東方迷子伝   作:GA王

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十年後:鬼の祭_伍

 

??「この席久しぶりー。あの時は興奮したなぁ」

??「そう言えばそんな事言ってたわね。私も見たかったなー」

 

 設置された特別な席に並んで腰を掛け、当時の思い出話しに花を咲かせる女神様とそのご友人。

 

純狐「でも私なんかがここに座っていいの? VIP席でしょ?」

ヘカ「いいのいいの、今年も四季ちゃんいないし。あ、四季ちゃんで思い出した。その時にさー……」

 

 そして話題は地獄の最高裁判長の魅力、そのギャップ萌えへ。手を叩いて笑顔を見せる女神様のご友人。楽し気で和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気。

 だがそれはVIP席に座る2人だけ。他の者達は口々に「何用で集められたのか?」とざわついていた。そこへ彼は姿を現した。眉間に皺を寄せ、周囲の者を凍りつかせる程の鬼の形相で。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 古明地さとりと申します。

 先代の町長様に連れて来られた先は、簡易的に作られた小屋でした。そこは数年前に使用したきり使われなくなった小屋。それでも週に一度の『町内一斉清掃日』に()()手入れをして来ました。おかげで中は綺麗さっぱり。先代様にドヤドヤして褒めてもらおうと……でも、扉を開けて真っ先に感じたのは鼻につく強烈なアルコールの臭い。そして、目に飛び込んできたのは、全身を包帯で巻かれて寝かせられている友人の姿でした。

 

さと「勇儀さん!?」

??「さとりちゃんお願い、能力を使って!」

 

 駆け寄る私に助けを求める様にしがみ付いて来たヤマメさん。切羽詰まった表情で私に能力を使えと。冷静になって周囲を見れば、彼女と親しい者達が同じ表情で私を見ていました。そこにはお医者さんとペットの姿も。

 事情も状況も飲み込めず、言われるがまま能力をヤマメさんに向けて発動しました。

 皆さんもご存知の通り私の能力は『心を読む程度の能力』です。それは様々なものの内に秘めた声を読む事が出来ると言う事。それは包み隠さず事情を把握出来るという事。

 

さと「そんな……勇儀さん、勇儀さん!!」

 

 おかげで全て悟りました。包帯の隙間から見える肌はもういつも通り。()()れするほど綺麗。

 

さと「勇儀さん!」

 

 大きく呼びかけて、透かさず自慢の能力を今度は彼女に向けて発動。便利な能力ですが例外もあります。

 一つ目、心を持たぬ者。道端に落ちている小石などの無機質な物です。これは論外。

 二つ目、眠っている者、気絶している者。夢でも見ていれば話は別ですが。

 三つ目、心を閉ざしてしまった者。私の妹の様に。

 そして彼女は……。

 

医者「傷は癒えてきているのじゃが……」

パル「いくら呼んでも反応がないの」

キス「どう?」

 

 見えたのはバラバラに分解された文字。

 

さと「読めない……」

 

 心が空白なこいしとは明らかに違っていました。そう、彼女は

 

さと「心が……」

 

 四つ目。

 

さと「心が壊れています」

 

 私の後ろで何が落ちる音が。振り向くと先代様が膝をついて肩を落としておられました。そこから語られたのは私も知らなかった事。『咎人(とがにん)(かせ)』と呼ばれる()()()()の本当の恐ろしさ。

 それはここがかつて地獄と呼ばれていた時に使われていた物。この地に送られた者に取り付けては無理難題を言い渡し、達成できなかった者に強い電撃を放ちながら、心へ直接底知れぬ苦痛を与え、弱り切った者の心と魂を破壊するといった代物。

 

棟梁「強い意志があれば耐えられたかも知れませんが、あの時の勇儀は……」

 

 「それが原因で」と。

 私が尊敬する先代様、彼女の心は苦しみと悲しみの文字で満ちておられました。

 そして今ここへアイツが。その背中には……。ボケっ子、悪いけど全部読ませてもらうから。場合によっては、私がアンタを地獄に送ってあげる。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 目を見開き、声を失う一同。だがその均衡はすぐに破られた。

 

