東方迷子伝   作:GA王

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4輪目_出会っちゃいましたです

 スタートからトップスピードで、砂埃(すなぼこり)を巻き上げて走り去る海斗君。今の瞬間だけならF-1マシンを超えています。それを僕が止められるはずもなく……

 

フラ「ん? 今誰か呼んだ?」

 

 事態は最悪の状況に。

 

フラ「今フランを呼んだのはあなた? あなたは誰? なにかご用?」

 

 やばいやばいやばいやばい。今の海斗君はブレーキが壊れた暴走特急電車。もう誰にも勢いを止めることができない。海斗君、お願いだから『嫁になって』とかふざけた事を言わないでよ! 冗談が通じるような子じゃないんだよ!!

 

海斗「結婚しよう」

  『はいいいいいッ!?』

 

 もっと酷かった……。突然フランさんの手を握ったと思ったら、真顔で何言ってくれてるの!? 海斗君のバカーッ!!

 

フラ「お姉様ー、これプロポーズだよね?」

レミ「そうね、でも初対面でいきなりプロポーズだなんて、なかなかふざけた事をされるのね。私達をバカにしているのかしら?」

 

 笑ってるけどレミリアさん怒ってまする! 眉間がピクピクしてまする! 本気でオコでする! 海斗君謝ってよ!!

 

海斗「いえ、オレは本気です! あわよくば、レミリア様とも結婚したいと思っています」

  『はあああっ?!』

 

 海斗君……一回死んで来て……。

 

レミ「うふふ、ホントに冗談がお上手なのね。面白い方、今度紅魔館へいらして」

海斗「本気だったんだけどなー。リアルなレミリア様はカリスマレベルが高いなー」

 

 ふー……、レミリアさんの器の大きさのおかげで事無きを得ました。もう心臓に悪いからやめて。

 

フラ「んー、フランはあなたの事イヤだなぁ」

海斗「え? うそ……。なんで?」

 

 あ、海斗君がフラれた。

 

フラ「不真面目っぽいしー」

 

 そう見えるだけなんですけどね。

 

フラ「浮気しそうだしー」

 

 幻想郷(ここ)にいたら、他の人にも目移りするかもしれませんね。

 

フラ「それにフランには〜、ゆーきっていう人が〜」

  『はあああああっ!?』

優希「え、えええええ!?」

 

 わざとらしく頬っぺた赤くして何言ってるんですか!? フランさん冗談は止めて下さいよ! 爆弾落とさないで下さいよ!!

 

フラ「フラン、あの日の夜の事が忘れられないの。きゃっ♡」

 

 茶目っ気を出して言っておられますが、どの夜の事でしょうか? 今までいたって平穏にアリスさんの家まで送って頂いたと記憶しておりますが?

 

??「不潔」

 

 眠そうな目をさらに細めるパチュリーさん。冷え切ってます。視線で凍らされそうです。

 

??「妹様といつの間にそんな仲に?」

 

 頭上に『?』マークを出して尋ねてくる僕のコーチ、美鈴さん。コレ、何か言わないと取り返しのつかない事になる。

 

魔理「優希お前……ついに本性を現したな!」

 

 手遅れーッ! 前科があるだけに魔理沙さんの中では確定しちゃってます。でも、その時もこの事も全部違うんですよ!

 一斉に投げられたナイフの様に、四方八方から突き刺さる視線に負けまいと、あたふたしながらも「異議あり!」をしようとした矢先、

 

レミ「へ、へー……、フランは私の目の届かない所で、ゆーきさんと二人だけの秘密の思い出を作ったわけね」

 

 レミリアさんまでもが誤解されました。もうピクピクがMAXです。凛としつつも可愛らしい顔から鬼が(のぞ)いています!

