東方迷子伝   作:GA王

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十年後:ある日の出来事_地底七不思議(玖)

 流れてきた方向は入り口とは真逆。そう、まさに……。

 

ぬえ「みんな待って!」

  『なに?』

ぬえ「今(かす)かにこっちから風が吹いた!」

  『だから?』

ぬえ「だーかーら! この壁から風が吹いたの! これがどういう事か分からない?」

 

 イタズラ娘の言葉に首を傾げる3人。だが悩む時間はそう長くはなかった。

 

大鬼「和鬼!」

和鬼「よしきたッ!」

 

 堂々と構える巨大な壁。相対するは、それよりも遥かに小さな

 

  『せぇーのッ!!』

 

 強烈な2つの拳。

 ヒットと同時に上がる岩を砕く破壊音。そしてそれに重なる様に鳴る別の、明らかに異なる音。

 

ぬえ「やっぱり……、この裏に何かある!」

水蜜「()()()()達離れて! 『転覆:撃沈アンカー』」

大鬼「は?」

和鬼「大鬼下がれ!」

 

 キョトンとする少年の服を掴み、「危険だ」と引き寄せる彼。その後すぐに岩壁へ大きな錨を模った光弾が飛んで行き、大きな爆発音と大量の砂埃を上げた。

 

ぬえ「ケホッ、ケホッ。少しは手加減しなよ」

大鬼「グェホッ、グェホッ」

和鬼「いつつつ、目に入った」

水蜜「え!? ごめん、大丈夫?」

 

 捲き上る噴煙。洞窟の天井まで達していたそれは、徐々に下へ下へと降り注ぎ、やがて……。

 

ぬえ「ん〜……?」

 

 目を細め、結果の確認を急ぐイタズラ娘。その瞳に映し出されたのは、

 

ぬえ「ねっ、ねー。ア、アレ……」

水蜜「ヘッ!?」

和鬼「ま、マジかよ……」

大鬼「えっと……」

 

 青銅色の壁。その材質は自然に出来た物でない事は明らか。間違いなく何かがある証拠。そこからさらに岩壁へ攻撃を続け、いよいよその全貌が……。

 

ぬえ「と、扉だ」

水蜜「本当にあった」

和鬼「でけぇー……。扉に何かペタペタ貼り付けてあるな」

大鬼「あのさー」

ぬえ「それ多分お札だと思う」

水蜜「へー、そこまでするって事は、中にはかなりヤバイモノか、お宝があるって事じゃない?」

和鬼「なにっ!? お宝!?」

大鬼「今さー」

ぬえ「ぬえっえっえ、じゃあちょいとお先に失礼するよ」

 

 「お宝があるかもしれない」そう聞き、目の色を変えるイタズラ娘と彼。そして我先にと、(よだれ)を垂らしながら、巨大な門へと彼女が手を伸ばした途端……

 

ぬえ「ヌババババババババ」

 

 イタズラ娘の全身を強烈な電流が走った。その威力、彼女の骨がレントゲン図の様に見え隠れする程。

 

水蜜「うわ、すっごい強力な結界。コレは触れないね」

和鬼「本当に噂通りだな。『その身を焦がす』って」

大鬼「ねーちょっと」

ぬえ「ぬえええええん! あんなの(おど)しの常套句(じょうとうく)でしょ!」

 

 まさかの噂通りに、頭をアフロにして泣きながら怒りをぶつけるイタズラ娘。と、そこに……、

 

 

キィィィィーー……

 

 

  『ぎゃーーーーッ!』

ぬえ「ぬええええッ! 私この音無理!」

水蜜「私もッ! 全身鳥肌だよ」

 

 それは疑い様もなく、金属を鋭利な何かでなぞる音。突如発生したこの不快な音に、耳に蓋をする一同。だが彼だけは、

 

和鬼「何か唸り声みたいなの聞こえなかったか?」

 

 この間にも別の音を耳にしていた。

 

大鬼「その前にさー」

ぬえ「は? なに? 何か言った?」

水蜜「カズくんが他の音を聞いたんだって」

和鬼「そう、唸り声みたいな」

 

 彼のその言葉を合図に、一同は沈黙し全神経を耳へ。

 だが暫く経っても静かなまま、物音一つしなかった。

 

大鬼「だからさー」

ぬえ「シッ!」

水蜜「気のせいだったんじゃないの?」

和鬼「そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。だから最後の確認」

 

