東方迷子伝   作:GA王

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十年後:ある日の出来事_地底七不思議(肆)

 

 本日の地底世界は、

 

大鬼「前見えねー……」

 

 視界最悪。絶賛『濃霧警報』発令中である。

 だがそんな時にこそ得られる物もある。それを探しに、いつもの集合場所へと足を運ぶ少年だったが、

 

 

ゴチーン!

 

 

大鬼「い、痛い……」

 

 町を照らす提灯(ちょうちん)が吊るされた柱に正面衝突。歩き慣れた道とはいえ、気を抜けばこのあり様。一寸先は闇である。

 頭へのダメージが回復した少年、目的地を目指し、先程よりも慎重に、手を前に出して探るように歩き出す。が、

 

 

ゴチーン!!

 

 

 またしても。しかし今度は側頭部へのダメージ。これはさすがに予想外。だが少年はある程度察していた。何者かと接触したのだと。

 

大鬼「だ、誰!?」

??「いたたた……、その声……大鬼か?」

 

 馴染みのある声。

 

大鬼「和鬼?」

和鬼「そうそう、今日視界悪すぎるな。全然見えないや」

 

 目を凝らし声の方向をジッと見つめていると、

 

和鬼「あ、ここまで来れば見えるな」

 

 腐れ縁が霧の中から姿を見せた。

 

和鬼「よっ!」

大鬼「やっはろー」

 

 謎の挨拶、少年にも感染。

 

和鬼「なんだそれ?」

大鬼「さー……、ヤマメと姐さんがそうやって挨拶してた。で、どうする? やっぱり今日はやめとく?」

和鬼「いや、続行だ。条件は(そろ)ってる」

 

 

【地底七不思議-其の弐:霧の中の巨人】

 酒に酔った鬼がいた。1人町を歩いていると、辺り一面が濃い霧に包まれている事に気が付いた。だがそれは決して珍しい事では無い。その鬼も特に気にも止めず、そのまま歩き続けていた。

 しかし彼はある異変に気付き始めていた。一歩、また一歩と歩みを進める度に、低い音……いや、唸り声が徐々に迫って来ていたのだ。恐怖を覚えた鬼は、その場から急いで立ち去ろうと走り出した。が、その声は離れるどころか、どんどんどんどん近付いて来る一方。

 そしてとうとうすぐ側で

 「お゛ぉぉぉーーーッ!」

 その瞬間鬼は大きな悲鳴を上げ、身を小さくし、防御の姿勢をとった。

 だがそれまで。いくら待っても何も起きず、彼が恐る恐る防御態勢を解いたその時、彼の目の前に見上げる程の巨人の影が、彼を見下す様に仁王立ちで立っていた――――

 と言ったお話。

 それは地底世界が、濃い霧に覆われる日に限り、稀に目撃情報がある。その情報には所々差はあれど、共通しているのが、『霧の中に巨人』を見たという事。

 そしてこの話にはもう一つ、ある不思議な話が関係していた。それが……

 

 

【地底七不思議-其の参:霧の中の謎の女】

 『霧の中の巨人』を目撃した者の多くは、その時に女性の話し声を聞いていたという。それは笑い声だったり、話し声だったり、意味不明の呪文の様だったりと様々。巨人に加えて、何処からか聞こえて来るその不気味な話し声に、恐怖から金縛りにあった様にその場から動けずにいたという。

 そして霧が晴れ始めた頃、霧の上を流れる様に飛んで行く女性の後姿があった――――

 そうな。

 少年はこの話を聞き終えると、突然彼に

 

 

じとー……

 

 

 と、冷ややかな視線を向け始めた。それは信じていないと言うよりも……。

 

和鬼「分かる、言いたい事は分かる」

大鬼「……」

和鬼「でも違うみたいだぞ?」

大鬼「ホントに?」

和鬼「鬼は嘘を言わない。そんなに気になるなら今度叔父貴(おじき)に聞いてみろよ」

大鬼「分かった。でも今の話、どう聞いても師匠と萃香さんじゃない?」

和鬼「だから何回も『そうじゃないか?』って疑われたんだってさ。『いい迷惑だ』ってボヤいてたよ」

大鬼「あ、聞いて来たんだ」

和鬼「そりゃあね」

 

 彼がこの話を父親から聞いた時、真っ先に思い浮かんだのは、少年同様彼の叔父とその娘、従姉弟(いとこ)だった。後日、その真相を聞きに言ったところ、叔父は「無関係だ」と完全否定。そしてその時、彼にあるミッションを与えていた。

 

