和鬼「なんかあっさり解決したな」
大鬼「まだ時間あるし、残りの七不思議の作戦会議しとく?」
和鬼「そうだな。いよいよ残すは
解き明かす謎が残り
大鬼「まだあと2個あるけど?」
和鬼「あ、うん。そうそう、残り2個だった」
大鬼「数も数えられないのかよ……」
和鬼「う、うるせぇな」
水蜜「それで? 次はどんな謎に挑戦するの?」
少年達、今現在も宝船におじゃま中。温かいお茶とお茶菓子まで頂き、至れり尽くせりである。尚、水蒸気の塊のスケベ爺さんは……まだご就寝中である。
大鬼「ナミも気になる?」
水蜜「アノネェ……、だからその呼び名をさ……」
和鬼「じゃあコレ一緒に探しに行かない?」
【地底七不思議ー其の陸:封印されし扉】
町民の誰しもが一度は耳にした事のある噂。だがその存在を確認出来た者は、まだ誰もいない。それはこの地底世界のどこかにひっそりと、身を隠す様に存在しているという。
だが決して探してはいけない。例え見つけようとも、開けようとしてはいけない。さもなければ罰が下り、その身を焦がす事になるだろう――――
といった話。さらにその扉の奥には……
水蜜「異世界に繋がっているっていう噂でしょ?」
大鬼「知ってんの!?」
水蜜「長年ここにいるからね。その話は聞いた事があるよ。でもあくまで噂レベルだからね。何処にあるのかなんて知らないよ」
和鬼「だからそれを探しに行くんだよ。どう?」
再び船幽霊を誘う彼。積極的に彼らの話に交じるその姿勢から、興味があるのは間違いなかった。だが彼女、すぐにYesとは答えず、
水蜜「どーしよーかなー」
ぬえ「あのー……」
泣き虫乱入。申し訳無さそうに小さく挙手。
『なに?』
ぬえ「その扉の事なんだけど……」
大鬼「何か知ってんの?」
ぬえ「いや……、その話自体初めて聞いたし……、存在も知らなかったんだけど……」
水蜜「焦れったいなー。結局何が言いたいの?」
慌ただしく視線を泳がせながら話す泣き虫に、眉間に
ぬえ「ありそうな所なら知ってる……」
和鬼「ありそうな所?」
リアクションに困る情報に聞き返す彼。この質問にイタズラ好き、コクコクと頷くと、ある方角を指差して答えた。
ぬえ「ここから町から離れた方向に、大きな穴があるんだけど……。そこ『立ち入り禁止』って札が出てて……」
イタズラ娘の情報に腕を組んで「うーん」唸り声を上げる彼。そして間もなく……
和鬼「行く価値有りだな」
大鬼「行ってみるか。えっと名前は……」
ぬえ「ぬえ」
大鬼「じゃあ、ぬえ案内して」
ぬえ「分かった。さっそく3人で行こう」
少年の誘いに表情を明るくし、鼻歌混じりに外へと向かうイタズラ好き。だが……。
水蜜「待った! ぬえを一人では行かせられないから、私も行くよ」
ぬえ「チィッ」
水蜜「なに?」
ぬえ「いえ、なんでも……」
宝船を後にし、イタズラ好きを先頭に真相を確かめに行く4人のパーティ。それはさながら勇者御一行と言ったところだろうか? いや、そんな大それた物ではない。
ぬえ「……」
不服そうな表情を浮かべる案内人。それもそのはず、その両手は後ろで縛られ、全身をロープでぐるぐる巻きにさせられているのだから。そう、これは例えるなら罪人を連行する御一行。
ぬえ「よけいな事を……」ボソ
水蜜「何か言った?」
ぬえ「なんにもー」
和鬼「コイツ外出た途端に態度変わってない?」
水蜜「やっぱり一輪にも来てもらった方が良かったかなー?」
ぬえ「ふん、今更……」
水蜜「ちょっと君、一輪呼んできて」
大鬼「りょーかーい」
ぬえ「ままま待って! それだけは、どうかそれだけは……」
水蜜「じゃあちゃんと言う事聞きなよ? 逆らわないでよ!」
ぬえ「は、はい」
ロープ、たったその1本だけで上下関係が確立してしまう。不思議なものである。
そしてそうこうしている内に……。
ぬえ「ここ」
そこは地底の壁に出来た洞穴だった。縦少年達の背丈の3倍、横10人が1列になって進める程の巨大な入り口。天井からは鍾乳石が垂れ下がり、それはまるで……。
和鬼「なんか、化け物の口みたいだな」
水蜜「き、奇遇だねぇ……。私も同じ事考えてたよ」
大鬼「同じく……」
ぬえ「そう? ただの洞穴でしょ? で、どうするの?」
和鬼「どうするったって……」
大鬼「入れなくない?」
そこには何重にも張り巡らせられた金網が。さらにその中央には大きな文字で『落石の恐れあり! 立ち入り禁止』と書かれた札が貼り付けてあった。
水蜜「これじゃあ分からないね」
ぬえ「え? 何で?」
水蜜「だってこの先に進めないんだよ? どうやって……」
これ以上の調査が不可能なのは誰から見ても明らか。にも関わらず、頭上に『?』を浮かべ、「何を言っているんだ?」と言いたげな表情を浮かべるイタズラ娘に、
ドーンッ!
