東方迷子伝   作:GA王

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今年の桜は散るのが早いですね。
花見をする前に全部なくなりそうです。

でも花見をする予定はないので、
特に困ることもないのですが。




あの日

 焼肉会は平穏に(?)幕を閉じた。ほんの少し前までは毎日飲んでいた酒だったが、ダイキと会ってから全く口にしていなかった。変な言い方になるが酒の存在を忘れていた。久しぶりに飲んだ酒はまさに美味。思う存分飲んで、食べて、心置きなく楽しむ事が出来た。

 そして朝が来た。組合達の会議は今日。それでダイキの全てが決まってしまう。何とかして助けてやりたいが……。友人も「会議で出される答えが気になる」と言って、この町にある彼女の実家に泊まっている。

 不安と心配が渦巻く胸の奥。そんな日でも、仕事には行かなければならない。いつも通り鬼助とダイキと3人で現場へ到着すると

 

鬼一「あ、勇儀姐さん……おはようございます……。ダイキも……な。昨日はありがとな……」

鬼二「姉さん……おはよう……ございます……。ダイキ、昨日は……。いいもん……見せてもらったよ……」

鬼三「お、お嬢……。おはようございます。ダイキ、見直したぞ……。うっぷ」

 

 挨拶を交わしてくれるものの、皆顔色が悪い。これは間違いなく二日酔いだ。

 半数は友人が原因だが、もう半数は…。我ながら少しはしゃぎ過ぎだったかもしれない。反省。けどダイキの評価が急上昇のようで嬉しい。

 

勇儀「み、みんな本当に昨日は悪かった。じゃ、じゃあ、今日も一日頑張るぞー」

  『お゛ぉーー……』

ダイ「みんないってらっしゃーい」

 

 

ピーィィィィ……。

 

 

 作業開始を告げる笛の音まで今日は元気が無い。ホント反省。

 

 

--鬼等作業中--

 

 

鬼助「完成までもう少しってとこですね」

勇儀「そうだな。内装も大分落ち着いてきたな」

 

 今日の私と鬼助は屋敷の内装組へ加わっていた。床をタイル調にし、色とりどりの窓を埋め込んでいく。内装も仕上げの段階。ここまでくれば屋敷はもう完成目前。

 

勇儀「完成したらまた焼肉会かなぁー」

鬼助「姐さん、当分ご勘弁ください……」

勇儀「あはは……、だ、だからごめんって」

 

 視線を周囲に向ければ、大きな窓や上階へと繋がる階段がその存在を主張し、未完成ではあるものの「立派な屋敷」と思わせられる。ここが完成して主人が住み始めたら、どの様な変貌を遂げるのだろう。いつか見せてもらいたい。その時にはアイツも……。

 

 

グラ、グラグラッ!! ゴゴゴゴ……ッ!

 

 

 突然、下から突き上げる強烈な揺れに襲われ、思わず姿勢を崩して地面へ手を着いた。仕事仲間達も姿勢を低くし、揺れに耐えている。

 そして近くの窓ガラスがガタガタと大きな音を立て始め、今にも割れそうだ。昨日もあったが、この揺れはその時の比ではない。

 

鬼助「姐さん! すごい揺れです! 危ねぇ!」

勇儀「全員屋敷から出ろっ!!」

 

 

ピッピーーーーーーッ!!

 

 

 避難を知らせる笛の音と共に、体を右へ左へと揺られながら皆一斉に外を目指す。

 

 

ズゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 唸り声にも似た音を上げながら尚も続く地震。長い上、揺れは真下から強く感じる。

 

 

ビシッ、ビシビシッ!

 

 

まずい……、窓に亀裂が入り始めた。

 

勇儀「鬼助! 急いでそこから離れろ!」

鬼助「あいあいさー!」

 

 

バリバリッ……。バリーン!

 

 

 とうとう至る所の窓が耐え切れずに割れ始めた。そしてそれは直ぐそこでも。

 

 

バリーンッ!

 

 

 高音と共に勢いよく割れる窓の破片。それは刃の雨となってあろう事か、前を行く鬼助を襲撃した。

 

勇儀「大丈夫か鬼助!?」

鬼助「つ~……。かすり傷です! 大丈夫です! 早いとこ出ましょう!」

 

 外に向かっている間も止まらない揺れ。

 

勇儀「いったいなんだってんだい。揺れ過ぎじゃないかい? だんだん気持ち悪くなって来たぞ」

 

 だがようやく屋敷の出入り口に辿り着いた。

 

 

バリーン!!!!

