東方迷子伝   作:GA王

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十年後:ある日の出来事_地底七不思議(弐)

 「今日こそは」と意気込んで来た彼。前日の出来事を思い返してみる。

 

和鬼「……うん、何もしてない」

 

 「本当にそうか?」と自問自答もしてみる。

 

和鬼「……たぶん」

 

 これまでの事が積み重なり、「どれが引き金になるのか自信が無い」といったご様子。そこに……

 

和鬼「来た来た」

 

 待ち人が視界に入って来た。が、

 

和鬼「機嫌悪そー……」

 

 またしてもである。そして彼の下へと辿(たど)り着き、挨拶を交わすかと思いきや、

 

大鬼「……」

 

 無言で仏頂面(ぶっちょうづら)。その上、

 

和鬼「眠いのか?」

 

 睡眠不足を疑わせる瞳の面積。彼のこの質問に待ち人は、コクリと頷くと、

 

大鬼「姐さんの修行に付き合わせられて……」

 

 その原因と愚痴をこぼした。

 

和鬼「そ、そうか。お前も苦労しているんだな……」

 

 その矛先が自分ではないと知ると、彼は一安心。「これでようやく先へ進める」と、本題へと移った。

 

和鬼「七不思議、調査しに行くか?」

大鬼「そのために来たんだけど……。それで? どんなのがあるの?」

 

 少年のこの質問に彼は、手にした紙を眺めて「うーん」と頭を掻きながら唸り声を上げた後、

 

和鬼「色々あるけど、取り()えず信憑性が高い物から行くか」

 

 とその中の一つに視線を置いた。

 

 

【地底七不思議ー其の壱:血の池の主】

 地底世界に存在する真っ赤に染まった池。その名も『血の池』。

 だが実際には本当の血、血液ではなく、豊富な鉄分が酸化した事が原因でそう見え、通称として名付けられた大きな池である。そこで採れる魚もやはり鉄分が豊富で、鬼の身体作りに、一役かっているとかいないとか。

 そんな池についての謎。魚ではない得体の知れない何かが、姿を現わすというものだった。それはこの日の様に、暑い時期によく目撃される――――との事。

 彼から一通りその説明を受けた少年。さぞ驚き、興味が湧いて目を輝かせているのかと思いきや、

 

大鬼「へー……」

 

 わりと冷静。(むし)ろ心なしかバカにしている様にも見える。

 

和鬼「……信じて無いだろ?」

大鬼「だってあんな所に主って……。今まで一度も見た事ないし、そんな話も初耳だし」

和鬼「でも町では結構有名な話だぞ? 鬼助さんも知っていたんだから」

大鬼「ふーん……、そうなんだ」

 

 少年の数少ない知り合いの名前を出してみても、変わらぬ態度。興味は無さそう。だが彼は知っていた。そういう時こそ、

 

和鬼「そっか……、興味ないなら止めるか。この話」

大鬼「え?」

和鬼「だってどうでもいいんだろ?」

大鬼「……無くはないけど」

 

 興味深々であると。そして彼は思う、「面倒くせー」と。

 

和鬼「じゃあ行くぞ」

大鬼「付き合ってやるだけだから」

 

 彼は思う、「ホント面倒くせー」と。それは大きなため息と共に小さくボソッと呟かれた。

 

大鬼「今何か言った?」

和鬼「気にするな」

 

 

--少年移動中--

 

 

 (うわさ)の現場へと到着した2人の少年。瞳に映る池は今日も赤い。辺りは静かで生き物の気配は感じられない。

 時刻は昼と夕刻のど真ん中。地底世界は只今、

 

  『あっちー……』

 

 最高気温を叩き出していた。

 そんな中、(しげ)みに身を潜め、ただじっと謎の真相を明かそうと試みる2人。しかし、この時期のこの環境。まとわりつく厄介者も多い様で……。

 

  『怨霊うぜー……』

 

 「ウォー……」と声を上げ、彼等の周りをぐるぐると飛び回っていた。そしてコイツらは、

 

和鬼「(かゆ)っ」

 

 血を吸い、痒み成分を残していく。そんな中、待てど暮らせど、何かが姿を現す様な気配が無く、少年、

 

大鬼「ねー……、まだ?」

 

 飽き始める。

 

和鬼「まだ」

 

 

--5分後--

 

 

大鬼「ねー、まだ?」

和鬼「もう少し待てよ」

 

 

--1分後--

 

 

大鬼「ねー!」

和鬼「うっるせぇな!」

大鬼「全然そんな気配ないじゃん!」

和鬼「だから七不思議なんだろ! そう簡単に見つかったら、不思議でも噂でも何でもないだろ! 黙って待ってろッ!!」

大鬼「それで何も無かったら、ただの時間の無駄じゃん!」

和鬼「いいだろ、どうせ暇なんだから!」

大鬼「どうせってなんだよ!」

 

 互いに火花を散らし、言い合いを始める2人。気温の事もあり、苛立(いらだ)ちは瞬く間にピークに。やがて言い合いだけでは収まりが効かなくなり、取っ組み合いが始まろうとしていた。

 まさにその時だった。

 

 

バシャンッ!

 

 

 水面を叩く大きな音が。その音に少年達は互いに目が点に。そして慌てて身を隠し、息を殺した。

 

和鬼「聞こえたか?」ヒソヒソ

大鬼「う、うん……。大きな音だった」ヒソヒソ

和鬼「魚……じゃないよな?」ヒソヒソ

大鬼「わ、分からない」ヒソヒソ

 

 小声で自分達が聞いた音が空耳でない事を確認し合った。

 それから彼等は、目を凝らして赤く揺れる水面を眺めていた。少しの変化も見逃さない様に、じっと。

 

 

バシャバシャバシャバシャ

 

 

 待望の変化。遠くの方で水飛沫(みずしぶき)が上がったのだ。それは明らかに魚ではない何かの証。

 

和鬼「み、見たか?」

大鬼「う、うん……見えた」

和鬼「大鬼! 向こうに回るぞ! 音を立てるなよ! 絶対に気付かれるなよ!」

大鬼「分かった!!」

 

 声に元気が出てきた少年達。退屈な日々を送っていた彼等にとって、久しぶりに感じるワクワク感。「謎を明らかに出来る」という目に見えるゴール地点。そして忘れかけていた冒険心。彼等はいつの間にか、幼少の頃の心、童心に戻っていた。

 やがて2人は目的地近辺に到着。物音を立てず、静かに且つ迅速に。The・忍道。

 

和鬼「よ、よし。この辺だったよな?」

大鬼「う、うん」

 

 再び茂みの影へ身を隠し、水面へと視線を向ける。「次こそは」という期待と野望を胸に。

 

大鬼「ん?」

 

 と少年、何かを見つける。

 

大鬼「これ何だろ?」

 

 拾い上げ、隣にいる少し年上の彼に尋ねた。

 

和鬼「服? なのか?」

 

 それは白い袖の短い服。彼等がそれを見るのは初めの事だった。「変わった服だ」と2人でぼやいたところで、少年、また何かを見つける。

 

大鬼「帽子だ」

和鬼「鬼用じゃないな。角を出す穴がない」

大鬼「じゃあ妖怪用?」

和鬼「多分な。で? 何してるの?」

大鬼「どう? 似合う?」

 

 それは白く、ツバのついた帽子。さらに前面の真ん中には、『○十U』を真っ直ぐ一列に組み合わせたマークが描かれていた。これも彼等が見るのは初めての事。その誰の物とも分からない帽子を、少年は躊躇(ためら)いも無く(かぶ)ったのだ。

 

和鬼「よせよ。変なヤツのだったらどうすんだよ? 気持ち悪い。エンガチョ」

 

 当然の反応である。だが少年、

 

大鬼「……あとで頭洗うし」

 

 意地になって状態維持。

 そしてこの時少年、またまた何かを見つけていた。それを見つけた瞬間、少年の顔は真っ赤に。その様子の変化に気付いた彼。「どうした?」と尋ねたところ、少年はその物体を指差した。少年の指の先へと視線を移し、それを確認した彼。

 

和鬼「スカート?」

 

 それは丈の短いスカートだった。着衣状態であればどうって事のない代物だが、それが落ちていたのだ。ポツリと呟いた彼は、脳内パズルを開始。その時間、まさに0.1秒。そして導き出した答えは…………赤面。

 

和鬼「ちょちょちょちょっと待て! なんでこんな所に平然と置いてあるんだよ!?」

大鬼「ししし知るかよ! こっちが聞きたいしッ!」

和鬼「それにその服も多分セットだろ!?」

大鬼「えーーーッ!?」

和鬼「気付けよバカッ! きっとその帽子もだ!」

大鬼「はーーーッ!?」

 

 途端に慌て出す少年達。誰の? いつから? なぜ? そういった疑問はそっちのけ。「今すぐにこの場から立ち去らねば」という思考で脳内は支配されていた。そしてその場から離れようと茂みから姿を現し、駆け出そうとしていた。丁度その時だった。

 

 

バシャバシャバシャバシャ

 

 

 再び池で水飛沫が上がったのは。しかもそれはあろう事か、徐々に少年達の下へ。迫るそれに少年達の心臓はバクバク、目は釘付け。「次こそは」という期待と野望を胸に。

 そしてとうとう、

 

 

ザバァーッ

 

 

 上陸。

 

??「……」

  『……』

 

 目が合う3人。この日の地底世界の風は弱々しいもの。その所為で熱がこもり、そこに住む者達に『暑さ』という不快感を与えていた。しかし、そういう時こそ…………水浴び、水泳日和である。

 

??「きゃーーーーーーーーッ!!」

 

 そんな地底世界に甲高い絶叫が響き、

 

 

バッチィィィィィンッ!×2

 

 

 (むち)で叩く様な、乾いた音が後から追いかけて来たそうな。

 

 

--??着衣中--

 

 

??「もー最ッ低!! ホンット信じられない! こっち見ないでよね!」ブツブツ

 

 愚痴(ぐち)(こぼ)しながら自身の服を着ていく少女。

 そして少年達はと言うと、

 

  『……』

 

 反対を向かされ、正座。が、会話までは禁止されていなかった。

 

和鬼「見たか?」ヒソヒソ

大鬼「見た」ヒソヒソ

 

 互いに得た貴重な財産に、

 

 

グッ!!

