暑くなってきました。
ちょうどいい気候の時が
激減している気がします。
地球温暖化、由々しき問題です。
チュン、チュン
聞えてきたのは……小鳥の鳴き声? それに薄っすらと温かい光が……
優希「えーっと……」
目を開けると僕はまた同じベッドの上にいた。
優希「アレ? どこまでが夢?」
気付かない間に同じ状況に置かれると、人は何処までが現実で、夢or幻だったのか分からなくなる。となるのは僕だけ?
優希「でも……」
あの顔であの表情。
優希「いい夢だったなぁ」
「(家、泊まっていけば?)」今思い出してもヤバいヤバい! 反則でしょアレ!
思い出しただけで顔が熱くなる。ついでに無性に暴れたくなり、枕を抱きしめベッドの上でジタバタ。
ビクッ!
突然背筋に走る寒気。
じー……
そして感じる突き刺さる様な、奇妙な視線。
部屋を見回してみるけど、誰もいない。ここにいるのは僕一人。強いて言えば、昨日鞄を持ってきてくれたド○ーン内蔵人形が1体。テーブルの上にちょこんと、『お座り』の姿勢で置かれているくらい。さっきの視線の正体はコレかな?
優希「でもこれ、中どうなっているんだろ?」
と、思うと気になって歯止めが利かなくなるのが僕の悪い癖。
お店の物なのは分かっているけれど……ごめんなさい。少しだけ触らせてください。胸の内でそう思いながら、人形へ手を伸ば――
コンコン。がちゃ。
と、そこにノックの音。そして直ぐに部屋の扉が開き、
??「あ、おはようございます。大丈夫ですか?」
そこには自称アリスさんが。その瞬間、夢での出来事が脳裏を
アリス?「あの、まだ、具合悪いですか? 昨日また倒れちゃったから、私心配で……」
優希「え? いつ?」
アリス?「覚えてませんか? 外に出て私が……」
自称アリスさんはそこまで話すと、その白くて透き通る頬を、みるみる赤色に染めていった。そしてその反応でやっと理解した。「アレ夢じゃなかったのかーっ!?」と。
優希「思い出しました、思い出しました! ご迷惑をお掛けしてすみませんました!!」
アリス?「いえいえ。こちらこそごめんなさい」
優希「いえいえ、そんなそんな……」
そして始まる謙遜合戦。僕も自称アリスさんも、引かずの大接戦。
やがて2人の終点が見えなくなった頃、近くにあったド○ーン内蔵人形が突然動きだした。すると自称アリスさんの所まで飛んで行き……
人形「ホーラーイ……。ホラーイ」
今しゃべった!? けど、そんなにパターン無さそうだね。
一人ド○ーン内蔵人形の性能の考察をのほほんとしていると、
アリス?「えっ!? そんな……」
自称アリスさんの表情が一変した。
優希「?」
アリス?「えっと……この子、蓬莱って名前なんですけど、蓬莱がベッドの上で枕を抱きしめて暴れているあなたを見たって……」
優希「!!!?」
この言葉で僕の脳内は大パニック。
優希「(今のでそこまでしゃべったの!? じゃなくて見てた!? 見られてたのっ!? 中に小型無線カメラでもあるのっ!? あの人形スゴッ!! じゃなくて……は、は恥ずかしい~……ダメだ。もうオワタ)」
学校で習った『穴があったら入りたい』っていうことわざ。まさにこういう時に使うんだろうと身を持って知った。大きな代償と共に。
アリス?「本当に大丈夫ですか? まだどこか苦しい?」
優希「へ?」
予想外の反応。
人形「ホライッ!」ビシッ!
あ、今のは何て言ったのか分かったかも。
優希「だ、大丈夫です。もうホントに」
アリス?「良かったぁ」
ほっとため息を
アリス?「でも、また辛くなったら、遠慮しないで言って下さいね?」
微笑みながら優しい言葉まで。
自称アリスさんと話しをしていると、胸の奥がぽかぽかと温かくなる。人見知りで内気な僕だけど、すごく親切に接してくれる。それだけでも僕は本当に嬉しい。「これ以上の幸せはもうないだろう」と思っていた矢先……
アリス?「……その、朝ごはんを、ね……」
優希「?」
アリス?「……」
優希「??」
アリス?「……」
優希「???」
アリス?「ぁ……」
優希「????」
アリス?「ぁsa…」
優希「?????」
アリス?「朝ごはん作ったから一緒に食べませんか?」
自称アリスさんは、首を傾げて恥じらいながら呪文を唱えた。
と同時に、僕は緩もうとする表情を、バレない様に、見られない様に必死の思いで堪え
じー……
その様子を『ホウライ』という名のド○ーン内蔵人形が、目を細めて見ていた。なんかこの人形苦手……
アリス?「どう……ですか?」
優希「はい、頂きます!」
--オタク朝食中--
自称アリスさんが出してくれたのは、トースト、野菜スープ、ハムエッグ、牛乳と、まさにモーニングセットだった。野菜スープはコンソメ味で、少量の人参やキャベツ、トマトが入っている。スープを一口飲むと口の中に、優しい野菜の風味が広がり……
優希「わっ、優しい味。コレおいしいです!」
アリス?「へ!? あ、ありがとう……」
