Ep.1 鬼の子 の最終話です。
ここまで読んで頂き本当に
ありがとうございます。
第1話「星熊勇儀」での答えです。
>Q.赤、青、黄、黒、白の札は
> それぞれいくらの設定でしょう?
赤:100
青:500
黄:1000
黒:10000
白:100000
あの騒動から一夜明け。仲間達の活躍もあり、町は大きな被害を受けずに済んだそう。建設中の屋敷もガラスが割れただけで、今のところ柱や壁などには、亀裂や損傷といったものは見つかっていないらしい。それだけは不幸中の幸いだ。
でもダイキは……。母さんが去った後、急いで私の血液を輸血し、なんとか一命を取り留めた。けど……。
ダイ「ぅー……。ぁ、ぁっぃ……」
消えてしまいそうな程弱々しく、
爺さんが言うには「人間の血に鬼の血が侵入したことが原因」との事。「助かるにはダイキ自身が鬼の血を克服するしかない」とも言っていた。
その爺さんは「知り合いの薬師の所へ相談に行って来る」と言い、友人を引き連れて出かけている。今ここにいるのは私とダイキのみ。私にできるのは……。
勇儀「頑張れ。ダイキ、頑張れ! 負けるな、鬼の血に負けるな! 私の血なんかに負けるな!」
この小さな手を握りながら応援し続ける事だけ。
ダイ「ママ……。苦しいよ。ママ……どこなの?」
勇儀「ダイキ、私はここにいるぞ! だから頑張れ! 気をしっかりと持て! 負けるんじゃない!」
ダイ「ママ……どこ? ママ……」
私じゃない。
勇儀「ダイキ……ユーネェはここにいるぞ……」
意識が
医者「勇儀、待たせたの。この薬を飲めば一時的にじゃが、症状が和らぐそうじゃ。ダイキ。飲めるか?」
爺さんは慌てた様子で部屋に入ってくるなり、ダイキを抱え起こすと、手にした小瓶の中身を飲ませ始めた。抱えられたダイキの両腕は垂れ下がり、首にも力が入っていない状態だったが、口に入るそれを少しずつ、ゆっくりと飲んでいた。
薬を飲み終えた頃、顔は先程とは打って変わって血色のいいものになった。その様子に2人で同時に安堵のため息。そして爺さんは、ダイキを眺めながら語り出した。
医者「これでしばらくは大丈夫じゃろ。こやつはワシが見ておる。勇儀、行ってこい。萃香は先に行っておる」
勇儀「……わかった。あとを頼む」
診療所に背を向け、町の中心部へと意を決して歩を進める。一歩、また一歩と踏み込む度に近づいて来るその時。
これから大勢の者達が集まる中、私と萃香の罪状と処分が言い渡される事になっている。そして恐らくダイキの事も……。
町に近づくにつれ、その全貌が露になってくる特設の
町中の者達は既に集まっている様で、その処刑台の正面を囲う様にして群がっていた。そこには当然、職場の連中と見知った顔も。私は人混みの中その者達にも目を合わせず、真っ直ぐに前だけを見つめ、己の処刑台へと更に足を運んだ。
処刑台の下。民衆に囲まれポッカリと空いた場所。そこでは友人が皆に背を向けて正座で座っていた。私もその隣に同じ様に座りながら尋ねた。
勇儀「後悔してるかい?」
萃香「全然」
勇儀「私もだ」
罪を犯したというのに心が軽い。それは友人も同じだろう。
??「昨日の地震で大変な思いをしている中、集まってもらって感謝しています」
棟梁「今日集まってもらったのは、そこにいる両名の罪状と処分、そして
やっぱり……、今日この場でダイキの事まで……。
棟梁「まず伊吹萃香。罪状、同族への脅迫行為」
背後から「まさか」「なぜ」といった驚きの声が聞こえて来る。民衆がざわつく中、いよいよ
棟梁「次に星熊勇儀。罪状……」
私の番。
友人は診療所の爺さんを脅迫した罪。私は助けるためとは言え、ダイキに血を提供した。それは「この世界としても重罪」だと言っていた。友人よりも重い罰が言い渡されるのは目に見えている。良くてこの町からの追放。そうでなければ………死罪だろう。
でも、後悔はしていない。今は苦しんでいるが、ダイキはまだ生きている。どんな罪状だろうと、処分だろうと快く受け入れよう。
棟梁「同族への脅迫、及びその主犯。以上です」
『え?』
どういう…………こと?
