東方迷子伝   作:GA王

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新章開始一発目から彼の話です。どうかご了承を。


Ep.6 幻想郷の花見_集合編
【やってきたぜ!幻想郷】嫁候補六人目 ※挿絵有


 『白黒はっきり付ける程度の能力』を持つあの閻魔から、まさかの【保留】というグレーのジャッジを下されたお調子者。その後、仕事を終えた死神に途中まで案内してもらい、彼は今……

 

海斗「ひゃっふ〜、きっっっんもちいいい!!」

 

 空を飛んでいた。それは肉体を離れ、重力と無縁になったからこそなせる技。普通の者ではまず実現ない。己の力のみで空を自由に飛び回ることを『全人類の夢』とまで言い切ったお調子者 は、その夢を叶えたのだった。

 

海斗「よし、じゃあ今度は」

 

 ニヤつきながらそう呟くと進行方向を90度変え、はるか上空を目指す。空をいそいそと飛ぶ鳥よりも高く、空を優雅に漂う雲よりも高く、さらに高く。やがて幻想郷の姿が一望できる程になったところで、

 

海斗「よーい……」

 

 頭を真下へ向け、クラウチングスタートの姿勢へ。もうお判りですね?

 

海斗「どん!」

 

 一気にスピードを上げて急降下。雲を突き抜け、鳥の目の前を超スピードで横切り、あっという間に地面は目前に。

 だが彼は止まる素振りはおろか、ブレーキすらもかけようとしない。そのままの速度で地面を目指す。なぜなら、

 

 

スイッ

 

 

海斗「痛くなーい」

 

 実体がないのだから。乾いたスポンジに落とされた一滴の雫の如く、地面に無抵抗で吸収されたお調子者。さらに立てた人差し指を横に振り、「ノンノンノンノン」と余裕をアピール。だがそこは地中、

 

海斗「なんも見えないな」

 

 という事で再び上空へ。その後も上がったり下がっり、右へ旋回しては左へ旋回しと空中遊泳を楽しむお調子者。もちろん加速も忘れずに。

 自由気ままに飛び続けるそんな彼ではあるが、常にある方向を意識していた。そう何を隠そう彼は今、ある目的地へ向かって寄り道をしながら進んでいたのだ。

 

海斗「おっ! 見えて来た、見えて来た。ここからもっと上に行った所だよな」

 

 目印を見つけ、そこからは低空飛行で地面に沿う様に飛行していく彼。障害物など今の彼にとっては無き物当然。ただ真っ直ぐ、目的地へと向かって直進あるのみ。そしてついにゴールへ。

 

海斗「うっへ~……」

 

 そこは他でもない、

 

海斗「グロ……」

 

 彼が死んだ場所。そして彼の体が放置されている場所だった。

 その姿は見るも無残。腕はあらぬ方向へ曲がり、足からは尖ったカルシウムがこんにちは。さらに彼の体が横たわる岩の表面はトマト汁が広がっていた。そんな状況を見れば誰でも思うだろう。

 

海斗「こりゃ即死だわ」

 

 と。だがそのそばで

 

??「海斗さん、海斗さん! 目を開けて下さい! 海斗さん!!」

 

 手を、膝を、そして服までを赤く染め、涙を流しながら彼の名を叫び続ける一人の少女が。時刻はまもなく夕方。彼が体を離れてからそれなりに時間が経ち、蘇生はできないと踏ん切りがつくはずである。

 

海斗「みょん……」

妖夢「海斗さん!!」

 

 だがそれでも彼女は彼の名を叫ぶ。諦めずに叫ぶ。必ず目を開けると信じて。

 

海斗「……で?」

 

 で?