和鬼「『絶対に犯人を見つけろ』だってさ」

 

 それに対して彼は、

 

大鬼「マジで?」

和鬼「だから嘘は言わないって」

大鬼「それに何て答えたの?」

和鬼「『絶対に見つける! 大鬼が』って言っといた」

 

 全責任を少年に擦りつけていた。

 

大鬼「ふざけんなッ! これで断念なんてしたら……」

 

 その時の状況を想像し、どんどん青ざめていく少年。終いにはガタガタと震え出す始末。そんな少年に、

 

和鬼「あー……、よろしくッ!」

 

 彼は爽やかな笑顔で、「後を任せたッ!」と片手を上げて宜しくした。となれば……、

 

大鬼「ガァーズゥーギィーッ!!」

 

 少年の怒りは最高点へ到達。だが彼はそうなる事を予期していたかの様に、冷静な顔を保ったまま続けて語り出した。

 

和鬼「まあ、待て待て。そうならないようにするから。要は見つければ良いんだし。それに物は(とら)えようだ。もし見つける事が出来たら、お前の株は急上昇。叔父貴だって見直すだろうさ」

大鬼「だから?」

和鬼「お前も鈍いなー。叔父貴の娘は誰だよ? しかも一緒に疑われているんだぞ?」

 

 少年、この瞬間顔が真っ赤に。だがそれは一時的なもの。その後瞬く間に熱は引いていき、

 

大鬼「……」

 

 無言になり、俯いた。

 

和鬼「お前も一途だよな。オレには萃香さんのどこがいいのかなんてさっぱりだけど」

大鬼「……」

和鬼「もっと魅力的な鬼だって妖怪だっているのに、何で萃香さんなの?」

大鬼「……」

和鬼「会いたいか?」

 

 彼のこの質問にも少年、無反応を貫き通す。すると彼、

 

和鬼「答える気が無いならいいや。何となく気になっただけだから」

 

 「これ以上聞くだけ無駄」と悟り、ゆっくりと歩き出した。

 

 

ズルズルズルズル……。

 

 

 何かを引きずりながら。

 

大鬼「それ持ってきたの?」

和鬼「前回みたいな事があったら困るだろ? 念のためだよ、念のため」

 

 そう言われて少年、軽く身震い。

 

大鬼「ねー……。アレ何だったと思う?」

和鬼「さー……。もしアレが本当の主だとしても、思い出したく無いな。夢に出てきそうだ」

 

 少年達の中では軽くトラウマになり掛けていた。

 

和鬼「それ、被って来たんだ」

大鬼「欲しい?」

和鬼「くれんの!?」

大鬼「あげるとは言ってない」

 

 

--少年移動中--

 

 

 少年達がやって来たのは、またまた町外れ。『地底の壁』近辺。七不思議の発端は町中ではあるが、目撃情報が多いのはどういう訳か、この辺りとの事。

 町を覆っていた深い霧は、少年達と一緒に行動をするかの様に、ここでも仕事をしていた。条件も文句無し。あとは待つだけ。で、

 

大鬼「暇」

 

 それが苦手な少年。早くも飽き始める。その隣で、

 

 

ブーンッ!

 

 

 力強く空を切る音。そしてその後に響く鈍く、大きな音。ストライク。空振り三振である。

 

大鬼「それ重いの?」

和鬼「ハッキリ言って超重い。親方様が『コレを楽に振り回せる様になれ』ってさ」

 

 彼が手にしているのは高純度、高密度、高品質の金棒。親方様が若かりし頃に使用していた思い出の品である。親方様はコレを能力発動状態ではあるが、片手でいとも簡単に、ペン回しをする様に易々と振り回してという。その重量たるや、思いが込められているだけに……重い。

 

大鬼「ちょっと貸して」

和鬼「いいけど、どうなっても知らないぞ?」

 

 丁寧に、慎重に金棒を少年に手渡す彼。持ち手が彼の手から少年へと渡った瞬間。

 

ズドーンッ!

