勇儀「……」
気不味い。女神様に「絶対いいアドバイスをもらえるから」とお墨付きをもらって町を案内する事になったのはいいが……。
勇儀「……」
??「……」
この空気をどうしたものか。初対面でいきなり相談なんてどう考えても変だ。何か雑談をして、お互いの事をよく知り合ってからだろう。じゃあそうなるまで何を話せばいい? 趣味とか好物とかか? 見合いじゃあるまいし……。
その前にそもそもコイツは何者なんだ? ヘカーティア様の親友らしいが……。ヘカーティア様もヘカーティア様だ。親友を私に預けて行くか普通? ……立場上仕方ないか。
??「出店が多くて面白いわね」
勇儀「えっ、ええ。そこが売りでございますので」
どの立場で接していいのやら……。ヘカーティア様のご友人なのだから、失礼の無いようにはしたいが……こういうの苦手なんだよなぁ。
??「そんなに固くならないで。ヘカーティアじゃないんだし、もっと気楽に話して」
これはありがたい。ならばそのお言葉に甘えさせてもらおう。
勇儀「では……何処か寄りたい店があったら言っておくれよ?」
??「そうねー、それじゃあ……」
立てた人差し指を
なるほど、そういう見せ方もあるのか。私と同系統の髪の色。もし私があの格好をしたら…………おえッ、気持ち悪い! 似合わん!!
??「知り合いの……クラウンピースの店に案内してもらえるかしら? それと私の事は
勇儀「アイツとも友達だったのかい。いいよ、ついてきな」
--女鬼移動中--
ヘカーティア様のご友人、純狐の要望通り地獄の妖精の出店へ。目がチカチカする程のカラフル且つド派手な色で装飾され、毎年違う内容で出店してくる。しかもそれは決まってこの地底世界では馴染みのない物。最初は『ポップコーン』って名前の菓子だった。私はイマイチだったが、そこそこ人気があったらしい。去年は『フランクフルト』とかいう肉の腸詰めを焼いた物で、これがえらく町民達に気に入られていた。
そして今年が……とその前に。
勇儀「いったい何があった?」
この状況……
純狐「すっごい賑わっているわね」
ただただ苦笑いを浮かべるしかない。周囲の店との調和を一切感じさせない色で飾られた店は、客達に取り囲む様に群がられていた。我先にと押し合い
??「Next come on!」
あせくせ働く店主と、
??「ゾンビー」
さっき挨拶交わしたばかりの地底世界の妖精がてんやわんや。
純狐「ピースお疲れ、遊びに来たよ」
ピー「Oh 純狐! Welcome ね。But , Bad timingね。 Now very very busy ね」
純狐「何か手伝おうか?」
ピー「Yes , please! Atai が Cooking するね。純狐は My friend と品出しをよろしくね」
勇儀「それじゃあ私は客を並ばせて来るよ」
他の店の店主達も迷惑そうにしているし、通行人の邪魔にもなっている。このままでは乱闘騒ぎになるのも時間の問題だろう。事前の対処、これも祭当番の仕事だ。さて、一回で聞いてくれるといいが……
勇儀「おい、お前さん達ちゃんと並べ! さもないと……」ボキボキ
『Sir , Yes , sir!』
よしよし、みんな素直じゃないか。
--女鬼仕事中--
純狐「ふー、久々に働いたわ。労働も案外悪くないものね」
出店の裏に腰をかけて一休み。
彼女の活躍もあり、店の山場は越えた様だ。あとは店主と地底の妖精でやっていけるだろう。
地底の妖精は接客中も主に「ゾンビー」と発していたが、時折普通に話していた。しかも並んでいた客
ピー「純狐、Demon .勇儀。Very very thank you ね。これはお礼ね」
そう言いながら笑顔で差し出して来たのは彼女の店の商品。見た目は棒にふっくらと膨らんだ天ぷらが突き刺さった物だが、中に去年人気だった肉の腸詰めが入っているらしい。確か『アメリカンドッグ』とか言ったか?
ピー「Ketchup and Mustard はご自由にどうぞね」
勇儀「悪いな」
純狐「ありがとう。私これ好きなのよ」
地獄の妖精からの礼の品を微笑みながら受け取る彼女。でも……。
純狐「あの子も好きだったな……」
遠い日を懐かしむ瞳で呟かれたその言葉は、どこか寂し気で悲し気だった。
勇儀「どうかしたのかい?」
純狐「うん、ちょっとね。私の息子がコレを好きだったのを思い出してね」
勇儀「子供がいるのかい!?」
純狐「正確には
勇儀「そうだったのかい……すまないな、野暮な事を聞いちまって」
しばらく沈黙。この間何度「やってしまった」と後悔しただろう。ようやく打ち解けあって来たのに、振り出しに戻された気分だ。
純狐「子供がいる風には見えなかった?」
勇儀「正直意外だった。でも言われてみると……」
ヘカーティア様やヤマメ達とは違って落ち着いた雰囲気がある。強いて言うなら……大人。外観的なものではなく、内側から発せられているそれが大人だ。
純狐「……なによ? 老けて見えるって言うの?」
勇儀「そんな事思ってないよ。なんとなく納得しただけさ」
純狐「ふーん」
視線が痛い。鬼はウソを言わないっていうのに疑り深いな。こんな時は話題を変えるに限る。
勇儀「その息子っていくつくらいだったんだ?」
口から放ったそばから後悔。またやってしまった。
純狐「10代後半。まだまだ成長途中で世の中の事を全然知らないのに、『自分は大人なんだ』って言い張って」
分かる。
勇儀「そのクセに小遣いはしっかりもらいに来たり?」
純狐「そうそう。しかも少し褒めるとすぐ調子に乗って小遣いアップを言い出して」
共感。
勇儀「それなのに『手伝え』って言うと面倒くさがって、
純狐「ホンット何様のつもりって感じよ」
激しく同意。大ベテランのお母ちゃんさんとは違うタイプ。そして、
勇儀「喧嘩とかは?」
純狐「そんなの日常茶飯事よ」
彼女は私に似ている。出会ってからほんの数時間だけど、彼女になら分かってもらえるだろうか?
