流れてきた方向は入り口とは真逆。そう、まさに……。
ぬえ「みんな待って!」
『なに?』
ぬえ「今
『だから?』
ぬえ「だーかーら! この壁から風が吹いたの! これがどういう事か分からない?」
イタズラ娘の言葉に首を傾げる3人。だが悩む時間はそう長くはなかった。
大鬼「和鬼!」
和鬼「よしきたッ!」
堂々と構える巨大な壁。相対するは、それよりも遥かに小さな
『せぇーのッ!!』
強烈な2つの拳。
ヒットと同時に上がる岩を砕く破壊音。そしてそれに重なる様に鳴る別の、明らかに異なる音。
ぬえ「やっぱり……、この裏に何かある!」
水蜜「
大鬼「は?」
和鬼「大鬼下がれ!」
キョトンとする少年の服を掴み、「危険だ」と引き寄せる彼。その後すぐに岩壁へ大きな錨を模った光弾が飛んで行き、大きな爆発音と大量の砂埃を上げた。
ぬえ「ケホッ、ケホッ。少しは手加減しなよ」
大鬼「グェホッ、グェホッ」
和鬼「いつつつ、目に入った」
水蜜「え!? ごめん、大丈夫?」
捲き上る噴煙。洞窟の天井まで達していたそれは、徐々に下へ下へと降り注ぎ、やがて……。
ぬえ「ん〜……?」
目を細め、結果の確認を急ぐイタズラ娘。その瞳に映し出されたのは、
ぬえ「ねっ、ねー。ア、アレ……」
水蜜「ヘッ!?」
和鬼「ま、マジかよ……」
大鬼「えっと……」
青銅色の壁。その材質は自然に出来た物でない事は明らか。間違いなく何かがある証拠。そこからさらに岩壁へ攻撃を続け、いよいよその全貌が……。
ぬえ「と、扉だ」
水蜜「本当にあった」
和鬼「でけぇー……。扉に何かペタペタ貼り付けてあるな」
大鬼「あのさー」
ぬえ「それ多分お札だと思う」
水蜜「へー、そこまでするって事は、中にはかなりヤバイモノか、お宝があるって事じゃない?」
和鬼「なにっ!? お宝!?」
大鬼「今さー」
ぬえ「ぬえっえっえ、じゃあちょいとお先に失礼するよ」
「お宝があるかもしれない」そう聞き、目の色を変えるイタズラ娘と彼。そして我先にと、
ぬえ「ヌババババババババ」
イタズラ娘の全身を強烈な電流が走った。その威力、彼女の骨がレントゲン図の様に見え隠れする程。
水蜜「うわ、すっごい強力な結界。コレは触れないね」
和鬼「本当に噂通りだな。『その身を焦がす』って」
大鬼「ねーちょっと」
ぬえ「ぬえええええん! あんなの
まさかの噂通りに、頭をアフロにして泣きながら怒りをぶつけるイタズラ娘。と、そこに……、
キィィィィーー……
『ぎゃーーーーッ!』
ぬえ「ぬええええッ! 私この音無理!」
水蜜「私もッ! 全身鳥肌だよ」
それは疑い様もなく、金属を鋭利な何かでなぞる音。突如発生したこの不快な音に、耳に蓋をする一同。だが彼だけは、
和鬼「何か唸り声みたいなの聞こえなかったか?」
この間にも別の音を耳にしていた。
大鬼「その前にさー」
ぬえ「は? なに? 何か言った?」
水蜜「カズくんが他の音を聞いたんだって」
和鬼「そう、唸り声みたいな」
彼のその言葉を合図に、一同は沈黙し全神経を耳へ。
だが暫く経っても静かなまま、物音一つしなかった。
大鬼「だからさー」
ぬえ「シッ!」
水蜜「気のせいだったんじゃないの?」
和鬼「そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。だから最後の確認」
彼はそう告げると立ち上がり、近くの大きな岩壁の残骸を抱え、
和鬼「うりゃーッ!」
扉へ向けて力一杯投げ飛ばした。
ドォーーーン……
余韻を残しながら洞窟内部に反響する除夜の鐘に似た音で「ノックしてもしも〜〜〜し」。と、その時。
扉 「ガウガウガウガウガウガウ!!!」
『うわーーーッ!』
大鬼「に、逃げろー!」
和鬼「ミナ行くぞッ!」
水蜜「きゃッ」
ぬえ「ぬええええん! 待って、置いていかないでー!」
猛ダッシュで来た道を引き返す6本の足。暗闇の中を明かりも付けず、ただがむしゃらに、記憶だけを頼りに真っ直ぐと。やがて外へと通じる洞窟の出入口が少年達の視界に入って来た。
大鬼「出口だ!」
和鬼「はぁ、はぁ……。走ったらあっと言う間だったな」
水蜜「う、うん……」
「ここまで来ればもう安心」と、スピードを緩めて歩き出す2人。そしていよいよゴール……
??「あなた達! ここで一体何をしているのですか!」
だが侵入者を拒む金網の向こう側にいる者に、少年達の存在を見られてしまった。
??「様子がおかしいと思って来てみれば……。ここは立ち入り禁止のはずですよ!? 金網まで壊して……、中でいったい何をしていたのですか?!」
無言で俯く少年達。「話さなければ知られる事はない」そう考えての事なのだろう。だが、この者にそれは無意味。なぜなら彼女は……、
??「そう……、見てしまったのですね。いったい何が目的なのですか?」
覚り妖怪なのだから。
大鬼「ミツメ、何でここにいるの? あとアレ何? 何か知ってるの?」
ムギューーッ!