 彼はそう告げると立ち上がり、近くの大きな岩壁の残骸を抱え、

 

和鬼「うりゃーッ!」

 

 扉へ向けて力一杯投げ飛ばした。

 

 

ドォーーーン……

 

 

 余韻を残しながら洞窟内部に反響する除夜の鐘に似た音で「ノックしてもしも〜〜〜し」。と、その時。

 

扉 「ガウガウガウガウガウガウ!!!」

  『うわーーーッ!』

大鬼「に、逃げろー!」

和鬼「ミナ行くぞッ!」

水蜜「きゃッ」

ぬえ「ぬええええん! 待って、置いていかないでー!」

 

 猛ダッシュで来た道を引き返す6本の足。暗闇の中を明かりも付けず、ただがむしゃらに、記憶だけを頼りに真っ直ぐと。やがて外へと通じる洞窟の出入口が少年達の視界に入って来た。

 

大鬼「出口だ!」

和鬼「はぁ、はぁ……。走ったらあっと言う間だったな」

水蜜「う、うん……」

 

 「ここまで来ればもう安心」と、スピードを緩めて歩き出す2人。そしていよいよゴール……

 

??「あなた達! ここで一体何をしているのですか!」

 

 だが侵入者を拒む金網の向こう側にいる者に、少年達の存在を見られてしまった。

 

??「様子がおかしいと思って来てみれば……。ここは立ち入り禁止のはずですよ!? 金網まで壊して……、中でいったい何をしていたのですか?!」

 

 無言で俯く少年達。「話さなければ知られる事はない」そう考えての事なのだろう。だが、この者にそれは無意味。なぜなら彼女は……、

 

??「そう……、見てしまったのですね。いったい何が目的なのですか?」

 

 覚り妖怪なのだから。

 

大鬼「ミツメ、何でここにいるの? あとアレ何? 何か知ってるの?」

 

 

ムギューーッ!

 

 

さと「なーんでアンタ達がここにいるのか()()()()()()()()ー? 質問を質問で返さないで()()()()()ー?」

 

 少年の(ほほ)(つね)り、引っ張る覚り妖怪。その強さはいつぞやの比では無い。表情にも一切の余裕が無く、あるのはただ純粋な怒りのみ。

 

大鬼「ひべべべべ(いでででで)

さと「私がここに来たのは、私の家からここが見えるからで、穴から粉塵が舞い上がっていたからよ!」

 

 そう、彼らが今いる場所は地霊殿を挟んで町の反対側。覚り妖怪の家からばっちり見えるのだ。

 

和鬼「さとりさん、すみませんでした。つい興味本位で……」

さと「興味本位? それで立ち入り禁止の場所に入ったって言うの? もう子供じゃないんだからしっかりしなさいよ!」

 

 ご(もっと)もな意見。幼少時代だったらまだしも、彼らは既に大人の仲間入りをしようという年齢。善悪の区別がつかないといけない年頃。痛いところをつかれ、

 

和鬼「はい……」

 

 しおれる。

 

さと「ボケッ子ぉー? ()()()()()ーッ?」

大鬼「は、はひッ」

水蜜「町長さん、私がいながら申し訳ありません」

さと「いえいえ、これはいつまで経ってもお子ちゃまの2人の責任です。ムラサさんが気にする必要はありません」

 

 「自分にも非がある」と語る船幽霊に笑顔で答える現・町の長。だが少々気になる事もある様で……。

 

さと「ところで、どうしてそんな所に? 足に怪我でもされたのですか?」

大鬼「うわっ、いつの間に!?」

水蜜「い、いやこれは……」

和鬼「えっと……」

 

 足の心配をしただけなのにも関わらず、目が右へ左へと泳ぎまくる2人。明らかに様子がおかしい2人に現・町長、頭に『?』を浮かべながらも、お得意の能力を……

 

さと「はぁーーーッ!? ふふふ2人ともななななに、なに、なにをーーッ!?」

 

 そして被曝。顔からは火が吹き出す程に熱くなり、脳内は2人の事でパンク状態。そんな覚り妖怪に事情を知らない少年、

 

大鬼「え? なに?」

 

 「どうしたの?」と気軽に尋ねるが、

 

さと「聞かないで!」

 

 一蹴される。

 

