東方迷子伝は、これからも皆さんに楽しんで頂けるような作品になる様、努めていきますので、どうぞよろしくお願いします。
その後、台風の目となっていた海斗君は花見会場のセッティングを手伝う事になりました。魔理沙さん、それにアリスさんも一緒なので不安ではありますけど、
妖夢「海斗さん、そっちしっかり引っ張ってください」
海斗「かしこまー」
また暴走を始めたら妖夢さんがきっと何とかしてくれるはずです。
僕の方は具材を全部切り終わりましたし、
何を作っているか気になります? ふッふッふ、これは僕が最近覚えた料理、『天ぷら』です。ドヤッ!
料理初心者の僕でしたが、酒丸で働くようになって、調理場も任されるようになって、今では「切る、焼く、煮る」はもうすっかり得意分野になりました。どんとこいです! でも唯一避け続けていた工程がありました。それが『
何で避けていたのかですか? だって、怖いじゃないですか! 170〜200℃の油がバチバチ跳ねるんですよ?! しかも酒丸では170〜180℃の『中温』と呼ばれる油と、190〜200℃の『高温』と呼ばれる油を使い分けるんですけど、「温度計もないのにどうやって温度を見極めるの!?」って最初は思っていました。しかもしかも、店長さんは例によって――――
店長「勘だ」ドヤヤヤッ!
――――で終わらせますし……。もう
でも実際やってみると、温度を楽に見分ける方法がありましたし、衣を付けて油へ投入するだけなんで、すごく簡単でした。
優希「こうやって衣を油に落として……少し
ふむ、いい感じです。いざ、
じー……
参れなーい……。
さっきから後方、斜め下方向から集まる視線がものすごく気になるんです。まるで珍獣を見るような圧力を背中でヒシヒシと感じてまする。
優希「な、何かなー?」
怖がらせないように、全力の作り笑顔で振り向いてみると、そこには仲良し三人組のサニー達の他に、全身が青い女の子と髪の毛が黄色で黒い服を着た女の子が、不思議そうにこちらを見ていました。
寺子屋の生徒の二人だよね? 青い子は背中に羽っぽい物があるから妖精かな? でもこっちの黄色い子は……。なんだろ……妖精?
青色「男の人なのに料理するんだ」
そりゃするでしょ? 人里の飲食店で料理している人、ほとんどが男性だよ? でもここはツッコミを入れたら怖がられるから……
優希「う、うんするよー」
優しく、やさ~しく。
サニ「何作ってんの?」
スタ「お好み焼き?」
なんで? 具が入ってないのになんでそうなるの? しかも鉄板ないよね?
ルナ「天ぷらでしょ?」
優希「お、ルナチャ正解」
『へーえ』
黄黒「そーなのかー」
青色「やっぱりね、そんなのあたい分かってたし!」
この青い子、胸を張って
優希「今から作るんだけど、見ていく?」
--ヲタク調理中--
??「どう?」
衣はサクサク感のある黄色。
優希「うん、いい感じ」
取り出すタイミングはばっちり。
??「へへーん、こんなの天才のあたいにかかれば楽勝だし!」
優希「あ、うん……」
この青い子、チルノが作った天ぷらが。
えーと、現状を報告させて頂きますと、全然作業が進んでおりません。一個作り終えたところで、チルノとサニー達の四人が「やりたい!」って言い出しまして、天ぷら作りの体験教室が始まりました。順番に一個ずつ好きな具材を揚げているところです。それと、
??「じゃあ最後は私の番だな」
