東方迷子伝   作:GA王

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Ep.1では自分自身にある縛り(制約)を
付けて書いてました。
例えば、擬音を除く外来語を使わない事です。
そうした方が自分の思い描く地底世界に
近いものが書けそうで挑戦し続けましたが、
かなり苦戦していました。


魔法使い_※挿絵有

 うー……、頭がズキズキする……。

まず思ったのはそれだけ。急に襲われた激しい頭痛に不安を覚え、手と足に力を入れて動作確認を……。うん、動く。

 五体満足である事にほっと一安心。そして意を決して恐る恐る目を開け……。うわっ、眩しっ。

 強くは無い光だと思う。でも「眩しい」と感じたところから察するに……、もしかして長い間目を閉じていた? などと考察をしながら、未だ焦点が合わない目で、ぼんやりと呆けていた。

 暫くたった頃、だんだんと目が慣れてきて、僕の置かれた状況が分かってきた。

 まず、ベッドで横になっている。頭にふかふかの枕、体には薄手のタオルケットが掛けられている。

 次に、木造の天井。そこには吊るされたランタンがある……。終わり。今分かるのはここまで。

 更に情報を得るため、重い頭をゆっくりと持ち上げると、

 

 

ガタン!!

 

 

優希「!?」ビクッ!

 

 突然の物音にビックリ。全身の毛という毛が逆立ち、心臓は一瞬フリーズ。慌てて視線をそちらに向けると、そこには倒れた椅子を元に戻している女性がいた。

 

優希「え?」

 

 僕は目を疑った。その人の姿が、あの時見たフィギュアと全く同じだったからだ。アリスのコスプレ流行ってんの?

 僕が物珍しそうに見ているのがバレたのか、その人は気まずそうに視線を()らした。それに釣られる様に、僕も視線を天井へ逸らしていた。

 

??「ケガ、平気?」

優希「……」コクッ

??「痛み、無い?」

優希「……」コクッ

??「そう、良かった」

優希「……」コクッ

??「……」

優希「……」

 

 僕の記念すべき初の女性との会話終了。その余韻に浸りたいところだけど、色々分からない事がある。ここは何処? この人の家? 何でコスプレ姿? 今何時? 水もらえないかな? etc……。

 頭の中で聞きたい事が山ほど(あふ)れてくるけど、どう切り出していいのかが分からない。いきなり質問しても変に思われるかもしれないし、失礼だよね? さり気無く「すみません」とか、「ちょっといいですか?」って言った方がいいよね? よし、言うぞ! あと10数えたら言うんだっ!

 1……2……3……4……5……6……7……8……9……じゅぅ…………だああ

 

  『あのっ!』

 

 被った……。

 

??「どうぞ、お先に……」

優希「ィェ、ド、ゾ……」

??「……」

優希「……」

 

 気まずい時間が流れる。今ので絶対変な人だと思われた……。もういい、変な人ですよ……。変人は用を済ませてとっとと帰りますよ……。

 

優希「イマナンジデスカ?」

??「時間? 21時くらい?」

優希「ここッテ……」

??「私の家」

優希「オ水くだサイ……」

??「待ってて」

 

 コスプレした人はそう言い残すと、凛とした表情で部屋から出て行った。そして一人になったところで、女の人と初めて()()()会話できた事実に、小さくガッツポーズ。僕も頑張ればできるんだ!