 

優希「ななな何も無いですよ! 毎日いつも通りに送ってもらっていただけですよ! 護衛して頂いてるだけですよ! フランさんも……」

 

 まだ言いたい事はありました。みんなの間違った解釈を改めて、一応「変に誤解させてごめんなさい」って謝るつもりでした。でも、その前に僕の第六感が危険を察知。その瞬間全身にゾワゾワっと寒気が走り、チキン肌に。僕が感じたのは紛れもなく、殺意。出処は目の前のレミリアさん? いいえ、違います。八卦炉を構えて『近距離マスパ』の準備万全の魔理沙さん? いいえ、でもないです。

 

??「ゆ~う~きぃッ!」

 

 海斗君です!

 

海斗「よくも……よくもオレの嫁を襲ってくれたな!」

優希「ななな何もしてないよ。むしろ逆に襲われそうになったよ」ガクンガクン

海斗「何!? 逆にだと?」

優希「そうそう」

海斗「なんてうらやましいんだ!」

優希「何でそうなるの!?」ガクンガクン

 

 噛み付いてくる勢いの海斗君。違うって言ってるのに、聞く耳持たずです。その前に首が取れる、海斗君放して……。そしてこんな僕を

 

フラ「あははは、おもしろーい」

 

 指差してお腹を抱えて大笑いする騒ぎの元凶。ちょ、笑ってないで本当の事を話して下さいよ!

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 ある日突然現れた異世界の男。すぐには元の世界に帰れず、行く当てもない彼と色々な事情が重なって一つ屋根の下。それも気付けば、既に半年程経過していた。

 優柔不断で人見知りな上、(しゃべ)る時にゴニョゴニョと(ども)る癖は何度見た事か。笑った顔、困った顔、時折見せる芯の強い顔。「知らない表情はない」「この中で誰よりも彼を理解している」そう彼女は思っていた。

 

魔理「優希のヤツ、何だか楽しそうだな?」

 

 いつもと変わらないが、どこかいつもと違う。初めて目にする彼の表情に、彼女は笑みを浮かべて家主である友人に同意を求めていた。

 

アリ「……」

 

 だがその友人は(じゃ)れ合う二人に視線を預け、彼女の声には無反応。決して二人を目で追っているわけでもなく、まるでただの人形の様にぼんやりとしていた。

 彼女と友人の付き合いは長く、お互い気心の知れた仲であり、へんぴな森に住むご近所同士。友人の事で知らない事はないはずだった。しかし今の友人の表情は、彼女がこれまで一度も見た事のないものだった。

 

魔理「おーい、どうしたんだze☆ー?」

 

 そんな友人に疑問を抱きつつも、視線を断ち切るように手を振り、かまってアピールをする彼女。すると友人はようやく現実に戻って来たようで、ハッとすると彼女を瞳に写した。

 

アリ「ごめん何?」

 

 困っているようで、どこか悲しそう。友人の知らない表情に、彼女が腕を組んで「んー?」と唸り声を上げていた時だった。

 

海斗「うわっ、生アリスだ!」

 

 お調子者が友人の存在に気付き、目を輝かせ始めたのは。

 

アリ「ふぇっ!?」

魔理「おい、アリスの事も知ってるのか?」

海斗「それはもちろんですよ師匠。いや、でも近くで見るとホントに美女。メチャ可愛い!」

 

 『美女』『可愛い』。いきなり面と向かって立て続けに放たれた言葉に、彼女の友人の顔は瞬時に真っ赤に。おまけに

 

アリ「ふぇえええ!?」

 

 と奇声まで。脳内はグツグツと音を立てて沸騰、リラックスしていた体は一気に緊張が押し寄せてガチガチに。ようやく絞り出せた言葉は

 

アリ「あわわわわ」

 

 だけ。つまり、極限にテンパっていた。

 

魔理「お前、今度はアリスを口説く気か?」

海斗「そりゃそうですよ。じゃないと失礼ですぜ?」

 

 美女がいたのなら、口説くのが礼儀。それがモットーであり、嫁を捕獲する最短ルートと信じて疑わない彼。そして、ここまで来ればやる事もう一つだけ。彼は顔をキリッと整え、サムズアップし、そのまま己を指して……

 

海斗「アリスどう? 俺の……」

優希「海斗君もう止めてよ! アリスさんが困ってる!!」

 