もう一人増えました。二本の赤いアホ毛が生えた、マントをした男の子の様な女の子が。名前はリグルっていうみたいです。この子も寺子屋の生徒だったと思います。
優希「気を付けてね」
リグ「家庭科で料理してるから大丈夫!」
自信満々にそう言って具材に衣を付け、揚げ始めるリグル。口には出せませんが、チルノより慣れている感じがします。横で見ていても安心できます。それより、寺子屋って家庭科までやるんだ……。僕達がいた世界の学校とあまり変わらないね。
優希「上手にできたね」
リグ「まーね」
白い歯を見せてハニカミ笑顔のリグル。急がなきゃいけないのだけど、みんなが満足してくれたのなら、僕も満足です。ともあれ、ようやく体験教室は終わり。今度こそ僕のターン。いざ、
じー……
参れなーい……。またしても参れなーい。
天ぷら作り体験教室に参加したのは五人だけなんです。黄色い髪の子、ルーミアだけはやらなかったんです。ずーーーっと熱い視線で見ているだけなんです。
だらだらだらだら……
出来上がった天ぷらを、ヨダレを滝の様に流しながら。そんなルーミアに僕はとうとう聞いてしまいました。
優希「食べたいの?」
と。その瞬間ルーミアは、くるっと
その目やめて。そんな目をされたら、
優希「じゃ、じゃあさっき僕が試しに作ったやつでよければあげようか?」
ダメなんて言えないよ……。
ルー「おい
サクサクと心地のいい音を立てて笑顔で頬張るルーミア。こうやって直接「おいしい」って言ってくれるのはもう何度目だろう。バイト先でも言われる事はあるけれど、やっぱりいつ聞いても嬉しいです。でも今はそれで終わりだからね?
ルーミアも満足してくれたし、今度の今度こそ僕のターン。いざ、
じとー……
参れなーい……。またまたしても参れなーい。
しかもここ一番の視線が突き刺さりまする。まあ、その理由は予想できているわけで……。
『ルーミアだけずるいッ!』
だよねー。
--作者実食中--
結局、みんな自分達の作品を食べて行き、天ぷらの在庫はゼロに。その上「またやりたい」って言い始めて僕、かなり困っていました。そこにミニスカメイドの咲夜さんが来てくれて、「
そのおかげもあり、僕の作業はもう
優希「本当は天ぷらじゃなくて唐揚げを作りたかったんだよねー。でも前日に魔理沙さんに『それは絶対にやめてやれ。鳥料理は全部禁止だze☆』って強く念を押されたんですよねー。アリスさんにもお願いされたので、鳥料理は作らない事にしましたけど、何ででしょうね?」ブツブツ
独り言です。周りには誰もいません。だから声に出せるのです。なぜそんな事をするのかと聞かれると……寂しいんです、はい。
そんな時でした。
??「\ミスチー、来てるー?/」
突然大音声に
「うるさいです!」
と心で。口に? 出せるわけないじゃないですか……。それよりもまた新しい人が来たみたいです。そうなると……
??「ぎゃーてーじゃん! 星ちゃんにナズ、村紗に一輪に聖、小傘まで!?」
??「はいはい、行かせませんよ。こっちやって下さい」
??「お前見境なさすぎだze★」
初めて会う知っている人達に、テンションがまた上がる海斗君。そしてそれを止める妖夢さんに、
??「あ、
そこへ背中から鳥の羽根が生えた、桃色の髪の女の子が駆け足で外に出て行きました。きっとあの子がミスチーなんだね。声がすごくクリアで、小鳥のさえずりみたいだったなー……もしかして鳥料理の件、あの子と何か関係してます?
