東方迷子伝   作:GA王

127 / 229
十年後:ある日の出来事_地底七不思議(捌)

和鬼「なんかあっさり解決したな」

大鬼「まだ時間あるし、残りの七不思議の作戦会議しとく?」

和鬼「そうだな。いよいよ残すは()()()()だ!」

 

 解き明かす謎が残り(わず)かとなり、張り切る彼。だが少年、彼のこの発言に違和感を覚え、これまでに解き明かした謎を指折り数え始める。その結果……、

 

大鬼「まだあと2個あるけど?」

和鬼「あ、うん。そうそう、残り2個だった」

大鬼「数も数えられないのかよ……」

和鬼「う、うるせぇな」

水蜜「それで? 次はどんな謎に挑戦するの?」

 

 少年達、今現在も宝船におじゃま中。温かいお茶とお茶菓子まで頂き、至れり尽くせりである。尚、水蒸気の塊のスケベ爺さんは……まだご就寝中である。

 

大鬼「ナミも気になる?」

水蜜「アノネェ……、だからその呼び名をさ……」

和鬼「じゃあコレ一緒に探しに行かない?」

 

 

【地底七不思議ー其の陸:封印されし扉】

 町民の誰しもが一度は耳にした事のある噂。だがその存在を確認出来た者は、まだ誰もいない。それはこの地底世界のどこかにひっそりと、身を隠す様に存在しているという。

 だが決して探してはいけない。例え見つけようとも、開けようとしてはいけない。さもなければ罰が下り、その身を焦がす事になるだろう――――

 といった話。さらにその扉の奥には……

 

水蜜「異世界に繋がっているっていう噂でしょ?」

大鬼「知ってんの!?」

水蜜「長年ここにいるからね。その話は聞いた事があるよ。でもあくまで噂レベルだからね。何処にあるのかなんて知らないよ」

和鬼「だからそれを探しに行くんだよ。どう?」

 

 再び船幽霊を誘う彼。積極的に彼らの話に交じるその姿勢から、興味があるのは間違いなかった。だが彼女、すぐにYesとは答えず、

 

水蜜「どーしよーかなー」

 

 ()らす。その態度に彼、少し(あせ)る。とそこに、

 

ぬえ「あのー……」

 

 泣き虫乱入。申し訳無さそうに小さく挙手。

 

  『なに?』

ぬえ「その扉の事なんだけど……」

大鬼「何か知ってんの?」

ぬえ「いや……、その話自体初めて聞いたし……、存在も知らなかったんだけど……」

水蜜「焦れったいなー。結局何が言いたいの?」

 

 慌ただしく視線を泳がせながら話す泣き虫に、眉間に(しわ)を寄せて「早よせい」と圧力をかける船幽霊。泣き虫、その彼女に一度ジロリと視線を放った後、先程と変わらぬ口調で話し出した。

 

ぬえ「ありそうな所なら知ってる……」

和鬼「ありそうな所?」

 

 リアクションに困る情報に聞き返す彼。この質問にイタズラ好き、コクコクと頷くと、ある方角を指差して答えた。

 

ぬえ「ここから町から離れた方向に、大きな穴があるんだけど……。そこ『立ち入り禁止』って札が出てて……」

 

 イタズラ娘の情報に腕を組んで「うーん」唸り声を上げる彼。そして間もなく……

 

和鬼「行く価値有りだな」

大鬼「行ってみるか。えっと名前は……」

ぬえ「ぬえ」

大鬼「じゃあ、ぬえ案内して」

ぬえ「分かった。さっそく3人で行こう」

 

 少年の誘いに表情を明るくし、鼻歌混じりに外へと向かうイタズラ好き。だが……。

 

水蜜「待った! ぬえを一人では行かせられないから、私も行くよ」

ぬえ「チィッ」

水蜜「なに?」

ぬえ「いえ、なんでも……」

 

 宝船を後にし、イタズラ好きを先頭に真相を確かめに行く4人のパーティ。それはさながら勇者御一行と言ったところだろうか? いや、そんな大それた物ではない。

 

ぬえ「……」

 

 不服そうな表情を浮かべる案内人。それもそのはず、その両手は後ろで縛られ、全身をロープでぐるぐる巻きにさせられているのだから。そう、これは例えるなら罪人を連行する御一行。

 

ぬえ「よけいな事を……」ボソ

水蜜「何か言った?」

ぬえ「なんにもー」

和鬼「コイツ外出た途端に態度変わってない?」

水蜜「やっぱり一輪にも来てもらった方が良かったかなー?」

ぬえ「ふん、今更……」

水蜜「ちょっと君、一輪呼んできて」

大鬼「りょーかーい」

ぬえ「ままま待って! それだけは、どうかそれだけは……」

水蜜「じゃあちゃんと言う事聞きなよ? 逆らわないでよ!」

ぬえ「は、はい」

 

 ロープ、たったその1本だけで上下関係が確立してしまう。不思議なものである。

 そしてそうこうしている内に……。

 

