◇ ◇ ◇ ◇ ◇
勇儀「ダイ゛ギー」
決壊したダムの所為で目から鼻から滝を生み出した彼女。こうなってしまってはもう枯れるまで流すしかない。
勇儀「エグッ、ヒグッ……」
おまけに
ヤマ「勇儀、良かったね」
萃香「いいなー……」
キス「フッフッフッ……、ちょっと泣いて来る……」
と祝福する一方で、
さと「時間は!?」
リミットまでの時間を気にしてもいた。
さとり妖怪のその一声で、一同の視線は瞬時に彼女達の女神の下へと向けられる。その心中は「他にやれる事はないか」といった心配よりも「これでダメだったら」といった不安が支配していた。
皆が全神経を耳へ集中させて固唾を飲んで待つ中、女神は少しだけ間を置き、崇拝する下々に向かって口を開いた。
ヘカ「もうとっくに延長戦」
にこりと微笑んで。
和鬼「そ、それじゃあ……」
ヘカ「救出成功だよ、おめでとう」
『やったーッ!!』
何事もなく過ぎたデッドラインに喜びの声を上げ、ガッツポーズを取り、ハイタッチを交わす一同。その中にはもちろん、
??「ぱーるぱるぱるぱるぱる(泣)」
救われた眠り姫に抱きついて歓喜の涙を流す者も。
勇儀「パ、パルスィ?」
パル「ぱーるぱるぱるぱるぱる(泣)」
「想いはNo.1」と自負し、勇儀に遠くから、近くからどこからでも熱い視線を送る彼女。その想いが暴走して近頃では『純度100%の下心』を丸裸にし、強引にスペルカードルールの戦いを挑む彼女。そんなこともあり、想い人から煙たがられ、避けられ、逃げられ続けてきた彼女。だが今の彼女に
勇儀「心配かけたな」
その想いは伝わる。
泣きじゃくる橋姫を長身の四天王は、黄色い髪の毛を「ぽんぽん」と2度優しく叩くと、いつになく柔らかな声でそう
と、そこへ……
勇儀「ん? なんか観客がざわついてないかい?」
さと「これは……またちょっとややこしい問題ですね」
お燐「みん
萃香「そうだよ、それを持っていられるのは男だけだよ」
医者「それに欲しかったら戦って奪うしかないんじゃ。古臭い伝統じゃ」
ヘカ「そうだったけ?」
勇儀「そ、そう言えば……。大鬼、気持ちはすごく嬉しいけど、やっぱりこれは……」
念願プレゼントに舞い上がっていたところを「古臭い伝統」よって
勇儀「はーーーあ……」
大きなため息と共に肩をガックリと落としてorz。少年の粋な計らいに感動を受けた者達も「えー……」と言わんばかりの表情を浮かべていた。
大鬼「じゃあ、それ貸す」
勇儀「貸す?」
大鬼「それだったらいいでしょ? じいちゃんも昔師匠から瓢を借りてたし」
勇儀「そうかもしれないけど、私は罰則で……」
数年前に見た光景から「宝の貸し借りは許されているはずだ」と話す少年に対し、自身に課せられた罰則故に「それはダメだろう」と眉をひそめる勇儀。
勇儀「あれ?」
だがそこでふと疑問が。
勇儀「これ金銭の貸し借りの内に入るのか?」
和鬼「金銭はお金のことですよ」
こい「お宝だけどね♪」
お空「うにゅ? そのお皿ってお金なの? ゆで卵何個分?」
お燐「お空はお口にチャックするニャ……」
ヤマ「お金の内に入らないんじゃない?」
萃香「という事は?」
2人の四天王が禁じられているのは、金銭の貸し借り。物品の貸し借りまでは禁止されていない。よって、
キス「フッフッフッ……、セーフ」
となる。が、
さと「勇儀さん大変申し訳ありませんが、その件も待って頂けませんか?」
現・町の長から「待った!」発言。
勇儀「えー……、それまたなんで?」
さと「たしかに罰則が発動する可能性は低いと思いますが、物が物だけに万が一ということもあり得ます」
通貨や紙幣ではないが鬼達の宝であり、価値のある品。それだけに100%何も起きないという確証がない。言うなれば、白寄りのグレーゾーン。『チョコバナナ好き高所恐怖症』が判定すれば白になるのだろうが、
さと「念には念をです」
「石橋を叩いて渡りましょう」ということのようだ。しかし勇儀の心境は「いくらなんでも心配し過ぎでは?」と言ったところ。現・町の長に説得されるも素直に納得できずにいた。そんな彼女の胸の内を能力で悟ったのだろう。覚り妖怪は……。
さと「それに公式の所持者は大鬼君ですが、実質の所持者は勇儀さんになるわけです。初めての女性での所持者ですよ? ですから全例が無い上に、事が事だけに私達の一存では決められませんよ。ですので……」
彼女を
勇儀「もう分かったよ!」
とうとう折れさせた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さと「事が事だけに私達の一存では決められませんよ」
いつか言われた台詞。その上長々と続く説教。波長の所為だろうか? 『秘技:チクワ耳』を発動するも、彼女の声は私の脳でしっかりと受け止めてしまう。
勇儀「もう分かったよ!」
これ以上続けられたら、また放心状態になりかねん。
勇儀「まったく……同じような事を言うなよな」
「誰に」なんて
さと「いや〜それほどでも〜」
拾うな、悟るな、そんでもって頭かきながらニヤニヤするな!
