東方迷子伝   作:GA王

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十年後:鬼の祭_壱(裏)

??「う〜ん……」

 

 光が(まぶた)をノックし続ける。それは勧誘に来た新聞記者くらいにしつこい。渋々少し隙間を開けて様子を伺う。

 

??「ヤバッ!」

 

 慌てて跳ね起きて身形(みなり)を整える。少し乱れた髪を手櫛で解きながら台所へ。目(あか)が残る顔を洗い「はぁっ」と息を吐く。鼻の奥まで届くこの香り、

 

??「酒臭い……」

 

 昨夜の宴会の所為。

 

??「何かで誤魔化さないと」

 

 辺りを見回して目に付いたのは、冷えきった出がらしのお茶。半ばヤケクソで口に含み口を(ゆす)ぐ。再び息を吐いて確認。少しはマシになったと信じ込む。今すぐにでも出発したいところだが、履物は向こう側。縁側の方、そこに辿り着くには……

 

??「冷静に見ると(ひど)いありさま」

 

 行く手を阻む難所の数々。無造作に置かれた皿、食べ残しがチラホラと目立つ。そこら彼処(かしこ)に散らばる一升瓶、中身は全て空。見事。

 そして不用心に床で寝そべる花も恥じらう乙女達、中には恥じらいもなく股を開き、大の字で眠る者も。お陰で足の踏み場もない。誤って踏んづけたり、大きな音を出したりして起こそうものなら、寝起きの悪い紅白に夢想封印されかねない。最新の注意を払ってそっと、そーっと……。

 

 

グニッ

 

 

 足裏に柔らかな感触。あれだけ「気を付けないと」と思った矢先に……。どうか大きな声だけは……

 

??「いったーーーッ!」

 

 とはいかない。無理もない、バランスを崩して踏み止まろうとしたのだから。体にかかる力は全てその一点に集約され……つまり、思いっきり踏みつけた。でも彼女にも原因はある。ふわふわもふもふとした毛並みのいい尻尾が、無用心に放置されていたのだから。しかも九つも。

 九分の一の尾を踏まれた彼女は跳ね起き、その拍子に勢い余って側の卓袱台を蹴り上げていた。

 回転しながら優雅に空中を舞う卓袱台、上にあった皿やコップは楽しげに空中遊泳を楽しみ、

 

 

ゴッ! ガーン! バリンッ! ガシャーンッ!

 

 

 着地。

 

??「ホラッ!?」

??「シャシャシャシャンハイ!?」

??「つつぅ……、誰だze★? 魔理沙ちゃんの眠りを邪魔するのは」

??「ふぁ〜、大きな音がしたけど一体何事?」

??「レミィ、動かない方がいいわよ」

??「気を付けて下さい、食器か割れたみたいです」

??「あやややや、天子さんが卓袱台の下敷きに!」

??「そそそ総領娘様ッ!?」

天子「う〜ん、もっと〜♡」

??「怪我された方は応急処置をするので言って下さい」

??「兎さ〜ん、妖夢ちゃんが卓袱台にオデコを打ったみたいなの」

妖夢「うー……、幽々子様すみません、ありがとうございます」

 

 続々と目を覚ます宴の参加者達、でもここまではいい方。これだけ周りが騒がしくなれば、

 

??「あ゛ーもうッ!」

??「うっるさいわねぇ、私を無理矢理起こした代償は高く付くわよ?」

 

 誰だって目が覚める。危惧していた二人、しかもいつにも増して機嫌が悪い。(そろ)って暴れられでもしたら、誰も止める事は出来ない。

 

??「ん〜……。藍しゃまー、大きな声を()(しゃ)ない()()(しゃ)いよ~」

??「ら〜ん? 覚悟は出来ているのでしょうね?」

藍 「ちちち違うんです紫様、聞いて下さい! 突然自慢の尻尾に激痛か走ったんです! きっと誰かに踏まれたんですよ!」

紫 「誰かって誰よ?」

藍 「そっ、それは……」

 

 集まる視線はチクチクと汗腺を刺激し、嫌な汗を滝の様に流させる。もうこの場にいる全ての者が悟っただろう。

 

??「いやははは、ごめんごめん」

  『スーイーカァッ!!』

萃香「わっ、わざとじゃないんだよ。急いで支度していたら倒れそうになって、足を出したら踏んづけちゃったんだよ……って悠長に話している場合じゃなかった! 霊夢、今何時だかわかる?!」

