東方迷子伝   作:GA王

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十年後:鬼の祭_壱 ※挿絵有

 もう3日が経った。仕事をしながらも、暇を見つけては何遍も何遍も町中を探し回った。親友の親父さんは「稽古にも来てない」と。お母ちゃんさんの所かと行ってはみたが……

 

??「勇儀さん、大鬼のヤツまだ戻らないんですか?」

 

 いつになく心配そうな表情を見せて尋ねて来る和鬼。大鬼が居なくなったと知った時は、目を丸くして驚いていた。「思い当たる所を探してみる」と言うから探しに行ってもらったが、そこにも……と。

 

??「本当にアイツいったい何処に行ったんでしょうね?」

??「みんなから心配されて妬ましい……」

??「フッフッフッ……、お騒がせボーイめ」

 

 鬼助とヤツとキスメ、そして……

 

??「大鬼君……」

 

 あの時現場にいたヤマメ。皆に探してもらってはいるが……。

 そんな時なのに、こんな気分なのに、来るべき日は来てしまう。地底世界が一番騒がしくなるこの時期が。既に町は活気付き、熱気を帯びている。

 

??「もう皆さんお集まりですね。今年もよろしくお願いします」

??「こんにちはですニャ」

勇儀「さとり嬢にお燐。それと……」

??「お空だよー、みんな久しぶり」

 

 地霊殿の面々。もう馴染みのある顔触れ。でも……

 

??「ゾンビー」

 

 両手を前に出して「お化けだぞ」とでも言わんばかりのポーズで、フラフラと目前まで来るコレは何だ? ハエか? ハエの妖怪なのか?

 

【挿絵表示】

 

 

勇儀「さとり嬢、また新しいペットを飼い始めたのか?」

お燐「アタイの友達ニャ。妖精のゾンビフェアリーですニャ」

 

 妖精だったのか、こりゃ失敬。……さとり嬢、クスクス笑うな。今読んでいただろ?

 

勇儀「そうかい。よろしくな」

 

 地霊殿の小さな新メンバーと軽く挨拶がてらの握手を交わすと、それはフラフラとお燐の下へ。そして一言二言言葉を交わした後、何処かへと飛んで行ってしまった。

 

勇儀「アレ何しに行ったんだ?」

お燐「文通友達の出店に行きましたニャ。そうそう、棟梁様に毎回手紙を読んで頂いているみたいで、ありがとうございますニャ。私でも読め(ニャ)い文字(ニャ)ので助かっていますニャ」

勇儀「そうだったのかい。でも気にしなくていいぞ。最近暇しているみたいだし」

 

 部屋の整理をするくらいだからな。きっと時間を持て余しているのだろう……だったら夕食くらい作ってくれてもいいのに。

 

さと「ところで勇儀さん、ボケ……大鬼君は……」

勇儀「……」

さと「そうですか……」

 

 黙っていても状況を悟ってくれてこういう時はありがたい。きっと彼女には全て筒抜けになっているのだろう。こうなってしまったその時の状況も、私が取り消したいと思う言葉も。

 

お燐「だ、大丈夫ですニャ! 大鬼君もお祭りが大好きニャ。きっと来るはずニャ!」

鬼助「そっ、そうですよ! だから見回りをしていれば何処かで見つかりますよ」

さと「私も情報提供を呼びかけてみます」

??「私も探すよ♪」

 

 声はするが、姿が見えない。いや、見られないが確かにこの場にはいるのだろう。

 

勇儀「こいし嬢、ありがとう」

 

 こんなにも多くの者がアイツを心配している。このままでいけないのは分かっている。もう一度会って話し合いをするために……

 

勇儀「それぞれ役割があって大変かもしれないけど、アイツを……大鬼の事を探してくれ。頼む!」

 

 頼れる仲間達全員に頭を下げて協力を願う。

 

鬼助「分かりました! 太鼓叩きながら上から探します!」

お燐「全力で探すニャ!」

こい「まっかせて♪」

さと「絶対見つけてみせます。見つけ次第……」

和鬼「引きずってでも連れてく」

ヤマ「捕獲する」

パル「妬む」

キス「狩る」

 

