本日の地底世界は、
大鬼「前見えねー……」
視界最悪。絶賛『濃霧警報』発令中である。
だがそんな時にこそ得られる物もある。それを探しに、いつもの集合場所へと足を運ぶ少年だったが、
ゴチーン!
大鬼「い、痛い……」
町を照らす
頭へのダメージが回復した少年、目的地を目指し、先程よりも慎重に、手を前に出して探るように歩き出す。が、
ゴチーン!!
またしても。しかし今度は側頭部へのダメージ。これはさすがに予想外。だが少年はある程度察していた。何者かと接触したのだと。
大鬼「だ、誰!?」
??「いたたた……、その声……大鬼か?」
馴染みのある声。
大鬼「和鬼?」
和鬼「そうそう、今日視界悪すぎるな。全然見えないや」
目を凝らし声の方向をジッと見つめていると、
和鬼「あ、ここまで来れば見えるな」
腐れ縁が霧の中から姿を見せた。
和鬼「よっ!」
大鬼「やっはろー」
謎の挨拶、少年にも感染。
和鬼「なんだそれ?」
大鬼「さー……、ヤマメと姐さんがそうやって挨拶してた。で、どうする? やっぱり今日はやめとく?」
和鬼「いや、続行だ。条件は
【地底七不思議-其の弐:霧の中の巨人】
酒に酔った鬼がいた。1人町を歩いていると、辺り一面が濃い霧に包まれている事に気が付いた。だがそれは決して珍しい事では無い。その鬼も特に気にも止めず、そのまま歩き続けていた。
しかし彼はある異変に気付き始めていた。一歩、また一歩と歩みを進める度に、低い音……いや、唸り声が徐々に迫って来ていたのだ。恐怖を覚えた鬼は、その場から急いで立ち去ろうと走り出した。が、その声は離れるどころか、どんどんどんどん近付いて来る一方。
そしてとうとうすぐ側で
「お゛ぉぉぉーーーッ!」
その瞬間鬼は大きな悲鳴を上げ、身を小さくし、防御の姿勢をとった。
だがそれまで。いくら待っても何も起きず、彼が恐る恐る防御態勢を解いたその時、彼の目の前に見上げる程の巨人の影が、彼を見下す様に仁王立ちで立っていた――――
と言ったお話。
それは地底世界が、濃い霧に覆われる日に限り、稀に目撃情報がある。その情報には所々差はあれど、共通しているのが、『霧の中に巨人』を見たという事。
そしてこの話にはもう一つ、ある不思議な話が関係していた。それが……
【地底七不思議-其の参:霧の中の謎の女】
『霧の中の巨人』を目撃した者の多くは、その時に女性の話し声を聞いていたという。それは笑い声だったり、話し声だったり、意味不明の呪文の様だったりと様々。巨人に加えて、何処からか聞こえて来るその不気味な話し声に、恐怖から金縛りにあった様にその場から動けずにいたという。
そして霧が晴れ始めた頃、霧の上を流れる様に飛んで行く女性の後姿があった――――
そうな。
少年はこの話を聞き終えると、突然彼に
じとー……
と、冷ややかな視線を向け始めた。それは信じていないと言うよりも……。
和鬼「分かる、言いたい事は分かる」
大鬼「……」
和鬼「でも違うみたいだぞ?」
大鬼「ホントに?」
和鬼「鬼は嘘を言わない。そんなに気になるなら今度
大鬼「分かった。でも今の話、どう聞いても師匠と萃香さんじゃない?」
和鬼「だから何回も『そうじゃないか?』って疑われたんだってさ。『いい迷惑だ』ってボヤいてたよ」
大鬼「あ、聞いて来たんだ」
和鬼「そりゃあね」
