東方迷子伝   作:GA王

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10輪目_恥ずかしい……です

??「せっかくの花見なんだze☆? 来て早々もめ事を起こす気か?」

 

 近距離から聞こえて来たスチャッという音に目を向けて見れば、愛用のマジックアイテムを構える白黒魔法使い。この距離で放たれては流石の彼女でさえも直撃は間逃れない。

 

??「せっかく面白い物が見られたっていうのに、穏やかじゃないねぇ」

 

 さらに攻撃的ではないにしろ、冷ややかな視線を送る小さな神。他の者もその二人と同様にどちらかの態度をとっていた。今や彼女の味方をする者などいない。

 

紫 「いやねぇ〜、何を勘違いしているのか知らないけど、私はあゆみちゃんの頭に付いていた花びらを取ろうとしただけよ」

 

 そんな一同に「またまたそんな〜」と手を縦に振りながら笑って答えるも、依然として周囲の目は冷たい。容疑が晴れるどころか、かえって深まる一方である。そこへ、

 

??「イナバ!」

??「悪い、出遅れた」

 

 同じ蓬莱人(ほうらいじん)にして犬猿の仲の二人が彼女の脇を通り過ぎ、兎の下へと駆けつけた。

 

妹紅「ニートの所為で」ぼそっ

輝夜「はあーっ!? あんたが勝手に張り合ってきたんでしょ!」

 

 あいも変わらず火花を散らす二人。だが互いに「敵はこっちではない」とでも思い直したのだろう。勢いと怒りと迫力をそのままに、彼女を正面にして戦闘態勢へ……。

 

  『ぎゃははははッ!!』

 

 かと思いきや、腹を押さえて膝を叩いて大笑い。そんな二人に彼女、「気でもおかしくなったのか?」と首を(かし)げて頭上に『?』を浮かべていた。

 だがすぐそばから聞こえて来る白黒魔法使いのクスクスと笑う声、反対方向へ顔を向けて小刻みに肩を震わす冬期限定妖怪、顔を赤くして必死に我慢する守谷の巫女。さらに高身長の神に至っては「見ていられない」と額に掌を当てて大きなため息。

 彼女は悟った。「明らかに自分に問題がある」と。しかし笑われるような事など身に覚えはない。謎は深まるばかりである。そんな彼女にゲラゲラと笑い続ける二人は、

 

輝夜「そうよね。いくら妖怪で実力があるとは言え……」

妹紅「蓬莱人(私達)じゃないもんな」

輝夜「お肌のお手入れは大変よね」

妹紅「とうとう自覚したか?」

 

 と。加えて二人の後方の薬剤師の頬を人差し指で二度叩く合図。

 

 

ピラ〜……

 

 

 彼女は全てを理解した。()がされた薄く白い仮面の下からは、

 

紫 「〜〜〜〜〜ッ」

 

 頭上で美しく咲く桜よりも色濃く、鮮やかに染まった顔がこんにちは。

 

魔理「あーあ、バレちゃったze☆」

 

 幻想郷の賢者ともあろう者が、創設者ともあろう者が、実力は間違いなくトップ10に入ろう者がなんたる失態、痴態(ちたい)、大失敗。今まで作り上げて来たイメージ、威厳(いげん)、風格が一瞬にして音を立てて崩れ去った。

 こうなってはプランも予定もない。苦し紛れに出した彼女の切り札は、まさかの

 

紫 「『結界』」

 

 けどやっぱりのスペルカード宣言。それに対抗すべく慌ててカードを引き宣言を始める一同。

 

??「『恋符』」

??「『難題』」

??「『不死』」

??「『兎符』」

??「『波符』」

??「『寒符』」

??「『奇跡』」

 

 だが、

 

紫 「『光と闇の……』」

 

 動き始めたのが遅すぎた。彼女の宣言はもう間もなくで終わりを迎えるところ。

 