 大鬼、後の二人には見つかってくれるなよ。でもこれで十人が一致団結して……

 

お空「うにゅ? 何を探すの?」

  『えー……』

 

 前言撤回、一名戦力外だ。

 

お空「卵探すの? それなら……」

お燐「お空、あとでちゃんと教えてあげるから、ちょっと黙ってるニャ」

 

 ため息を吐き、がっくりと肩を落とすお燐。マイペースな友人を持つと色々と苦労するからな。気持ちは分かる。

 

さと「で、ではお祭りを今年も頑張りましょう」

  『おーっ』

??「カッカッカ」

 

 声を揃えて拳を頭上へ上げ、それぞれが持ち場へ移動を開始したその時だった。余裕のある高笑いが聞こえて来たのは。振り向くとそこには診療所の爺さんが、和やかな表情でそこにいた。

 

さと「こんにちは、いらしてたんですね」

医者「すまんの、ちぃとばかし遅れたかの?」

さと「いえいえ、時間ピッタリですよ。棟梁様、親方様は既にいらしておりますので、どうぞこちらへ」

医者「そうかいそうかい、ありがとうよ」

 

 さとり嬢と簡単な挨拶を交わし、町の組合が集まる場所へと案内される最長老を私達は黙って見つめていた。何気なく、ボンヤリと。それは他人事で、私達が関与する場面じゃないと、皆がそう判断していたから。だが、1人だけ空気を読めない者が……

 

お空「お爺さん知ってる?」

 

 突拍子もなく放たれる難解な質問。答えは当然、

 

医者「何をじゃ?」

 

 だろう。

 

お空「みんなが探してる……お燐、何だっけ?」

お燐「大鬼君ニャ……」

 

 顔色を髪の毛の色と同じにして、小声で答えるお燐。恥ずかしさから「もうやめてくれ」とその表情を両手で(おお)い始めた。ひたすら自分のペースを貫く地獄鴉に、私達は苦笑いを浮かべていた。

 

お空「大鬼君! お爺さん何処に行ったか知らない?」

 

 でも誰が予想できただろう。

 

医者「知っておるよ」

  『えーーーーーーーッ!?』

 

 この返事が来るだなんて。

 

勇儀「ど、何処にいるんだい!?」

医者「朝起きて飯を喰い終わったらそそくさと出て行きおったからのー。出店を回ると言っておったから、ここにおるんじゃないか?」

ヤマ「ちょちょちょちょっと待って、おじいちゃん朝も大鬼君と一緒だったの?」

医者「そうじゃよ」

和鬼「もしかしてずっといた?」

医者「おー、察しがいいの。おったおった」

こい「なーんだ♪」

さと「これは灯台下暗し……なのでしょうか?」

お燐「誰も予想でき(ニャ)かったニャ」

医者「カッカッカ、大鬼のヤツはそこまで考えておったらしいぞ?」

パル「全く、そういうところは機転が利くんだから……妬ましい」

キス「フッフッフッ……、我が家に来たらコレクションを見せてやったのに」

 

 完全に盲点だった。アイツが行くとすれば、気心の知れた仲の所だとばかり……いや、爺さんには随分と世話になっている。アイツにとってはこの中の誰よりも、身近な存在だったのかも知れない。

 

勇儀「爺さんすまない。世話になって」

医者「あー、ええよええよ」

鬼助「でもこれで大鬼のヤツは祭りに来ている事は確定ですね」

こい「じゃあ私は先に探しに行ってるね♪」

さと「お願いね」

お燐「アタイも行きますニャ。お空行くニャ」

お空「え? ゆで卵……」

さと「戻ったら買いに行っていいから……」

勇儀「すまない、よろしく頼む」

 

 鬼助の言う通りだ。アイツが出店を回っているのならいずれは……ん? ちょっと待て。

 

勇儀「アイツ金も無いのにどうやって出店で買い物する気だ?」

医者「ワシが金を貸してやったよ」

  『え?』

パル「それまずくない? だって勇儀……」

ヤマ「金銭の貸し借りは御法度のはず……」

キス「フッフッフッ……、勇儀アウトー」

 

