東方迷子伝   作:GA王

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十年後:観客

 一方、土俵上では弱った餌を目指して大量に押し寄せるハイエナの群れに、

 

勇儀「あいつら……」

萃香「()らしめないとダメかな?」

和鬼「手をかそうか?」

ヤマ「私が網で押さえるよ」

キス「フッフッフッ……、一狩りいこうぜ」

 

 苛立ちを覚え始めていた。

 鋭い視線で睨みつける長身の四天王、

 拳を鳴らす小さな四天王、

 冷静な表情でやる気満々の純潔の鬼の少年、

 自慢の糸の準備を始める土蜘蛛、

 そして何処から出したのか、巨大な鎌に鬼火を乗せて構える桶妖怪。

 それぞれが戦闘モードへ。だがそこへ

 

さと「待ってください!」

 

 彼女達の前に覚り妖怪が背を向けて立ちはだかり、視界に迫る観客達を映したまま続けて口を開いた。

 

さと「ここからは私の仕事です」

 

 それは町長として、最高責任者としての使命。そして恩師が示してくれた道の先へ皆を迷わず、寄り道などさせずに導くために、

 

さと「お燐、お空!」

お燐「はいニャ!」

鴉 「カーッ!」

 

 構える地霊殿組。鳴き声と共に舞い降りたカラスは着地と共にトランスフォームを開始し、あっという間にゆで卵大好き娘へ。さらにそこへ、

 

??「『表象(ひょうしょう)弾幕(だんまく)パラノイア』♪」

 

 ハイエナの群れへ発射される白色の丸い光弾。それは突き進む彼等の目下で爆発音と共に粉塵を巻き上げ、彼等に一時停止を(うなが)した。

 

さと「ナイスタイミングね。こいし」

こい「なんとなく『そろそろかな〜』って思ってね♪」

お燐「アタイもいつでもいけますニャ」

お空「うにゅ? 何するの?」

お燐「いいから技の用意をするニャ!」

お空「わ、分かった。じゃあウッホミラクルスペシャル……続きなんだっけ?」

お燐「そん(ニャ)の知ら(ニャ)いニャ! もう光弾を出すだけでいいニャ!」

 

 この状況下でもゴーイングマイウェイを貫く地獄鴉に、やいのやいのと催促する猫娘。だがその間にも彼等は再び動き出していた。

 

  『ウオオオオッ!』

 

 その目に怒気、狂気、欲望をギラつかせて。

 

お燐「ニャーッ!? お空応戦するニャ! 狙いは足下ニャ『猫符(ねこふ)怨霊(おんりょう)猫乱歩(ねこらんぽ)』ニャ」

お空「うにゅー!」

こい「『復燃(ふくねん)(こい)埋火(うずみび)』♪」

 

 宣言される2種のスペルカードに加え、滅多打ちの通常光弾は分厚い弾幕となり彼等の数歩手前の地面に着弾。複数、多数の破壊音を上げて分厚い砂塵のカーテンを生み出し、彼等の前に一本のレールを描いた。

 

さと「その線を超える事を許しません。皆さんのお気持ちはお察ししていますが、これ以上騒ぎを起こすようならそれ相応に罰します。罰はそうですねー……『トラウマスペシャル豪華3本立て、6時間たっぷりのフルコース』なんていかがでしょう? 一人一人が抱えてるあんなトラウマ、こんなトラウマ、そんなトラウマまでを繊細に、夢に出てくるまで思い出させてあげますよ?」

 

 きりっとした顔の後、愛らしい笑顔で放たれた罰則を前に、慌てて大きく10歩後退するハイエナ達。誰もが抱えているあんなトラウマ、こんなトラウマ、そんなトラウマをぼんやりと思い出し、恐れ(おのの)いたのだった。

 

さと「希望者はゼロですか」

 

 「これで一段落」と現・町長か肩の力を抜いたまさにその時、

 

??「認めねーぞ!!」

 

 怒りの感情に満ちた彼が目を覚ました。

 

親方「負けてねぇッ! まだ勝負は着いてねぇ!!」

 

 否、

 

こい「お姉ちゃん、アレ無意識だよ♪」

 

 意識を失ったまま。今彼を動かすもの、それは最強の鬼としてのプライドのみ。

 

さと「親方様……」

こい「私が相手しようか?」

さと「……いえ、その必要はないみたい」

 

 観覧席から転がりながら落下するも、ダメージを物ともせずにそのまま少年に向かって猪の如く突っ走る。彼を止めようと構える一同だったがそこへ、

 

??「鬼さん、私を失望させないでくれるかな?」

 

 舞い降りる女神。

 

ヘカ「あなたは負けたの。潔く認めなさい」

 

 優しくそう告げるも、彼の耳にはその言葉は届かない。更に加速し女神の目の前まで一気に距離をつめる。

 

ヘカ「やれやれだわ」

 

 開いた右手を前へ。中指を折り曲げて親指でセット。彼の額に照準を合わせ、

 

ヘカ「おやすみ」

 

 発射。

 

 

ピンッ

 

 

 子供からご年配まで、誰もがよく知っている技。「シッペ」「ババチョップ」と肩を並べる罰ゲームの三代巨頭の一つ。通常そのダメージ量は「あいたっ」程度ではあるが、これを地獄の女神が放つと……。

 

 

バッッッコーーーーーンッ!!

 

 

 対象物は巨大な弾丸となり、受け止めるはずの壁に穴を開けて貫通させる。

 

ヘカ「あっちゃー……。ちょーっと力み過ぎたかな?」

  『ちょーっと?』

 

 ただのデコピンが今日一番の破壊力を披露し、間髪入れず本音がもれる一同。そしてその甲斐もあってか、下に降りていた観客達はいそいそと自席へと戻っていた。

 

一輪「さすが女神様だね」

村紗「あーあ、結局私達の出番無かったね」

一輪「でもこれが最善だよ。村紗行こう」

村紗「え? もう行くの?」

一輪「雲山探さないといけないし、これが終わったらまたお祭りやるでしょ。きっと混むよ」

村紗「そうだね。それよりもあの子……大鬼君ってやっぱり」

一輪「あの時の人間だね。村紗の予想は正しかったよ」

村紗「それなのになんであんな力を……」

一輪「もう考えるのはよそう。私達は少し知り過ぎたよ。もう彼達とは距離を置いた方がいい」

 

 土俵に背を向けて会場を出て行く入道使いと、彼女の後を追う舟幽霊。この日彼女達が知った事実はあまりに大きく、ショックなもの。それ故に「これ以上関わらない方がお互いのため」と提案するが、

 

村紗「絶対イヤッ! 明日カズ君と一緒にお祭り回る約束してるの!」

 

 リア充にそれは通じない。

 

一輪「ああ、はいはい悪うございました。あれ、そう言えばアイツは?」

村紗「ん? あれ? ぬえ?」

一輪「あのヤロー……」

  『逃げやがった!』

 

 泣き虫にして面倒臭がりで、

 

ぬえ「へへーんだ」

 

 イタズラ好き。

 騒ぎに便乗して試みた101回目の脱走は無事成功。天井からぶら下がる鍾乳石の陰に身を隠し、怒り狂う2人をドヤ顔で見下ろしていた。

 

ぬえ「やーっと自由だ。もう捕まってたまりますかってゆーの。それよりも……」

 

 そう呟きながら移した視線の先には、長身の四天王に抱えられて横たわる少年が。共にしていたのは合わせても1日にも満たない僅かな時間。だがそれでも彼女にとっては「少しだけ楽しい時間」だった。

 

ぬえ「アイツが人間だったなんて……」

 

 遠い昔、姿を変えては人間の前に現れ、驚き、怯える様を楽しんでいた彼女。だがある時本来の姿がバレてしまい、ここ地底に人間達の手によって封じられた。その経緯もあり、彼女は……。

 

ぬえ「人間は嫌い。(だま)しやがって」

 

 根が深いが故に思い込みも激しい。彼女がそう捨て台詞を残し、その場から立ち去ろうと方向転換した矢先、

 

ぬえ「ん? なんだろアレ?」

 