ぬえ「ここ」

 

 そこは地底の壁に出来た洞穴だった。縦少年達の背丈の3倍、横10人が1列になって進める程の巨大な入り口。天井からは鍾乳石が垂れ下がり、それはまるで……。

 

和鬼「なんか、化け物の口みたいだな」

水蜜「き、奇遇だねぇ……。私も同じ事考えてたよ」

大鬼「同じく……」

ぬえ「そう? ただの洞穴でしょ? で、どうするの?」

和鬼「どうするったって……」

大鬼「入れなくない?」

 

 そこには何重にも張り巡らせられた金網が。さらにその中央には大きな文字で『落石の恐れあり! 立ち入り禁止』と書かれた札が貼り付けてあった。

 

水蜜「これじゃあ分からないね」

ぬえ「え? 何で?」

水蜜「だってこの先に進めないんだよ? どうやって……」

 

 これ以上の調査が不可能なのは誰から見ても明らか。にも関わらず、頭上に『?』を浮かべ、「何を言っているんだ?」と言いたげな表情を浮かべるイタズラ娘に、怪訝(けげん)な表情で尋ねる船幽霊。と、その時。

 

 

ドーンッ!

 

 

ぬえ「こうやって」

 

 放たれた光弾。そしてポッカリと金網に姿を現した穴。躊躇(ちゅうちょ)なく、平然とした表情で、当たり前の様に行われた破壊行為に、一同唖然。

 

水蜜「なに壊してるのよ!」

和鬼「見つかったらヤバイぞ!」

ぬえ「だって奥に行きたいんでしょ?」

  『そうだけど!!』

 

 悪びれる様子のないイタズラに、「なんという事をしやがる」と血相を変えて詰め寄る2人。だが少年だけは違った。

 

大鬼「別にいいじゃん。バレなきゃいいんだし。それにこうなったらもう進むしかないだろ?」

ぬえ「へぇー、話が分かるね」

大鬼「そういうの嫌いじゃないし」

 

 意気投合。互いに口元をニヤリとさせると、「フッフッフッ……」と桶姫の様に不敵な笑い。THE・悪。

 

水蜜「君の友達なんかおかしくない?」ヒソヒソ

和鬼「叔父貴(おじき)所為(せい)で、頭のネジが何本か無くなったのかも」

水蜜「は?」

 

 「朝の稽古の衝撃が原因だろう」と語る彼。だが事情を知らない彼女、首を傾げて頭上に『?』。と、そこに……。

 

大鬼「ナミィー、ぬえのリードやらせて」

水蜜「いいけど……、逃さないでよ?」

大鬼「鬼の力舐めんな」

水蜜「はいはい……」

 

 少年は船幽霊から、イタズラ好きに巻き付けられた紐の先を受け取ると、悪意に満ちた表情で、彼へこう耳打ちした。

 

大鬼「それじゃあぬえと先歩くから、2人でごゆっくりとどうぞ」ヒソヒソ

 

 その瞬間、彼の脳内は大爆発。顔は真っ赤。だが彼は少年に「マジサンキュー」と感謝。

 

大鬼「ほら、ぬえ行くぞ」

ぬえ「痛い痛い! ロープが肌に擦れてる! す、少し緩めて!」

大鬼「緩める? そうすればぬえの気は済むのか?」

ぬえ「も、もちろん!」

大鬼「だが断る!」

ぬえ「ぬえッ!?」

 

 立ち入り禁止となっていた巨大な洞穴。そこは誰も近付かず、侵入した事のない場所。そこに4人の探検家は、有るのか無いのか分からない、あくまで噂の話の『扉』を求め、進んで行った。奥に進むに連れ、幅と天井との距離が少しずつ近付く内部。そこを奥へと進む者達は、(さなが)ら巨大生物の口に飛び込み、自ら消化器官を目指す哀れな獲物。

 

 

◆    ◇

 

 

 そんな中、何食わぬ顔で先陣を行くのは、この2人。

 

大鬼「暗いなぁ……、先が全然見えないや」

 

 片手にリードを巻きつけ、お散歩真っ最中の少年と、

 

ぬえ「じゃあコレでどう?」

 

 自身の周りに光弾を配置し、自らを光源とし、周囲を明るく照らすペット。

 

大鬼「ナイス! って……え?」

ぬえ「こ、これって……」

 

 

◇    ◆

 

 

 入り口付近からさほど離れていない場所では……。

 

水蜜「ちょちょちょっとタンマ!」

 

 数本先を行く彼に静止を呼び掛ける船幽霊。膝に手を付き、額からは大量の汗が流れ出ていた。そんな様子のおかしい彼女に、

 

和鬼「またかよ? さっきから5歩くらいしか進んでないし」

 

 彼、うんざりといったご様子。そう、彼女がこの状態になるのは1度や2度ではなかった。その上、ちょっと進んでは立ち止まり、少し休憩の繰り返し。身体的異常を気にかけるところではあるが、彼はその原因を薄々察していた。