 

海斗「ここまで来たはいいけど、どうすりゃいいんだ?」

 

 首を傾げてその状況を見守る彼。一先ず、

 

海斗「みょーん、俺ならここにいるぜー」

 

 目の前で手を振って存在をアピールしてみる。だが半人は彼に視線を向けるどころか、全く気付く様子すらない。そう、()()()。ここ大切。

 彼のそばで涙を流す彼女、名は魂魄妖夢。冥界の白玉楼の庭師であり、半人半霊。半分が実体のある生身の人間であり、半分が幽霊なのである。そのため、実体のそばにはいつも半霊と呼ばれる彼女の幽霊部分がいる。球体から尾が出た白色の物体である。

 その彼女は……

 

半霊「(えーーーッ!?)」

 

 気が付いた。

 

半霊「(かかか海斗さん!?)」

海斗「よっ、そっちは気付いてくれたのね。嫁になる?」

半霊「(もうとっくに三途の川に行ったと思っていたのに……どうして? あとなりませんから)」

海斗「越えたし、えーきっきにも会ったよ。あ、えーきっきってのは四季映姫・ヤマザナドゥのことだぜ?」

半霊「(だったら尚更ですよ!?)」

 

 閻魔の所まで行ってはその先は二択のみ。にも関わらず彼は今この場にいる。それが信じられず質問を浴びせ続ける白い物体。そんな彼女にお調子者、

 

海斗「保留なんだと」

 

 ありのままを伝えた。

 

半霊「(ウソを言わないで下さい! そんなはずがありません!)」

 

 が、日頃の行いもあってか全否定。こうなっては

 

海斗「って言われてもだぜ」

 

 お手上げである。とお調子者、ここである事に気が付く。

 

海斗「なー、半霊のみょんが気付いてるのに……」

妖夢「海斗さーん!」

海斗「なんでこっちのみょんは気付いてないんだ?」

 

 半霊とは言え、分離状態であるとは言え、白き物体は紛れもなく、今も叫び続ける彼女自身。この懸け離れた温度差に疑問を抱くのは当然である。

 

半霊「(お恥ずかしい話なのですが、私達意思の疎通が出来ていないんです)」

 

 このまさかの回答にお調子者、

 

海斗「はい?」

 

 思わず目が点に。

 

半霊「(いえ、全くという事ではないんですよ。私はあっちの話す事はちゃんと聞こえているんです。ですが……)」

海斗「ですが何?」

半霊「(あっちが聞こえてないみたいなんです……)」

 

 なんということでしょう。彼女は自分自身の魂の叫びが聞こえていなかったのです。

 白い物体はそう愚痴を零すと、お調子者に

 

半霊「(ちょっと見ていて下さい)」

 

 そう告げ、

 

半霊「(ねー、ねーってば! 海斗さんが戻って来てるよ)」

 

 半人の肩や背中にポフポフと体当たりをしてなんとか気付かせようとするが、

 

妖夢「もうなにジャマッ!」

 

 

ポイ〜ん

 

 

 頭上を飛び交う虫を払い除けるかの様にあしらわれ、投げ飛ばされる始末。

 

半霊「(こんな感じなんです……)」

 

 これには流石のお調子者も

 

海斗「あはは……」

 

 苦笑い。

 

海斗「でも残念だぜ。せっかくここまで来たのに、あっちに気付いてもらえないなんてさ。これじゃあ最後の挨拶も出来ないぜ。というか俺ずっとこのままみょんの背後霊になるのか?」

 

 己で言ったその状況をイメージしてみる彼。気付かれる事なく、温かい目で半人の彼女を見守り続ける。いついかなる時も。それこそ『あんな時』や『こんな時』でさえも……。そして彼が導き出した結論は……

 

海斗「えへ♡ 全然あり。(むし)ろこの日をありがとう」

 

 (よこしま)な考えを全面に出してニンマリ。膨らむ悪巧みは星の数程

 

海斗「女風呂女風呂女風呂女風呂女風呂女風呂」

 

 でもなかった。さらに心の声は抑えきれずにダダ漏れ。ともなれば……

 

半霊「(もう最低!!)」

 

 

 ポっふん

 

 