 あるものが目に留まり動きを止めた。それは宙に浮いていたからこそ気が付けた事。地上へと繋がる穴の物陰に、会場を見下ろす2つの人型のシルエットを発見したのだった。一つは彼女より背が高く、色々な部位も豊かで縄を背負った大人の女性。そしてもう一つは黄金の頭に不思議な帽子を被った少女だった。

 見慣れない上にただならぬ雰囲気を(かも)し出す2人に、興味本位で近づいて行く彼女。バレないように気配を殺してそっと。

 イタズラ好きの感。これ以上近付けば感づかれるギリギリのラインで進行をストップ。そして全神経を耳へと集中し、いざ盗聴開始。

 

大女「なかなか賑わってるねぇ」

小女「これが地底世界かー。楽しそうだね」

大女「それよりも見たかい?」

小女「最後のところしか見れてないけどね」

大女「ふふふ、あの力にあの根性。最高じゃないか」

小女「それにまだ若いね。早苗と同じくらいかな?」

大女「鬼だから年は分からないけど、きっといい素材になるだろうねぇ。けど今は……」

小女「地獄の女神達がいて分が悪いね。出直す?」

大女「そうだねぇ、今回は引くとしようか。次会う時を楽しみにしてるよ少年♡」

 

 少年へ熱いウインクを飛ばして遥か上を目指す2人。そして……

 

ぬえ「ななななんかヤバそう……。ででででもでも、私には関係ない、関係ないんだからー……☆」

 

 真っ青な顔でガタガタ震え、その場から高速で逃げ去る彼女だった。

 そんな事が頭上で起きているとは思いもしない地底組御一行。ようやく鎮圧した騒ぎにホッとしていた。

 

さと「ヘカーティア様、ありがとうこざいます」

ヘカ「いいって、これも女神の仕事だから。それよりも後で鬼さんに言っておいて。『やり過ぎてごめん』って」

さと「承知しました」

ヘカ「で、大鬼君久しぶり。元気にしてた?」

大鬼「あ、はい」

 

 女神様からの質問に、当たり障りなく無難な返事をする少年。だがそれでも女神はにこりと笑顔を見せて2度頷き、

 

ヘカ「それと……」

 

 少年と眠り姫を交互に眺めると、

 

ヘカ「2人共仲直り出来たの? リミットまでもう10分切ってるけど?」

 

 涼しい顔で爆弾を投下した。

 被弾し目を見開いて固まる一同、だがそんな余裕すらも許されない。

 

勇儀「なんだいリミットって?」

ヤマ「仲直り出来ないとあの電撃が再発するんだよ!」

勇儀「はーーーッ!?」

お燐「でももう仲直り出来てるから大丈夫ニャ! ですよね、さとり様?」

さと「えっ、私!? 私に聞かれても分からないわよ!」

こい「お姉ちゃんにも分からないの?」

勇儀「いや、でも私は大鬼の事は……」

萃香「そもそも仲直りの基準って何?」

キス「フッフッフ……『仲直り:仲たがいしていた者が、もとのように仲良くなる事』」

お空「うつほ知ってるよ。仲直りするには『ごめんね』って言えばいいんだよ」

  『ちょっと黙ってて!』

お空「うにゅー……」

 

 「今のままで大丈夫なのか、問題ないのか」と慌て出す一同。あーじゃない、こーじゃないと議論を交わすも答えは見つからない。それもそのはず、『仲直り』の基準があまりにも曖昧なのだから。

 

和鬼「大鬼、お前は勇儀さんの事許せるのか?」

 

 そこへ少年に歩み寄り、問いかける腐れ縁。だがその質問は彼女達からすれば検討違い。勇儀に尋ねるのならまだしも、少年に向けて尋ねたのだから。彼女達は一様に眉間にシワを寄せ「何を言っているんだ?」と首を傾げた。

 

大鬼「う、うん」

和鬼「本当に? ずっと勇儀さんに腹立てて、家を飛び出して、譲れないものがあったんじゃないのか?」

大鬼「……」

和鬼「黙ってやり過ごすつもりかよ! それで仲直り出来たっていえるのかよ!?」

 

 少年は腐れ縁からの一言にハッと目を丸くすると、勇儀へと視線を移して口を開いた。

 




【次回:十年後:注いだ酒のランクを上げる盃】

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