ぬえ「こうやって」
放たれた光弾。そしてポッカリと金網に姿を現した穴。
水蜜「なに壊してるのよ!」
和鬼「見つかったらヤバイぞ!」
ぬえ「だって奥に行きたいんでしょ?」
『そうだけど!!』
悪びれる様子のないイタズラに、「なんという事をしやがる」と血相を変えて詰め寄る2人。だが少年だけは違った。
大鬼「別にいいじゃん。バレなきゃいいんだし。それにこうなったらもう進むしかないだろ?」
ぬえ「へぇー、話が分かるね」
大鬼「そういうの嫌いじゃないし」
意気投合。互いに口元をニヤリとさせると、「フッフッフッ……」と桶姫の様に不敵な笑い。THE・悪。
水蜜「君の友達なんかおかしくない?」ヒソヒソ
和鬼「
水蜜「は?」
「朝の稽古の衝撃が原因だろう」と語る彼。だが事情を知らない彼女、首を傾げて頭上に『?』。と、そこに……。
大鬼「ナミィー、ぬえのリードやらせて」
水蜜「いいけど……、逃さないでよ?」
大鬼「鬼の力舐めんな」
水蜜「はいはい……」
少年は船幽霊から、イタズラ好きに巻き付けられた紐の先を受け取ると、悪意に満ちた表情で、彼へこう耳打ちした。
大鬼「それじゃあぬえと先歩くから、2人でごゆっくりとどうぞ」ヒソヒソ
その瞬間、彼の脳内は大爆発。顔は真っ赤。だが彼は少年に「マジサンキュー」と感謝。
大鬼「ほら、ぬえ行くぞ」
ぬえ「痛い痛い! ロープが肌に擦れてる! す、少し緩めて!」
大鬼「緩める? そうすればぬえの気は済むのか?」
ぬえ「も、もちろん!」
大鬼「だが断る!」
ぬえ「ぬえッ!?」
立ち入り禁止となっていた巨大な洞穴。そこは誰も近付かず、侵入した事のない場所。そこに4人の探検家は、有るのか無いのか分からない、あくまで噂の話の『扉』を求め、進んで行った。奥に進むに連れ、幅と天井との距離が少しずつ近付く内部。そこを奥へと進む者達は、
◆ ◇
そんな中、何食わぬ顔で先陣を行くのは、この2人。
大鬼「暗いなぁ……、先が全然見えないや」
片手にリードを巻きつけ、お散歩真っ最中の少年と、
ぬえ「じゃあコレでどう?」
自身の周りに光弾を配置し、自らを光源とし、周囲を明るく照らすペット。
大鬼「ナイス! って……え?」
ぬえ「こ、これって……」
◇ ◆
入り口付近からさほど離れていない場所では……。
水蜜「ちょちょちょっとタンマ!」
数本先を行く彼に静止を呼び掛ける船幽霊。膝に手を付き、額からは大量の汗が流れ出ていた。そんな様子のおかしい彼女に、
和鬼「またかよ? さっきから5歩くらいしか進んでないし」
彼、うんざりといったご様子。そう、彼女がこの状態になるのは1度や2度ではなかった。その上、ちょっと進んでは立ち止まり、少し休憩の繰り返し。身体的異常を気にかけるところではあるが、彼はその原因を薄々察していた。
和鬼「怖いなら引き返そうか?」
水蜜「そ、そうはいかないでしょ! ぬえがいるんだから。暗闇に紛れて逃げ出すかもしれないじゃない!」
和鬼「はいはい、分かったよ。でもアイツら随分先に行ったみたいだから、急がないとどんどん差が開くぞ?」
水蜜「分かってる! 分かってるんだけど……」
足下に視線を落とし、全身で拒否反応を見せる彼女。そこには深い理由など無い、ただ純粋なる恐怖のみ。口では強がってはみるものの、意志はもう先へとは向いていなかった。「もうイヤ」堪えていた心の声が、表に出るのも時間の問題。と、そこに……。