 

 

 力強くサムズアップ。そして、

 

和鬼「もう一回いっとく?」ヒソヒソ

 

 働く悪知恵。事ある毎に喧嘩をし、意見が食い違う2人。だがこの時は、

 

大鬼「いっとく?」ヒソヒソ

 

 エロの名の下に意見が一致した。

 

和鬼「少しだけならバレないよな?」ヒソヒソ

大鬼「そうそう少しだけなら……」ヒソヒソ

 

 コソコソとそのタイミングを相談。そしてタイミングを合わせて振り向……

 

 

バチンッ!×2

 

 

 こうとしたその時、頭に激痛が。

 

大鬼「イッタ!」

??「見るなって言ったでしょ! 今視線感じたんだから! 私そういうの鋭いんだからね!」

 

 少女、激怒。彼女の意見はごもっとも。だが……

 

和鬼「はーーーッ!? ()()見てないから!」

 

 そう、2人はまだ行動を起こしていなかった。にも関わらず、頭を叩かれたのだ。とはいえ、

 

??「()()? まだって事は見ようとしてたんじゃない! ありえない! 変態! 覗き魔!」

 

 計画を(くわだ)いていたのは事実。故にこれは未遂の事件。反論は出来ない。しかし、それと彼女の暴言は別件。

 

和鬼「誰が変態だ! だいたいココ、遊泳禁止だから! それなのに、素っ裸で泳いでる奴の方が変態だろ!」

??「はいーーーッ!? 誰が変態よ!」

和鬼「あー、悪い悪い。頭イカレてるよ。こんな池で泳ぐなんて。鉄が酸化してるんだぞ? それなのに……。はい、名前決定ね。イカレヤローで」

??「私は幽霊だから大丈夫なんですー! それに私には村紗(むらさ)水蜜(みなみつ)っていう可愛い名前がありますー!」

 

 言葉のドッチボール。そのぶつけ合いは激化の道を辿る一方で、内容は幼児化。終いには2文字の罵声の飛ばし合いへ。そんな中、

 

大鬼「ぷくくくっ……」

 

 腹を抑えて笑う少年。その様子に気付いた彼、少々感に触った様で……、

 

和鬼「おい、何笑ってるんだよ?」

 

 睨みつけた。すると少年は内からこみ上げる笑いに耐えながら、その原因を語り始めた。

 

大鬼「いや、2人の息がピッタリで可笑しくてさ」

  『はーーーッ!? どこが!?』

 

 これには2人とも全力否定。だが互いに発した言葉と、そのタイミングに気付くと、

 

  『えっ?』

 

 互いに顔を見合わせて目が点に。さらに少年は、

 

大鬼「それに名前が、くくく……」

 

 彼女の名前についても、ツボに入ったご様子。

 

大鬼「()()って……ピッタリじゃん」

水蜜「水蜜(みなみつ)だから……。どこ引っ張って来てるのよ……」

 

 その理由を聞いても、彼女は「どこが面白い?」と首を傾げていた。

 だが、彼は違った。

 

和鬼「ぎゃはははッ! さ、流石! 最高!」

 

 理解していた。

 これには彼女、ますます謎が深まる。自分の名前の、しかも中途半端なところで「何故こうも笑えるのだろう?」と、脳内に『?』を大量発生。

 しかしそれも束の間、彼女は2人からの視線を感じた。それはイヤらしく、体のある部位に……そして彼女もようやく理解。

 

水蜜「どこ見て言ってるのよ! ふざけんな!」

大鬼「あ、ナミ()が怒った」

和鬼「ナミ()が怒ったな」

 

 少年達、ただ言いたいだけである。

 呼び名の由来を知り、少女の顔は怒りと恥ずかしさから真っ赤に。頭上からは湯気を出し、体温は完全に沸点。その気持ちをぶつける様に、

 

水蜜「帽子返して!」

 

 少年の頭から帽子を奪い返すと、

 

水蜜「あれ?」

 

 違和感を覚えた。

 

水蜜「君、角……。鬼じゃないの? 妖怪でもなさそうだし……。もしかして……」

 

 少女がそこまで語った時、

 

和鬼「そいつは俺達の仲間だよ」

 

 それを(さえぎ)る様に、彼が真実を述べた。

 

水蜜「ふーん、という事は鬼なの?」

 

 再び核心に迫る質問。しかもその答え方は「Yes」or「No」の2択。さらに彼は鬼、嘘は許されない。ともなれば、

 

和鬼「それよかさー……」

 

 話を外らせるのみ。

 

和鬼「いい加減、下穿()けよ」

 

 

バッチィィィィィンッ!×2

 




【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(参)】
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