 と白色の球体に柔い音で全力の体当たりされ、

 

海斗「おうふ」

 

 吹き飛ばされる。その先はR15指定ギリギリの自身の身体。だが偶然にもこれが、

 

海斗「え?」

 

 きっかけだった。彼の魂が体に溶ける様に吸収されたのだ。そして「ピカーッ」と神々しい光に包まれ、彼は以前よりも何倍にも強くなって…………とはいかない。彼の復活の瞬間はそんなにカッコイイものではなかった。

 例えるのならビデオの巻き戻し。ひょっこり顔を見せていたカルシウムは、自身の本来の姿となって定位置へ。外へと流れ出た大量のトマト汁は、半人の彼女を染めていた分も含め、一滴残らず彼の体内へ。さらに死んだ細胞は瞬時に生き返り血管、筋肉、皮膚をあるべき姿へと戻していく。

 想像してみて欲しい。目の前の無残な姿の死体が突然「ぐしゃぐしゃ、ぐしゅぐしゅ」音を立てて再生し始めたら。

 

妖夢「ひぃいいいいいッ!」

 

 真っ青な顔の上、全身は鳥肌。誰だってこうなるだろう。不快な音を立て、気持ち悪い再生を繰り返し、満を持して彼、

 

海斗「いつつつぅ……」

 

 復活。

 

海斗「あ、みょん」

 

 魂魄妖夢、冥界白玉楼の庭師。半分が人間で半分が幽霊。

 

妖夢「ぎゃーーーッ、海斗さんのお化けーーー!」

 

 だがお化けの類が超苦手。

 

 

ーー白髪鎮静中ーー

 

 

妖夢「どういう事ですか!? 完全に死んでいたはずですよ!?」

 

 復活した彼に怒鳴りながら尋ねるおかっぱ頭。即死と察しながらも彼の名前を呼び続けていた彼女。さぞその事実を受け入れ難かったのだろう。

 

妖夢「本当に、心配したんですから……」

 

 目に涙を浮かべていた。

 

海斗「みょん、心配かけてごめんな」

妖夢「海斗さん……」

 

 謝罪の言葉と共に優しく両肩を掴まれ、彼に視線を向ける彼女。ちょっといい雰囲気である。

 

海斗「ムチュー……」

 

 だがそこには瞳を閉じ、口を(とが)らせて構えるお調子者の顔が。

 

 

バッチーン!

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

海斗「いやそれがさぁ……」

 

 私の半身に事情を説明しようとする海斗さん。頬に大きな赤い星を貼り付けて。ナイス半人()。でも……

 

海斗「よく分からんぜ!」

 

 誇らしげにドヤッ。それはそうですよね……、私に体当たりされたらいつの間にか生き返っていたんですから。

 

海斗「というかここ何処だぜ?」

 

 ん?

 

妖夢「妖怪の山です。海斗さんあそこから落ちたんですよ? それで追いかけたんですが、この岩に……」

海斗「そうだったっけ? 索道に乗ってたところまでは覚えてるんだけどなー……」

 

 あれー? さっき三途の川を渡って閻魔様に会ったって言ってませんでした? ちょっと聞いてみましょうか。

 

半霊「(海斗さん、海斗さん)」

海斗「あっ、俺のカバンは!?」

妖夢「あ……索道の中ですね。今頃頂上かと」

半霊「(海斗さんってば!)」

海斗「あぶねー……、一先ず壊れてなさそうで安心したぜ。頂上って守谷神社だろ? ここからどれくらいなんだぜ?」

妖夢「あそこの崖の上ですよ」

 

 無視ですか!? 酷くないですか!? もうこうなったら……

 

 

ポフポフポフポフポフポフポフ

 

 

海斗「え、なに? みょんの半霊が荒ぶり出したんだけど」

妖夢「こら、何やってるの? おすわり!」

 

 はーっ!? おすわり? 私あんたのペットじゃないんだけど!? あんた自身なんだけど!?