 

 

 と同時に扉の上の巨大なガラスが悲鳴と共に弾け飛んだ。瞬時にその場に立ち止まり、両腕で顔と頭を防御。だが割れ方が良かったのか、破片はこちら側へは入って来なかったようだ。

 

勇儀「助かったー、危なかったな」

 

 無傷で済んで一安心。けどそれは、ほっとため息を吐いたのも(つか)の間だった

 

鬼助「姐さんヤバいです! アレ!」

勇儀「ウソ……」

 

 

--少し時間を戻して--

 

 

 一回目。

 

ダイ「よいっしょ」

 

 

カッ。ブラーン……。

 

 

 皿の淵に当たり場外へ。振り子の如く揺れ続ける玉を手で静め、二回目。

 

ダイ「ういっしょ」

 

 

コッ。

 

 

 今度は見事皿の上。だがそれと同時に圧し掛かる重力に体の均衡(きんこう)が崩れ、

 

ダイ「おっとと」

 

 慌てて立て直す。

 

 

ピタッ。

 

 

 玉はどうにかその場に留ませる事できた。

 

ダイ「むずかしいな……」

 

 少年は鬼助から譲ってもらったけん玉で絶賛特訓中だった。だが一人遊びというのはそう長くは続かない。少年は早くも「あきた」と思い始めていた。

 

??「あれ? ダイキ君何でそこにいるの?」

 

 と、そこに背後から少年を呼ぶ声。振り向くと金網の向こう側に、昨日友達になったばかりの蜘蛛妖怪が。

 

ダイ「あ、ヤマメー。いつもここでユーネェが仕事終わるのを待ってるの」

ヤマ「へー、そうなんだ。エライね。それで? 今は何をしてたの?」

ダイ「キスケからもらったけん玉で特訓してた」

ヤマ「え? けん玉の特訓? ダイキ君、大道芸人にでもなるの?」

ダイ「そうじゃなくて、力をつけるため? とか?」

 

 眉間に皺を寄せ、怪訝な表情で首を傾ける少年。特訓と言う名目で渡されたけん玉だが、当の本人はその意図を認識できていなかった。

 

ヤマ「ん〜???」

 

 そして「何を言っているのだ?」と少年と同じ表情で同じ反応をする蜘蛛妖怪。2人が金網を挟んで鏡写しに見合っていると、

 

??「ヤマメ〜。そんな所で何してるの~?」

 

 蜘蛛妖怪の更に後方から声。その声に気付いた彼女は後ろへ視線を移し、返事を

 

ヤマ「あ、すぃ…」

 

 途中で止めた。「いい事を考えた」と良からぬ事を考え「ムフフ」と笑うと、体ごと反対を向き、背中で少年の視界を封じて

 

ヤマ「やっほー」

 

 と明るく手を振りながら答えた。

 一方いきなり蜘蛛姫の背中しか見られなくなった少年。彼女が何者かと話しているのは察せるが、その相手が見えない。

 

ダイ「ヤマメー? 誰か来たの?」

 

当然の反応である。だが彼女は

 

ヤマ「さぁ? 誰でしょう?」

 

 と勿体振らせる言い方をするだけ。

 

すぃ「ヤマメ、この屋敷がそんなに……」

 

 そしてその相手が彼女に声を掛けながらやって来た。とその瞬間、彼女はサッと横へ身をかわし、

 

ダイ「萃香ちゃんッ!?」

萃香「わっ、ダダダダダイキッ!?」

 

 大好物の光景を作り上げた。

 

ヤマ「キャー! 金網越しの恋だぁ! 手を伸ばせば届きそうなのに、悲しくも2人の間には超えられない境界線が……。もー、ロマンチックー!」

 

 自分で仕掛けたにも関わらず、両の拳をワシャワシャと上下に振り、興奮する彼女。

 一方、彼女の私腹を肥やすためだけに利用された被害者達は、

 

ダイ「う~……、ヤマメーひどいよ……」

萃香「ヤマメェ……、あとで覚えてろよぉ……」

 

 赤面したまま上目遣いで、舞い上がる彼女の事を睨みつけていた。

 それでも和気あいあいとした平和な一時。町でも至る所から笑い声が聞え、のどかで穏やかな時間がゆっくりと過ぎていく。そしてこれが地底世界に住む者達の日常。この世界に迷い込んだ小さな少年にとって、それは心安らぐ幸せな時間だった。

 

 

グラ、グラグラッ!! ゴゴゴゴ…ッ!

 

 

 だがそれはそんな楽しい時間を破壊する様に、突如襲ってきた。足元が大きく波打つ様に揺れ始め、3人の平衡感覚を乱れさせた。

 

ヤマ「なになに! なんなの!?」

ダイ「うぅぅ……わあぁぁぁ!」

萃香「ダイキそこから少し離れた方がいい! 金網が倒れそうだ!」

 

 

ズゴゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 下から突き上げる様な揺れは更に激しさを増し、不気味な唸り声を上げ出した。地面にも亀裂が入り始め、その影響は地底の上部にまで届いていた。

 

萃香「マズイ天井が崩れ始めてる! ヤマメ、糸でここいら一体を覆いな!」

ヤマ「わかった!」

 

 小さな鬼の指示に早急に答える蜘蛛妖怪。彼女の手から放出された無数の糸は、瞬く間に空中で編み込まれ、屋敷に降り注ぐ岩石の雨を防ぐ傘となった。しかしそれは屋敷の敷地全てを覆うには小さく、少年達がいる敷地の外側からは、薄っすらと天井が覗けるほど密度が薄い物だった。

 

ヤマ「も、もうこれ以上は……」

 

 瞳を強く閉じ、苦しそうにしながらも手から糸を出そうとする彼女。だが己の限界が近いと知ると、小さな鬼に救いを求めた。

 

ヤマ「傘は薄いから大きいのは防げないよ!」

萃香「なら私が粉々に粉砕する!」

 

 蜘蛛妖怪の叫び声を聞くや否や、小さな鬼は瞬く間に霧へと姿を変えた、そしてあっと言う間に蜘蛛妖怪が作り出した傘の上へ移動すると、ピョンピョン飛び回りながら、降ってくる岩石を素手で破壊し始めた。

 

ダイ「萃香ちゃんとヤマメー、スゴーい」

ヤマ「ダイキ君ごめん、私の作った糸の傘。端が少し弱いから中側、屋敷側へ避難してくれる? もしダイキ君に岩が当たったら、怪我だけじゃすまないから……」

 

 蜘蛛妖怪からの非難指示に少年はコクリと一度頷き、背後へ走り出した。

 やがてその足は『約束の線』を超え、中庭の中央を通過し、そして……屋敷の正面へ。

 少年が辿(たど)り着いて一息ついて間もなく、それは起きた。

 

 

バリーン!!!!

 

 

 屋敷の窓という窓が同時に割れ、空中で不気味な輝きを放ちながら、一斉に少年へと襲いかかった。

 

 

◇   ◇   ◇   ◇   ◇

 

 

鬼助「姐さん! ヤバいです! アレ!」

勇儀「ウソ……」

 

 私の目に全身にガラスが刺さり、血だらけで横たわるダイキが映った。

 

ヤマ「イヤーッ! ダイキ君、ダイキ君!」

萃香「ダイキーーッ!!」

 

 硬直する私を引き戻す2人の悲鳴。目の前のそれは、避け様のない現実。急いでダイキの下へと駆け寄り大声で叫んだ。

 

勇儀「ウソだ……、ウソだ! ダイキ、ダイキ! おいダイキ! メシだぞ! 起きろ! なぁ、ダイキッ!!」

鬼助「姐さん、ここから離れないと危ないです!」

勇儀「わかってる!」

 

 ダイキを抱き上げ、大急ぎで屋敷から離れた。その間も腕の中のダイキから流れ続ける生温かい血。それは私の手を、服を赤く染めていった。早く傷を塞がないとダイキが……。

 

勇儀「ダイキ、絶対助けてやるからな。萃香! 診療所の爺さんを呼んで来てくれ! 鬼助! 怪我をしていない連中と手分けして、ここと町に降ってくる岩の排除を頼む!」

萃香「わかった!」

鬼助「了解です!」

 

 私の指示に2人は返事をすると直ぐに動いてくれた。萃香は霧の様に消え、鬼助は全速力で非難した皆の下へと向かっていった。

 ダイキを安全な場所へと運んだはいいが、流れる血が一向に止まろうとしない。

 

勇儀「止まれ……止まれよ! もう止まってくれよ!」

 

 赤く染まった手で傷口を強く押さえながら叫んでいた。

 

ヤマ「勇儀どいて! 私が傷口を押さえる!」

 

 その声が聞こえて来たのも(つか)の間、「邪魔だ」とでも言う様に、私はヤマメに払い除けられていた。

 彼女は現れるなり手から白い糸を出すと、ダイキの傷口の上から丁寧にそれを巻きつけていった。額から汗を流して苦しそうな表情を浮かべて。彼女の苦悶に満ちた顔で私は気付いた。

 

勇儀「ヤマメお前さん……もう糸が……」

ヤマ「私のせいなの。私が屋敷の方へ逃げろって言ったから……。ダイキ君ごめんなさい。絶対助けるからね!」

 

