東方迷子伝   作:GA王

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第15回東方project人気投票の結果が出ましたね。また、次回以降の引継ぎも決まったそうで何よりです。
そして応援していた勇儀姐さんですが、77位(前年と同じ)。
下がらなくてほっと一安心です。



十年後:鬼の祭_陸

 祭りの日だというのにも関わらず、いつも以上に静まり返る町。客はおろか店主の姿までもが消え、そのままの姿で放置された不用心な屋台。それは町全体が一斉に神隠しにでもあったかの様。

 不気味な雰囲気が漂う中、彼女達はそこにいた。

 

??「あっれ〜?」

??「誰もおらんの」

??「日にちを間違えたんじゃないの?」

??「いや、間違いなく今日からのはず……」

 

 宝船の御一行である。

 

村紗「店員さんもいないね。セルフサービス方式になったのかな?」

雲山「むー……、ちと上から様子を見てみるかの」

ぬえ「あ、ブドウ飴♡ お金置いておけばもらって行ってもいいよね?」

 

 視線は完全に獲物をロックオン。開いた口からは(よだれ)がダラダラ。今は『待て』の状態、そんな彼女へ送られる飼い主からの指令は、

 

一輪「却下」

 

 『待て』続行。

 

一輪「いったいみんな何処へ……」

 

 そう呟きながら周囲を見回す入道使い。小道にも目を向けてみるもやはり誰もいない。「日を改めて訪れる事にしよう」と、決断したまさにその時だった。

 

  『はーーーッ!?』

 

 怒気混じりの巨大なため息が聞こえて来たのは。

 

ぬえ「何今の?」

村紗「一輪!」

一輪「聞こえてる。雲山、何処から?」

雲山「大穴の方からじゃ。灯りが見える」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 現れるなり人差しで指差し、最強の鬼へ暴言を吐く町一番の最弱。その少年へ観客から送られたのは「よく言った!」という賞賛の声でもなければ、「またまたご冗談を」と呆れた笑い声でもなく、

 

  『ふっっっざけるなーッ!!』

 

 罵声(ばせい)。そして次々と土俵上の少年目掛けて投げられる野次とゴミの数々だった。怒りのオーラが充満する会場。そう、彼は全てを話していた。己の大事な娘が傷付けられた事を、命の危険に晒されている事を。そして、それが少年によるものであると。

 

親方「大鬼てめぇ……、恩を仇で返す様な真似しやがって。その上なんだぁ? その口の聞き方は」

 

 声を荒げない静かな口調。されどドスの効いた重低音の声は、相手を威圧するには充分。それは、彼が隣にいる親友と闘った時には見せなかった別物の怒気だった。

 

蒼鬼「大鬼、今の言葉を取り消せ。それでこの場できちんと詫びろ」

 

 それは彼の友人としての、少年の師としての忠告だった。彼はこの場でただ一人少年にも見方をし、中立という立場で事を穏便に済まそうとしていた。

 

蒼鬼「馬鹿な考えはよせ。お前にその理由は……」

大鬼「申し訳ありません!」

 

 その忠告に従い、土俵に頭を付けて謝罪する少年。だが、

 

大鬼「師匠、本当に申し訳ありません!!」

 

 それは彼自身に向けられたものだった。

 

大鬼「もう引けません! 自分は萃香さんにも罰を受けさせてしまいした!」

 

 大声で叫んだ少年の声は会場に反響し、会場をどよめかせた。

 さらに激しくなるブーイング。まさに火に油だった。そして、残されていた唯一の味方は……。

 

蒼鬼「チキショーッ! キサマよくも……よくも萃香まで!」

 

 少年を敵と見なした。怒りを露わにし、弟子に襲い掛かろうとする師。だが背後から肩を捕まれ、阻止された。振り向き様に彼が目にした物は、

 

親方「ソウ、悪いがそいつは譲らねぇ。ここは任せてくれねぇか?」

 

 血走る親友の目だった。

 

蒼鬼「ぐっ……。萃香は!?」

大鬼「控え室……勇儀さんと同じ所にいます」

 