棟梁「続いて両名への処分を言い渡します。今後20年間、以下の行為を禁止する。一つ。賭博行為、賭博場への出入り。一つ。金銭的な貸し借り。そして、今後20年間の祭り当番。これは被害者の方から『気にしていない。穏便に』という申し出を踏まえた上での処分です」
そんな……
棟梁「両名には各々もう一つ処分があります。でもその前に、人間の子供……ダイキについて、現段階で分かっていることを報告します。単刀直入に言います。ダイキはこの世界の人間ではありません。更に本当の親の情報が掴めていない上、なぜこの世界に突然現れ、どうやってこの町まで辿り着いたのか、その点も未だに分かっていません。外の世界の人間がこの世界に来るには、博麗の巫女か幻想郷の創設者の一人、
ダイキ、お前さんはいったい……。
棟梁「あらゆる手を尽くしました。しかし、残念ながら彼が外来人であるという事以外は、何も分かっていません。ダイキはこの世界に突然現れた身元不明で、謎の多い人間の子供です。そんなダイキの今後について、昨日協議した結果……」
お願い……お願い、お願いっ!
棟梁「皆に判断を委ねる事にしました。皆の者に問います。あなた達にとってダイキは何ですか!?」
??「弟分です!」
この声……鬼助?
??「友達です!」
??「友達……かな? フッフッフッ……」
ヤマメにキスメ……。
??「妬ましいけど、ほっとけない子です」
パルスィ、ありがとう。
??「いつも蕎麦が美味いって言ってくれます!」
上司「現場を、明るくしてくれました!」
鬼一「一緒に飯も食べました!」
鬼二「勇者です!」
鬼三「かわいいヤツなんです!」
鬼四「ダイキは仲間です!」
鬼五「仲間です!」
鬼六「仲間です!」
ダイキ、お前さんはこんなにも皆に…。
棟梁「今一度問います。あなた達にとってダイキは何ですか!?」
『仲間ですっ!!』
棟梁「この判決に異論がある者はいませんか?」
棟梁「異論はありませんね……。満場一致! 今この時をもって、人間の子供ダイキを町の一員として迎え入れる事にします!」
みんな、みんな、みんな……、本当に、本当にありがとう!
棟梁「静粛にっ! 伊吹萃香、星熊勇儀。それぞれに最後の処分を言い渡します。伊吹萃香。今後もダイキの良き友である事」
……母さん?
棟梁「星熊勇儀。本当の親が見つかるまで、全身全霊で責任を持ってダイキを育てる事。尚、主犯である勇儀には私直々の監視の下、ダイキと共に生活してもらいます」
母さん、感謝しても仕切れないよ……。こんなバカ娘に……。ここまでしてくれて……。ありがとう。
棟梁「以上です」
『うおーーーーーっ!!』
私と友人はお互いの顔を隠す様にして抱き合った。そして町中に木霊する歓喜の雄叫びは、私達が上げるらしくない叫び声を
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
医者「よう、良かったな。皆に感謝じゃな」
診療所に戻ると、爺さんが笑顔で私と友人を出迎えてくれた。
勇儀「爺さんありがとう。何て礼を言ったら…」
医者「ええんじゃよ。萃香も勇儀も悪い事はしておらん。『仲間を見捨てない、裏切らない』じゃろ?」
勇儀「爺さん、もしかして……」
医者「カッカッカ。だてに歳は食っておらんよ。それより勇儀、ダイキの容体の事じゃが、今は薬で落ち着いておるが、かなり厳しい」
勇儀「そんな……」
医者「もらった薬はあくまで一時的な物。あと何個かは貰ってはおるが、完治させるには別の薬がいる。この薬を作った薬師
勇儀「どれくらい必要なんだ?」
医者「七十万と言うておった。お主らいくらある?」
勇儀「二十万あるか、ないか……」
萃香「私も……」
医者「薬の仕上がり時期から考えても、今日中が限界じゃ、どうにかしないと……。ワシが貸してもいいのじゃが……」
勇儀「それが出来ないんだ……」
ジャラ……
ぼんやりと眺める手首。そこにはここを出る時には無かった物が。
これは罪人である私達に、あの場で母さんが直々に付けた『
そんな物を私達に付ける母さんも心苦しかったはず、ごめんね…。
勇儀「給料の前借りも恐らくダメだろうね」
萃香「なにか……、なにか手はないの!? このままじゃダイキ……。ねぇ勇儀、隠し財産とかないの? お嬢様でしょ?」
勇儀「そんなものなんて……」
そこまで言い掛けた時、私の脳裏に蘇るあの夜の出来事。それはダイキと初めて出会った日に起きた奇跡。
