--河童回復中--
正気を取り戻した技術屋、再びガクブル。だが任務を全うしようとする姿勢は崩さず、ドライバーとレンチを手にすると、再度リフトの下へ潜り作業続行。その間、お調子者達の耳には「ガシャーン」やら「バーンッ」やら「ドカーン」といった、『元に戻す作業』とは真逆の音が届いていたそうな。
そんな事がありながらも、リフトは元の姿に戻った様なのだが……
妖夢「えっと……、出発しても大丈夫ですか?」
にと「う、うん。動かすから乗って」
海斗「流石にとり! 可愛いのに頼りになる〜」
にと「か、かわッ!?」ガタガタ
妖夢「海斗さん……わざとやっていませんか?」
海斗「いや、俺は常に本気だ!」
お調子者、腕を組んでドヤッ! その瞳に迷いは……無い。これには技術屋、
にと「ひぇ〜〜〜……」ガタガタ
変な声を上げ、頭から湯気が出ている
海斗「だからさ」
にと「ふぅ〜〜〜……」ガタガタ
海斗「その箱から出てきて、もう一度顔見せてくれない?」
ダンボールを逆さに被り、潜入工作員状態。さらにその中でマナーモード。この状況を見ればきっと誰でもこう思うだろう。「もうやめてやれよ」と。が、このヲタク、技術屋がなかなか出てこない事をいい事に、
海斗「に〜とり♡」
ダンボールの持ち手の穴から覗き込む。2人の視線は、バッチリ一直線上に。
にと「ギャーーーッ!」
海斗「あっははは、おっもしれー」
ヲタク、楽しみ始めていた。そこへ「いい加減にしろ」と、おかっぱ頭が彼の首根っこを掴み、
妖夢「はいはい、もう行きますよ。乗って下さい」
強制連行。
妖夢「では、あと宜しくお願いしますね」
にと「うん、分かった」
技術屋、返事と共にくるりと回れ右。そしてロープウェイの操作位置へ移動を開始。
妖夢「……」
海斗「ククク……」
ダンボールを被ったまま。ズルズルと引き摺る音を立てながらも、一生懸命任務を全うしようとしていた。そのなんとも滑稽な姿に、おかっぱ頭は肩を落として脱力。ヲタクは腹を抑えて歓喜。
やがてどうにかこうにか、ダンボールは目的地へ到着。そしてスッと足を生やすと、ガシャガシャと操作をし、
ウィーン……
ロープウェイを起動。エラーランプが点滅していない事を指差し確認し、備え付けのマイクを手に取ると、
にと「長らくお待たせしました。山頂行き索道の運転を再開します。ご利用の方はご乗車になってお待ち下さい」
2人の乗客に向け、場内アナウンス。そして2人が既に乗車していると知ると、
にと「それでは扉を閉めまーす」
リフトのドアの開閉ボタンをポチリ。ここも誤動作が無い事をしっかりと確認し、いざ!
にと「しゅっぱーつ!」
発進ボタンをポチリ。その途端ワイヤーが動き始め、リフトは通常通りに山頂を目指して行った。ここで技術屋、ようやくATフィールドを解除。
にと「ふー……」
零れるため息。緊張、圧迫、そして閉鎖された空間から解放された安堵のため息。安心をすると冷静さも返って来るもの。その時彼女は大事な事を忘れていたと気が付いた。
にと「お金もらってない……」
そう呟く彼女の足元には、大きさが異なるネジが3本落ちていたそうな。
--ヲタク乗車中--
海斗「絶景かな、絶景かな」
遠くへ視線をやれば広がる大パノラマ。下へと視線を落とせば、色彩豊かな木々が絨毯の様に広がっていた。
妖夢「本当に綺麗ですね。初めて乗りましたけど、いいものですね」
窓の外に広がる見事な景色を楽しむおかっぱ頭。普段は気にも留めていなかった景色。その素晴らしさに感動していた。それは空が飛べるが故に、気付かなかった事。灯台下暗しだった。
そんな彼女を見つめる熱い視線。この時彼の脳内は……
リフトで2人きり → 閉鎖空間の男女 → あんな事こんな事 → カポー成立 → 結婚
??「{あー、テステス。聞こえてる? どうぞ}」
何処からか声。否、天井のスピーカーから声。
妖夢「この声……」
海斗「にとりだな」
にと「{もしもーし。どうぞ}」
妖夢「聞こえてますよー」
声が聞こえて来るスピーカーに応答するおかっぱ頭。だがこの時ヲタク、「多分そうじゃない」と気が付き出していた。それは案の定……
にと「{あっれ〜? 無線壊れたかな? どうぞ}」
不通のご様子。
妖夢「聞こえてますよー」
海斗「みょん、違う違う。アレ使うの」
ヲタクが指差した先には、コードがついたスピーカーマイクが。彼女はそれを手に取ると、頭上に『?』を浮かべながらマジマジと観察。すると察しのいい彼、
海斗「横にボタンあるだろ? それ押しながら話すんだぜ。話し終わったらボタンを離してな」
使い方を説明。彼女はその言葉に従い、3度目のトライ。
妖夢「聞こえてますよー」
にと「{お、やっと繋がった。無線は問題無しと。リフトの乗り心地はどうだい? どうぞ}」
妖夢「ええ、すごく快適です。景色も綺麗です」
にと「{それは良かった。乗り心地も問題無しと。変な音とかしないかい? どうぞ}」
察しのいい彼、この時気付き始めていた。「モルモットにされている」と。
妖夢「しませんよ」
にと「{そうかい、そうかい。特に問題無しと。あ、そうそう。代金だけど、上に到着したら箱に入れておいて。帰りは緑色の巫女にでも頼んで。それじゃあ引き続き楽しんでね。どうぞ}」
