「今日こそは」と意気込んで来た彼。前日の出来事を思い返してみる。
和鬼「……うん、何もしてない」
「本当にそうか?」と自問自答もしてみる。
和鬼「……たぶん」
これまでの事が積み重なり、「どれが引き金になるのか自信が無い」といったご様子。そこに……
和鬼「来た来た」
待ち人が視界に入って来た。が、
和鬼「機嫌悪そー……」
またしてもである。そして彼の下へと
大鬼「……」
無言で
和鬼「眠いのか?」
睡眠不足を疑わせる瞳の面積。彼のこの質問に待ち人は、コクリと頷くと、
大鬼「姐さんの修行に付き合わせられて……」
その原因と愚痴をこぼした。
和鬼「そ、そうか。お前も苦労しているんだな……」
その矛先が自分ではないと知ると、彼は一安心。「これでようやく先へ進める」と、本題へと移った。
和鬼「七不思議、調査しに行くか?」
大鬼「そのために来たんだけど……。それで? どんなのがあるの?」
少年のこの質問に彼は、手にした紙を眺めて「うーん」と頭を掻きながら唸り声を上げた後、
和鬼「色々あるけど、取り
とその中の一つに視線を置いた。
【地底七不思議ー其の壱:血の池の主】
地底世界に存在する真っ赤に染まった池。その名も『血の池』。
だが実際には本当の血、血液ではなく、豊富な鉄分が酸化した事が原因でそう見え、通称として名付けられた大きな池である。そこで採れる魚もやはり鉄分が豊富で、鬼の身体作りに、一役かっているとかいないとか。
そんな池についての謎。魚ではない得体の知れない何かが、姿を現わすというものだった。それはこの日の様に、暑い時期によく目撃される――――との事。
彼から一通りその説明を受けた少年。さぞ驚き、興味が湧いて目を輝かせているのかと思いきや、
大鬼「へー……」
わりと冷静。
和鬼「……信じて無いだろ?」
大鬼「だってあんな所に主って……。今まで一度も見た事ないし、そんな話も初耳だし」
和鬼「でも町では結構有名な話だぞ? 鬼助さんも知っていたんだから」
大鬼「ふーん……、そうなんだ」
少年の数少ない知り合いの名前を出してみても、変わらぬ態度。興味は無さそう。だが彼は知っていた。そういう時こそ、
和鬼「そっか……、興味ないなら止めるか。この話」
大鬼「え?」
和鬼「だってどうでもいいんだろ?」
大鬼「……無くはないけど」
興味深々であると。そして彼は思う、「面倒くせー」と。
和鬼「じゃあ行くぞ」
大鬼「付き合ってやるだけだから」
彼は思う、「ホント面倒くせー」と。それは大きなため息と共に小さくボソッと呟かれた。
大鬼「今何か言った?」
和鬼「気にするな」
--少年移動中--
時刻は昼と夕刻のど真ん中。地底世界は只今、
『あっちー……』
最高気温を叩き出していた。
そんな中、
『怨霊うぜー……』
「ウォー……」と声を上げ、彼等の周りをぐるぐると飛び回っていた。そしてコイツらは、
和鬼「
血を吸い、痒み成分を残していく。そんな中、待てど暮らせど、何かが姿を現す様な気配が無く、少年、
大鬼「ねー……、まだ?」
飽き始める。
和鬼「まだ」
--5分後--
大鬼「ねー、まだ?」
和鬼「もう少し待てよ」
--1分後--
大鬼「ねー!」
和鬼「うっるせぇな!」
大鬼「全然そんな気配ないじゃん!」
和鬼「だから七不思議なんだろ! そう簡単に見つかったら、不思議でも噂でも何でもないだろ! 黙って待ってろッ!!」
大鬼「それで何も無かったら、ただの時間の無駄じゃん!」
和鬼「いいだろ、どうせ暇なんだから!」
大鬼「どうせってなんだよ!」
互いに火花を散らし、言い合いを始める2人。気温の事もあり、
まさにその時だった。
バシャンッ!