勇儀「ある!」
萃香「本当!?」
勇儀「爺さん! 賭博場の店長に……」
私は友人と爺さんにその事を話した。すると事情を把握するなり、友人と爺さんは大急ぎで診療所を飛び出し、再び私と布団で眠るダイキだけがここに残った。
薬が効いているのだろう。安定した息遣いで眠っている。それでも時折辛そうな表情を浮かべている。ダイキを助けるにはもう一つの薬がいる。そのためには……。
勇儀「なぁ、ダイキ、お前さんなら……」
ダイキに顔を近づけ、頭を撫でながら話し掛けた。
ダイ「ユー……ネェ?」
勇儀「ダイキ!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつになく静かな旧地獄。私は診療所の前で腕を組んで2人の帰りを待っている。
ほんの数日。私にすれば
暫くすると2人が賭博場の店長と店の者を数人連れて戻って来た。
勇儀「店長、実は……」
店長「話は聞いている。金は持って来ている。だが、おいそれと渡すわけにはいかない」
店長のこの言葉に私は「やっぱり」と素直に思った。そう、私はあの日……。
店長「勇儀ちゃん。あの時ワシとの勝負を受けただろ? その瞬間から勝ち分は掛け金になったんだ。だから、金が欲しければ……」
そこまで語ると店長は懐から2つの
店長「ワシを超えていけ!」
そう叫びながら店長は賽をツボの中に入れてひっくり返し、足元へと叩きつけた。
店長「勇儀ちゃん! どっちだ!?」
勇儀「私は選べないよ。ダメなんだ。だからさっきみんなが来る前に、ダイキにどっちがいいか聞いたんだ。そうしたらダイキ、弱々しい声だったけど、答えてくれたよ」
出る賽の目の確立は五分と五分。
勇儀「半だ! ダイキは半を選んだ!」
これでいいんだろ? 正真正銘、これがお前さんの運命の分かれ道だよ。
店長「いいんだな? ならワシは丁だ。コマが揃いました。いざ! 勝負!」
バンッ!
??「勇儀、大変だよ! ダイキが、ダイキが……!」
勢い良く開かれる扉の音。そして背後からの私を急かす声。振り向くとそこには血相を変えたヤマメが。
勇儀「え……? ダイキがどうかしたかのかッ!?」
ヤマ「落ち着いて、聞いてよ……」
手に汗を握り、固唾を呑んで続きを待っていた。
ヤマ「またあの鬼の子供と喧嘩したんだよ」
勇儀「は〜ッ!? またかよ……。ダイキ! そこにいるんだろ!? 出て来い!」
私の声と共に姿を現したのは、いつも私に付きまとう嫉妬姫。そして……。
??「ちょ、パルパル! 離せ! 離せって!!」
彼女に首根っこを掴まれ、宙ぶらりんで暴れながら登場したのは、あの時瀕死だった人間の小僧。ダイキは私と目が合うなり、
ダイ「……ふんっ!」
目を横に逸らし、膨れっ面になった。
勇儀「あのなぁ、お前さんここ最近毎日だぞ? で、今日の喧嘩の原因は何なんだ?」
ダイ「……って」
勇儀「は?」
ダイ「けん玉が下手くそだって……」
勇儀「はー……、なんか叱る気も失せるよ」
パル「私とヤマメが気付いた時は殴り合いが始まってた。止めてなかったら、今頃ダイキ……」
勇儀「あのなぁダイキ。もう自分の力が他の奴等と違うって分かるだろ?」
ダイ「だって……、ムカつくんだもん」
ポカっ。
ダイ「イタッ!」
勇儀「喧嘩両成敗!あとで仲直りしに行くからな! で? ダイキ、ちゃんと勝ったんだろうな?」
ダイ「もちろん!」
パル「馬乗りで滅多打ちにしかけてたから……」
勇儀「でかした! 良くやった!」
ヤマ「はー……、保護者がこれだから……」
ダイキと出会ったあの夜から今日で一年が経つ。
ダイキはまだ通院中ではあるが、元気いっぱいだ。少し自重して欲しい程に。今は実家の離れで私と2人で暮らしている。本当の親は友人が今も外の世界へと行き、探してくれているがまだ何の手掛かりもない。けど、どんなに時間が掛かろうと必ず見つけてみせる。
そして今日、世話になった皆を呼んで、祝いをする事になっている。
--小僧宴会中--
親方「ガッハハハハ、ダイキも大分強くなったな」
鬼助「男には小さな理由だろうと、引けない時がある!」
ダイ「キスケもじぃじもそう思う!?」
棟梁「あなた達ね……。ダイキ、町での争いは時として処罰の対象になります。今はまだ幼いから大目に見ていますが、今後もこの様だと困ります。もっと自分を……ん?」
ギュ〜ッ!
