いきなり現れ、舟に飛び乗って来た乗客。舟は既に定員に達していたが、既に陸から離れて「戻るのも面倒」という船長の独断により、乗客に少しずつ席を詰めてさせ、一人分の席を作った。その後舟は定員+1名の状態ではあったが、いつもの通りの航路を進み、無事目的地へと到着したのだった。
小町「はいはーい、ゆっくり降りてね。順番にね」
順番に導かれ、次々と舟を降りていく乗客達。陸に降りるなり、足下へ視線を落として項垂れながら先へ進む者がいれば、来た方角を懐かしむ様に見つめる者、その場で泣き崩れる者も。そんな中、
??「で、こまっちゃーんDo? 嫁、Do?」
ただコイツだけは……。
小町「あはは、随分と元気だね。あんたみたいなのはあまり見ないよ。名は? 最近こっちに来たばかりかい?」
長年この仕事をしている彼女にとって、彼の様な者は極めて
??「俺の名前は海斗だぜ! これからも末永くよろしく!」
だが彼女の目の前のこの乗客だけは、未来を見ていた。
小町「あははは、これからもよろしくって。海斗だっけ? まだ死んだ自覚がないんだろ?」
海斗「え? 俺やっぱ死んだの?」
小町「やっぱりね、そうだよここは
海斗「そんな……」
死神からの余命宣告を通り越した死後報告に、下を向き始める魂。ようやく自分が置かれた状況を理解し、大層悲しんでいるのかと思いきや、
海斗「是非曲直庁という事は……『えーきっき』だ!」
コレである。
小町「なんだいそれ? 四季様の事かい?」
海斗「そうだよ、生で見られるなんて超光栄! ヤバッ!」
小町「見た事なかったのかい? たまに人里に行ってるのに?」
彼女のこの質問に彼、「自分が外来人である」と答えていいものなのかと悩み出す。その結果、
海斗「そうなんだけど、いっつもタイミングが合わなくてさ」
面倒という理由で止めた。
小町「そうかい、でも覚悟しておいた方がいいよ。噂通りの説教好きだから」
海斗「ノープロブレム! 寧ろウェルカム! えーきっきの説教だけで飯食える!」
閻魔様の説教の常連の心配を他所に、ドヤッとサムズアップで答えるお調子者。それが常連のツボに入った様で、
小町「あっはっはっは!」
腹を抱えて大爆笑。
小町「本当に面白いね。そんな事をしたら四季様は大激怒するだろうけどね」
死神にすっかり気に入られたお調子者。となれば、彼はこの期を逃さない。
海斗「で、こまっちゃんDo? 嫁にならない?」
ここまでずっと答えをもらっていなかったがた故。何かしら答えるまで彼は……しつこい。
小町「あー、その事? 残念だけどお断り」
タメ無しで軽やかに即答。それはあたかも「当たり前だろ?」と言わんばかりに。
海斗「な、なして……?」
小町「だって死んでるじゃないか。それに四季様の判決が下れば、地獄か霊界に行く事になるのに、嫁になれって……。くくくくッ」
が、これはこれで気に入ったご様子。
海斗「俺は遠距離恋愛からでもいいぜ?」
小町「あっははは、今度はそうきたかい」
諦めの悪い彼、だがそれでさえも「面白い」と笑い続ける死神だったが、笑い終えた途端にその表情が変わった。
小町「どんなに迫られても、私の答えは変わらないよ。例え海斗が生きていたとしてもね。私は理想とする相手のハードルが高いんだ。それも見た目じゃなくてね。確かに海斗の外見はいいと思うよ、それは認める。でもこういう仕事をしているとね、そんな物よりも、魂や心意気の方が大切だって思える様になるんだよ。外見は死ねば無くなるけど、魂の色と強さは死んでも変わらないからね」
それはこれまで外見を売りにしてきた彼を真っ向から全否定するもの。そして彼にとっては新たな価値観でもあった。
海斗「うーむ、なるほどなるほど」
腕を組んで顎を擦りながら頷き、感心の唸り声を上げるお調子者。その急変した態度に……
小町「四季様の影響かな? なんか説教っぽくなっちゃったね」
海斗「いや、貴重な意見だよ。で? こまっちゃんの御眼鏡に適う人は今いるの?」