棟梁「萃香!? 大鬼あなた」

ヤマ「これどういう事!?」

キス「返答次第では狩るッ!」

パル「あんた、いい加減にしなよ。勇儀だけじゃなく……」

お燐「萃香さんもだ(ニャ)んて、酷いニャッ! 見損(ニャ)ったニャ!!」

さと「……」

 

 怒りにあふれた視線の中心。その位置で少年は視線全てを受け止めていた。

 

医者「大鬼一先ず萃香を下ろせ。急いで治療する」

 

 その言葉に従い、背中で眠る小さな鬼を医者へ預ける少年。

 

大鬼「よろしくお願いします」

 

 だがその医者でさえも、少年に向けた視線は冷ややかなものだった。

 

大鬼「!」

 

 その直後少年の頭皮に激痛が走った。そして、そのまま引きずられる様に連れて来られた先は、

 

大鬼「……」

 

 人形と化した勇儀の前。

 

??「アンタの所為よ!」

 

 少年の髪の毛を鷲掴みにし、動かない友人の前に押し付ける

 

??「心が壊れて何も感じられなくなったんだから!」

 

 橋姫。

 

パル「治せよ、今すぐ治せよ!」

大鬼「……」

パル「だんまりかよ!!」

 

 勇儀の後を追う程尊敬し、(した)う者の本気の怒り。勇儀の変わり果てた姿を目にした時、誰よりも大きな声を上げて悲しみ、絶望したのは彼女だった。

 

大鬼「ごめんなさい」

パル「遅いんだよ……。その言葉を勇儀がどれだけ待っていたと思ってるの!?」

 

 髪を握る拳に更に力が入り、少年の顔を歪めさせる。

 

パル「妬ましい……妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましいッ! 殺してしまいたいくらい妬ましい!!」

 

 「もう一層の事」と彼女は考えたのだろう。反対の手の指先に力を込め、鋭く尖った爪を現し、腕を振り上げた。

 

パル「離しなさいよ!」

 

 だがその腕を掴んで阻止する

 

??「やめて下さい」

 

 覚り妖怪。

 

さと「お気持ちは察しています。でも、今彼を殺めてもこの問題は解決しません。間違いなく勇儀さんは助かりません」

 

 冷静で的確な意見は橋姫の表情を変えずも、振り上げた凶器を収めさせた。その代わりに、

 

 

バチンッ!

 

 

 強烈な一打。そして橋姫は少年から手を離すと、小屋の片隅で膝を抱えて(うずくま)り出した。

 

さと「ボケっ子、パルスィさんじゃないけど、これはアンタの責任よ」

大鬼「はい、姐さんの事も萃香さんの事も全部自分の所為です」

 

 静まる室内。冷ややかな視線が飛び交う緊迫した中、少年は再び話し出す。

 

大鬼「責任は必ず取ります。けどその前に……」

さと「待った!」

 

 少年の口を塞ぐ様に静止を命令する覚り妖怪。自然と視線が集まる。

 

さと「ボケっ子、外に来なさい。棟梁様とヤマメさんもお願いします。他のみんなはそこから動かないで。これは町長命令です」

 

 少年と棟梁、そして蜘蛛姫を連れ小屋の外へと移動する覚り妖怪。扉を閉める際に「絶対に外に出ないように」と強く念を押した。

 残された者達はそれぞれ顔を見合わせ、視線で「どうしたんだろ?」と尋ねるも、互いに首を横に振るだけ。ただ小さき鬼の治療に専念する彼を除いて。

 

さと「ここまで来ればいいでしょう」

 

 小屋からしばらく歩いた所で足を止める覚り妖怪。小屋の外とは言え、耳のいい彼女のペットがいるための苦肉の策。さらに念には念を入れ、小声で話し出す。

 

さと「全部教えてあげる。でも、この事は今後口にしないように。この世界の決まりにも関わる事だから」

 

 真剣な表情で語り始める現町長。それは10年前に少年の身に起きた悲惨な事故の事。さらに着色する事なく、事実のみを語るその場にいた者達。2人の記憶は重なり、補い合い、当時の状況を鮮明に映し出していた。それこそ突き刺さる凶器の枚数と位置まで。