 娘の身を案じて走り去る師。尚も頭を下げ続ける弟子の横を通り過ぎる際に、鋭い眼光で睨みつけて。そして彼は見た。少年の目に宿る確固たるものを。

 

蒼鬼「くそッ! 何を考えてんだアイツは」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 時を(さかのぼ)る事数分。少年が去った小屋では……。

 

??「私達も行った方がいいって……どういう事?」

 

 投げ掛ける質問。対する答えは、

 

??「それ本当!?」

 

 待った無しで覚る。だがそれは心を読んだのにも関わらず、思わず聞き返してしまう程の出来事。

 

お燐「さとり様、教えて下さいニャ」

 

 頬に涙の跡を残しながら、不安気な視線を送る猫娘。その彼女に答えたのは、その場に居合わせた少年だった。少年は語った。最強の鬼が告げた事を。一字一句漏らす事無く、会場の雰囲気を生々しく。そして最後に、

 

和鬼「アイツは……町中の敵になった」

 

 と自身の考えを一言だけ残した。

 視線を落として黙り込む一同、それぞれが考えを巡らせていた。

 

??「当然でしょ」

 

 そんな重苦しい空気を真っ先に断ち切ったのは、橋姫だった。

 

パル「勇儀と萃香をこんな目に合わせたんだから。いい気味」

 

 少なからずこの考えに賛同する者はいたはず。だがそれを彼女の様に口にする者は、その後も現れなかった。ただ黙って下を向くだけ。

 口に出来ない者達の想いを察してなのか、橋姫は感情が壊れた友人に視線を向けながら、さらに続けて語り出した。

 

パル「勇儀だってきっと…………え?」

 

 目を見開いて口を閉じぬ橋姫の様子に、一同の視線がそこへ集まる。

 

  『勇儀!?』

さと「みんなどいて!」

 

 駆け寄る者達へ離れるように指示を送る覚り妖怪。慌てながらも第三の目を彼女へ向けて能力を発動する。

 全員が固唾(かたづ)を飲んで見守る中、出された診断結果は……

 

さと「……」

 

 首を横に振る覚り妖怪。それが意味するものは、覚めない悪夢。

 

さと「でもどうして……」

 

 心が壊れ、何も感じられなくなってしまった彼女。

 

さと「棟梁様、みんな。お願いがあるの」

 

 その瞳からは、一筋の光が流れていた。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 会場は、再び荒れていた。

 

親方「どこまでも救えねぇヤツだ」

 

 師へ誠心誠意の謝罪を行なった少年は今、

 

大鬼「……」

 

 その姿勢を解き、真っ直ぐ最強を見上げていた。そして少年は再び彼を指差し、会場中の野次を打ち消すような声で叫んだ。

 

大鬼「ジジイ! (さかずき)(ひょう)を賭けて俺と闘え!」

  『はーーーッ!?』

 

 観客全員が一斉に上げた声は、遥か頭上の地上の植物をざわつかせ、動物達をその場から遠ざけ、地底世界全域を振るがした。

 

客①「頭にのんな!」

客②「お前なんかに賭ける代物じゃねぇんだよ!!」

客③「親方様やっちまえ!」

 

 少年が()いた油は会場中の怒りを(あお)り、ピークを迎えさせていた。

 

親方「お前は何を賭ける?」

 

 賭け。それは互いに等価の物を出し合うという事。鬼の2つの宝への対価として少年が賭ける物は、

 

少年「負けたらここを出て行く」

 

 地底世界からの別れ。考えに考え抜き、少年が賭けられる唯一のものだった。

 

親方「はっ、それじゃあ釣り合わねぇ」

 

 だが彼はそれを鼻で笑い一蹴した。

 

親方「世話になっていた者への裏切り行為……」

 

 拳を強く握りしめる最強。

 

親方「お前は仲間を裏切り、(おきて)を破ったんだ!」

 

 静かに放たれていた怒気は、

 

親方「それだけでも町から追放ものだッ!」

 

 徐々にその姿を露わにしていく。

 

親方「だが逃がさねぇ、逃してたまるか!! お前には嫌ってほど地獄を見せてやる!! 息つく暇もなく、殺してくれと懇願しても殺さず、苦しみを味あわせ続けてやる!!」

 