??「ちょっと君、さっきから呼んでいるのだけど?」
優希「はぶぃいいい!?」
ふと我に返ってみると、目の前にはジト目の見知らぬ人の顔が。
驚かせないで下さいよ……。声が
??「オーバーだなぁ、そんなに驚かないでよ」
優希「ご、ごめん……なさ……ぃ」
??「んー、何言っているか分からないけど、博麗の巫女が何処にいるか知らない?」
今シレッと放ったジャブ、結構響きましたよ? というか、さっきのが通じなかったら、霊夢さんが何処にいるのか説明しようがないんですが……。他に誰かいれば頼れるけど、
治したいのに、なかなか治せないこのクセ。この時程「どうにかしないと」と真剣に悩んだ事はありません。
優希「ぁ……ぇと、その……」
笑われてもいい、変な人だと思われてもしょうがない。慣れるまで、このクセが治るまで、何度でも挑戦してみよう。何もしなければ今のままだから。
拳を強く
優希「れれれ霊夢っ、さん。なら……」
なんとか伝えてみようと思います。
??「
というタイミングでご本人登場。
助かりました。ほっと一安心です。でもなんか「なんだかなー……」って感じもしてます。
??「お、ちょうどいいところに。これ、私が作った料理ね。一緒に出してくれる?」
霊夢「はいはい、お気
せっかくの霊夢さんの説明中ではございますが、
??「いちりーん、お風呂どうなった?」
真っ白の水兵さんと
??「ちょっと村紗!?」
霊夢「で、そこの船長は
優希「寺? 寺って命蓮寺ですか?」
聖 「はい、そうです。初めての方ですよね? ご挨拶遅れて申し訳ありません。命蓮寺の住職、
一輪「どうも一輪です」
村紗「村紗です、よろしくね」
丁寧に自己紹介をしてくれた白蓮さんに一輪さん、それと明るい笑顔で親し気に「よろしく」って言ってくれた水蜜さん。名前、覚えました。どうぞよろしくです。
で、こうなるとやっぱり僕の番ですよね? 頑張ります!
優希「ゆ、ゆゆゆっうきでしゅ」
『はい?』
結果、
霊夢「……優希っていうのよ。極度のあがり症なだけだから気にしないであげて」
霊夢さんが珍しく優しいです。ありがとうございます!
霊夢「それで? お風呂がどうとか言っていたけど……まさか準備の手伝いもしないで、温泉につかろうとか考えてないでしょうね?」
一輪「料理を作って持って来たんだしさ。そこは……ね?」
村紗「そ、そうそう。なんなら星とナズを使ってくれていいから」
手伝いは他の人に頼れと。なんでそうまでして温泉に入りたがるんだろ?
そんな二人を霊夢さんは半開きの目で
村紗「あとお
霊夢「入ってよーし」
寝返ったー。しかも即答、食い気味で。綺麗にひっくり返りました。もう目が『¥』マークです。
村紗「ほら聖、行こ行こ」
聖 「えー!?」
一輪「温泉に入ったら気分も変わるって」
強引に白蓮さんを温泉へと連れて行く水蜜さんと一輪さん。事情はよくわかりませんが、気分転換にはオススメしますよ。
それはそうとして、いつも思うけど霊夢さんって現金な人ですよね? お金次第で味方にも敵にもなりそうな……。
じとー……
で、その方からの視線が鋭い刃物となって突き刺さるんですけど……。
優希「な、なんですか?」
霊夢「今私の事、『金で動く安い女だな』って思ったでしょ?」
優希「ななな何を言われてるるるんでぃーすか? これぽーっちも思っていませんよー。ひ、ヒドイナー」
はい、ウソです。そこまでは思っていませんけど、ちょっと思いました。でもそんなの「はい、思いました」なんて言えるわけないじゃないですか……。
霊夢「優希、あんた……」
優希「ハイ、ナンデスカ?」
霊夢「ウソ、下手よね」
でもバレバレでした。
霊夢「それとあんた命蓮寺は知っていたのね」
優希「あ、はい。名前だけですけど。バイト先のお客さんがそちらで『お世話になってる』って言われていて……」
ピクピクッ
霊夢「あー、そんなヤツもいたわね。確か……」
優希「寺子屋の先生らしいですよ」
ピキッ
ピクピクやらピキやらさっきから変な音が。「いったい何の音?」と辺りを見回してみると、腰まである長い髪を逆立て、嫌な感じのオーラを吹き出す白蓮さんのお姿が。どうしたんだろ?
一輪「あーもう!! 姐さん気にしないで行くよ」
村紗「君、聖の前でそれ禁句だからね!」
なんで? なんで僕、怒られなきゃいけないの? なんで? なんで僕、霊夢さんにくすくす笑わなきゃいけないの?
??「ふむふむ、聖と一輪と村紗も温泉か……」
令和が皆さんにとっていい時代になりますように。
【次回:6輪目_不思議ちゃんです】