ダイ「ばぁば、大好き」
ズキューーーーーン!
ヤマ「勇儀、ダイキ君の育て方なんだけど……。考え直した方がいいんじゃ……」
パル「ああいう事、平気でするとか妬ましいわ」
キス「フッフッフッ……。ネタは尽きなさそうだ」
萃香「でもダイキすごく優しいんだよ。この前も……」
勇儀「そりゃ萃香にはそうだろうよ。それより、そろそろ発表するぞ?」
萃香「うん、お願い」
勇儀「みんな! 聞いてくれ! この町にダイキが来て丁度一年が経った。あの日泣いていた小僧が、今では町の皆に受け入れられ、私達の仲間となった。少し生意気にもなったけどな」
ダイ「ユーネェ……」
勇儀「それで、私と萃香からささやかながら、ダイキに贈り物を送る事にした」
私は紙に並んだ2文字の漢字を場にいる皆に披露した。
勇儀「この字をダイキに送る! これが、この町での名だ!」
棟梁「へーえ、いいじゃない」
ヤマ「わー、カッコイイ!」
パル「パルパルパルパル……。贈り物。妬ましい…」
キス「フッフッフッ…なるほどそう来たか」
鬼助「大それた名をもらっちまったな」
親方「鬼らしい、いい名じゃねぇか」
ダイ「ユーネェ、萃香ちゃんありがとう!」
突然現れた人間の小僧、ダイキとの生活はまだ始まったばかり。これからも頭を抱えさせられる事が起きたり、もしかしたら喧嘩をしたりと色々あるだろう。それでも私は保護者として、全力でコイツと一緒に成長していこう。いつか来るその日まで。
親方「あの勇儀ちゃんがあんな風になるなんてな」
棟梁「ふふ、そうですね。私も驚いていますよ。自分勝手だったあの子が、あの時自分の身を犠牲にしてまで、他人を助けようとしたのですから」
親方「それを本人に話してやったらどうだ?」
棟梁「嫌です! でもあの子は私の自慢の子ですよ」
Ep.1 鬼の子【完】
【Ep.1 鬼の子】を最後まで読んで頂き、
どうもありがとうございます。
この作品は自分の処女作で、
拙い部分が多々あったと思います。
申し訳ありません。
最初はこの作品を
読んでくれる方はいないのではないか
と心配していましたが、
読んで頂いていると知ったとき、
心の底から喜びました。
また、お気に入り登録して頂いた方々、
本当にありがとうございます。
読者様がいてくれることで、
Ep.1を完結できました。
これは冗談とかではなく、本当です。
「当初は週1 or 2話」を目標としていましたが、
読者様へ早く読んで欲しいという気持ちから、
気付けば「毎日23時の更新」 となっていました。
最後にもう一度ここまで読んで頂いた読者様。
本当にありがとうございました。
さて、Ep.2ですが少しお休みを頂いた後、
投稿したいと考えています。
今後も【東方迷子伝】をよろしくお願いします。