勇儀「
母さんを
さと「はい、ありがとうございます。大鬼君の意思を尊重するようにしますので」
コイツまた……。
さと「あ……」
勇儀「だーかーらッ!」
さと「ごごごごめんなさい」
医者「おい勇儀、そろそろ大鬼を運びたいんじゃが?」
診療所の爺さんに言われて大鬼に視線を向けると、折れた右腕には添え木が当てられ、包帯で固定されていた。他にも血が出ていた額、殴られて蹴られて飛ばされて
勇儀「お化け?」
そんな感じだ。
大鬼「うっさい!」
勇儀「あっははは、悪い悪い。それじゃあ私が運ぶよ」
とは言ったものの……。
パル「ぱーるぱるぱるぱる(泣)」
さっきからずっとこの調子だ。私にしがみ付いて離れようとしない。
勇儀「なあパルスィそろそろ……」
パル「ぱーるぱるぱるぱる」
声を掛けてみるけど聞こえているんだかいないんだか……。でもいい加減に離れてもらわないとこっちも困る。
勇儀「これどうしたらいい?」
ヤマメ達に相談してみても、肩をすぼめて無言で「さあね」と。
パル「ぱーるぱるぱるぐふ(泣?)」
勇儀「参ったな……」
パル「ぱーるぱるぐふふふ(泣??)」
Grip♡
勇儀「あ〜ん?」
パル「ぐふふふふふふふ♡」
Gri〜p♡ Gri〜p♡
勇儀「……」ワナワナワナワナ
パル「パール♡ パルパルパルパル♡」
ガッ!(パルスィの服を掴む音)
パル「パッ!?」
勇儀「お前さんはナニヲシ・テ・イ・ル・ダ~?」
パル「しまった1回だけのつもりがつい夢中に」
勇儀「ほほー……」
大鬼「はい、いってらっしゃーい」
和鬼「出た七不思議の誤情報」
ヤマ「パルスィ、今回は同情しないから」
キス「フッフッフッ……、アウトー」
お空「ちゃんと『いい?』って聞かないとダメなんだよ」
お燐「それでもだめニャ」
こい「わ〜♪」キラキラキラキラ☆
さと「でもこれが
萃香「大きいからなんだって言うのよ! 私はステータスだー!」
ヘカ「なになに? 何が始まるの?」
医者「カッカッカッ、恒例行事ですじゃ。後はその場の雰囲気に任せてくれれば結構ですじゃ」
メラメラと、
勇儀「何かいう事は?」
パル「お、おかえりなさーい」
勇儀「ただいまーーーーーッ!!」
パル「ルううううああああぁぁぁぁ。。。……☆」
勇儀「ドサクサに紛れてセクハラするなんてふてぇヤツだ! いいか覚えておけ! 私はそういう輩がこの世で一番嫌いだ!!」
『はいッ!!』
振り向けば会場一丸で綺麗な敬礼を。いや、ヘカーティア様までそんな……。それとこいし嬢、そんな目で見られても今回はやらないからな。
ともあれ、
勇儀「大鬼立てるか?」
コイツを運ばないと。
勇儀「大鬼?」
返事がない大鬼を不思議に思って覗きこんでみると、
勇儀「おい大鬼どうした!?」
目の焦点が合ってない上に呼吸も荒い。さっきまで元気に話しをしていたのに。それに、
勇儀「あつッ!」
とんでもない熱。只事じゃないと瞬時に察せる程に。
医者「いかん、急いで連れて行くぞ!」
診療所の爺さんにそう告げられ、私は……
勇儀「わかった!」
ガッ!(爺さんの服を掴む音)
医者「おい?」
勇儀「みんな後を頼む!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「後を頼む」そう告げて小脇に2人を抱え、砂埃を巻き上げて走り去る彼女を呆然と見送る一同。だったが、
『ふー……』
一斉にため息を吐き、額から流れる一筋の汗を拭ぐい出した。
ヤマ「もー、一瞬ヒヤッとしたよ」
こい「『びゅーん』ってやらなかったね♪」
萃香「流石にそれは無いと思ったけど、あれはあれで体に響くよ。大鬼、大丈夫かな?」
ヘカ「病人とお年寄りは大事に扱わないとダメだからね、いい?」
お空「はーい」
和鬼「それくらいは
キス「フッフッフッ……。勇儀よ、言われてるぞ」
