私は問題ないんですけど、もう一人いて……」

??「あ、そういう事。急いで元に戻すから上で待ってて」

 

 会話が終わると、彼女は高低差など無いかの様に、ふわりと下から彼の下へと戻って来た。

 

海斗「いいよなぁ……、みょんは空を飛べて」

妖夢「そうですか?」

海斗「だって全人類の夢だぜ? 俺も飛べる様になりたいなー」

妖夢「流石にそれは難しいかと……」

 

 空への想いを語るお調子者。だがその言葉は本心そのもの。「自分の意思で自由に飛べたら」そう考えただけで、ロマンは尽きない。と、そこへ

 

??「よっと。ドライバー♪ レンチ♪ きゅうりバー♪」

 

 幻想郷切っての技術屋が、ドライバーとレンチときゅうりバーを求め、リフトの下から登場。その名も……

 

海斗「にとりだッ!!」

 

 河城(かわしろ)にとり。種族:河童。好物:きゅうり。苦手なもの:……

 

にと「おおとおおとととおおとこッ!?」

 

 イケメン。

 

にと「はわわわわわ……」

 

 顔を真っ赤にしてガクブル。見事なまでの、分かりやすいまでの(うぶ)。そんな技術屋に彼、まずはお決まりのご挨拶。

 

海斗「嫁にならない?」

にと「グハッ!」

 

 

嫁捕獲作戦_三人目:河城にとり【撃沈】

 

 




久々のご登場でした。

最後の登場から69話ぶり。
時間にして半年ぶり。
そしてもう12月……。


【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(弐)】

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