霊夢「さぁ、昼前くらいじゃないの? そんなに慌ててどこか行くの?」

萃香「里帰り! 今日からお祭りが始まって私も当番なの」

文 「あややや、そう言えば今日からでしたね」

魔理「死神も昨日そんな事言っていたような気がするze☆」

萃香「そうだ小町……っていないし。先に行くなら起こしてくれてもいいじゃない! 紫、悪いんだけど入り口まで送って」

紫 「イヤよ、私はまだ眠いの。おやすみ」

萃香「えー……、じゃあ魔理……」

魔理「魔理沙ちゃんも二度寝するze☆」

萃香「なら仕方ない、あ……」

文 「おっともうこんな時間、急いで編集に行かないと。お先に失礼しまー……☆」

 

 揃いも揃って移動時間に自信のある者達は非協力的。もう自分の力で行くしかない。ため息を一つ吐いて気持ちを入れ替え、割れた食器の破片を踏まぬように爪先立ちで縁側を目指す。

 危険地帯は抜けた。そこから先は全速力で……

 

??「きゃッ」

萃香「うわっと。ちょっと、ちゃんと前見てよね!」

??「ごごごごめンナs……ィ」

 

 相変わらず聞き取り辛い。宴会にはよく現れるのに、特定の人物としか話そうとしない。酒の席でそんなのは流儀に反する。気を使ってこちらから話そうと思って接近すれば、直ぐに霊夢や魔理沙の陰に隠れてしまう。タイミングよく近付けても、自前の人形を抱きしめて縮こまり、視線を合わせようとしない。おまけに質問をすると、この様にゴニョゴニョと。これだけはハッキリしている。

 

萃香「そこ退いて、邪魔なの」

 

 私は彼女が苦手だ。

 

 

--萃香が去った宴会場では--

 

 

 荒れ放題の宴会場は4名+2体の従者により、すっかり前日の姿を取り戻していた。

 

??「お嬢様、後片付けが終わりました」

レミ「ご苦労様、咲夜も少し休んでいいわよ」

咲夜「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせてもらいます」

 

 主人に一礼をして整えられた卓袱台へ、うつ伏せになって二度目の仮眠。屋敷に戻れば通常業務が待っている。束の間の休息とは言え無駄には出来ない。

 

パチュ「お疲れね」

レミ「夜明け前までお祭り騒ぎ、無理もないわ」

パチュ「お祭りと言えば……」

レミ「今日からみたいね地底のお祭り、どんな雰囲気か興味あるわね。日光を気にしなくて済むから、思いっきり羽を伸ばせそう。パチェもそう思わない?」

パチュ「そうでもないわ。地底と言え、祭りとなれば人混み。疲れるだけよ」

 

 一方もう一人の従者は、

 

妖夢「幽々子様、片付け終わりました。時間も時間ですし、もう帰られますか?」

幽々「その前に何か食べて帰らない? お昼近いし朝ご飯も食べてないし」

妖夢「昨日あんなに食べられたのにですか? 私はまだお腹空いていませんよ」

幽々「なら人里で食べて帰るから、妖夢ちゃんは先に帰っていていいわよ」

妖夢「そうはいきません。幽々子様を一人でお食事に行かせると、とんでもない金額になるのでついて行きます」

 

 食べる事に関して歯止めの効かない主人の監視役をしていた。

 

紫 「立場ないわね」

幽々「そう?」

紫 「もっと主人らしくなさいよ。上下関係があやふやじゃないの」

幽々「いいの、妖夢ちゃんはしっかり者だから信用しているの。ねー?」

妖夢「幽々子様……わわわ私、外で鍛錬してきます」

 

 頬を染めて愛用の二本の刀を手に駆け出す彼女。こんな時でも鍛錬は怠らない。そんな従者をマイペースな主人は、

 

幽々「けどちょっと真面目過ぎるのよねぇ」

 

 眉をひそめて見送っていた。

 

紫 「柔軟性に欠けるなんて、従者として致命的よ。その点私の従者は……」

 

 堂々と誇らしげにを語り出す賢者。その視線の先の彼女達は、

 

橙 「藍しゃまー、もう片()ける物はありましぇんかー?」

藍 「ちぇえええええええええん! 自分から進んでお手伝いなんて偉いよ、成長したね。私も鼻が高いよ」

橙 「う〜、藍しゃま。く、苦しい()す……」

 