お燐「さとり様どうしましょうかニャ?」
さと「私は棟梁様達の所に戻ってこの場を静めます。お燐達は親方様を診療所に連れて行ってあげて。あと長老様の手伝いもしてあげて。お願いね、ヘカーティア様行きましょう」
的確な指示を出し、女神と共にVIP席へと急ぐ現・町の長。主役がいなくなっても彼女の仕事は尽きない。寧ろここからが本番と言ったところだろう。そして彼女に「最強だった」鬼を郵送するように依頼された一同は、
『って言われてもねー……』
困惑していた。
「運べ」と簡単に言うが、巨体にして超重量。その上力自慢で最強
??「それならオッサンがやろう」
今まで黙って事の成り行きを見守っていた片角の鬼だった。
蒼鬼「アイツが暴れ出したらそん時はオッサンが相手してやる。でも運ぶのは流石に1人じゃ無理だ。萃香と和鬼、手を貸せ」
身内に協力するように指示を出し、その場を仕切り始めた。
蒼鬼「それとヤマメ」
ヤマ「は、はい!」
突然リーダーに呼ばれ、姿勢を真っ直ぐにして身構える蜘蛛姫。そんな彼女に彼はくすりと笑った後こう尋ねた。
蒼鬼「でかい担架を作れるか?」
と。今この場にあるのは眠り姫を乗せていた担架だけ。それでは「親友を運ぶのは困難」という判断からだろうが、即興で担架など……。
キス「フッフッフッ……、それは愚問だね」
否、彼女にそんな物は朝飯前。なぜならかつては少年達の遊具を作り、現在はプロとして活躍している
ヤマ「もちろん、任せて下さい」
巨匠なのだから。
お燐「アタイも手伝うニャ」
さらに増える協力者。依頼を受けた当人である以上、協力するのが道理。少し遅ればせながらも、挙手して参加の姿勢を見せる猫娘だった。しかしそうなると1つ困った事が。それが
お空「お燐、うつほはどうしたらいい?」
彼女の存在。力はそこそこあるが、診療所について手伝いができるかと問われれば、間違いなく邪魔。という事で、
お燐「お空はここでこいし様とちょっと待ってるニャ」
妹君と留守番確定。が、
お空「うにゅ、それでこいし様は?」
お燐「あれ? さっきまでそこに……」
そこは無意識で放浪癖のある妹君。
お燐「またどっかに行っちゃったニャ……」
ふらふら〜♪ と何処へやら。という事で、
お空「じゃあ桶ちゃんと待ってる」
桶姫に白羽の矢が立つ。
キス「フッフッフッ……、ふぁッ!?」
家はトラウマを生み出すリアルホラーグッズ屋敷。その上、桶の中にもお気に入りを忍ばせている彼女。
お燐「すみませんがよろしくお願いしますニャ」
お空「よろしくねー」
キス「む、無限ループ……」
そんな彼女ではあるが、繰り返し訪れる精神攻撃が
キス「怖い……」ガタガタガタガタ
数年前から大のトラウマ。
ーー最強救出中ーー
深い眠りに落とされた大きな鬼を無事運び出す事に成功した片角のオッサンとその娘、甥、そして猫娘。巨匠がその場で作り上げた担架に乗せ、保険にと糸でぐるぐる巻きに。その診療所に向かう道中、先程の試合の話になりーーーー
蒼鬼「なんか引っかかってるんだよなー……」
萃香「親父も? 私もなんだよねー……」
和鬼「オレもオレも。何か忘れてる気がするんだよ」
お燐「アタイもニャ。すごく大切
天井を見上げてアレやコレやと思いを巡らせる4人。だが結局思い浮かばないまま目的地へと到着し、
『ま、いっか』
考えるのをやめた。
翌日、試合後に騒ぎを大きくした罰で、全体責任という判断の下、町内一斉清掃活動が行われた。その一環として会場の整備も実施され、その際に土俵の瓦礫の中から若い鬼が
『ャ……無茶しやがって』
と呟いたそうな。そして診療所へと運ばれる道中、目を覚ました彼は
鬼助「なんでオイラだけ……」
と、しくしく泣いていたそうな。
【次回:十年後:】
今回は秘密です。べべべ別にまだ決まってないとか、そそそそんなんじゃないですから!