 

半霊「(海斗さん今の酷くないですか!?)」

海斗「なー、もしかして何か伝えたいんじゃないのか?」

半霊「(だからさっきからこうして声かけてるじゃないですか! 聞こえてないんですか!?)」

 

 自分でそう叫んでおいてようやく気付きました。

 

海斗「みょん何て言ってるか分からない?」

半霊「(私の声が聞こえなくなってる……)」

 

 って。私と話していた事を……ううん、死んでる間の事を覚えてないって。だって、

 

妖夢「お恥ずかしい話なのですが、私達意思の疎通が出来ていないんです」

 

 それさっき説明したもん! しかもそういうところだけシンクロしないでよ!

 

海斗「はい?」

 

 海斗さんまでさっきと同じリアクション……もう確定ですね。

 

妖夢「あっちは私の声が聞こえているみたいなんですけどねー……」

海斗「言ってることが分からないと?」

妖夢「はい……。もっと強く念じてくれれば聞こえるのに、凄い微弱なんですよ」

 

 はいー!? なにこっちの所為にしてるの!? そっちが未熟だから……

 

妖夢「だから幽々子様にも半人前だって言われて……」

海斗「あはは、おもしれーな。自分の半身なのに分からないって」

半霊「(笑い事じゃないですよ……)」

妖夢「昔は言うこと分かっていたのですが、月日が経つにつれてなんというか……別人みたいに」

海斗「つまり新しい人格みたいだと?」

妖夢「そうなんです……。おかげで苦労させられているんです」

 

 いやいやいやいや私は昔から変わってないから。声が聞こえなくなったのを変に解釈しないでよ!

 

海斗「だってさ。こっちのみょんは大変みたいだから、半霊のみょんも頑張れよ」

 

 ケラケラ笑いながら「頑張れ」と。これほどイラっとくるものはありません。

 

半霊「(バカバカバカバカ海斗さんのバカーッ)」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

ポフポフポフポフポフポフポフ!

 

 

 お調子者を襲うポフポフ祭り。決して痛くは無いのだが、こうもポフポフされては、

 

海斗「ちょちょちょっとタンマタンマ」

妖夢「こら、やめなさいって」

 

 さすがに鬱陶しい。半人も加わって止めようとするが、そんな事には構わず、寧ろ好都合とばかりに激しさを増すポフポフ。

 

??「君達そこで何やってんの?」

 

 そんな彼等を呆れ顔で冷たい視線を向ける通行人。釣り人だろうか? 肩に釣竿をかけ、手には大きなバケツ。しかも見るからに大漁。釣り上げた魚がバケツに剣山の如く突き刺さり、高密度の密集状態となっていた。

 

釣り「なんか困ってる?」

妖夢「実はあそこから落ちてしまいまして……」

 

 この親切な釣り人に申し訳なさそうに頭上を指して答えるおかっぱ頭。何の事情を知らない者がこのような事を聞かされれば、

 

釣り「よく無事だったな」

 

 当然こうなる。目を皿にして感心する釣り人だったが、

 

  『えーと、まあ……はい』

 

 二人は「それ以上は聞くな」とオーラを(かも)し出していた。そんな二人に疑問を抱きつつも、釣り人はどこか納得したように頷くと、

 

釣り「なるほどね。じゃあ騒ぎの原因は君達ってわけか」

 

 何やら不吉な事を言い始めた。さらに釣り人の話は続く。

 

釣り「この上の神社に無人のゴンドラが到着したんだと。それで何者かの奇襲じゃないかって休日返上して一斉捜索を始めたよ」

 

 それは言わばテロリストの容疑者扱い。だがそんな状況下でも、

 

海斗「マジっすか!? 天狗と言えば『あやや』に『はたて』に『もみじ』じゃん! あと『てんま』だ。超絶会いてえ! みょんちょっとここで……」

 