 

 

 けたたましい音と共に、少年の手諸共地面にめり込んだ。

 

大鬼「痛い痛い痛い痛い!」

和鬼「クソッ! だから言わんこっちゃない」

 

 彼、慌てて救出作業へ。少年の手を下敷きにしている金棒を掴むと、上へのベクトルを力いっぱい加えた。と同時に、少年へ指示。

 

和鬼「大鬼、全力で下から押し上げろ!」

大鬼「ぐぎぎぎ……」

 

 徐々にその身を起こす金棒。地面との間に隙間が生じたその瞬間、少年、手を引き抜き無事脱出。だがホッとしたのも束の間、

 

和鬼「持ち上げるの手伝え!」

 

 更なる指示。その言葉に少年、慌てて加勢。2人で力を合わせて、

 

 『ふんならばッ!』

 

 金棒を直立に。

 

和鬼「ふー……、大鬼大丈夫か?」

 

 彼、額の汗を拭いながらホッと一息。手が下敷きになってしまった少年は、

 

大鬼「ジンジンするけど……、動くから大丈夫だと思う」

 

 負傷した手を握っては開きを繰り返し、骨に異常が無いか確認。あんな事がありながらも、無傷で済んだ様だ、

 

大鬼「それ危ないから。ホントに何で持って来たの? さっきから見てるけど、全然使えてないし。振り回してる様に見えて、振り回されてるし」

 

 そう、先程から彼はこの金棒を振り回していた。だが、その実態は振り回すはいいが、その後が止められず、クルクルと回転していたのだった。それは彼も充分過ぎる程分かっていた事。とは言え、

 

和鬼「うるせぇな。訓練だよ、訓練」

 

 面と向かって言われると突き刺さる。

 

大鬼「その所為でコッチは怪我してんの! 治療費と慰謝料!」

 

 「出す物出せ」と放ちながら、片手を差し出す少年。少年のこの態度に彼、カチリとスイッチが入った。

 

和鬼「自分から『貸してくれ』って頼んできたんだろ!? 大した怪我もしてないのに治療費とかいうな! それにさっき『大丈夫』って言っただろうが! アレはウソか? あ゛ーッ!?」

 

 彼はやる気満々。次に少年が何か言葉を発せれば、殴りかかる勢いだった。

 だが少年は無言。しかも目を見開き、彼の遥か上に視線を向けていた。それは疑いようもない程の怯えた表情。

 彼の額からは汗が滲み出し、やがて一粒の雫となり、頬を伝って落ちていった。そう、彼は気付き始めていた。心臓が強く脈打つ中、彼はゆっくりと……後ろを……振り返った。

 

  『で、でたーーーッ!!』

 

 仲良く抱きしめ合って大絶叫。今、彼等の目の前には……霧に覆われた大きな影が見下ろしていた。

 

??「喧嘩したらあかんぜぇ」

 

 突然話し掛けられ少年等、

 

  『……は?』

 

 困惑。やがて霧の中から出てきたのは……

 

  『ギャーーーッ!!』

 

 丸みを帯びた頭、眉と髭を立派に生やしたお爺さん。を模った水蒸気の集合体。

 

  『雲のジジイだー!!』

 

 その名も……。

 

??「失敬な、儂には雲山(うんざん)という名があるぜぇ」

  『へ?』

雲山「小童(こわっぱ)供、こんなに霧が深いのに、町外れのこんな辺鄙(へんぴ)な所まで何をしにきたんじゃ? 怪我するぜぇ」

 

 いきなり現れ、トントン拍子に話を進めていく雲の爺さんに、少年達はただただ呆然。と、そこに……。

 

??「なんか大きな音したけど、何かあったの?」

 

 女性の声。少年達の心臓はバクバク。彼達が知る七不思議、その2つ謎が今、目の前に姿を現した。

 

??「ん? そこの君、その帽子……」

 

 彼女は少年を見るなり、被っている帽子を「それはどうした?」と尋ねた。この質問に少年、答えようとするも、

 

大鬼「ここここれ? もらった」

 

 (ども)る。そして簡単な回答しか出来ない。

 

雲山「そう言われてみれば、それはムラサの帽子じゃのぉ」

??「この前帰って来た時に被ってなかったから、どうしたのかと思ったけど……。そう、君にあげたんだ。似合ってるじゃない」

大鬼「あ、ありがとう……ございます」

 

 勝手に納得され、急に褒められる少年。「嬉しい」というよりも、「どういう事?」と脳が追いつかない状態。それは彼も同じだった。

 

和鬼「あ、あのー……。ナミ……、水蜜さんとお知り合いなんですか?」

 

 出来た少年。目上の人への言葉使いは100点満点。その丁寧な質問に謎の女性、

 

??「そうだよ。あ、名乗るのが遅れたね。私は雲居(くもい)一輪(いちりん)。ムラサとは家族みたいな関係かな?」

 

 自己紹介と共に回答。そして「今度はこちらの番」と、

 

一輪「君達はムラサと何処で知り合ったの? 教えてくれない?」

 

 彼女達の謎を尋ねた。

 

 




【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(伍)】
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