??「『神具』」

??「『蘇生』」

??「『奇祭』」

 

 一向に宣言を止めようとしない彼女に、さらに遅れて加勢に入る者達。万が一間に合わなくとも、すぐに止められるように。

 

鈴仙「あゆみちゃん、大丈夫だからね」

あゆ「うん……」

 

 この日を楽しみにしていた者をがっかりさせないために、多くの者が集まる花見の席を守るために。

 

紫 「『網目』」

 

 終わる彼女の宣言。だがまさにその瞬間、言い切るが早いか否かの瀬戸際のタイミングで彼女の手に電撃に似た強い衝撃が襲った。(たま)らず手放したカードは彼女の手から離れ、桜の花弁(はなびら)と共に舞い落ちた。

 

??「『ホーミングアミュレット』」

魔理「ふー、間一髪。ナイスタイミングだze☆」

 

 後から宣言のスペルカードではない技。これで何度幻想郷を異変から救って来ただろう。

 

魔理「霊夢」

霊夢「紫あんたねー……ちょっと向こうに来なさい!」

 

 眉間(みけん)(しわ)を寄せ、般若(はんにゃ)の面の『楽園の素敵な巫女』。あと一歩のところでこの巫女が放った札によって妨害された彼女、

 

紫 「はいはい、ごめんなさい」

 

 両手を小さくあげて降参のポーズ。そしてお気に入りの扇子(せんす)を広げて口元で構えると、ブレザー兎に抱きしめられる少女を瞳に映し、

 

紫 「あゆみちゃん、騒がしくしちゃってごめんなさい。それと誤解しないでね。私はあなたに敵意はないわ。あの件も喜んで協力するから」

 

 そう告げると、巫女がお(はら)い棒で指し示す方角へと歩みを進めた。

 

霊夢「あゆみ怪我は?」

あゆ「大丈夫です」

霊夢「そう、よかった。また紫に何かされそうになったら私を呼びなさい」

 

 背を向けてその場を後にする二人。やがて一同の目には届かなくなった所で、

 

魔理「相変わらず何を考えているのか……(つか)めないヤツだze☆」

 

 ぽつりと独り言をこぼす白黒魔法使い。彼女を知る者であれば当然の感想だろう。だが心配に思う事もあるようで……。

 

魔理「あの腕、まだ治らないんだな」

永琳「怪我が怪我だから。完治までにはもう少しかかるわ」

魔理「でもあれじゃ誰かさんとキャラが被るze☆」

 

 白黒魔法使いのこの一言に、大きく同意する一同。「口には出さずとも、思うことは皆同じ」といったところだろう。そこへ心臓破りの階段の方角から現れる

 

??「大丈夫でしたか?」

 

 薄紫頭と

 

??「何かトラブル?」

 

 お団子ピンク頭。

 片や地底世界の長として町民達から頼られ、切磋琢磨(せっさたくま)する幼女体型。片や山でひっそりとのんびりと暮らすスタイル抜群のモデル体型。住む場所も生活リズムも見た目も正反対なこの二人。それでも共通点が一つある。それは両者共動物大好きっ娘であり、多くのペットを飼っているという事。古明地さとりと茨木華扇である。

 

華扇「えっ、なに?」

 

 「(うわさ)をすれば……」と集まる視線にたじろぐ自称仙人。そんな彼女に一同

 

  『別にー』

 

 とだけ。妙な反応に首を傾げる彼女だったが、知った顔を見つけると挨拶がてらに声をかけた。

 

華扇「あら妹紅、久しぶりね。遠足の時以来かしら?」

妹紅「だな。来ると思ってあの時の写真持って来てるぞ。ほらお前のキメ顔写真」

華扇「ちょっと! 今出さなくてもいいでしょ!」

諏訪「寺子屋で遠足に行ったの? ってうわー……」

レテ「私恥ずかしくてこんなポーズ出来ないわ……」

神奈「これはこれは……自分の容姿に自信がないと出来ないねぇ」

輝夜「しかもかなり練習を積んでいると見た」

早苗「モデル志望なんですかー?」

 