小町「あっはっはっは、そこまで聞いてくるかい。そうだねぇー……人ではないけれど、いるかなー?」
そう衝撃的事実を打ち明ける彼女の表情は、どこか幸せそうでもあり、照れ臭そうでもあった。そんな表情を目の当たりにすれば、誰もが気付く。
海斗「なにッ!? こまっちゃん彼氏いたの?!」
彼、予期せぬ事態に目玉が飛び出る程までに目を丸くし、柄にも無く驚く。
小町「彼氏ねー……。うーん、どうなんだろうね」
海斗「え? 違うの?」
小町「さあね、これ以上は話せないね。それよりもここまでの金額を払いな」
海斗「なにそれ?」
小町「三途の川から彼岸までの渡し賃だよ。まさかとは思うけど、無一文かい?」
彼、体中のポケットというポケットに手を入れて探してはみるものの、
海斗「そのまさか」
そんな物は持ち合わせているはずがない。
小町「えー、参ったねこりゃ。仕方ないね、四季様にこの事を伝えておかないと。海斗、付いて来な」
念願の最高裁判長に会えるとなり、上機嫌に鼻歌を歌いながら死神の後を付いていくお調子者。
やがて彼の目にその目的地の建物が映し出された。是非曲直庁である。入り口には現世での役目を終えた者達が列を成し、案内人の指示で順に中へと入って行く。死神の彼女は入り口で案内をしている同僚に二言ばかりの挨拶と事情を説明すると、テンション上げ上げ状態の魂を引きつれ、奥で業務中の上司の下へと足を運んでいった。
--是非曲直庁内部--
??「ジャッジメントですの!」
袖を引き決めポーズ。
??「罪状:器物破損、暴行、傷害、窃盗……」ブツブツ
そこから呪文のように唱えられるその者が犯した罪の数々。そして、下される……
??「地獄ッ!」
判定。と共に叩きつけるように力強く書面に押される判子。それは受理された証。もう
??「その者は地獄行きです。案内してください」
そして閻魔の指示に動く2つの影。
??「来いッ!」
??「はぁ~い。地獄行きの方はこちらの舟に乗ってくださ~い」
地獄への案内人である。
魂 「やめろ……離せぇッ! 地獄になんて行きたくない!」
映姫「見苦しい。生前自分がした事を考えれば当然の報いです! しっかりと反省してきなさい!」
魂 「い、いやだーーー!」
叫び、必死に抵抗をする悪の魂。と、そこに……
コンコン
ノック音。「まだ呼んでもいないのに誰だ?」と首を傾げる閻魔だったが、それが何者の仕業であるかは大方察しが付いていたようで……。
映姫「小町ですか?」
??「はい、今お時間いいですか?」
映姫「今じゃないとダメですか?」
??「できれば……」
映姫「では、少し騒がしくてもよければどうぞ」
閻魔の了承と共に開かれる正面の扉。やがて姿を見せたのは予告通りの彼女部下と、
海斗「えーきっきーッ!!」
その背後から全速力で彼女の下へと向かう無礼極まりない魂。で、
海斗「超会いたかった! 嫁にならない?」
通常運転。
映姫「はぁーーーッ!? ぶぶぶ無礼です、無礼千万です! わわわ私を誰だと思って……」
海斗「四季映姫・ヤマザナドゥ。二つ名は地獄の最高裁判長。能力は『白黒はっきりつける程度の能力』。元はお地蔵様で……」
ツラツラと語られるウンチクの数々。それは赤裸々になっていく彼女の個人情報。その中には彼女の部下でさえも知らぬ、プライベートなことさえも。彼女の顔はたちどころに真っ赤に染め上がった。
映姫「黙りなさいッ! それ以上話したら問答無用で地獄行きですよ!」
海斗「おっと、いけないいけない。ごめんごめん。つい嬉しくてやっちまったぜ」
映姫「嬉しい? 小町、この者は何なのですか? 説明希望です」
突然現れたこの奇妙な魂に
映姫「小町ィ! 笑うなーッ! 」
怒り爆発。
小町「へ? あ、すみません。何者かと聞かれると私も困るんですけど、どうやらつい最近死んだばかりのようでして、元気が有り余っているんですよ。私もさっき求婚されました」
映姫「はぁーーーッ!? あなた私の部下にまで手をッ!?