彼がこの話を父親から聞いた時、真っ先に思い浮かんだのは、少年同様彼の叔父とその娘、
和鬼「『絶対に犯人を見つけろ』だってさ」
それに対して彼は、
大鬼「マジで?」
和鬼「だから嘘は言わないって」
大鬼「それに何て答えたの?」
和鬼「『絶対に見つける! 大鬼が』って言っといた」
全責任を少年に擦りつけていた。
大鬼「ふざけんなッ! これで断念なんてしたら……」
その時の状況を想像し、どんどん青ざめていく少年。終いにはガタガタと震え出す始末。そんな少年に、
和鬼「あー……、よろしくッ!」
彼は爽やかな笑顔で、「後を任せたッ!」と片手を上げて宜しくした。となれば……、
大鬼「ガァーズゥーギィーッ!!」
少年の怒りは最高点へ到達。だが彼はそうなる事を予期していたかの様に、冷静な顔を保ったまま続けて語り出した。
和鬼「まあ、待て待て。そうならないようにするから。要は見つければ良いんだし。それに物は
大鬼「だから?」
和鬼「お前も鈍いなー。叔父貴の娘は誰だよ? しかも一緒に疑われているんだぞ?」
少年、この瞬間顔が真っ赤に。だがそれは一時的なもの。その後瞬く間に熱は引いていき、
大鬼「……」
無言になり、俯いた。
和鬼「お前も一途だよな。オレには萃香さんのどこがいいのかなんてさっぱりだけど」
大鬼「……」
和鬼「もっと魅力的な鬼だって妖怪だっているのに、何で萃香さんなの?」
大鬼「……」
和鬼「会いたいか?」
彼のこの質問にも少年、無反応を貫き通す。すると彼、
和鬼「答える気が無いならいいや。何となく気になっただけだから」
「これ以上聞くだけ無駄」と悟り、ゆっくりと歩き出した。
ズルズルズルズル……。
何かを引きずりながら。
大鬼「それ持ってきたの?」
和鬼「前回みたいな事があったら困るだろ? 念のためだよ、念のため」
そう言われて少年、軽く身震い。
大鬼「ねー……。アレ何だったと思う?」
和鬼「さー……。もしアレが本当の主だとしても、思い出したく無いな。夢に出てきそうだ」
少年達の中では軽くトラウマになり掛けていた。
和鬼「それ、被って来たんだ」
大鬼「欲しい?」
和鬼「くれんの!?」
大鬼「あげるとは言ってない」
--少年移動中--
少年達がやって来たのは、またまた町外れ。『地底の壁』近辺。七不思議の発端は町中ではあるが、目撃情報が多いのはどういう訳か、この辺りとの事。
町を覆っていた深い霧は、少年達と一緒に行動をするかの様に、ここでも仕事をしていた。条件も文句無し。あとは待つだけ。で、
大鬼「暇」
それが苦手な少年。早くも飽き始める。その隣で、
ブーンッ!
力強く空を切る音。そしてその後に響く鈍く、大きな音。ストライク。空振り三振である。
大鬼「それ重いの?」
和鬼「ハッキリ言って超重い。親方様が『コレを楽に振り回せる様になれ』ってさ」
彼が手にしているのは高純度、高密度、高品質の金棒。親方様が若かりし頃に使用していた思い出の品である。親方様はコレを能力発動状態ではあるが、片手でいとも簡単に、ペン回しをする様に易々と振り回してという。その重量たるや、思いが込められているだけに……重い。
大鬼「ちょっと貸して」
和鬼「いいけど、どうなっても知らないぞ?」
丁寧に、慎重に金棒を少年に手渡す彼。持ち手が彼の手から少年へと渡った瞬間。
ズドーンッ!
