身支度を終え、帰宅を開始したオタクとおかっぱ頭だったが、ゴンドラの扉は現在故障中。そこで守矢神社一同で二人を人里まで送る事に。ここまで来れば白玉楼まではすぐである。
海斗「そいじゃおっじゃま〜」
スマホのバッテリーも、お腹も心も満たされ、上機嫌のお調子者。食事中は巫女の手料理に「ヤバイ」を連呼し、感動の涙を流しながらわしわしと食べ進めていたそうな。
妖夢「どうもご馳走様でした。ご飯とお土産まで頂いてしまって」
もちろん自分達の主人のご飯も忘れずに。さらには神社への
諏訪「いいのいいの。私達じゃ食べきれないし、そっちには底なし胃袋の主人がいるんだから」
神奈「その分信仰してくれればいいよ」
早苗「これからも守矢神社をよろしくお願いしまーす」
だが営業は忘れない。
「これで別れの挨拶は終わり」と誰もが思ったその時、不意にオタクが
海斗「そうだ早苗、さっき気絶してたから聞いとくぜ?」
早苗「なんですかー?」
海斗「俺の嫁にならない? 幸せの保障はするぜ?」
またしてもやりやがった。
神奈「おやおや、今度は早苗かい。これはまた随分といきなりだねぇ」
妖夢「またですか!? 早苗、相手しなくていいからね」
諏訪「海斗が
妖夢「へ?」
早苗「嫁になれば……ほ……ほんとに……私の『幸せ』……は……保障してくれるの?」
妖夢「ちょっと早苗!?」
海斗「ああ〜約束するよ〜っ」ニタァ〜ッ
早苗「だが断る」キリッ
海斗「ナニッ!?」
しーんと静まり返る人里の片隅で、二人は打ち合わせもなしに、いいテンポでやりきった。
早苗「ふふっ……」
海斗「くくっ……」
『あはははははっ』
そしていきなりお腹を抱えて笑い始める二人に、
妖夢「え、なに? どういうこと?」
おかっぱ頭はポカーン。
諏訪「あー、そういうことね」
神奈「二人共好きだねぇ」
神々は苦笑い。
海斗「やっぱ早苗面白いや。また会おうぜ」
早苗「はい、その時は四部について熱く語りましょう」
家事全般をやりながら、本職の巫女として参拝客に笑顔を作って対応する毎日。その裏でコレクションの貸し出しを始め、仲間作りに
早苗「あーっ、楽しかったー!」
この日彼女は久しぶりに胸の奥から笑っていた。
神奈「さて、私も出掛けてくるよ」
早苗「え? 今からですか?」
諏訪「どこ行くの?」
神奈「まあ、ちょっとね。すぐ戻るから先に風呂入ってな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
屋敷への最後難所、長い長い階段を上って行くお調子者。さぞ今日一日の
海斗「……」
無言で真剣な表情を浮かべていた。そんな彼におかっぱ頭が違和感を覚え始めた頃、彼はようやくその口を開いた。
海斗「やっぱり早苗達は外の世界から来たのか?」
妖夢「ええ、そうですよ?」
素直に答えるも、彼女の違和感は深まる一方。教えたわけでもないのに、この世界の事をペラペラと語る彼がその事を知らないとは思えなかったのだ。
海斗「そんなはずは……ありえない」
妖夢「何がですか?」
海斗「ここって現実なのか? ゲームの世界じゃないのか?」
妖夢「ゲーム? 早苗のところにあったやつの事ですか? そんなことはありません。何処かは言えませんけど、ここは地球にあります」
おかっぱ頭は「何を馬鹿げた事を言っているんだ?」と冷ややかに思いながらも真実を語った。だがそれは彼の顔色をさらに暗いものへと変色させ、彼の口からある事実を告げさせることになる。
海斗「幻想郷の事、外の世界にダダ
妖夢「え?」
海斗「この世界の事、特にみょんに咲夜、魔理沙師匠に霊夢達の事が。どんな人物なのか、どんな能力なのかが。詳しいのは俺だけじゃない、今じゃ多くの人が知ってる。みょん達は俺達の世界ではゲームのキャラクターなんだ」
妖夢「そんな……」
海斗「最初俺がここで目を覚ました時、夢か幻かと思ってた。でも目に映る物、幽々子様に触れた感触が全て本物だった。だから俺は馬鹿らしいかもしれないけど、『ゲームの世界に来たんだ』って考えたんだ」
順を追って説明する彼の推測を彼女は真剣な表情で耳を傾けていた。そして同時に、彼のこれまでのふざけた行いには意味があったことに驚き、感心もしていた。