水蜜「え?」
和鬼「あ、アイツらに追いつくまで……か、貸してやる」
水蜜「……」
和鬼「そ、それにナミがいないと、コッチも暗くて先に進めないし……」
水蜜「……うん」
和鬼「だ、だから一緒にいてもらわないと困るんだよ。ただそれだけだからな」
水蜜「絶対に離さないでね?」
◆ ◆
後続の到着をじっと待ち続ける少年達。しかし待てど暮らせど一向に姿を現さない2人。腕を組んで貧乏ゆすり、苛立ちが最高潮を迎えようとしていた頃、遅ればせながらも無事残りの2名が到着。
ぬえ「遅すぎ。随分と待たせてくれたじゃない」
大鬼「ここまで5分ちょっとくらいで着く距離なのに、なんで1時間近くもかかるんだよ!」
少年、「いくらなんでも遅すぎだ」と激怒。これに対し彼、言い訳をするのかと思いきや、
和鬼「い、色々あんだよ」
視線を外して話をはぐらさす。その上、彼と一緒に来た船幽霊は、気まずそうな空気を漂わせながらも、彼の背後に隠れて俯いたまま離れようとしない。このどこか余所余所しい雰囲気を醸し出す2人に少年、
大鬼「はは〜ん……」
ニンマリと悪い顔。
和鬼「そ、それよりもどうしてここで立ち止まってんだよ?」
大鬼「いや、だってココで行き止まりだから」
水蜜「え? もう? ここでおしまい?」
ぬえ「残念ながら」
そう、少年達の背後には岩壁。先に到着した少年とイタズラ娘は、この事実を目の当たりにし、他に道は無いかと近辺を
和鬼「って事はここじゃ無いって事か……」
大鬼「そもそも無いかもしれないし」
ぬえ「可能性はあったけどね」
水蜜「なんだー、ここまで苦労して来たのに……」
膝から地面にペタンと座り、肩を落とす船幽霊。彼女にとってここまで来るという事は、とても勇気のいる事だった。それが全て無駄骨に終わったと知り、ガッカリ。
水蜜「来るだけ損し……」
だが、そこまで言いかけた時、不意に行動を共にしていた彼と視線が重なり合い……。
水蜜「てもいない……かな?」
首筋を隠す様に手を当て、はにかみながら前言を否定した。その姿はついさっきまでの彼女より大人っぽく、ほんの少しだけ
大鬼「なあなあ、どこまでいったの?」ヒソヒソ
少年が見過ごすはずがない。悪どい顔をして事の成り行きを、当事者に耳打ちで尋ねる。
和鬼「ななななに言ってんだよ!」ヒソヒソ
大鬼「手は繋いだんたろ?」ヒソヒソ
和鬼「そ、それは……」
大鬼「じゃあチューした?」ヒソヒソ
和鬼「もうそれ以上聞くんじゃねー!」ヒソヒソ
大鬼「いいだろ? 別に減るもんじゃ無いんだし」ヒソヒソ
和鬼「おしまいだ! お・し・ま・い! ほらみんなで戻るぞ!」
強引に話を切り、来た道を戻ろうと歩みを進める彼。
光弾だけが頼りの暗い洞窟の中。光源から離れてしまっては、その表情を
だが少年は悟っていた。彼は顔を赤くし、
ぬえ「わわッ、ちょっと! 歩くなら言ってよ!」
大鬼「あ、悪い。忘れてた」
ロープを突然引かれて驚くイタズラ娘。リードを握る少年を睨み付けたその時、
サラ……
彼女の髪を優しく撫でる感触が。それは冷たく、ひんやりとした形無きもの。
ぬえ「え? ……風?」
【次回:十年後:ある日の出来事_地底七不思議(玖)】