 話が進むに連れ心臓の鼓動が早くなる少年。話しこそ聞かされてはいたものの、生々しく語られるものは全て新鮮なものだった。そして少年が「そこまで酷い状態だったなんて」と思い始めた頃、極秘の真実は告げられた。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 置物の様にただその場で横たわるだけの力の四天王。刻一刻とリミットは近づく。それは少年も理解していた。

 だが焦る気持ちとは裏腹に、最初の一言がなかなか出ずにいた。

 

さと「ボケっ子」

 

 勇儀の(かたわ)らに正座で座る少年に、背後から声をかける覚り妖怪。

 

さと「ここに来る前に言われたんじゃないの?」

 

 そして少年は口を開いた。

 

大鬼「姐さんごめんなさい!」

 

 それが始まりだった。

 

大鬼「甘えてた。まだまだ子供だった。勘違いしてたのはボクの方だった。今更だけど言うよ」

 

 今少年の脳裏を横切るのは、目を覚まさせてくれた者が残した言葉。少年は彼女へ一度だけ視線を移すと、胸の内を吐き出した。

 

大鬼「萃香さんの罰則を負わせて欲しかったんだ! 信じて頼って欲しかったんだ!! やっと、やっと半分が終わるのに……姐さんに早く自由になって欲しいんだ。もう姐さんに負担を増やして欲しくないんだ。それなのに、ちゃんと言わないで気付いて欲しいって思うだけで、挙げ句の果てには……」

 

 込み上げる後悔の念。それは少年を自然とその姿勢へと導いていた。

 

大鬼「意地張ってごめんなさい! 酷い事言ってごめんなさい! 辛い思いをさせてごめんなさい! ()()()()本当にごめんなさいッ!!」

 

 床に額をつけ誠心誠意、本気の『ごめんなさい』。その言葉は……

 

さと「……残念だけど」

 

 失った心を戻すには至らなかった。

 頼みの綱が断たれた瞬間だった。絶望の淵に立たされ、膝から崩れる蜘蛛姫、顔を覆い泣き出す猫娘、床に拳を打ち付ける嫉妬姫、大声で泣き出す桶姫、頭を抱えて震え出す母親、そして育てられた者にしがみつき、耳元で名前を呼び続ける少年。

 叫びながらも少年は考えていた。声を届ける方法を、心へ響かせる方法を。そして「必要なものは信頼」と結論が出るのに時間はかからなかった。

 いとも容易く壊れる信頼関係。だがその再構築は簡単ではない。長い月日を掛けてようやく修復できるもの。余程のことがない限りは。

 

大鬼「……」

 

 少年の謝罪が突然止まった。そして勇儀に背を向け、一目散に扉を目指した。

 

さと「待ちなさい! 勇儀さんをどうする気!?」

ヤマ「放っておくの!?」

お燐「逃げる(ニャ)んて卑怯ニャ!」

キス「逃がさない」

パル「勇儀を助けろよ!」

 

 立ち塞がる覚り妖怪を筆頭に、怒りの視線を向ける勇儀の友人達。ある者は刃物を持ち、完全にその気になっていた。そこへ、

 

 

コンコン……

 

 

 扉からノック音。やって来たのは真剣な表情の少年の腐れ縁。

 

和鬼「大鬼、師匠……親方様がお前を呼んでる。それと、さとりさんと棟梁様も行った方がいいかも」

大鬼「わかった。こっちもちょうど今用が出来た」

 

 少年は幼馴染にそう言い残すと、全力で走り出した。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 彼は親友と壮絶な決闘を繰り広げた土俵の上にいた。観客達が見守る中、瞳を閉じて胡座と腕を組み、ただ静かに正面に現れるその者を待っていた。

 そこへ、

 

 

ザッ…

 

 

 足音。その音に、彼はゆっくりと瞳を開けて呟いた。

 

親方「来たか…」

 

 そして一気にその怒気を放つ。

 

親方「ダイギイイイッ!」

大鬼「ジジィイイイッ!」

  『勝負しろおおおッ!!』

 

 

 




【次回:十年後:鬼の祭_陸】
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