 不敵な笑みを浮かべ、サムズアップを突き付けてくる桶姫。冗談じゃない。私が歩みを進める度に、ジャラリジャラリと音を立てるあの日の決意。その決意に反すれば……。

 恐る恐る視線を手首へ。だがそれは今、いつもの様に静かに眠ったまま。

 

医者「カッカッカ、心配するでない。ワシが貸したのは、あくまで大鬼にじゃ。それはもちろん返してもらうのも大鬼からという事じゃ。勇儀には干渉せんから安心せい」

 

 再び楽しそうに笑い出す爺さん。こちらは一斉に安堵のため息。全く、はらはらさせてくれるなよな。生きた心地がしなかったぞ。

 

医者「ところで勇儀、お主はもう気付けたのか?」

勇儀「え?」

医者「お主ら2人がこうなってしまったその本質に」

ヤマ「……」

 

 爺さんの言葉と共に無言でじっと強い視線を向けて来るヤマメ。彼女に言われて何度も自問自答を繰り返し、記憶を辿(たど)った。その結果……

 

??「やっほー、みんな一年ぶり。元気にしてた?」

 

 と、そこに聞き覚えのある歯切れの良い声。少し遅れてようやくのお出まし。

 

  『ヘカーティア様』

 

 私達の女神。彼女の登場に一同(ひざまず)いてこうべを垂れ、

 

  『ようこそおいで下さいました』

 

 最上級の敬意を。

 

ヘカ「もー、そういうのやめてって毎年言ってるじゃん。ほらほら、みんなスタンドアップ」

さと「お待ちしておりました。既に準備は出来ております。こちらへどうぞ」

ヘカ「さとりん相変わらず固いなー。もっと楽にしてよ」

医者「ではワシも行こうかの」

ヘカ「お爺さんまだ歩けるの? 相変わらず元気だね」

医者「カッカッカ、時間の問題ですじゃ」

 

 気取らず飾らず、偉そうにもせず、一人一人に声を掛ける女神様。それは友人との会話を楽しむ様にリラックスした笑顔で。こんな方が女神様だなんて……(まつ)る私達は誇らしい。

 一通り場に残ったメンバーとの挨拶を終えたところで、

 

和鬼「今年こそは何処にも行かないで下さいよ」

 

 恐れ多くもその女神様に釘を刺す者が。けど、よく言った。

 

ヘカ「はいはい。ん? 去年よりガタイ良くなってない?」

和鬼「ありがとうございます。特訓をハードにしたので」

ヘカ「じゃあ私も負けちゃうかなー?」

和鬼「何を(おっしゃ)いますか。足下にも及びませんよ」

ヘカ「へー、あんなのだったのに……言うようになったね」

 

 女神様の冗談に爽やかな笑顔で答え、その内容も申し分ない。対応としては百点満点だ。女神様も和鬼の成長をしみじみと感じたのだろう。にっこりと微笑み、呟く様に大人に近づく少年へ言葉を送った。でもその笑顔はどこか寂し気でもあった。とここで女神様、

 

ヘカ「そう言えばもう一人……大鬼君の姿が見えないけど?」

 

 その事に気付いた。その途端和やかな雰囲気は一変。皆(うつむ)き、再びどんよりとした雰囲気へ。

 

ヘカ「何かあったの?」

勇儀「実は大鬼と喧嘩を……。それで……」

ヘカ「あー、待った待った」

 

 尋ねて来たのに事情を少し話したところで、まるで「それは管轄(かんかつ)外」とでも言うかの様に、突然静止を呼び掛ける女神様。そして

 

ヘカ「やっぱりそういうのはプロに相談して」

 

 「専門家に頼れ」と言葉を残し、

 

勇儀「プロ?」

ヘカ「丁度いいや、紹介するね」

 

 輪の外でその時を待っていた者を手招きして呼び寄せた。

 




【次回:十年後:鬼の祭_壱(裏)】

ゾンビフェアリー(カラー)

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