勇儀「実は……、私にもいるんだ」
この悩みを。
勇儀「子供が」
純狐「やっぱり! なんかそんな感じがしたのよ。男の子? 女の子? 今いくつ?」
顔を近づけて興奮気味に質問を連打。
勇儀「お、男の子だよ。今15かな? でも本……」
その勢いに圧倒されながらも真実と共に答えようとするが、
純狐「じゃあ生意気な時期だ。反抗期真っ只中でしょ?」
待ったなし。
勇儀「そ、そうなんだよ。だからついこの間も喧嘩をして……」
その時の場面が、言葉が生々しく蘇る。胸の奥を強く締め付け、柄にも無く目頭を熱くする。その所為で……
純狐「出て行かれたの?」
勘付かれた。
勇儀「……私が言ったんだ。『嫌なら出て行け』って」
純狐「うん」
勇儀「『私と別れたい』って言われて」
純狐「うん」
勇儀「でもアイツはずっと我慢している事があって」
純狐「うん」
勇儀「その所為で爆発して」
脈絡の無い震える言葉を彼女はただ「うん」とだけ頷きながら耳を傾けてくれていた。でもその声は心地良く、不思議と導かれる様に抱えていたものが外へと出ていた。
勇儀「けど私には分からないんだ。何度考えても、思い出してみても。他のヤツ等はそれが何なのか分かっているのに……」
純狐「うん」
勇儀「不甲斐ない、悔しい、悲しい」
純狐「うん」
勇儀「苦しい……」
止められない。
純狐「話してくれてありがとう。私にも覚えがあるよ。そういう喧嘩の原因ってさ、こっちにとっては
勇儀「……」
純狐「あとは変に誤解していたりとかさ。私なんて誕生日のプレゼントをあげたら『これじゃない』って怒られたわ。ずっと欲しがっていたと思ってあげたのにさ。子供の事なのに分かってあげられなくて……恥ずかしいわよね」
誤解――あの時アイツは「
それにヤマメのあの時の表情、眉をひそめて「本気でそう思っているのか?」と呆れていた。そして極めつけに「他の者は気付いている」と。
勇儀「もしかして」
脳裏を掠めるある可能性。いや、恐らくこれが答え。
??「いたぁーッ!」
突然の甲高い叫び声に驚き、慌ててそちらへ視線を移すと、そこにはこちらを指差すヤマメの姿が。
ヤマ「何度も信号を上げたのに全然来ないし! すっごい探したんだからね!」
肩で息をしているところから察するに、町中を駆け回って私の事を探してくれていたのだろう。
勇儀「気付かなくてすまない。何かトラブルかい? すぐ行くから案内を……」
ヤマ「違う、大鬼君を見つけたの!」
勇儀「え?」
ヤマ「キスメが見つけたみたいで、追いかけ回しているところを私が捕まえたの」
最も見つかって欲しくない桶姫に見つかるとは……。その時の状況が容易に想像できる。捕まえたのがヤマメで助かった。
勇儀「ヤマメありがとう。怪我人と被害は?」
ヤマ「何軒かの出店の
桶ェー……
ヤマ「キスメはさとりちゃんに注意されて反省したから、勇儀からは怒らないであげてよ? 投げ飛ばすのとか絶対ダメだからね!」
勇儀「わかってるよ、それで大鬼は?」
ヤマ「棟梁様と一緒に家に戻ってる」
勇儀「そうかい。純狐、悪いけど」
純狐「うん、行ってあげて。その子だってあなたに言ってしまった事をきっと後悔していると思うよ」
彼女に会えて、話せて、相談できて本当に良かった。おかげで辿り着く事ができた。
勇儀「ありがとうな」
全てが解決したら彼女にきちんと礼をしよう。そして紹介してくれた女神様にも。そう胸に誓い、意識を実家へ向けて一歩踏み出す。
ヤマ「待って勇儀、行くのはいいけどちゃんと気付けたの?」
そこへ突き刺さる様な鋭い視線で、大の字になって行く手を阻むヤマメ。最初の関門にして最後のチャンス。ここで間違った答えをすればアイツの下へは辿り着けない。
勇儀「萃香の事なんだろ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
純狐「心配?」
ヤマ「えっ?」
呼び掛けられ、視線を背後へ。
純狐「きっと大丈夫よ。私にだって超えられた壁なんだから」
ヤマ「……はい」
笑顔で見送る地獄の女神の友人に、小さく答えて再び視線を戻す。友人はもう遥か前方。やがてその姿が視界から消え、
ヤマ「勇儀」
願いを込めてポツリと呟いた。
ヤマ「それだけじゃないんだよ」