 

 

コンコン……。

 

 

 そうこうしていると、扉から優しいノック音が。そしてガチャリという音と共に、扉がゆっくりと開き、両手でトレイを持ったさっきの人が、出て行く時と同じ表情でそこにいた。トレイの上にはコップと水差し、あとクッキーの様なものが見える。その人はトレイをテーブルの上に置くと、コップに水を入れて運んで来てくれた。

 

??「どうぞ」

 

 人形みたいに整った顔。「綺麗な人だな」とは思っていたけど、近くで見るとその印象が更に強くなる。フィギュアとは少し違うけど、雰囲気はかなり似ている。それに柔らかくて甘い香りが。僕には刺激が強すぎます……。

 

優希「ぁ、ぁりがト……」

 

 もらったコップに口を付け、水を一口……。

 

 

ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……。

 

 

 一気に飲んでしまった……。

 

??「まだ、いる?」

優希「はぃ……」

 

 「厚かましくてすみません」と心で謝罪をしながらも、水をもう一杯だけ頂くことに。『女性と2人きり』というこの事実に、一人そわそわしていると、今度はコップと一緒に、クッキーも持って来てくれた。

 

??「よければ、これも」

優希「ありがとぅ……」

 

 女性にこんなに親切にされた事なんて、生まれて初めてかも……。母さんはカウントに入れません!

 差し出されたクッキーは、100円玉くらいの小振りな物だった。お言葉に甘えて一枚手に取り、口へと放り込んだ。

 

優希「!?」

 

 サクサクとした食感。中にはナッツも混ぜてある。それでいて、気取らず、飾らずシンプルな味付け。口の中に広がる絶妙なハーモニーに思わず、

 

優希「うまっ! 美味しい!」

 

 大き目のボリュームで心の声が漏れていた。

 

優希「デス……」

 

 大きな声出してごめんなざい……。

 

??「そう、良かった」

 

 そう呟いたコスプレの人は、僕に背を向けて窓の外を見ていた。すると突然振り返り、少し重い表情を浮かべて話し出した。

 

??「あなた、森で倒れてたの」

優希「え?」

??「帰り道の途中で上海が見つけたの」

優希「シャンハイ?」

??「これ、あなたの? 近くに落ちてた」

 

 

コンコン……。

 

 

 その人がそこまで話すと、扉からまた優しいノック音が聞こえて来た。「他にも誰かいるの?」と思いながら、音の方へ視線を向けていると、扉が開き、僕の鞄と道具箱がふよふよとやって来た。そう、「ふよふよ」と。

 「浮いてるっ!?」と、信じられない光景に目を(こす)り、見間違いのない様に改めてじっくりと観察。「下に何かいる?」ここでようやく気が付いた。浮いているのは鞄ではなく、その下の人形(?)。しかも2体。それは徐々に僕の方へ。

 近づくにつれ、その実態が(あらわ)になってきた。2体は間違いなく人形だった。それもフランス人形の様な感じの。メイド服の様なドレスを着せられて。当然人形なので、表情は無。ちょっと不気味……。

 そして2体は、ふわふわふわふわと側までやって来ると、鞄と道具箱を僕の足元に置き、

 

 

【挿絵表示】

 

 

ニコッ。

 

 

 と微笑んだ…………え? 今、笑った? 確かに今、僕のを顔を見てニコッて……。

 もう僕の頭はパニック状態。この目の前で起きている世にも奇妙な現象に、恐怖を抱き始めていた。そして、ついに意を決して聞いてみる事に。

 

優希「あなたは……」

??「アリス・マーガトロイド。魔法使いです」

 

 この回答に僕は「はい?」と更に困惑。脳内はパニックを通り越してパ○プンテ状態。

 落ち着きを取り戻したところで、冷静に状況分析。そして一つの結論に至った。「この人、かなりなりきっているのかな?中○病なのかな?確かにふわふわと浮きながら動いて、笑顔になる人形が不思議だけど、たぶん「ド○ーン」の技術を応用して作られているんだ」と。

 そう思うと、先程の2体の人形へ強い興味が沸き始め、マジマジと観察を開始していた。すると、人形達は照れくさそうな表情を浮かべ、自称アリスさんの後ろへと隠れてしまった。このあまりにも精巧な反応にまたしても、「なんかすごく忠実というか、生きているみたい。すごい技術だな」と感心して関心。