だがここまでは彼が導き出した前代未聞の結論までの
海斗「でもそうなると早苗達の存在に矛盾が生じるんだ。ゲームのキャラクターなのに、外の世界から来たっていうところが。だから『元々ここの出身だったんじゃないか?』とか『そういう設定なだけなんじゃないか?』って考えた。けど……」
妖夢「違ったと?」
海斗「ああ、俺はこれを早苗と諏訪子様に見せ時、一度も『スマホ』とは言ってないし、『最新機種だ』とも言ってない」
妖夢「そう言われてみれば確かに……」
海斗「でも2人共、神奈子様もその事を知っていた。しかも早苗の本棚にあった漫画は全部俺達の世界の物だ。最新刊までだ! これをどう説明する!?」
妖夢「海斗さん落ち着いて下さい。あそこにあった本の多くは、早苗がこっちの世界に来た時から持っていた物です。それに新しい物は紫様に頼んで買われてるそうですよ」
海斗「それだよ、つまりここは現実なんだ。俺達の世界と同じ時間軸で動いている地球の何処かなんだ」
妖夢「ええ、だからさっきもそう言いましたけど……」
海斗「みょん、話を戻すぜ? 俺みたいな幻想郷のファンは外の世界に山程いるんだ、起きた異変も能力も知っているんだぞ?」
妖夢「それってつまり……」
海斗「誰かいるぞ、幻想郷の情報を外の世界にリークしているヤツが」
妖夢「そんなはずはありません! 幻想郷の事が外の世界の者達に知られる事がどれ程危険な事か皆重々承知しているはずです! そんな裏切り行為をする人なんて……」
海斗「でもそうじゃないと説明がつかないぜ?」
妖夢「ですが……」
海斗「みょん、この事は秘密だからな。そんで探そうぜ、その裏切り者を二人だけで」
ーーオタク帰宅中ーー
お調子者が話した事はあくまで憶測の範囲内であり、俄かに信じ難いものだった。だがその反面、説得力がありそうとしか考えられないものだった。眉間に皺を寄せて無言で悩み続けながらも、彼女達は主人の待つ屋敷へと到着した。
海斗「ただ今戻りました……って、なんじゃこりゃ!」
そこはもう大惨事。整えられていた庭は荒れ果て、隅々まで掃除が行き届いていた居間の畳は何畳か外され、出発まで綺麗だった屋敷は、中も外もひっちゃかめっちゃか。この状況に大声を出して驚愕する彼とは反対に、おかっぱ頭の彼女は
妖夢「あー、やっぱり」
とため息を吐くも、至って冷静だった。
海斗「みょん、これどういう事だぜ?」
妖夢「ああいう事です……」
そう答える彼女の指の先には、
??「ゆえええええん!」
声を上げて泣きじゃくる小さな影が。
子供「おーなーか、すーいーたー。よーむぅ、ごーはーんー!」
それは年齢で言えば3〜4歳とくらいの小さな子供、だが桃色の髪に水色の独特の服装と、類似点も多く、
海斗「何あれ? 幽々子様?」
必然的にそういう結論になる。
妖夢「はい、極限にお腹が空かれるとあのお姿になられて、屋敷中を滅茶苦茶に荒らされるんです」
海斗「なんじゃそりゃ……」
妖夢「それじゃあ、私はお風呂の準備をするついでに入ってきますので、後はお願いしますね」
海斗「待った待った、これ全部俺にやらせるのか!?」
お調子者が幻想郷に現れてからというもの、平穏だった彼女の毎日は今やドタバタ劇へと様変わり。あちらこちらに連れ出され、Going my way の彼に振り回され、気苦労が絶えない日々の連続である。だがそのおかげで、
妖夢「だから言ったじゃないですか、後片付けがあるって。やってくれるって約束しましたよね? 男には二言はないって言いましたよね?」
彼女は彼の扱いに慣れつつあった。
海斗「うぐっ……。みょん、さては
妖夢「さー、どうでしょうね?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
海斗「片付け終わんねー……」
荒れた屋敷の片付けが一夜で終わるはずもなく、彼は翌朝も引き続き庭の整備に勤しんでいた。そこへ
幽々「今日のお昼ご飯はいっぱい食べるんだから!」
と強く言い切った主人のリクエストに、昨夜のお詫びとして答えるべく、食材の買い出しに人里へと訪れていた。