 言い切る前に阻止された。それは彼にとって馴染みのある声ではあったが、初めて耳にする感情を(あら)わにした声だった。顔を向けてみれば、彼の友人は両手に拳を握りしめ、震えながら彼のことを強く(にら)みつけていた。

 彼が知っている友人は優しいが臆病で、戦う姿勢を見せた事など一度もなかった。ましてやそれが彼に対してなど……。彼はこの日初めて、

 

優希「お願いだからもうやめて!」

 

 友人の怒りの表情を見た。

 

海斗「優希?」

魔理「優希な、今アリスの家で世話になってるんだ。だから困ってるアリスを見たくないんだze☆ 察してあげて欲しいze☆ あ、誤解がないように言っとくとな、魔理沙ちゃんも一緒だze☆」

海斗「アリスの家で……魔理沙師匠も一緒に……だと?」

魔理「おい?」

海斗「何だその夢の様な話は! 優希ズルいぞ!!」

魔理「だから何でそうなるんだze★」

 

 それでも貫く我が道、幻想郷愛。だが彼の背後には、白い影が怒気を放ちながら(せま)っていた。

 

妖夢「白玉楼で私と幽々子様と一緒ではご不満なんですね?」

海斗「あ、いや……そう言うわけでは……」

妖夢「よーく分かりました。もう知りません!」

海斗「あ、ねー待って待って。みょーん!」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 プイッと頬を(ふく)らませ、背を向けて去って行く妖夢さん。海斗君はその前で頭を下げて謝るけど、妖夢さんはそれを華麗にスルー。するとまた海斗君が妖夢さんの前に出てごめんなさい。けどまたスルー。それでも負けまいと海斗君……もう必死です。

 自業自得、身から出た(さび)、指差して「プギャー」。

 なんて思ってません。本当です! だってただ今絶賛

 

優希「どどどどどうしよう、どうしよう、どうしよう。海斗君に意見しちゃった、注意しちゃった、強く言っちゃった」ブツブツ

 

 タイムマシン希望中なんですから! やり直したい、あの瞬間に戻りたい。このまま海斗君に「友達やめる」とか言われたら……。

 

優希「どーしよどーしよどーしよ……」ブツブツ

??「無視すんなッ!」

優希「ハウッ!?」

 

 お尻に激痛が走り振り向くと、右足を上げている魔理沙さんが。どうやらニーキック(膝蹴り)されたみたいです。

 

魔理「さっきから呼んでるのに何をブツブツ言ってるんだze★? まさかさっきの発言を取り消したいとか思ってないか? だとしたら魔理沙ちゃん幻滅するze★?」

 

 腕を組んで僕に説教を始める魔理沙さんですが、僕はポカーンです。確かに魔理沙さんが言うように後悔していましたけど、それが何で幻滅する事になるんですか?

 そんな僕の脳内を察したのか、魔理沙さんは大きなため息を吐くと、

 

魔理「まったくお前ってヤツは……」

 

 呆れ顔でポツリとそう呟きました。僕、それでもポカーンです。すると魔理沙さん、

 

魔理「あのな、アリスがお前に言いたい事があるらしいze☆」

 

 アリスさんにバトンタッチ。僕、アリスさんから何を言われるのか予想も出来ず、ただただ緊張。ガチガチです。もしかしたら海斗君の事で怒ってるのかも……妹紅さん達みたいに。

 

アリ「助けて頂いてありがとうございました」

 

 頭を下げるアリスさんに思わず、

 

優希「へ?」

 

 キョトンです。

 

魔理「優希、さっきのおかげでアリスは助けられたんだze☆? 魔理沙ちゃんも『お、やるじゃん』って少しだけ見直したんだze☆? それを取り消したいってのはないだろ?」

優希「あああアリスさん頭を上げて下さい! そそそそんなお礼を言われるような事は何も……」

アリ「いえいえ、ホントに助かりましたよ」

魔理「おい?」

優希「いえいえ、そんなそんな」

アリ「いえいえいえいえ……」

魔理「だあああっ!!」

 

 いきなり叫び出す魔理沙さんに、謙遜(けんそん)合戦をしていた僕とアリスさん、目をパチクリ。何事でしょうか?