 貫くのが彼。天狗という単語にテンションは一気にHIGH。「是非ともお会いしたい、あわよくば嫁に」とおかっぱ頭にstayを提案しようとするも……

 

妖夢「何言ってるんですか、そんな余裕ありませんよ! 早くこの場から立ち去らないとマズイですよ!」

 

 「言わせてたまるか」とその発言に被せて阻止される。

 

釣り「あはは、残念だけど彼女の言うように、ここは大人しく引いた方がいい。見つかったら色々面倒な事になる。守谷神社に行くつもりだったなら、さっさと行きな」

海斗「んー……残念。しょうがないか、また今度だな。じゃあみょん、おんぶして上まで飛んで行って」

 

 この場から移動するには最も効率的な手段。いや、それしかないと言っても過言ではない。お調子者の彼にとってはラッキーかつムフフの状況の到来である。だが今の彼にそんな考えはない。純粋な提案だった。

 しかし、日頃の行いというのは、

 

妖夢「イヤです」

 

 こういう時にこそ発揮される。

 

  『は?』

 

 まさかの回答に二人、思わず目が点に。

 

妖夢「ぜっっったいにイヤです!」

海斗「いや、そんな状況じゃないぜ?」

妖夢「イ・ヤ・で・す!」

 

 「なにがあってもそれだけは断固拒否」と誓った彼女。その後もお調子者から説得されるもその姿勢を崩す事はなかった。そんな二人を黙って見守っていた釣り人だったが、とうとう見るに耐えられなくなったのだろう「はー……」とため息を零すと、

 

釣り「しょうがない。時間もないし、オレが手を貸そう」

 

 協力をする事にした。

 

釣り「君は飛べるんだっけ?」

妖夢「あ、はい」

釣り「じゃあ彼が上についたら後処理を頼むよ。あとこれおすそ分けね。神社の人達にも渡してあげて」

妖夢「後処理?」

 

 紐で数珠繋ぎに結んだ魚を、おかっぱ頭に手渡しながら指示を送る釣り人。だがそれが何を意味しているのか、ましてや何を始めようというのかすら把握できておらず、頭上に『?』を浮かべる彼女。それでも詳細な説明はせず、黙々と準備に取り掛かる釣り人だった。

 

 

ーー釣り準備中ーー

 

 

 釣り人の準備は滞りなく無事に終わった。というかすぐに終わった。というのも、釣り人が行った準備というのはたった一手だけ。ただそれだけ。

 

海斗「あのー、これはいったい……」

 

 状況がイマイチ掴みきれず、脳裏に不安が過ぎるお調子者。気分はさながら『餌』といったところだろうか。そんな彼の不安を

 

釣り「()()()大丈夫だ()()()()()()()()()()()問題ない()()

 

 さらに増幅させる強調された言葉の数々。それを抜きにして「大丈夫だ、問題ない」と言って欲しいところである。

 だがその不安はもう後の祭り。全ては既に動き始めていたのだから。

 

海斗「ううううわぁぁぁぁ。。。……☆」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

釣り「よし、うまくいったみたいだな」

 

 手応えが消え、上空の白髪からの合図で作戦の成功を悟る釣り人。道具を元に戻し、後片付けを進める。そこへ、

 

??「あの」

 

 釣り人の彼の横から声。視線を移すとそこには、白い頭から三角形の耳が生えた少女がいた。この山の警備担当の白狼天狗、犬走(いぬばしり)(もみじ)である。

 

椛 「貴方様お一人ですか? 今こちらにあと二つ気配があったはず……ん? 上からしますね」

釣り「ああ、今行ったんだよ。索道から落ちたんだってさ」

椛 「それ大丈夫だったんですか!?」

釣り「みたいだな。あ、丁度いいや。他のみんなにこの事を伝えておいて」

椛 「分かりました。それにしても随分釣れましたね」

釣り「天魔の言ってた場所は大当たりだったよ。あ、これ君と天魔の分ね」

椛 「こんなにもらっていいんですか?」

釣り「家族の分を入れてもさすがにそんなに食べれないって」

 