 そして全面に出された怒気を少年に向け、

 

親方「地獄行きを賭けろおおおッ!」

 

 賭けるべくチップを言い放った。

 

少年「上等だジジイッ!」

 

 叫び声を上げて最強に突っ込んでいく最弱。彼を味方する観客はゼロ。完全アウェーの状況の中、勝ち目ゼロの勝負のゴングが鳴った。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

??「萃香ッ!」

 

 ドアを勢いよく開け娘の名を叫ぶ彼。しかし目に飛び込んで来たのは娘の姿ではなく、

 

蒼鬼「お前達、勇儀を何処へ連れて行く気だ?」

 

 担架に乗せられ、運び出されようとする親友の娘だった。一同を威圧する怪訝な表情を浮かべる彼。返答次第では……

 

??「これには訳があるんだ」

 

 と、そこへ彼に答えたのは甥だった。

 

蒼鬼「訳?」

お燐「そうですニャ」

ヤマ「勇儀を助けるためなんです」

キス「フッフッフ……。僅かな可能性に賭けて『大鬼の側に』と町長が」

パル「妬ましいけど」

蒼鬼「そうだったのか。棟梁も町長もさっきすれ違った時にそんな事言ってなかったもんで……」

 

 事情を把握すると、彼は道を開け一同を通した。

 包帯を失った片腕は外傷の完治を伺わせる。だが顔へと視線を向けると、薄っすらと覗く光を失った瞳。そこに彼は映っていただろう。しかし横を通り過ぎる親友の娘は何の反応も示さず、脱力した姿で横たわっているだけだった。「自分の娘も」と焦る気持ちの中、彼は祈る想いで医者へ尋ねた。

 

蒼鬼「萃香は?」

医者「勇儀ほど酷くはない。嬢ちゃんも『心は残っている』と言うておった。大鬼に大事な事を伝えようとして堪えたらしいの」

蒼鬼「そうか、よかった」

 

 どっと大きなため息を零す彼。だがほっとしたのも束の間、医者は彼の目を皿にする真相を告げた。

 

医者「それと和鬼曰く、罰を受けた時に大鬼も一緒に受けていたそうなんじゃ。それで電撃が分散したのも幸いしたんじゃろ」

 

 それは少年を見た時に覚えた違和感。少年の服は所々焦げ、肌はいつもに比べて赤く変色していた。

 

蒼鬼「アイツ……そのままだったのか」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 先手を取った少年。助走の勢いをそのままに、拳の左ストレートを繰り出していた。試合開始早速の禁じ手に観客席から野次が上がるかと思いきや、その事に触れる者は誰もいない。行司不在のまま、ルールの明示もないまま始まった相撲だが、会場中の誰もが既に察していた。2人が立つ土俵の取り決めを、その意味を。

 そして少年が放った拳は、見事最強の頬を捕らえていた。鼓膜を揺るがす音が、拳から伝わる感触が少年を「手応えあり」と確信させていた。だが次に少年が見た物は、事態を急転させ、窮地に追い込む物だった。小さな拳で触れられた最強は……笑っていた。

 思惑とは裏腹に自由を求め、衝突をする事も多々あった。それが原因で疎遠状態になっていた事もあった。結婚もせず、浮いた話もなく、酒を飲んでは賭博場に頻繁に出入りする彼女に、本気で心配する時期もあった。それでも幼い頃は彼を父様と呼び、あどけない笑顔で慕ってくれていた愛娘。そんな彼女が人間の子供を救い、ここまで育てた。それは彼にとって心から誇れる事。

 美しく優しく力強く育ってくれた自慢の愛娘。彼女を死の淵へと追い込んだその代償は……。

 右脇腹で握りしめる拳に宿る、止まぬ憎しみと怒り。反対の手で確かに捕らえた敵。回避は不可能、最強が放つ最初の一打は数年前の決まり手。究極破壊兵器の

 

親方「『大江山颪イイイッ!!』」

 




【次回:十年後:鬼の祭_漆】
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