さと「と、とにかく! 本来なら厳しく罰するところですが、今回は初犯ですし、もう二度とここへは近づかないと約束するのであれば、黙認します。それとここで見たものは決して口外しない様に! これ以上追求しない様に! いいですね? 絶対守ってもらいますよ」

  『はい……』

さと「それともう一人、霧の件の真犯人さんがいないみたいですけど?」

  『あ、忘れてた……』

 

 置いてけぼりを食らったイタズラ娘の救出のため、特別に再び奥へと進む少年と覚り妖怪。最深部の少し手前あたりで、()けて身動きが取れなくなり、嗚咽(おえつ)混じりにヌエヌエと泣きじゃくるイタズラ娘を見つけたそうな。

 そして皆と別れ、いつもの場所へと戻った少年達。これまで明かした謎の数は6つ。

 

大鬼「残す謎はあと1つだな」

和鬼「え? あー……、そうだな」

大鬼「最後はどんなヤツ? また明日にでも探しに行く?」

 

 しかもその解き明かすスピードたるや、かなりのもの。ゴールまであと1歩となり、勢いに乗って張り切る少年だったが……

 

和鬼「なー、もうおしまいにしないか?」

大鬼「は? 今、なんて?」

和鬼「だから、七不思議を探しはもう終わりだって言ってんの」

大鬼「はーッ!? あと1個なんだぞ? ミツメに言われた事気にしてんの?」

和鬼「まー……それもあるっちゃあるんだけど……」

大鬼「じゃあナミか!? カズくんだもんな! 急に距離が近くなったもんな! 洞窟の入り口までお姫様ダッコだったもんな! イチャイチャしやがって!」

和鬼「な、ミナは関係ない!」

大鬼「はーッ!? ミナだぁー!? ナミじゃなくてぇ? もうそんな仲なの? 爆発しやがれ!」

和鬼「だから聞けって!」

大鬼「どうせ下らない事やるなら、ナミと一緒にいたいとかなんだろ?」

 

 その勢いを殺す彼。少年は「聞き間違いではないか?」と耳を疑い、確認するも一方的に調査終了を告げられる始末。それは完走手前、ゴールテープを切る直前でリタイアを告げる事と同意。少年はそんな中途半端な事が出来なかった。声を荒げ、鋭い視線を向けながら彼へと迫った。そして、

 

大鬼「じゃあいいよ、一人で探しに行くから。七不思議が書いてあるメモよこせよ!」

 

 「お前の協力はいらない」と告げると、彼の(ふところ)へと手を突っ込み、七不思議の詳細が書いてあるメモ用紙を奪い取った。

 

和鬼「あ、おい! 勝手に取るな!」

 

 「そうはさせない」と少年の手を掴む彼。さらに……

 

大鬼「離せよ! もう和鬼には必要か無いだろ!」

和鬼「そうなんだけど、渡さないッ!」

 

 少年の手からメモを奪い返し、すぐにクシャクシャにまるめ……

 

 

ゴクッ!

 

 

 口の中へと放り込み、そして飲み込んだ。

 

大鬼「はーッ!? 何してんの!?」

和鬼「へへ……コレで分からなくなったろ?」

大鬼「ガァーズゥーギィー!」

 

 少年の怒りは(たちま)ち頂点に。彼の頬へ一撃を放つと、立て続けに殴りかかった。それをゴングにまた始まる恒例行事。彼も反撃へ……のはずだった。

 

大鬼「なんで何もして来ないんだよ……」

 

 だが彼は一切手を出さずにただじっと、表情をゆがめながらも、少年の攻撃に耐え続けていた。これには少年も違和感を覚え、攻撃の手を止めると、

 

大鬼「クソッ!」

 

 捨て台詞を吐き、くるりと回れ右。家へと足を進めていった。

 少年が去った旧秘密基地のど真ん中。そこで顔に(あざ)を作り、大の字でボンヤリと地底の天上を眺める充血の鬼。今、彼の脳裏に蘇るのは初めてできた恋人の事……ではなく、喧嘩が絶えない犬猿の仲、腐れ縁、ムカつく幼馴染の事。

 

和鬼「言えるかよ……」

 

 地底七不思議、遠い昔から地底世界に伝わる噂の寄せ集め。だがその数、かつては六つまで。七つ目の不思議が生まれたのは、地底世界の歴史からすればつい最近の事。それは未だ答えが分からない小さくも、難解な謎。

 

和鬼「お前の事だなんて……」

 

 

【地底七不思議ー其の漆:人間の迷い子】

 


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