東方迷子伝   作:GA王

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7輪目_集合編(裏)です

 少し前、二人のオタクが再会を果たし、お調子者がフルスロットルで浮かれていた頃、

 

??「お姉ちゃん達はまだ来てないんだ〜♪ 後でビックリさせよ〜♪」

 

 彼女は彼等から少し離れた場所、台所と外を結ぶ勝手口にいた。

 気の(おもむ)くまま、風に流されるまま、ふらふらと一人旅を楽しむ彼女は、家族でさえ制御が出来ない風来坊。この日も一人で別行動を楽しんでいた。

 

??「能力かっいほ〜♪」

 

 驚かす。その目的を達成するためには、まず隠れなければいけない。特に感の良い彼女の姉を驚かすのであれば、より細心の注意が必要である。故に誰にも見つかってはならない。彼女はご自慢の能力を使い、自身の存在感を無にしたのだった。

 台所から聞こえてくる包丁のテンポの良いリズム、汗くせ働く複数の足音、そして胃を活性化させるいい香り。

 

??「お腹空いたな〜♪」

 

 花見の準備は急ピッチで進んで行く。

 

??「イタイイタイイタイイタイ〜」

??「ぎゃあああッ!」

 

 そこへ突如(とつじょ)上がる二つの断末魔。「どうしたんだろ? なんか楽しそ〜♪」そう思うが早いか、彼女はふらふら〜とそちらへ歩みを進めていた。

 

??「なっんだろな♪ なんだろな〜♪」

 

 ワクワクが増すに連れ、(おさ)えきれなくなったテンションは歌へと姿を変え、その現場までもう少しの所まで近づいていた。

 とその時、

 

??「二人とも何で逃げるのー?」

 

 目の前を高速で駆け抜ける物体が生んだ

 

??「お〜お〜お〜お〜♪」

 

 ストップストリームの勢いに負け、「くるくるくるくる」とその場で高速回転。

 

??「ふえ〜……♪」

 

 ようやく自転が止まったかと思えば、後遺症に襲われて目に移る景色は、波に揺れる水草の様にゆらゆらと。そして彼女が冷静さを取り戻した時には、

 

  『えーッ!?』

 

 その事実は既に告げられていた。

 

??「聞き間違い……だよね?」

 

 と疑ってしまう程、しっかりとは聞こえてはいない。だがその単語は彼女の脳内で何度もリピートされ、決して離れる事はなかった。さらにそこから次々と明らかになっていく真実は、お気楽者の彼女でさえも目を丸くするものばかり。

 そう、彼女はそこにいた。

 初対面の者に、手に汗をにぎりながら自己紹介をする彼のすぐそばに。彼が再び断末魔を上げれば、その表情を見ながらくすくすと笑い、犬好き少女がターゲットを変更してミサイルの様に飛んでいけば、共に頭上に『?』を浮かべ、彼の親友が「一押しの嫁」へ音速スタートを切れば、その速度に驚愕(きょうがく)していたのだった。

 無意識を自在に操り、隠密(おんみつ)行動を得意とする彼女。彼らのような外来人と深い関わりを持つ彼女。彼女の名前は古明地こいし、地底世界の住人である。そして、そんな彼女の趣味は、(うわさ)話や面白い話などに人知れずちゃっかり参加(盗 み 聞 き)する事である。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

こい「む〜」

 

 お調子者の急な婚約騒動に終止符が打たれ、多くの者がお怒り巫女の指示の下、花見の準備に取り掛かっていく。だがそうなると、これまでのような楽しげな会話は皆無(かいむ)。つまりこの状況は彼女にとって、

 

こい「たいくつ〜♪」

 

 な時間。このまま何も起きず、何もせず、ただ静かに、誰からも気付かれる事もなく、「いつ来るのか分からない姉を待つ」そう考えただけで苦痛でしょうがない。頬を膨らませて「もっと面白い話をしてよ〜♪」と強く願っていた。

 そんな時だった。彼女の耳をピクピクと動かす音が聞こえて来たのは。それは周りには気付かれないように放たれた、いわゆる「ナイショ話」。いや、彼女が耳にしたのは「ちょっといい?」という、ナイショ話の始まりを告げるものだった。

 途端に目を輝かせ始める彼女。首をキョロキョロと動かし、声の出所を探り始める。

 

こい「いた〜♪」

 

 それは直ぐに見つかった。周囲の視線を気にしながら、人気のない神社の裏へと歩みを進める二つの影を。

 

こい「なっんだろうな♪ なんだろな〜♪」

 

 再び期待に胸を(ふく)らませ、スキップをしながら二人の後を追う。その道中、

 