一枚のメモに箇条書きに書かれた大量の品に目を通しながら進んでいると、
海斗「へぶばっ」
突然地面に顔面を強打。つま先に残る感覚から「何かにつまずいた」とすぐに察知し、視線を戻してみるとそこには、
海斗「なんだこれ?」
ポ◯デリ◯グの様な台に乗せられ、三角帽子を被った水晶玉が横になって転がっていた。この物体を目視したオタクの脳内では、
1.明らかに人工物
2.高級な物っぽい
3.覚えのある形状
4.落し物
5.つまり……
知識と記憶のパズルがカシャカシャと音を立てながら組み立てられ、
海斗「
僅か0.1秒で答えを導き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ではなぜここまで綺麗でいられるのか? それは、
??「\おはよーございまーす!/」
日課を怠らない彼女のおかげ。
海斗「おはっ! おじゃまするぜー……☆」
その彼女にサラッと挨拶をすませ、高速で横を通り過ぎるオタクだった。
響子「\今のなに?/」
山彦が新幹線の様に通過した彼に、丸い目をパチクリとさせていた頃、
海斗「星ちゃんみっけ!」
すでにオタクは出会っていた。大切な物を失い、植木をゴソゴソと探していた
星 「何かご用ですか?」
ドジッ虎に。
海斗「これ人里に落ちてたぜ?」
星 「それは私の宝塔! よかったー、探していたんですよ。わざわざありがとうございます」
海斗「ちゃんと持ってないとダメだぜ?」
星 「はい……、面目無い」
大切な物を届けてもらった見ず知らずの男から注意をされ、ガックリと肩を落として
星 「なんとお礼をすればいいか、私に出来る事でしたら
それをこのオタクが聞き逃すはずがない。そこへ舞◯にいそうなドジッ虎の部下、妖怪ネズミのナズーリンが特技のダウジングをしながらやって来た。
??「ご主人、宝塔の気配が急に近くに……」
彼女はその現場を、その瞬間を目の当たりにした。主人と向かい合う若い男が、親指を立てて
海斗「じゃあ俺の嫁になってよ」
と爆弾を投下した瞬間を。
ナズ「ちょちょちょっ、ご主人この方は誰ですか? いつからお付き合いされているんですか?」
ダウジンググッズを投げ捨て、慌てて主人に駆け寄るネズミ妖怪。主人の袖を強く引き、説明を求めるが、
ナズ「ご主人?」
その本人はそれどころではなかった。
星 「ナズ私求婚されちゃった! 家事苦手なのにどうしよう、急いで花嫁修行しなきゃ! それと式を挙げるなら神社になるのかな? ここじゃ出来ないかな? あと暮らすならやっぱりここでみんなと一緒に……でもそうなると夜が」
ナズ「落ち着いて下さい! もう一度聞きますよ? いったいあの方は誰なんですか!?」
星 「宝塔を拾ってくれた方で、名前は……」
海斗「海斗だぜ、末長くよろしくだぜ!」
星 「はい……」
ナズ「はい……じゃありませんよ! なにときめいているんですか! というか名前今初めて知りましたよね!? 初対面なんですか?!」
星 「いやははは、実はそうなんだよ」
ナズ「はいいいいッ!? 初対面でいきなり求婚!? ちょっとあなたどういうつもりですか!」
海斗「どういうつもりって……本気だぜ?」ドヤッ
誇らしげに答えるお調子者。さらに「それに」とだけ呟くと、怒りを露わにする彼女にゆっくりとした足取りで近づき、頭の丸く可愛いらしい大きな耳に
海斗「そんなにカッカしてたら、可愛い顔が台無しだぜ? ナーズ」
と優しく息を吹きかける様に囁いた。
ナズ「なななななに、なにをー!?」
不意打ちでやって来たくすぐったい甘い囁きに、堪らず赤くなりながら耳を抑えて距離を取る彼女。だが彼から離れたおかげで、すぐに冷静さを取り戻し、
ナズ「とにかく! 宝塔の件はありがとうございます。このお礼は必ず致します。ですが、ご主人との結婚の件はご遠慮させて頂きます」
海斗「そっか、ナズがそこまで言うなら今回は諦めるぜ。そいじゃおっじゃま〜」
お調子者の毒牙から主人を守る事に成功したのだった。
ナズ「……むかつく」
そう呟く彼女の頬は少し赤みがかっていたそうな。
嫁捕獲作戦_八人目:寅丸星【歓喜】
【次回:10輪目_恥ずかしい……です】