けたたましい音と共に、少年の手諸共地面にめり込んだ。
大鬼「痛い痛い痛い痛い!」
和鬼「クソッ! だから言わんこっちゃない」
彼、慌てて救出作業へ。少年の手を下敷きにしている金棒を掴むと、上へのベクトルを力いっぱい加えた。と同時に、少年へ指示。
和鬼「大鬼、全力で下から押し上げろ!」
大鬼「ぐぎぎぎ……」
徐々にその身を起こす金棒。地面との間に隙間が生じたその瞬間、少年、手を引き抜き無事脱出。だがホッとしたのも束の間、
和鬼「持ち上げるの手伝え!」
更なる指示。その言葉に少年、慌てて加勢。2人で力を合わせて、
『ふんならばッ!』
金棒を直立に。
和鬼「ふー……、大鬼大丈夫か?」
彼、額の汗を拭いながらホッと一息。手が下敷きになってしまった少年は、
大鬼「ジンジンするけど……、動くから大丈夫だと思う」
負傷した手を握っては開きを繰り返し、骨に異常が無いか確認。あんな事がありながらも、無傷で済んだ様だ、
大鬼「それ危ないから。ホントに何で持って来たの? さっきから見てるけど、全然使えてないし。振り回してる様に見えて、振り回されてるし」
そう、先程から彼はこの金棒を振り回していた。だが、その実態は振り回すはいいが、その後が止められず、クルクルと回転していたのだった。それは彼も充分過ぎる程分かっていた事。とは言え、
和鬼「うるせぇな。訓練だよ、訓練」
面と向かって言われると突き刺さる。
大鬼「その所為でコッチは怪我してんの! 治療費と慰謝料!」
「出す物出せ」と放ちながら、片手を差し出す少年。少年のこの態度に彼、カチリとスイッチが入った。
和鬼「自分から『貸してくれ』って頼んできたんだろ!? 大した怪我もしてないのに治療費とかいうな! それにさっき『大丈夫』って言っただろうが! アレはウソか? あ゛ーッ!?」
彼はやる気満々。次に少年が何か言葉を発せれば、殴りかかる勢いだった。
だが少年は無言。しかも目を見開き、彼の遥か上に視線を向けていた。それは疑いようもない程の怯えた表情。
彼の額からは汗が滲み出し、やがて一粒の雫となり、頬を伝って落ちていった。そう、彼は気付き始めていた。心臓が強く脈打つ中、彼はゆっくりと……後ろを……振り返った。
『で、でたーーーッ!!』
仲良く抱きしめ合って大絶叫。今、彼等の目の前には……霧に覆われた大きな影が見下ろしていた。
??「喧嘩したらあかんぜぇ」
突然話し掛けられ少年等、
『……は?』
困惑。やがて霧の中から出てきたのは……
『ギャーーーッ!!』
丸みを帯びた頭、眉と髭を立派に生やしたお爺さん。を模った水蒸気の集合体。
『雲のジジイだー!!』
その名も……。
??「失敬な、儂には
『へ?』
雲山「
いきなり現れ、トントン拍子に話を進めていく雲の爺さんに、少年達はただただ呆然。と、そこに……。
??「なんか大きな音したけど、何かあったの?」
女性の声。少年達の心臓はバクバク。彼達が知る七不思議、その2つ謎が今、目の前に姿を現した。
??「ん? そこの君、その帽子……」
彼女は少年を見るなり、被っている帽子を「それはどうした?」と尋ねた。この質問に少年、答えようとするも、
大鬼「ここここれ? もらった」
雲山「そう言われてみれば、それはムラサの帽子じゃのぉ」
??「この前帰って来た時に被ってなかったから、どうしたのかと思ったけど……。そう、君にあげたんだ。似合ってるじゃない」
大鬼「あ、ありがとう……ございます」
勝手に納得され、急に褒められる少年。「嬉しい」というよりも、「どういう事?」と脳が追いつかない状態。それは彼も同じだった。
和鬼「あ、あのー……。ナミ……、水蜜さんとお知り合いなんですか?」
出来た少年。目上の人への言葉使いは100点満点。その丁寧な質問に謎の女性、
??「そうだよ。あ、名乗るのが遅れたね。私は
自己紹介と共に回答。そして「今度はこちらの番」と、
一輪「君達はムラサと何処で知り合ったの? 教えてくれない?」
彼女達の謎を尋ねた。
【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(伍)】