??「レミリアお嬢様、準備はもうほとんど終わりました」

レミ「ご苦労様、始まるまで休んでいいわよ。咲夜もね」

咲夜「お心遣いありがとうございます。私は調理されている方が気になりますので、様子を伺ってからにします」

??「それなら私が」

咲夜「いいの、あなたは最近寝るのも遅いし、疲れが顔に出ているわ。少しゆっくりして下さい」

??「でしたら温泉に入って来ては? ここの温泉は肩凝り、腰痛、疲労回復に抜群ですよ?」

??「美鈴もたまにはいいこと言うじゃん、そうしなよ。ここの温泉は最高だよ」

??「ですがフランお嬢様……」

フラ「これは私からの命令、温泉に入ってゆっくりして来なさい!」

??「ふっ……かしこまりました。では少し休憩を頂きますね」

 

 そんな紅の館の主人と従者の何気ない会話でさえも、

 

こい「あの人もお風呂に行くんだ〜♪」

 

 聞き耳を立てる事は忘れない。「そっちの方も気になるけど、今はこっちの方が面白そう♪」そんな考えからだろう。彼女はそのまま二人の後をつけて行った。

 やがて前を行く二人が足を止め、周囲に人がいない事を確認すると、その話はすぐに始まった。

 

??「どう?」

??「今のところまだ何も」

??「他に可能性がありそうなのは?」

??「……((うつむ)いて首を横に振る)」

??「じゃあやっぱり霊夢が?」

??「あとは幻想郷(この世界)の創設者……」

??「それは可能性が低いと思うけど?」

??「あの、私これ以上友人達を疑いの目で見るのは……」

??「けどこれは幻想郷の危機、誰かがやらないと」

 

 その後も続いたナイショ話。二人だけの秘密の話。誰にも聞かれていない事が前提の極秘事項。

 彼女は決して深く考える方ではない。そんな彼女でさえも理解できた。「今自分がいる世界が、大好きな幻想郷が危険に(さら)されている」と。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 続々と集まる花見の参加者達。その中には、

 

??「\ミスチー、来てるー?/」

 

 彼女の顔見知り達も来ていたが、その者達には目もくれず、

 

こい「ど〜しよ〜……」

 

 彼女は美しく咲き(ほこ)る桜の木の下で、膝を抱えて(うずくま)っていた。一人では抱えきれない大問題、その重圧に押し潰されそうで「聞かなければ良かった」と後悔していた。

 

こい「お姉ちゃん……早く来てよ」

 

 今彼女が頼れるのは、唯一無二(ゆいいつむに)の姉だけ。

 暗い表情を浮かべ、(めずら)しく悩む彼女だった。が、そこへ……

 

 

じゅぅすぃ〜

 

 

 な肉の香りが彼女の鼻を刺激し、腹の準備運動を促進(そくしん)させ、

 

 

く〜ぎゅるるる〜♪

 

 

 「そいつをよこせ」と指令を送ってきた。だが宴会の開始を告げる合図はまだ。準備中の者もいる。いくらお腹が空いているとはいえ、それを待たずに……ましてや彼女は()()お屋敷のお嬢様。つまみ食いなど……

 

こい「おっいし〜♪」

 

 なされた。腹部からの命令が頭に届いてからは待ったなし。彼女は本能と「じゅぅすぃ〜」な香りに導かれるまま、躊躇(ちゅうちょ)なくお召し上がりになられていた。しかもその量たるや、

 

こい「あ、これも美味しい〜♪」

 

 つまみ食いでは済まされない。目に付いた物を次々と(はし)でキャッチし、お口へGOしていく。その様子はさながら、ビュッフェで皿に取って自席で食べず、その場で直食を堪能(たんのう)されるマナー知らずの客そのもの。品など……ない。

 完全にお食事モードへとスイッチが入った彼女。用意されたオカズはどんどん姿を消していく。だがそうなると……

 

??「あーッ!」

 

 気付く者も出てくる。彼女の方を指差して大声を上げる月の妖精。そしてその声にすぐに反応したのは、いつも一緒にいる

 

??「急に大声ださないでよ。ビックリしたー」

 

 太陽の妖精と、

 

??「ルナどうしたの?」

 

 星の妖精だった。やがて二人の視線は、自然と大声を出した月の妖精の指先へと向けられ、大幅にフライングをした彼女の下へと集まる。「見られた?」そんな疑惑から、今彼女の心臓はドキドキと強く脈って

 

こい「〜♪」

 

 などいなかった。余裕しゃくしゃくのニコニコスマイルで三人に応えていた。なぜなら彼女はただ今絶賛能力を使用中。故に、

 

ルナ「お料理が減ってますー」

 

 三妖精が目にできるのは結果だけ。だがその所為で、

 