会話終了の合図。そのタイミングで彼は立ち上がり、おかっぱ頭から無線を奪うと、
海斗「にとり、嫁にならない?」
「俺も元気です」とご挨拶。その返事は無かったものの、彼には技術屋がどんな状態であるか目に浮かぶ様だった。そして満足気に笑いながら、スピーカーマイクを元の位置へ。
妖夢「可哀想ですよ? なんでそこまでするんですか?」
海斗「面白くてね。それに……」
彼はそこまで答えると、窓の外をぼんやりと見つめ、続きを語り出した。
海斗「似てるんだ。俺の親友に。技術オタクで、人見知りで、すぐビクビクして。だからツイね」
妖夢「人見知りではないんですけど……。その方は外の世界の方ですか?」
海斗「そ。アイツ今頃どうしてるかな? 俺がいなくても大丈夫かな?」
妖夢「海斗さんが養っているのですか?」
海斗「あっははは、違う違う。誤解を生みやすいヤツなんだよ。だから少し心配なんだぜ」
彼女の質問に答える彼の顔は、笑ってはいるものの、少し寂し気だった。それは彼女が初めて目にする彼の表情で、「こういう表情するんだ」と暫く見惚れていた。
会話はそこで止まり、リフトは間も無くで目的地。その時、彼が不意に彼女の方へ振り向いた。
妖夢「!?」
そこで彼女はようやく気が付いた。いや、我に返った。今彼女の目の前には、彼の顔。2人は急接近していた。瞬く間に体温が上昇する彼女。そしてそれを見透かす様な、本気の視線。
海斗「みょん、俺……」
妖夢「嫁にはなりませんからね! 毎度毎度口を開けばそればっかりで、さっきもそうやって……」
海斗「それでも俺、本当は……」
妖夢「もうそれ以上喋らないで! 顔近い! 離れて!!」
両手でお調子者を押し返す彼女。と、同時に彼は背後へと飛ばされ、出入り口のドアへ激突。力も勢いも強いものではなかった。ドアには軽くぶつかった程度。だが……
ガシャーン!
何かが外れる音。そして彼は、
海斗「え?」
空中へ放り出されていた。閉められたはずの自動扉のロックが外れたのだ。
妖夢「海斗さんッ!」
慌てて手を伸ばす彼女。しかし彼と彼女は離れていく一方。「絶対に捕まえる」そう誓って力強く飛び込んだ結果、
海斗「ッぶねー……」
間一髪のギリギリセーフ。彼女はリフトから身を乗り出し、彼の手を捕まえていた。だが、届いたのは片手だけ。しかも、もう片方の手は支えるのに必死。離せば2人とも真っ逆さま。
妖夢「ぅ〜〜〜ッ」
歯を食いしばり、「絶対に離さない」と決意しながらも、その顔は苦悶に満ちていた。
海斗「みょん無理すんな! このままじゃ2人とも落ちる!」
妖夢「〜〜〜ッ!」
返事なし。いや、返事が出来ない程ギリギリの状態だった。剣の道を歩んでいたとはいえ、彼女は女の子。その白く細い腕の限界は近かった。と、そこに
ガコンッ
不吉な音。今まで気にも止めていなかった音。定期的に発生していた音。だがそれがこの時は、彼等には不気味で死神の声に聞こえていた。
そして音と共に発生する縦の揺れ。支柱を通過したのだ。その瞬間、彼の手は彼女から残酷にも……
海斗「わ゛ーーーッ」
妖夢「海斗さん!?」
慌ててリフトから飛び降りて猛スピードで後を追いかける。彼の落下地点には巨大な岩が待ち受け、残された距離はもう僅か。彼女の今のスピードで追い付くか否かの瀬戸際。正真正銘、これが最後のチャンス。
彼女は目一杯その手を伸ばした。強い意志を込めて。彼もそれに答える様に、彼女へ力いっぱいその手を伸ばした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
??「はいはい、順番にね。押さないでね」
慣れた手際で客を案内。それはどこか投げ槍の様にも見え、急いでいる様にも見える。その者の胸の胸の内はというと……
??「(早く終わらせて飲みに行こ)」
こんな感じ。だがそんな者の気持ちとは裏腹に、
客1「あの……、記念に握手してもらえませんか?」
客2「あ、それじゃあ私も」
握手会の要望。その言葉に「面倒だな」と思いながらも、
??「いいよ、ほら握手」
客一人一人に、丁寧に笑顔で答えていく。やがて握手を交わした客が2桁になろうとした頃、
??「今回はもう満員かな?」
ポツリとそう呟き、残された客達に向け、
??「今日の最終便はここまで! また明日!」
と大きな声でアナウンス。その声に列を成していた客達、バラバラとそれぞれが違う方向へ散っていった。その様子を見届け、出発の準備へ。
岸と結んでいたロープを外し、飛び乗るのは彼女の仕事道具。愛用の鎌も忘れずに。
??「ふー……」
「これで今回のノルマ達成」と、サボりにサボった仕事のツケの終わりを迎え、ホッと一息。
そして最後のもう一踏ん張り。
??「出航ー」
岸を蹴って舟に勢いを付け、漕ぎ出そうとしたその時、
??「こまっちゃーん! 待ってー!!」
彼女を呼ぶ声が。聞き慣れない呼び名に、「私の事か?」と首を傾げる彼女。だがその者は真っ直ぐに、砂煙を上げながら猛スピードで彼女を目指していた。やがて舟の側に辿り着くと、その勢いのままジャンプし、
ダンッ!
強引に乗船。そしてサムズアップで己を指し、キメ顔で放たれるその言葉は……
??「嫁にならない?」
小町「…………は?」
嫁捕獲作戦_四人目: