東方迷子伝   作:GA王

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2輪目_とばっちりです

 いつか聞いたことのある、(ゆる)くてほんわかした口調。しかも僕の聞くに堪えない言葉が通じていました。さらに決定的なのは、振り向いた二人の隙間から見えた女の子の顔。間違いないです。人里のケーキ屋の店員さんです。通訳ありがとうございます!

 

白髪「あゆみ、コイツの言ってることが分かったのか?」

黒髪「ゴニョゴニョ言ってて全然聞こえなかったわよ?」

あゆ「そーかな~? ちゃんと言ってたよ~」

 

 あらやだ、この人天使? いやいや、僕の天使は一人だけです! でも、ちゃんとお礼は言わないと。

 

優希「あの、ありがとうございます」

 

 今度は()()()()言えました。自分でも満足できる程に。

 

あゆ「ん~?」

 

 でも、首を傾けて「何か言いましたか?」と。

 

白髪「今のは分かるだろ?」

 

 ああ、そうでした。この人には……。

 

優希「ぁの、ぁりがとぅ……ござぃます」ゴニョ

あゆ「どういたしまして~」

 

 ほらね? どういう理屈か分からないけど、こうしないとこの方には伝わらないんです。でも、キラキラの笑顔で答えてくれたこの人……あゆみさんのおかげで、無事に二人の噴火を止める事ができました。めでたし、めでたし。

 と、思ったのも(つか)の間でした。

 

 

イラッ!×2

 

 

白髪「なんで今のが通じて、さっきのが通じないんだよ!」

黒髪「どう考えても逆でしょ!!」

あゆ「イタイイタイイタイイタイ~」

優希「ぎゃあああッ!」

 

 結果、やっぱり噴火は止められませんでした。しかも初対面の人に頭グリグリされた……。

 

黒髪「バカ! あんたあゆみに何やってるのよ!」

白髪「しまったつい癖で。あゆみ大丈夫か!?」

あゆ「ふしゅ〜……」

 

 目をバッテンにして口から魂が……。だ、大丈夫かな? それとスケバンさん、地味にキリキリ()めるの止めてくれませんか? というか放して下さい、痛いです……。

 

海斗「お! モコた~ん、グ~ヤー!」

 

 このタイミングでようやく海斗君(問題児)が気付いてくれました。もう遅すぎるくらいです。でも、おかげで万力地獄から解放されました。

 

  『げっ、気付かれた』

 

 声を揃える二人に視線を向けてみれば、二人とも頬をヒクヒクとさせて、顔色は真っ青。言いたい事があるなら今がチャンスなのに、どうしたんですか?

 

海斗「やっぱオレの嫁にならなーい?」

 

 だーかーら! 最高の笑顔のところ悪いけど、それの所為で「迷惑してる」って言われてるの! モコたんさんとグーヤさん、ビシッと言ってあげて下さい!

 

グヤ「どうするのよ!? こっちに来るわよ」ヒソヒソ

モコ「うぐ……ひ、一先ず」ヒソヒソ

グヤ「一先ず?」ヒソヒソ

モコ「逃げるぞ!」

グヤ「あ、待ちなさいよ!」

 

 何やら二人でヒソヒソ相談していると思ったら、急に180度回転して走り出すモコたんさんと、それを追いかけるグーヤさん。突然の展開に僕、ポカーン。

 言いたい事があったんじゃなかったの? 僕に言うだけ言っておしまいですか? それとあゆみさんをお忘れですよ?

 

優希「ぇ、ぁ、ぁの……ぁゅみ……を」ゴニョゴニョ

 

 去り行く二人に「忘れモノをしていますよ」と伝えようとしたけど、そこにまた僕の癖が。しかもさっきの事もあって、心臓のバクバクが収まっていないまま。おかげでいつも以上に酷いです……。

 そこに、

 

海斗「二人とも何で逃げるのー?」

 

 眩しい笑顔で二人をさらに追いかける海斗君が。

 凄く嬉しいのは分かる。だって耳にタコができるくらい話してくれたし、グッズだって部屋に山程あったし。僕が海斗君の立場だったら、きっと眠れないくらい興奮していると思う。でも、ごめん。そろそろ止めさせてね。

 

 

ガシッ!×2(海斗の服を掴む音)

 

 

優希「海斗君、一回落ち着こうか?」

??「いい加減にしないと斬りますよ?」

 

 海斗君の服を(つか)んだと思ったら、そこにはもう一つ手が。しかも直ぐ隣から怒り口調の声。漂う怒気に恐る恐る、気付かれないように目を向けてみると……刀!? 今斬るって……え、本気?

 そこから上へ視線を移してみれば……あ、目がマジだ。本気でKILLつもりです。「さすがにそれは止めないと」と説得しようとしたけど、

 

海斗「おっ、二人とも息ぴったりだな。ちょっと()いちゃうぜ」

 

 海斗君は余裕の表情。危機感ないの?

 

??「はいはい、もういいですから。少し大人しくしていてください」

優希「あのさー、海斗君。そんな調子で色々な人に迷惑かけてるでしょ?」

??「そうなんですよ、何処かに連れ出そうものなら毎度毎度」

優希「お気持ちをお察します」

  『ん?』

 

 お互い顔を見合わせて一時硬直。発する雰囲気から男の人だと思っていたけど、落ち着いて見てみれば、銀色のショートボブのカッコイイ系の女の子でした。パッと見は僕と変わらなさそうだけど、この世界だと年齢なんてあって無いような感じだもんなー……。

 それはそうと、何で海斗君の事を知っているんだろ? 付き合いも長そうだし。

 

海斗「優希、その子はオレが世話になってる『みょん』だ」

 

 そんな僕の疑問を見透かしたかのように、海斗君は彼女の事を教えてくれました。

 なるほど、そういう事ですか。僕がお世話になっているみたいに、海斗君もみょんさんの所でお世話になっていたんですね。納得しました…………それ、大丈夫ですか?

 

妖夢「魂魄(こんぱく)妖夢(ようむ)です、初めまして」

 

 海斗君なら手を放して、綺麗なお辞儀で丁寧に自己紹介してくれる妖夢さん。でも僕の中では早速疑問が。

 さっき海斗君『みょん』って言ってなかった? 『みょん』要素がどこにも無いけど?

 などと考えていると、

 

妖夢「って、その呼び方を人前では止めて下さいって言ってるじゃないですか!」

 

 妖夢さんが突然怒り始めました。でもこれで納得です。「海斗君が勝手にそう呼んでいるだけ」だと。あ、僕も自己紹介をしないと。

 

優希「ぇ……、ぁ、ゅ、ゅぅきです」ドキドキ

妖夢「はい?」

 

 ですよねー、ごめんなさい……。女性だと気付いた時から心の臓がバクバクなんです。

 

海斗「みょん、そいつは優希って言うんだ。ほら、前に索道(さくどう)の中で話したろ?」

 

 そこへありがたいフォロー。すると妖夢さんは手を口の前で広げて「あっ!」と声を上げると、大きく頷きながら僕の観察を始めました。

 

妖夢「あなたがそうでしたか。確かにそんな感じがしますね」

 

 海斗君、妖夢さんに何て言ったの?

 

妖夢「え、あれ? というか事は……、あなたも外来人ですか!?」

優希「ぇっと、あ、はい……」 

  『えーッ!?』

 

 妖夢さんの驚きの声に被せて、直ぐそばからも同じリアクションの声が。そこには忘れものに気付いたグーヤさんとモコたんさん。

 あゆみさん肩を貸してもらっているけど、さっきのダメージの所為? それとも具合悪いの?

 

グヤ「あんた達()外来人だったの!?」

海斗「そうだぜ、知らなかった?」

 

 目を丸くするグーヤさんに誇らしげに歯を見せながら笑って答える海斗君。それは驚きますよね。魔理沙さんとアリスさんの話だと、外来人(この世界にとっては異世界の人間)が来る事なんてレアな事らしいですから。それが二人揃って、しかも友達同士で来ているんです。

 けど、お二人の驚き方は少し度を超えていました。それにグーヤさん今、言葉の(あや)かもしれませんけど……

 

優希「僕達……()?」

 

 って言いました。それってつまり……。

 

モコ「ああ、こいつあゆみっていうんだけど、こいつも外来人だ」

  『はいーッ!?』

あゆ「外来人で~す」

海斗「!?」

優希「し、知らなかった……。あの、前にケーキ屋で買ったんですけど……」

あゆ「ん〜?」

 

 やっとドキドキが収まって、普通に話せるようになったと思ったのに、またしても苦笑いで首を傾げながら「何て言ってるの?」と。あー、もう……。

 

グヤ「前にお店で買ったそうよ?」

あゆ「ん~? そーでしたっけ~?」

 

 なんで? なんでグーヤさんのアレで通じて僕のはダメなの? それと覚えてない事ないですよね? 一瞬「あっ」みたいな顔しましたよね? そういうリアクションされると、

 

魔理「あッはははは、優希お前覚えられてないってさ」

 

 魔理沙さんが嗅ぎつけて来ますから。それと笑い過ぎですよ?

 

 

ソロ〜……

 

 

 後方に動体の気配。あれ? 海斗君コソコソと何処に行くの?

 

優希「海斗くん? 何処に……」

海斗「わ、バカ!」

あゆ「きゃーッ! あの時のイケメンさんだ~!」

 いきなり大声を出して、キラキラと眩い瞳で海斗君に飛びつくあゆみさん。面識あったんだ。

 海斗君は確かにイケメンで、学校でも学年問わず、それこそ学区を超えてモテモテだったけど、ここまでグイグイ積極的にアプローチする人っていなかったかも……。ある意味新鮮。海斗君どんな反応するんだろ? 

 

海斗「ハーナーレーテークーレー」カチコチ

 

 金縛りにでもあったかの様に硬直、おまけに動きはカクカク。壊れたブリキのおもちゃみたいになりました。さっきは追いかけ回していたのに、寄られるとダメなんだね……覚えたぞ。

 

海斗「オレは東方キャラ以外には興味ないんだー……」

あゆ「でも私は気にしませ~ん♡」

 

 海斗君には悪いけど、これならもうみんなにも迷惑かけないでいいかも。あゆみさん、海斗君をお願いします。

 その間に現状を整理しよう。今ここには、僕と海斗君、それとあゆみさんの3人の外来人が確定している。あとはあそこにいたウサギ耳の女子高生もそうだったら、4人の外来人がいるってこと? こんな事って……あるんですね。

 

妖夢「あのー、あの方とお知り合いなんですか?」

グヤ「今私の所で一緒に暮らしているわ」

モコ「里でケーキ屋もやってるぞ」

魔理「それなら魔理沙ちゃんも食べたze☆ あれ美味かったze☆ な?」

 

 頭の後ろで手を組んだ姿勢で、上体を捻って後方へ同意を求める魔理沙さん。その相手は他でもありません。この世界に来てから僕が一番お世話になっている方、もう絶対涙を流させないって決めた方。そして、「この人を守る」って初めて思わせてくれた方。

 

アリ「え、うん。美味しかった」

 

 心優しい魔法使い、アリス・マーガトロイドさん。

 

グヤ「それなら後で直接言って上げて。それとあなた達ちょっといい?」

 

 グーヤさんはそうアリスさんと魔理沙さんに言うと、紅魔館の方々の方へ歩きだしました。僕は呼ばれてないから行くわけにはいきませんけど……

 

モコ「……」

妖夢「……」

優希「……」

 

 き、気不味い……。妖夢さんとモコたんさんは普段あまり会話しないんですか? 何で会話してくれないんですか? これ僕が何かきっかけに話をした方がいい感じですか?

 

優希「ぁ、ぁの……」

妖夢「?」

モコ「あぁ?」

 

 ひぃいいい! 怖い怖い怖い怖い。でも逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!

 

優希「も、モコたん……さん」

妖夢「ぶっ!」

 

 突然吹き出す妖夢さんに僕、唖然。え? どうしたの?

 

モコ「おーまーえーなー……」

 

 両手の拳をワナワナと震わせて背後に……炎!? そういうオーラとか、目の錯覚とか、幻とかじゃないです。本物の炎が上がってます! だって……

 

優希「あつつつッ」

 

 ですから!

 

モコ「私を怒らせたいのか? 喧嘩売ってるのか?」

優希「いいいいいいえ、けけけけ決してそそそそんな事は……」

モコ「私の名前は藤原(ふじわらの)妹紅(もこう)だ! あの呼び方はアイツが勝手に呼んでいるだけだ! 次言ったら灰にするぞ!!」

優希「ひぃいいい! わ、分かりました。も、もう言いません!」

 

 炎を(まと)って「次言ったら灰にする」脅しがこの上なくリアルです。もう絶対言いません。妹紅さん、覚えました。となると、グーヤさんも疑った方がいいかも。

 

優希「あの、妹紅さん」

妹紅「今度は何だ!?」

 

 ひぃいいい! 怒っているところ話しかけてすみません。でも大切な事なんです。

 

優希「ごごごめんなさい。あああの、さささっき」

 

 

イラッ!

 

 

妹紅「(ども)らずに喋れんのか!」

優希「ぎゃーッ!」

 




【次回:3輪目_暴走です】

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