 

和鬼「怖いなら引き返そうか?」

水蜜「そ、そうはいかないでしょ! ぬえがいるんだから。暗闇に紛れて逃げ出すかもしれないじゃない!」

和鬼「はいはい、分かったよ。でもアイツら随分先に行ったみたいだから、急がないとどんどん差が開くぞ?」

水蜜「分かってる! 分かってるんだけど……」

 

 足下に視線を落とし、全身で拒否反応を見せる彼女。そこには深い理由など無い、ただ純粋なる恐怖のみ。口では強がってはみるものの、意志はもう先へとは向いていなかった。「もうイヤ」堪えていた心の声が、表に出るのも時間の問題。と、そこに……。

 

水蜜「え?」

和鬼「あ、アイツらに追いつくまで……か、貸してやる」

水蜜「……」

和鬼「そ、それにナミがいないと、コッチも暗くて先に進めないし……」

水蜜「……うん」

和鬼「だ、だから一緒にいてもらわないと困るんだよ。ただそれだけだからな」

水蜜「絶対に離さないでね?」

 

 

◆    ◆

 

 

 後続の到着をじっと待ち続ける少年達。しかし待てど暮らせど一向に姿を現さない2人。腕を組んで貧乏ゆすり、苛立ちが最高潮を迎えようとしていた頃、遅ればせながらも無事残りの2名が到着。

 

ぬえ「遅すぎ。随分と待たせてくれたじゃない」

大鬼「ここまで5分ちょっとくらいで着く距離なのに、なんで1時間近くもかかるんだよ!」

 

 少年、「いくらなんでも遅すぎだ」と激怒。これに対し彼、言い訳をするのかと思いきや、

 

和鬼「い、色々あんだよ」

 

 視線を外して話をはぐらさす。その上、彼と一緒に来た船幽霊は、気まずそうな空気を漂わせながらも、彼の背後に隠れて俯いたまま離れようとしない。このどこか余所余所しい雰囲気を醸し出す2人に少年、

 

大鬼「はは〜ん……」

 

 ニンマリと悪い顔。

 

和鬼「そ、それよりもどうしてここで立ち止まってんだよ?」

大鬼「いや、だってココで行き止まりだから」

水蜜「え? もう? ここでおしまい?」

ぬえ「残念ながら」

 

 そう、少年達の背後には岩壁。先に到着した少年とイタズラ娘は、この事実を目の当たりにし、他に道は無いかと近辺を(くま)無くチェックしていた。だが、結果そんなものは見つからず、ここが最深部だという結論に至ったのだった。

 

和鬼「って事はここじゃ無いって事か……」

大鬼「そもそも無いかもしれないし」

ぬえ「可能性はあったけどね」

水蜜「なんだー、ここまで苦労して来たのに……」

 

 膝から地面にペタンと座り、肩を落とす船幽霊。彼女にとってここまで来るという事は、とても勇気のいる事だった。それが全て無駄骨に終わったと知り、ガッカリ。

 

水蜜「来るだけ損し……」

 

 だが、そこまで言いかけた時、不意に行動を共にしていた彼と視線が重なり合い……。

 

水蜜「てもいない……かな?」

 

 首筋を隠す様に手を当て、はにかみながら前言を否定した。その姿はついさっきまでの彼女より大人っぽく、ほんの少しだけ妖艶(ようえん)でもあった。この劇的な変化を

 

大鬼「なあなあ、どこまでいったの?」ヒソヒソ

 

 少年が見過ごすはずがない。悪どい顔をして事の成り行きを、当事者に耳打ちで尋ねる。

 

和鬼「ななななに言ってんだよ!」ヒソヒソ

大鬼「手は繋いだんたろ?」ヒソヒソ

和鬼「そ、それは……」

大鬼「じゃあチューした?」ヒソヒソ

和鬼「もうそれ以上聞くんじゃねー!」ヒソヒソ

大鬼「いいだろ? 別に減るもんじゃ無いんだし」ヒソヒソ

和鬼「おしまいだ! お・し・ま・い! ほらみんなで戻るぞ!」

 

 強引に話を切り、来た道を戻ろうと歩みを進める彼。

 光弾だけが頼りの暗い洞窟の中。光源から離れてしまっては、その表情を(うかが)う事は困難。

 だが少年は悟っていた。彼は顔を赤くし、(ゆる)みきっただらしのない表情をしているのだろうと。そして「このネタは使える」と、戻ってからの作戦を上機嫌で考えながら、彼の後を追うように歩き出した。

 

ぬえ「わわッ、ちょっと! 歩くなら言ってよ!」

大鬼「あ、悪い。忘れてた」

 

 ロープを突然引かれて驚くイタズラ娘。リードを握る少年を睨み付けたその時、

 

 

サラ……

 

 

 彼女の髪を優しく撫でる感触が。それは冷たく、ひんやりとした形無きもの。

 

ぬえ「え? ……風?」

 




【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(玖)】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。