 彼女の言葉は私に衝撃を与えた。

 ダイキが『約束の線』を越えてあの場にいた理由。彼女が指示をしなければこんな事には…。だが大粒の涙を流しながら、必死にダイキを助けようとする彼女を、私は責める事ができなかった。

 それに……私には祈る事しかできない。ヤマメは苦しみながらも頑張ってくれているのに、どうして私は……。なんて……なんて無力なんだ。

 

萃香「勇儀! 連れてきた!」

医者「お前さん達どいておれ。これは…(ひど)い。この場で直ぐに処置をしなければ、手遅れになるぞ」

ヤマ「私『病気を操作する程度』っていう能力を持ってます。この能力でダイキ君の近くを無菌状態できます! あと糸も必要だったら言ってください!」

医者「よし、萃香はワシを手伝え。勇儀、お前さんは小僧に呼びかけ続けろ! 意識が戻って来なきゃ助かる命も助からん」

勇儀「ダイキ! 起きろ! 目を開けてくれっ!!」

 

 私は叫び続けた。遠い意識の中にいるダイキにも聞こえる様に、祈りを込めながら何度も何度も。これが今の私にできる精一杯。

 その間友人は爺さんの指示に従いながら、道具の受け渡しと処置を終えた傷口を手際よく包帯で縛り、ヤマメは能力を全力で使い続けながら、更に糸を出し続けていた。彼女が放出する白かった糸は、いつしか黄色味掛かった物となり、彼女自身も時折悲鳴の様な唸り声を上げていた。彼女の糸の量と体力はとっくに限界を超えている。

 

医者「よし、止血は終わりだ。応急処置としてはこれでいいが……」

 

 処置を終えた傷だらけのダイキの体は青白くなり、小刻みに震え出していた。

 

勇儀「ダイキ! ダイキ! 目を覚ましてくれ! メシだぞ! 頼むから返事をしてくれよ!」

 

 意識が未だ戻らないダイキに私は最大の声量で叫んだ。

 

ダイ「……っ」

 

 (わず)かに反応があった。

 

勇儀「ダイキ! わかるか? 私だ!」

 

 握ったその小さな手は普段より遥かに冷たくなっていた。これ以上冷たくならない様に、

私の体温を分け与える様に、もう片方の手で包み込む。

 すると私の想いが通じてくれた。ダイキが薄っすらと目を開けてくれたのだ。

 

ダイ「マ……マ… ?」

勇儀「えっ……」

ダイ「……」

 

 再び反応がなくなり、瞳を閉ざしてしまった。そして手に弱々しくも辛うじて残っていた力までもが失われ、私の手からダラリと抜け落ちた。

 

医者「まずい。小さい体には過剰な血を流しておる。今直ぐ輸血しなければ……」

勇儀「なら私の血を使え! 私とダイキは同じ血液型なんだろ!?」

医者「バカ言うな! 種族が異なる者同士でなんぞ前代未聞じゃ! それにそんな事をして棟梁にでも知れてみろ。そうなったら……」

 

 頼みの爺さんが拒み出した矢先、彼の喉元に鋭く尖ったガラスが突き立てられた。

 

萃香「つべこべ言わずダイキを助けな!」

 

 先端が赤く染まったガラスの破片。それはダイキに刺さっていた物。友人はそれを握り締めていた。

 

ヤマ「おじいちゃんお願い。ダイキ君を助けて!」

 

 膝をついて泣きながら頼み込むヤマメ。もしこれで断られたら、私もだまっちゃいられない。

 

??「あなた達何をやっているのですか!?」

 

 そこへ聞き慣れたあの声。この状況で現れるなんて……最悪だ。

 

萃香「棟梁様……」

棟梁「被害状況を見に来てみれば……。萃香、あなた自分で何をしているのか、わかっているのでしょうね?」

勇儀「棟梁様……。ダイキが危ないんだ! 今直ぐ私の血が必要なんだ! だからこの場は目を瞑って下さい!」

棟梁「何をバカな事を言っているのですか! いい加減になさい!それは町だけじゃない、この世界にとっても重罪ですよ!」

勇儀「罰ならいくらでも受ける! 何でもやる! 町を出て行けと言うなら出て行く! だから、今はダイキを助けさせて下さい。もし、許してもらえないなら私は……」

 

 想像したくない。コイツがいなくなるなんて事。助けられるかも知れないのに、その邪魔をするのであれば例え……

 

勇儀「母さん、私はあなたを生涯恨み続ける!」

棟梁「……覚悟しておきなさいよ」

 

 そう言い残すと母さんは私達に瀬を向け、その場から去っていった。

 

勇儀「母さんありがとう。じいさん急いでくれ!」




次回いよいよEp.1最終話です。
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