僕は素直な感想を言ったつもりだったが、自称アリスさんは顔を隠す様にして
用意してくれた朝食はもちろん全部完食。太め僕には少し物足りない量だったけど、さすがに『おかわり』をするのは気が引けたので、踏み留まった。
そして食後に出してくれた温かい紅茶を飲みながら、ついに気になっていた事を尋ねてみた。
優希「あの……」
アリス?「はいっ!?」
優希「えっと、その、さっきの人形って……」
アリス?「蓬莱のことですか? 可愛いでしょ?」
優希「あ、はい。えっと……アレはあなたが動かしているんですか?」
アリス?「ちょっと違いますね。私の力で動いてはいるんですけど、基本は半自立思考で……」
優希「えーーーっ!?」
意外な真実に「最新技術のAI搭載ですと!? すごいぞそれ!」と、一人で大興奮。ふと冷静になって、自称アリスさんに視線を戻すと、目を丸くしていた。
優希「あ、ごめんなさい。つぃ……」
アリス?「ぃ、ぃぇ……」
優希「……」
アリス?「……」
優希「……」
アリス?「ぁ、実はもう一人いて……」
自称アリスさんがそう言うと、昨日見たもう一体のド○ーン内蔵人形が、スイーっと音も無く、
アリス?「その子は上海。その子も半自立思考……」
「ハイスペックの塊が今の目の前に!」その瞬間、僕の欲望は僕の体を支配し、わきわきと手を動かさせ、
優希「触ってみてもいいですか?」
と、尋ねさせた。
アリス?「上海いい?」
自称アリスさんが人形にそう尋ねると、
上海「シャ、シャンハーイ……」
目の前のハイスペック人形は、衣装のエプロンの裾を掴んで、モジモジと恥ずかしそうな仕草をとり始めた。あまりの精巧な作りにただただ関心。ホントに人間みたい。許可はまだ貰ってないけれど、もう今からワクワクが止まりません。
アリス?「どうぞ。優しくしてあげてくださいね」
優希「あ、ありがとうございます」
許可を頂いたところで、気持ちを抑えながら人形を持ち上げてみると、
優希「えっ?」
それは予想以上に軽かった。まさにおもちゃ屋で売っている人形くらいの。
感触は――すごく柔らかい。シリコン、もしくはゴム?何の素材かは分からないけれど、人に触れた時と同じ感じがする。しかも手、足、顔、腹どの部分を押してみても、どこも同じ様に柔らかい。電気部品の集合体であれば、部品や基板を守るために、固い物で保護する様に作る。だけど、それをどこにも感じない。何コレ? 不思議すぎ!
などと脳内サミットを繰り広げていると、
上海「シャシャシャシャン、ハーーイィー」
手の中の人形がくすぐったそうに大爆笑していた。こんな表情もするんだ、すごいな。
と、ここで内蔵されているであろうド○ーンの事を思い出し、人形の服を
バチンッ!!
突然手の中にいた人形が浮き上がり、僕の頬を叩いた。というか殴った。そして人形は頬を赤くすると、ぷいっと視線を逸らして自称アリスさんの下へと飛んで行った。あまりにも予期せぬ出来事に、僕の頭は真っ白。驚きの白さです。
アリス?「ダメですよ」
優希「ぇ?」
アリス?「人形とは言えレディーなんですから。謝って下さい」
困った様な表情を浮かべる自称アリスさん。「人形に謝れ」このまさかの展開に、動転しつつも、
優希「あ、その……ごめんなさぃ」
素直に謝罪。
アリス?「上海も。悪気があったんじゃないんだから」
上海「シャ、シャンハーイ」
アリス?「『もうスカートは捲らないで』って。あと『ごめんなさい』って言ってます」
優希「いえ、こちらこそすみません……」
人形に謝って、謝られて。人生初の経験。こんな珍体験、たぶんこの先もないだろう。それはそうと……どうしても気になる。あの人形の事が。格なる上は……
優希「あの、それどうやって動いたり、浮いたりしているんですか?」
聞いてみるのみ! ……というか最初からこうすればよかった? 僕が尋ねると自称アリスさんは、当然の様に答えた、
アリス?「え? 魔法」
その答えに僕は「はぃ?」と言葉に出さなくとも、目を点にした。
アリス?「私、魔法使いで人形を操るの」
更に続けて説明してくれたけど、僕は「またまたぁ」とか、「海斗君もそんな事言ってたなぁ」とか思いながら、その話を半分も信じていなかった。
すると、僕が疑っている事を察したのか、自称アリスさんは眉を八の字にし、首を傾げ、見るからに困った表情を浮かべていた。なんかすごく罪悪感…。でも、信じようにも『魔法』ってそんな物…。
お互い暫く沈黙。ただ無意味に流れる気まずい時間。「何かこの状況を変えられるきっかけが欲しい」、そう思っていた矢先の事だった。
??「おーい、アリスーッ! いるかぁー!?」
外から自称アリスさんを呼ぶ、歯切れのいい女性の声が聞こえて来たのは。
最新の家電を目にすると、
『欲しくなる』のではなく、
『分解したくなる』です。
この気持ちを分かって頂ける方は
あまりいないかもしれませんが。
次回:「もう一人の魔法使い」
もう言わずもがなです。