 バケツの中の半数を白狼天狗に手渡す彼に、目を皿にして歓喜する彼女。だがそんなに多く頂いてしまっては申し訳ない上、彼が食べる分が少なくなる。しかし彼にとってそれはまだまだ許容範囲の内。(むし)ろ「もらってくれ」とさえ思っていた。

 この日彼は、訳あって商品の売れ残りしか食べられない食生活に飽きてしまい、「たまには魚食いてぇ」と遠路はるばる釣りに訪れていた。その道中、たまたま騒ぎの一斉捜索に協力をしていた天狗の長『天魔』と出会い、騒ぎの件と絶好の釣りポイントを教えてもらったのだ。そこはまさに入れ食い状態。釣り糸を垂らせばあっと言う間に獲物をゲット。その快感からあれよあれよと魚を釣り上げ、ものの数十分で気付けばバケツからはみ出る程までに。

 この乱獲具合に「マズイ……」と後悔しながら帰宅を開始した彼。だがそこに目に付いたのがお調子者と白髪おかっぱ頭だった。さらに話を聞けば、彼女達は騒ぎの原因であり、守谷神社の神々に会う予定だったと。これは彼にとって好都合、そこから彼のおすそ分け作戦は始まったのだった。

 そしてこの作戦は見事に成功。これで「あげたんだから、魚いなくなっても文句言わないでね」とできる。もう用件は済んだ。となればやる事は一つ。

 

釣り「そんじゃあね」

 

 とっととおさらばするのみ。

 

椛 「はい、みなさんによろしくお伝え下さい」

 

 

◇    ◇    ◇     ◇    ◇

 

 

 少し(さかのぼ)ってーーーー

 

??「〜♪」

 

 鼻歌を歌いながら(ほおき)で外を掃除をする一人の少女。掃除が終わっても夕食の支度に風呂の準備と、やる事は尽きない。それが彼女の日常、何一つ変わらない日々の繰り返し。だがそんなものはもう慣れっこ。今となっては苦にも感じていない。

 

??「でも……」

 

 否定の接続詞を呟いて見上げる空。色はすっかりオレンジ色。今日を振り返ってみると、いつもと変わらない平穏な一日だった。

 

??「あの鞄……」

 

 つい数時間前までは。

 

??「スクールバック……だよね?」

 

 やって来たゴンドラに参拝客かと出迎えてみれば、中はもぬけの殻。奇妙なのはドアが開いていた事とたった一つの見慣れた鞄だけ。見慣れたと言っても、彼女がそれを目にするのは自室の押し入れに、思い出の品としてしまっておいた物。他の物を見るのは実に久しぶりの事だった。

 

??「んー、こっちにも流れて来たのかな?」

 

【挿絵表示】

 

 首を傾けてぼんやり続行、そんな時だった。

 

 

にょっき〜〜〜〜〜ん

 

 

??「うわっ、可愛い女の子がいると思ったら早苗(さなえ)だった」

 

 ヤツが現れたのは。だがその姿は実に滑稽(こっけい)。首根っこを巨大なフックで引っ掛けられ、急成長を遂げた木から糸で吊るされ、パッと見は首吊り状態。それでも揺るがないのが彼、

 

海斗「嫁にならない?」

 

 ドヤッとサムズアップで己を指差してキメ顔。

 それに対する緑のロングヘアーの守谷神社の巫女の反応は……。

 

 

ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

嫁捕獲作戦_六人目:東風谷(こちや)早苗(さなえ)【気絶】




空を自由に飛びまわる。
主もこれは全人類の夢だと思います。
漫画やアニメでもそういうシーンは多いですしね。
それだけきっと憧れているんです。
主もいつかは……
この大空に~♪ 
翼を広げ~♪
飛んで行きたいよ……orz

【次回:一輪目_再会です】

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