サニ「チルノ食べたな!?」

 

 たまたま近くにいた氷の妖精に容疑が向けられ、

 

チル「はーッ!? あたい食べてないし!」

ルナ「ウソはよくないですー!」

チル「ウソじゃない! あたい、リグルとルーミアとお皿並べてたから!」

ルー「そーなのだー」

リグ「チルノは食べてないよ。そうならないように、咲夜に言われて二人を見張っていたんだから」

サニ「はっ、どうだか。三人で口裏合わせて、こっそり食べたんじゃないの?」

チル「はあああッ!? あたい達に喧嘩売ってんの!?」

リグ「その喧嘩かってやらあっ!」

 

 第二次妖精大戦争を引き起こそうとしていた。

 互いに引く事をしようともしない攻撃的な視線は火花を散らし、一方が少しでも動けば開戦の合図になり得る、緊迫した状況と化していた。

 そんな中、

 

  『やめてっ!』

 

 意を決して仲裁に入ったのが各チームの優等生、星の妖精と能力未開花組の大きな妖精だった。

 

大妖「二人ともここに来てまで喧嘩はしないでよ」

スタ「サニー達も! あそこまで違うって言っているんだから、信じてあげなよ」

  『けどあっちが……』

  『ごめんなさいでしょ!』

 

 「言い訳はご無用」とばかりに言い切る前に割って入る優等生達。その表情は、日頃の優しさあふれるものからはとても想像も出来ない、口と眉間に力を込めたもの。流石の四人もこのギャップには敵わなかったようで、

 

  『ごめんなさーい』

 

 双方(そろ)って戦わずして白旗を(かか)げた。だが謎は残ったまま。必然的に、

 

サニ「じゃあ誰が食べたのさ?」

 

 再び犯人探しと謎解きが始まる。

 

リグ「見間違いじゃないの?」

ルナ「違いますー。もっといっぱいに、お皿に山盛りであったんですー」

大妖「もしそうなら他の誰かが……もしかしたら、もう始まっているのかも」

スタ「乾杯(かんぱい)とか始まりの合図ないのに?」

 

 三人寄れば文殊(もんじゅ)の知恵、今この場には六人が集結している。その効果は文殊の倍以上が期待値である。思考の末、導き出された答えは……

 

チル「それはここ毎年そうじゃん。きっともう食べていいんだよ」

  『だよねー』

 

 やはり妖精と未熟な妖怪。何人集まろうと……こんなものだった。満場一致で『そういう事』となったその時、

 

??「うまうまなのだー! もっと欲しいのだー!!」

 

 それは高らかに宣言された。

 

大妖「ルーミアちゃん!?」

スタ「ちょっとあんたどれだけ食べてるのよっ!」

ルナ「三皿が空っぽですー」

リグ「ヤバイ、このままじゃ全部食われる!」

サニ「負けるかあっ!」

チル「サニー! それあたいがキープしてたやつ!」

 

 「止まったら負け」と我先に食事を奪い合うお子ちゃま達。

 彼女達が真相究明に(いそ)しんでいた頃、その(かたわ)らで闇を操る幼女は迷う事なく、目の前の食べ物をパクパクと食べていたのだった。真犯人の手によって。

 そう、幼女は自ら食事を取り、口へ運んでなどいなかった。目の前をふよふよと浮遊する、あたかも「食べて下さい」と言わんばかりの食べ物に、喰らいついていただけ。

 一方真犯人、言い争いを始めるお子ちゃま達の横で、食べ物にロックオンし、マーライオンの様にヨダレを流すこの幼女に「これ美味しいよ〜♪」とオススメし、餌付けをしていただけの事。悪気などは一切ない。

 そしてこれが、ここ数年の宴会の始まり方でもある。

 

??「もう始まってたのか!? (ぜん)は急げだze☆」

??「魔理沙、私の分も取っておいてよ」

 

 盗みは十八番、腕まくりをしながらお宝を目指す白黒魔法使いと、その彼女に自分の分を依頼する七色の人形使い、

 

??「神奈子様、諏訪子様。もう始まっているみたいですよ」

神奈「相変わらず始まり方がいまいちパッとしないねぇ」

諏訪「別にいいじゃない。私朝ご飯抜いたからお腹ぺこぺこだよぉ」

 

 外の世界から移住して来た神々、

 

??「おい! それは私のだネオニート!」

輝夜「はー!? 取った者勝ちだから! トロイあんたがいけないんでしょうが!」

??「手を組んだじゃなかったウサ?」

??「もー、こういう時にお師匠様いないんだから……」

 

 犬猿の仲とその苦労人達、

 