 相変わらずの平常運転。いや、感極まってやや飛ばし気味。腕の中の部下に底知れぬ愛情を注ぎ込む最強の式神。

 そこへ「注目しろ」と手を叩く家主、それぞれの会話を中断しそちらへ視線を移す一同。

 

霊夢「それじゃあ、残ったメンバーには復旧作業に手伝ってもらう事にしたから。よろしくね」

魔理「はーッ!? 何で魔理沙ちゃん達も手伝わなきゃならないんだze★」

霊夢「萃香が出かけちゃうんだもん、仕方がないじゃない。それにいつも宴会の場を提供してあげているんだから、手伝うのは当然だと思うけど?」

紫 「あの小娘に責任もってやらせなさいよ」

霊夢「そうしたいのは山々なんだけど全ッ然無能! すぐサボる上に喝を入れたら頬を赤らめて『もっと♡』って催促するんだから」

幽々「押してダメなら引いてみたら?」

霊夢「そんな事をしたらまたサボって堂々巡りよ」

鈴仙「あのー……、私は日課があるので帰ってもいいですか?」

霊夢「そうね、あんたは仕方がないわね」

レミ「私達も帰らせてもらうわ。代わりに美鈴を貸すから好きに使ってちょうだい」

霊夢「そういう事ならいいわよ。それにあんたより役に立ちそうだし」

 

 ここぞとばかりに理由を付けて面倒事から逃げて行く者達。言うなら今すぐ、許されるのは精々後一名。()()()()()事に特化した者は

 

??「なら私もこれで」

 

 チャンスを逃さない。何食わぬ顔で言い切り、

 

霊夢「はいはい」

 

 誰からも突っ込まれる事無く、帰宅を許された者達と共にその場から撤退した。

 

霊夢「で? 最終的に残ったのはやっぱりあんた達3人ってわけね」

妖夢「あれ? 幽々子様?」

霊夢「あんたの主人なら真っ先に紫達とスキマに隠れたわよ」

妖夢「そんなー、幽々子様酷いです」

魔理「なあ霊夢、魔理沙ちゃんも今日は……」

霊夢「どうせ暇なんでしょ? さっ、お喋りはもうおしまい。二人共さっさと働いて! それと……」

 

 貧乏くじを引いた2人に指示を送り、ポツリと呟く紅白巫女。彼女が向けた視線は部屋の隅、そこには膝を抱えて小さく(うずくま)る一人の少女の姿が。

 

霊夢「アリス! いつまでそんな所にいるのよ、しっかり見えているんだからね」

アリ「……」

妖夢「どこか具合でも……」

魔理「あー、大丈夫だから。ここは魔理沙ちゃんと霊夢に任せて、先に行ってくれだze☆」

 

 少女を気にかける庭師の背中を押し、仕事をするように(うなが)す白黒魔法使い。庭師が立ち去った事を確認すると、博霊の巫女は先程よりも優しい口調で話し出した。

 

霊夢「妖夢なら行ったわ、もう私達しかいないから顔を上げなさいよ」

アリ「……」

 

 だが返事が無かった。それどころか、少女は小刻みに肩を震わせ始めた。

 

魔理「泣いてるのか?」

アリ「……」

霊夢「たぶん萃香ね、あんなの気にするだけ損よ」

魔理「そうだze☆ あんなのは無視だ無視! それに神社を直すのにはアリスの力が必要なんだze☆?」

アリ「……ホント?」

霊夢「そ、そうよ。人形使いの力、頼りにしているんだから」

魔理「だからアリスも一緒に行こうze☆ 上海と蓬莱も手伝ってくれるよな?」

上海「シャンハーイ」

蓬莱「ホーラーイ」

 

 笑顔で答える2体の半自立式人形。それは主人を(なぐさ)め、誘っている様でもあった。小さく震えていた少女は、

 

アリ「うん」

 

 目尻に光るものを残しながらも、明るい表情を取り戻していた。

 天人くずれの退屈しのぎで破壊された博霊神社。その異変解決後、神社は小さな鬼によって中途半端に修繕されたが、人見知りの少女の大活躍により、その姿を瞬く間に取り戻した。

 そして後にこの出来事は、幻想郷の外の世界へ次の名で伝えられる事になる。「東方()(そう)(てん)」と。

 

 




【次回:十年後:鬼の祭_弐】
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