水面を叩く大きな音が。その音に少年達は互いに目が点に。そして慌てて身を隠し、息を殺した。
和鬼「聞こえたか?」ヒソヒソ
大鬼「う、うん……。大きな音だった」ヒソヒソ
和鬼「魚……じゃないよな?」ヒソヒソ
大鬼「わ、分からない」ヒソヒソ
小声で自分達が聞いた音が空耳でない事を確認し合った。
それから彼等は、目を凝らして赤く揺れる水面を眺めていた。少しの変化も見逃さない様に、じっと。
バシャバシャバシャバシャ
待望の変化。遠くの方で
和鬼「み、見たか?」
大鬼「う、うん……見えた」
和鬼「大鬼! 向こうに回るぞ! 音を立てるなよ! 絶対に気付かれるなよ!」
大鬼「分かった!!」
声に元気が出てきた少年達。退屈な日々を送っていた彼等にとって、久しぶりに感じるワクワク感。「謎を明らかに出来る」という目に見えるゴール地点。そして忘れかけていた冒険心。彼等はいつの間にか、幼少の頃の心、童心に戻っていた。
やがて2人は目的地近辺に到着。物音を立てず、静かに且つ迅速に。The・忍道。
和鬼「よ、よし。この辺だったよな?」
大鬼「う、うん」
再び茂みの影へ身を隠し、水面へと視線を向ける。「次こそは」という期待と野望を胸に。
大鬼「ん?」
と少年、何かを見つける。
大鬼「これ何だろ?」
拾い上げ、隣にいる少し年上の彼に尋ねた。
和鬼「服? なのか?」
それは白い袖の短い服。彼等がそれを見るのは初めの事だった。「変わった服だ」と2人でぼやいたところで、少年、また何かを見つける。
大鬼「帽子だ」
和鬼「鬼用じゃないな。角を出す穴がない」
大鬼「じゃあ妖怪用?」
和鬼「多分な。で? 何してるの?」
大鬼「どう? 似合う?」
それは白く、ツバのついた帽子。さらに前面の真ん中には、『○十U』を真っ直ぐ一列に組み合わせたマークが描かれていた。これも彼等が見るのは初めての事。その誰の物とも分からない帽子を、少年は
和鬼「よせよ。変なヤツのだったらどうすんだよ? 気持ち悪い。エンガチョ」
当然の反応である。だが少年、
大鬼「……あとで頭洗うし」
意地になって状態維持。
そしてこの時少年、またまた何かを見つけていた。それを見つけた瞬間、少年の顔は真っ赤に。その様子の変化に気付いた彼。「どうした?」と尋ねたところ、少年はその物体を指差した。少年の指の先へと視線を移し、それを確認した彼。
和鬼「スカート?」
それは丈の短いスカートだった。着衣状態であればどうって事のない代物だが、それが落ちていたのだ。ポツリと呟いた彼は、脳内パズルを開始。その時間、まさに0.1秒。そして導き出した答えは…………赤面。
和鬼「ちょちょちょちょっと待て! なんでこんな所に平然と置いてあるんだよ!?」
大鬼「ししし知るかよ! こっちが聞きたいしッ!」
和鬼「それにその服も多分セットだろ!?」
大鬼「えーーーッ!?」
和鬼「気付けよバカッ! きっとその帽子もだ!」
大鬼「はーーーッ!?」
途端に慌て出す少年達。誰の? いつから? なぜ? そういった疑問はそっちのけ。「今すぐにこの場から立ち去らねば」という思考で脳内は支配されていた。そしてその場から離れようと茂みから姿を現し、駆け出そうとしていた。丁度その時だった。
バシャバシャバシャバシャ
再び池で水飛沫が上がったのは。しかもそれはあろう事か、徐々に少年達の下へ。迫るそれに少年達の心臓はバクバク、目は釘付け。「次こそは」という期待と野望を胸に。
そしてとうとう、
ザバァーッ
上陸。
??「……」
『……』
目が合う3人。この日の地底世界の風は弱々しいもの。その所為で熱がこもり、そこに住む者達に『暑さ』という不快感を与えていた。しかし、そういう時こそ…………水浴び、水泳日和である。
??「きゃーーーーーーーーッ!!」
そんな地底世界に甲高い絶叫が響き、
バッチィィィィィンッ!×2
--??着衣中--
??「もー最ッ低!! ホンット信じられない! こっち見ないでよね!」ブツブツ
そして少年達はと言うと、
『……』
反対を向かされ、正座。が、会話までは禁止されていなかった。
和鬼「見たか?」ヒソヒソ
大鬼「見た」ヒソヒソ
互いに得た貴重な財産に、
グッ!!