??「お姉様、食べよ食べよ」

??「お嬢様、お飲み物は何にされますか?」

レミ「そうね、初めはスパークリングワインにするわ。パチェは何か飲む?」

??「私が作った紹興酒(しょうこうしゅ)もありますよ?」

パチュ「……ジンジャエールにするわ」

 

 紅の館の面々、

 

??「やっときゅうりが食べられる。機器のセッティングもしなきゃだよ」

??「美味しそ〜♡ 天ぷらからた〜べよ(無表情)」

??「ご主人、何か欲しい物は?」

??「い、胃薬を……」

??「幽々子様がいない今がチャンスです!」

 

 幼女の掛け声は、花見の参加者達へ瞬く間に伝わっていき、

 

??「リリー、今日が終われば交代ね」

リリ「はーるですよー」

 

 この年の冬の終わりと、春の始まりを告げる花見が幕を開けるのだった。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 色鮮やかに咲き誇る桜には目もくれず、飲み物を片手に会話に花を咲かせ、用意された食事とつまみに舌鼓を打つレディー達。今であればコソコソせず、堂々と食事をしていてもバレはしない。だが、

 

こい「お腹いっぱいになっちゃったな〜♪」

 

 大幅にフライングをしていたが故の末路。こうなると後は周囲の者達の会話に(まぎ)れながら、来たるその時を待つだけ。それでも問題はなかった。

 

  『オラオラオラオラオラオラオラ!!!』

 

 しかしそこへ素敵な掛け声の合唱が。そちらへ視線を向けてみれば彼女の知人の他に、先程の挙動不審の外来人。彼女は瞬時に察した。

 

こい「おもしろそ〜♪」

 

 となれば善は急げ、

 

こい「なっんだろな♪ なんだろな〜♪」

 

 行動開始。

 やがて彼女が興奮気味の彼の背後に辿り着いた時、ほぼタイミングを同じくして、

 

??「さっぱりした〜」

 

 温泉に入っていたもう一人の外来人が、全身からほくほくと湯気を出しながらやって来た。これは彼女にとって願ってもない状況だった。なぜならおもしろ人間が二人も揃っているのだから。

 

??「ごめんなさあああい!」

 

 そこから展開される会話は、事情を知らない彼女でさえも充分に満足できるものだった。自然と笑いが込み上げ、悩み事など忘れてしまう程に。だが彼女はこの時から奇妙な違和感を覚え始めていた。それがさらに深いものへとなったのは、

 

??「じゃ、じゃあどぅぞどぅぞ」

 

 人見知りの彼が動き始めた時。

 だがそれは目の前であたふたしながら、耳まで真っ赤に染まる彼へ向けられたものの可能性が大いにあった。その証拠に

 

??「どうしたウサ?」

 

 と問われても、

 

??「ん〜? 何でもないよ〜」

 

 と、ほのぼのと答え、

 

??「頭がぼんやりするの?」

 

 と問われても、

 

??「ん〜ん〜、大丈夫だよ〜」

 

 と、のほほんと答えるだけ。

 慌てて股間に視線を落とす彼の事も、珍しく心臓が強く脈打つ彼女の事も、一切話題に出す様子も素振りも見せなかった。とは言え、この気味の悪い感覚からは早々に退散したいところ。彼女は左へと大きな蟹歩きで二歩、三歩とその場から逃げ出した。

 これで一安心。彼女を襲う締め付ける様な感覚は、

 

こい「えっ……」

 

 追いかけていた。

 服のボタンを上から順にチェックする彼には目もくれず、まっすぐ彼女の方を見つめているのだ。念のため願いを込めて振り向いてみる。そこには「見てくれ」とばかりにドヤドヤと咲く満開の桜。

 だが彼女は思った。「見ているのはこれじゃない」と、

 

こい「私……」

 

 であると。植え付けられる不安、芽生える疑惑、そして花咲く恐怖。

 

こい「そんなはず……そんなはずないもんっ!」

 

 それらを()ぎ払うように、彼女は能力を全身から吹き出した。

 外の世界から来たという不思議な少女に襲いかかる彼女の最大限の力。相手の無意識を操り、自身を認識させなくする程度の能力。その手応えは……、

 

こい「〜♪」

 

 にこりと微笑んで鼻唄。揺るぎない自信の表れだった。そして……

 

こい「外から来たならメリーさん、知ってるよね♪」

 

 少女へと近づいた。

 

こい「どんな反応するかな〜♪」

 

 黒いダイヤル式の電話を手に。

 




ビュッフェで皿に取って自席で食べず、その場で直食を堪能(たんのう)されるマナー知らずの客そのもの
⇒実際いないと思いますけどね……。
 とはいえ、マナーとルールには気をつけましょう。


【次回:8輪目_何者!?です】
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