 

魔理「イ・マ! 良いこと言ったんだze☆!? 聞・い・と・け・よ!!」

 

 足踏みしながら「話を聞け」と。

 はい、出ました。魔理沙さんの真骨頂『かまってちゃん』。それと話を聞いていなくてごめんなさい。

 

優希「すみません、ちゃんと聞くのでもう一度お願い出来ますか?」

魔理「言えるか!」

 

 聞いて欲しいんだか、欲しくないんだか……。そんな魔理沙さんを見て、クスクス笑い始めるアリスさんと紅魔館の方々。みんな僕が日頃お世話になってる方々。だから、

 

優希「アリスさんと魔理沙さん、レミリアさんにフランさん、それとパチュリーさんと美鈴さん。僕の友達が興奮していたとはいえ、ご迷惑を掛けてすみませんでした」

 

 海斗君の事は僕からちゃんと謝っておこう。

 

美鈴「あははは、優希さんも苦労人ですね」

パチュ「私は別に何もないからいいけど」

フラ「ゆーきの友達って面白いけど、変な人だよね」

レミ「ふふ、少し驚かされましたけど、もう全然気にしていませんよ」

魔理「魔理沙ちゃんはアイツを弟子として認めないze☆」

アリ「大丈夫ですよ。ですから顔を上げて下さい。ね?」

 

 頂きましたアリスさんの「ね?」! 一言、いや一文字なのになんて威力。

 

??「優希ッ!」

 

 でも僕がその余韻(よいん)(ひた)っていられる時間はわずかでした。怒り口調で名前を呼ばれ、反射的に背筋を伸ばして視線を移してみれば、オタマを持って眉間に(しわ)を寄せるこの神社の巫女さんが。

 

霊夢「あんた(まき)を取ってくるだけで何話挟むつもりよ!」

 

 霊夢さん、メタ乙です。

 

霊夢「あとあの食材調理するならさっさとしなさいよ! でないと咲夜に勝手に作らせるわよ!」

優希「すすすすみません! 今行きます!」

霊夢「魔理沙とアリス! 転送が終わったならこっち手伝いなさいよ!」

魔理「へいへいだze☆」

アリ「あ、うん」

 

 次々と指示を出していく霊夢さん。それは僕達以外も例外ではなかったようで……。

 

霊夢「チャラ男と妖夢ッ! この前忘れ物していったでしょ!? 取りに来るついでに手伝いなさい!」

 

 海斗君と妖夢さんにも。チャラ男て……海斗君霊夢さんからそんな風に呼ばれてたの? というかいつここに来てたの? 人里の事といい、ホント僕達ニアミスしてるよね。

 

海斗「みょん……いえ、みょん様。どうか、どうか今回の俺の失態をお許しください」

妖夢「もう分かりましたから! 手伝いに行きますよ」

 

 海斗君まだ謝ってたんだ……。でも結局海斗君の粘り勝ちのようです。きっと二人はいつもこんな感じなんでしょうね。結構お似合いかも。

 

霊夢「あゆみ! 遊ぶのはいいけど……」

 

 僕、この瞬間「何故に?」と、異議を申し立てたくなりました。不公平です!

 でも、次の霊夢さんの発言とあゆみさん達の反応で、僕は……

 

霊夢「温泉に入るならさっさと入って来なさいよ」

あゆ「は〜い、じゃあ椛ちゃんと影狼ちゃんも一緒に行こ〜」

影狼「くぅ〜〜〜ん♡」

椛 「はっ!? 私はいったい何を……」

文 「寝っ転がって汚れちゃいましたし、ちょうど良かったじゃないですか」

はた「はい、いってらっしゃーい」

椛 「え、ええええ!? 先輩方、私を一人にしないで下さいよ!」

 

 

ガッ!x2(文とはたての服を掴む音)

 

 

文 「あやややや!?」

はた「ちょっと放しなさいよ!」

 

 イヤーな予感がしていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海斗「キタコレ」

 

 

 

 




【5輪目:クッキングタイムです】

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