力強くサムズアップ。そして、
和鬼「もう一回いっとく?」ヒソヒソ
働く悪知恵。事ある毎に喧嘩をし、意見が食い違う2人。だがこの時は、
大鬼「いっとく?」ヒソヒソ
エロの名の下に意見が一致した。
和鬼「少しだけならバレないよな?」ヒソヒソ
大鬼「そうそう少しだけなら……」ヒソヒソ
コソコソとそのタイミングを相談。そしてタイミングを合わせて振り向……
バチンッ!×2
こうとしたその時、頭に激痛が。
大鬼「イッタ!」
??「見るなって言ったでしょ! 今視線感じたんだから! 私そういうの鋭いんだからね!」
少女、激怒。彼女の意見はごもっとも。だが……
和鬼「はーーーッ!?
そう、2人はまだ行動を起こしていなかった。にも関わらず、頭を叩かれたのだ。とはいえ、
??「
計画を
和鬼「誰が変態だ! だいたいココ、遊泳禁止だから! それなのに、素っ裸で泳いでる奴の方が変態だろ!」
??「はいーーーッ!? 誰が変態よ!」
和鬼「あー、悪い悪い。頭イカレてるよ。こんな池で泳ぐなんて。鉄が酸化してるんだぞ? それなのに……。はい、名前決定ね。イカレヤローで」
??「私は幽霊だから大丈夫なんですー! それに私には
言葉のドッチボール。そのぶつけ合いは激化の道を辿る一方で、内容は幼児化。終いには2文字の罵声の飛ばし合いへ。そんな中、
大鬼「ぷくくくっ……」
腹を抑えて笑う少年。その様子に気付いた彼、少々感に触った様で……、
和鬼「おい、何笑ってるんだよ?」
睨みつけた。すると少年は内からこみ上げる笑いに耐えながら、その原因を語り始めた。
大鬼「いや、2人の息がピッタリで可笑しくてさ」
『はーーーッ!? どこが!?』
これには2人とも全力否定。だが互いに発した言葉と、そのタイミングに気付くと、
『えっ?』
互いに顔を見合わせて目が点に。さらに少年は、
大鬼「それに名前が、くくく……」
彼女の名前についても、ツボに入ったご様子。
大鬼「
水蜜「
その理由を聞いても、彼女は「どこが面白い?」と首を傾げていた。
だが、彼は違った。
和鬼「ぎゃはははッ! さ、流石! 最高!」
理解していた。
これには彼女、ますます謎が深まる。自分の名前の、しかも中途半端なところで「何故こうも笑えるのだろう?」と、脳内に『?』を大量発生。
しかしそれも束の間、彼女は2人からの視線を感じた。それはイヤらしく、体のある部位に……そして彼女もようやく理解。
水蜜「どこ見て言ってるのよ! ふざけんな!」
大鬼「あ、
和鬼「
少年達、ただ言いたいだけである。
呼び名の由来を知り、少女の顔は怒りと恥ずかしさから真っ赤に。頭上からは湯気を出し、体温は完全に沸点。その気持ちをぶつける様に、
水蜜「帽子返して!」
少年の頭から帽子を奪い返すと、
水蜜「あれ?」
違和感を覚えた。
水蜜「君、角……。鬼じゃないの? 妖怪でもなさそうだし……。もしかして……」
少女がそこまで語った時、
和鬼「そいつは俺達の仲間だよ」
それを
水蜜「ふーん、という事は鬼なの?」
再び核心に迫る質問。しかもその答え方は「Yes」or「No」の2択。さらに彼は鬼、嘘は許されない。ともなれば、
和鬼「それよかさー……」
話を外らせるのみ。
和鬼「いい加減、下
バッチィィィィィンッ!×2
【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(参)】