海斗「いや、こまっちゃんとえーきっきの大ファンなもんで」
「大ファン」面と向かって初めて言われたこの言葉に閻魔、
映姫「そ、そうですか」
悪い気もしていなかった。いや、寧ろ気分はアイドル。気分よくした閻魔だったが、
海斗「!」
その彼女を他所にお調子者、また何かを発見していた。そしてこれまた己の欲望に素直に従い……
『!?』
いきなり超スピードで近付かれ、顔が引きつる地獄の案内人達。そう、彼は彼女達の事を知っていた。球体から上半身のみを出現させている者と、刀を腰に差した額に角のある者。
海斗「キクリとコンガラ!」
まさかの出会いにヲタクのエンジンはフルスロットル。その所為で、
キク「あれ~? どこかでお会いしましたっけ~?」
コン「それは無いだろう。出会った事がある魂は皆地獄。それきりだ。きっと私達の働きが地上でも噂になっているという事だろう」
キク「じゃあ私達有名人?」
コン「そういう事になるな」
キク「きゃ~、サイン求められたらどうしよ~。練習しとこ~」
コン「うんうん、私もたまには地上に足を運んで民に答えるとしよう」
2名様勘違い。地上へ降り立った時の期待が膨らみ、その時の状況を妄想する中、事の発端となったヲタクは……、
海斗「やべー! 新旧夢のコラボじゃん! チキン肌半端ねぇー! あ、死んでるからそんなの無いか」
興奮は止まらない。
映姫「小町……、再度質問です。結局アレは何?」
小町「実は、一文無しなのに急に舟に飛び乗って来たんです」
映姫「はいーッ!? ここに来てまで罪を重ねたのですか!? 前代未聞です!」
小町「あ、でも悪気はなかったみたいでして……」
映姫「まったく……。ではさっさと地獄行きにして
小町「え? 無銭乗船だけで地獄行きですか?」
映姫「ああいう者は生前も、ろくでもない生き方をしていたに違いありません! 九分九厘間違いないです」
彼女はそう言い切ると、ヲタクを呼び寄せ……
小町「ジャッジメントですの!」
海斗「ブフォッ」
これにはヲタク再び興奮。だが彼女は既に仕事モード、そんな事にはお構いなし。すぐさま判決へ。
小町「海斗、あなたの行き先は、地獄ッ!」
ヲタクの判決は地獄行き。彼女は地獄と書かれた判子に手を伸ばし、書類へと全ストレスを叩きつけた。
ダンッ!
部屋中に木霊する印を押す音。全てが完了した瞬間だった。やがて判は書類からゆっくりと剥がされ、そこに残るのは……
映姫「え?」
何もなかった。書類は真っ白、驚きの白さを保っていた。何が起きたのか理解できない彼女、自身の目を疑うも「朱肉を付け忘れたのだろう」と判子に朱肉を付け始めた。それも念入りに。そして再び印を押すが、
映姫「え、えー!?」
やはり何の後も残らず。
小町「どうかされました?」
映姫「印が押せない……」
キク「判子が壊れたんですか~?」
コン「試しにこの紙でやってみては?」
地獄の案内人から手渡されたのは、何も書かれていないただの和紙。閻魔、そこに判を押してみる。そこにはくっきりと濃い色で【地獄】という文字が。問題は無いという証。
ならばと再び彼の書類へと判を押す。
『ん~?』
一同、同時に首を傾げる。
小町「なんで?」
キク「不思議~」
コン「ただの判子と紙で出来た書類なのに」
物珍しそうに書類と判子を交互に見つめる3人。
海斗「こまっちゃーん、どうかしたの?」
だが一方で彼女だけは……。
映姫「これなら……」
そう呟く彼女の手には、使った痕跡がほぼ無い新品同様の別の判子が。彼女はそれに惜しげもなく朱肉をベッタリと付けると、恐る恐る彼の書類へと判を下ろした――――
小町「この方向に真っ直ぐ行けば、例の場所だと思うよ」
海斗「サンキュー、こまっちゃんまたねー」
笑顔で立ち去るお調子者を見送る死神。通常の業務時間は当に過ぎ、久しぶりの残業に愛用の鎌を両手で高々と持ち上げて大きく伸び。そこからくるりと回して肩へ担ぎ、目測開始。
小町「さってと、飲みに行こうかねぇ。でも、たまには一人じゃなくて……」
そう呟いた彼女の鎌の先端は、地底の入り口へと向けられていた。
--その頃--
一人部屋でボンヤリと天井を見つめ、騒ぎを起こした彼を思い起こしていた。
映姫「……一応、報告しておきますか」
ポツリと呟き、部屋を出て行く彼女。彼女の席には手鏡と印の押された書類が一枚、無造作に置かれていた。その書類に押された印は……。
嫁捕獲作戦_五人目:四季映姫・ヤマザナドゥ【保留】
今年最後の投稿になります。
この時間帯は「笑ってはいけない」or「紅白」でしょうか?
皆様良いお年を。
そして来年もよろしくお願いします。
【次回:十年後:鬼の祭_前夜祭】