 高精度の人形についてあれこれ考察していると、何やら視線を感じた。ふとそちらへ顔を向けると、自称アリスさんが不思議そうな表情で僕の事を見ていた。あ、また目が……。

 気付くと同時に条件反射で視線を逸らすも、気まずさが爆発し、「まずい、まずい。何か話題を」と脳をフル回転。

 そして苦し紛れに出た言葉が、

 

優希「あの、ここって……」

 

 これ。でもどの辺りにいるのか聞きたかったから、結果オーライ。

 

アリス?「私の家」

 

 あれ~? デジャブかな? じゃなくて、えっと……

 

優希「どの辺りに……」

アリス?「魔法の森の中」

 

 想定外の回答。その言葉に「あー、そういう設定なんですね」と呆れというか、諦めにも近い思いが。そしてその後に込み上げる「新しいイメージ喫茶かな? だとしたら、こうしている間にも追加料金とか発生して……」という不安。そう考えた途端、居ても立っても居られず、

 

優希「あの、僕、もう、大、丈夫、です」

アリス?「え?」

優希「だから、家、帰りまス。ありがとうございましたっ!」

 

 お礼をそこそこに、道具箱と鞄を持って逃げる様にして部屋を出た。

 扉を開けると、中央にテーブルが置かれた広い部屋に繋がっていた。キッチンや暖炉、食器棚等が置いてある。たぶんここは居間、を設定した部屋。生活観が出ていて、まるでずっと人が住んでいたみたいだ。イメージ喫茶の高いクオリティに驚きながらも、周囲を見回していると、扉が目に付いた。その隣には窓。外は真っ暗で様子を伺うことができない。そういえばあの人、さっき21時くらいだって……。

 ここに来てからどのくらいの時間が経ったのかは分からない。でも、自分で進んで来たわけではない。「だからきっと大丈夫」と何事も無く、無事に、且つ平和に帰れる事を祈りながら、恐る恐るお店の外へと繋がる扉を開けた。

 

優希「え?」

 

 けど、目の前に広がっていたのは森。見渡す限り、木、木、木、木、木、木、木、木……だ。

 僕が住んでいる所は車がそこそこ通るし、電車の本数もそこそこある。それに、僕の記憶では『電気とアニメの街』で買い物をして、電車に乗って……。そんな大都会にこんな場所があるはずがない。それに、車とか電車の音も聞こえて来ない。

 

優希「そういえば森で倒れていたって……」

アリス?「そう、この森で」

優希「うわぁ!!」ビクッ!

アリス?「へ!?」ビクッ!

 

 背後から突然声を掛けられ、思わず変な声が出てしまった。

 

優希「ごごごごごごめんなさい」

アリス?「私の方こそ急にごめんなさい。あのね、ここ夜になると、人を襲う獣とか妖怪が活発で、危ないから……」

優希「え?」

 

 そう言われて森へ耳を傾けると……、聞える。遠吠えが、唸り声が、何者かの悲鳴が。それに、禍々(まがまが)しい圧力が、ビシビシと打ち付ける雨のように伝わって来る。

 こんな所に不用心に足を踏み入れ様ものなら……、まず生きて帰って来られないだろう。樹海よりも確実に死ねるね。

 

アリス?「あの……、人里で良ければ……。明日送るから、その……」

優希「?」

アリス?「……」

優希「??」

アリス?「………」

優希「???」

アリス?「…………」

優希「????」

アリス?「ぅ…………」

優希「?????」

アリス?「う……………」

優希「??????」

アリス?「う~……………」

優希「???????」

アリス?「うti……………っ」

優希「????????」

アリス?「家、泊まっていけば?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 自称アリスさんは、赤い顔で上目遣いをしながら、凄まじい威力の呪文を唱えた。もう……死んだ……。

 




「家、泊まっていけば?」
言われてみたいです。

次回:「上海と蓬莱」 
あの2体の人形の話です。
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