さと「なーんでアンタ達がここにいるのか
少年の
大鬼「
さと「私がここに来たのは、私の家からここが見えるからで、穴から粉塵が舞い上がっていたからよ!」
そう、彼らが今いる場所は地霊殿を挟んで町の反対側。覚り妖怪の家からばっちり見えるのだ。
和鬼「さとりさん、すみませんでした。つい興味本位で……」
さと「興味本位? それで立ち入り禁止の場所に入ったって言うの? もう子供じゃないんだからしっかりしなさいよ!」
ご
和鬼「はい……」
しおれる。
さと「ボケッ子ぉー?
大鬼「は、はひッ」
水蜜「町長さん、私がいながら申し訳ありません」
さと「いえいえ、これはいつまで経ってもお子ちゃまの2人の責任です。ムラサさんが気にする必要はありません」
「自分にも非がある」と語る船幽霊に笑顔で答える現・町の長。だが少々気になる事もある様で……。
さと「ところで、どうしてそんな所に? 足に怪我でもされたのですか?」
大鬼「うわっ、いつの間に!?」
水蜜「い、いやこれは……」
和鬼「えっと……」
足の心配をしただけなのにも関わらず、目が右へ左へと泳ぎまくる2人。明らかに様子がおかしい2人に現・町長、頭に『?』を浮かべながらも、お得意の能力を……
さと「はぁーーーッ!? ふふふ2人ともななななに、なに、なにをーーッ!?」
そして被曝。顔からは火が吹き出す程に熱くなり、脳内は2人の事でパンク状態。そんな覚り妖怪に事情を知らない少年、
大鬼「え? なに?」
「どうしたの?」と気軽に尋ねるが、
さと「聞かないで!」
一蹴される。
さと「と、とにかく! 本来なら厳しく罰するところですが、今回は初犯ですし、もう二度とここへは近づかないと約束するのであれば、黙認します。それとここで見たものは決して口外しない様に! これ以上追求しない様に! いいですね? 絶対守ってもらいますよ」
『はい……』
さと「それともう一人、霧の件の真犯人さんがいないみたいですけど?」
『あ、忘れてた……』
置いてけぼりを食らったイタズラ娘の救出のため、特別に再び奥へと進む少年と覚り妖怪。最深部の少し手前あたりで、
そして皆と別れ、いつもの場所へと戻った少年達。これまで明かした謎の数は6つ。
大鬼「残す謎はあと1つだな」
和鬼「え? あー……、そうだな」
大鬼「最後はどんなヤツ? また明日にでも探しに行く?」
しかもその解き明かすスピードたるや、かなりのもの。ゴールまであと1歩となり、勢いに乗って張り切る少年だったが……
和鬼「なー、もうおしまいにしないか?」
大鬼「は? 今、なんて?」
和鬼「だから、七不思議を探しはもう終わりだって言ってんの」
大鬼「はーッ!? あと1個なんだぞ? ミツメに言われた事気にしてんの?」
和鬼「まー……それもあるっちゃあるんだけど……」
大鬼「じゃあナミか!? カズくんだもんな! 急に距離が近くなったもんな! 洞窟の入り口までお姫様ダッコだったもんな! イチャイチャしやがって!」
和鬼「な、ミナは関係ない!」
大鬼「はーッ!? ミナだぁー!? ナミじゃなくてぇ? もうそんな仲なの? 爆発しやがれ!」
和鬼「だから聞けって!」
大鬼「どうせ下らない事やるなら、ナミと一緒にいたいとかなんだろ?」
その勢いを殺す彼。少年は「聞き間違いではないか?」と耳を疑い、確認するも一方的に調査終了を告げられる始末。それは完走手前、ゴールテープを切る直前でリタイアを告げる事と同意。少年はそんな中途半端な事が出来なかった。声を荒げ、鋭い視線を向けながら彼へと迫った。そして、
大鬼「じゃあいいよ、一人で探しに行くから。七不思議が書いてあるメモよこせよ!」
「お前の協力はいらない」と告げると、彼の
和鬼「あ、おい! 勝手に取るな!」
「そうはさせない」と少年の手を掴む彼。さらに……
大鬼「離せよ! もう和鬼には必要か無いだろ!」
和鬼「そうなんだけど、渡さないッ!」
少年の手からメモを奪い返し、すぐにクシャクシャにまるめ……
ゴクッ!
口の中へと放り込み、そして飲み込んだ。
大鬼「はーッ!? 何してんの!?」
和鬼「へへ……コレで分からなくなったろ?」
大鬼「ガァーズゥーギィー!」
少年の怒りは
大鬼「なんで何もして来ないんだよ……」
だが彼は一切手を出さずにただじっと、表情をゆがめながらも、少年の攻撃に耐え続けていた。これには少年も違和感を覚え、攻撃の手を止めると、
大鬼「クソッ!」
捨て台詞を吐き、くるりと回れ右。家へと足を進めていった。
少年が去った旧秘密基地のど真ん中。そこで顔に
和鬼「言えるかよ……」
地底七不思議、遠い昔から地底世界に伝わる噂の寄せ集め。だがその数、かつては六つまで。七つ目の不思議が生まれたのは、地底世界の歴史からすればつい最近の事。それは未だ答えが分からない小さくも、難解な謎。
和鬼「お前の事だなんて……」
【地底七不思議ー其の漆:人間の迷い子】