 体育教師が取り出した一枚の写真に群がり、中央に映る彼女にジト目を向けて感想をこぼす一同。その彼女は

 

華扇「もう早くしまってーッ!」

 

 と、その場で小さく(うずくま)り、赤く染まる顔を両手で(おお)い隠していた。

 一方少し遅れてやって来た地底の長。現場に到着するや

 

??「お姉ちゃ〜ん!」

さと「おうふっ!」

 

 全力の体当たりのプレゼント。

 

さと「え、何!? こいし?」

 

 だがその姿は姉である彼女には目視出来ていなかった。やがてその姿が見えるようになった頃、彼女の目に映し出されたのは

 

こい「私の能力、消えちゃったのかな〜?」

 

 涙目で(うった)える妹の姿だった。

 

さと「……は?」

 

 

--少女説明中--

 

 

 驚かす。その点だけ言えば少女のイタズラは成功と言える。だがその反面、少女の身に起きた出来事は閉ざした心に深い傷を残す事になった。

 「あのね、あのね、それでね」と事情を泣く泣く語る妹を、彼女は頭を撫でながら黙って聞いていた。時折周りに第三の視線を向けながら。

 

さと「そう、大丈夫よこいし。あなたの能力は消えてないから」

こい「ホント〜?」

さと「本当よ。私だってついさっきまで気付かなかったんだから」

こい「ビックリした〜?」

さと「ええ、心臓が飛び出るかと思ったわよ」

こい「えへへ〜♪」

 

 一方、その二人の様子に「姉妹っていいなー」と温かい目で見守っていた永遠亭御一行。そこへ、

 

??「あゆみ顔真っ白だze☆ 大丈夫か?」

 

 やって来ては鈴仙に抱かれるあゆみの顔を心配そうに覗き込む白黒魔法使い。あゆみは彼女と視線が重なると笑顔を作り、

 

あゆ「全然へっちゃらですよ〜」

 

 とは返すが額に汗を滲ませ、無理をして堪えているのは見るに明らか。そんな彼女に白黒魔法使いは眉をひそめるも深掘りはせず、近くにいた天才薬剤師に

 

魔理「なあ永琳、さっき言ってた『あゆみが特別』ってどういう事だze☆? 何でこいしを捕まえられたんだ?」

 

 生まれた間もない謎の答えを真剣な表情で尋ねた。

 

さと「そのお話、私にも聞かせてくれませんか?」

 

 薬剤師は白黒魔法使いに、覚り妖怪に、その場の全員に全てを話した。あゆみが外の世界から迷い込んだ者である事を、しばらく帰れず永遠亭に居候(いそうろう)している事を、そして目下成長中の能力の事を。

 彼女は外の世界からやって来た少女の事について何か尋ねられるのは、ここに来る前からある程度覚悟していた。肝心な部分は伏せて説明すればいいと考えていた。だが大きな誤算、それが心を読む事ができる覚り妖怪の存在だったのだ。

 やがて彼女の話が終わり、どよめき始めた頃……

 

 

ズドーンッ!!

 

 

 場の空気を一掃するかのような大きな爆発音が上がった。それは花見の参加者全員の耳に届き、目を丸くさせ、一同の会話を打ち切らせ、注意をひきつけさせた。神社の裏から上る小石と砂を含む狼煙(のろし)は一同に異常事態である事を告げ、その場に只ならぬ緊張感を走らせた。

 

魔理「全員その場で構えろ!」

 

 指揮を取る異変解決の常連。マジックアイテムの噴出口をそちらに向け、魔力を集め始める。そんな彼女の目の前にそれは突然放たれた。

 

  『?!』

 

 地面に叩きつけられる鈍い音。そこには両腕を身体ごと(ひも)でグルグル巻きに(しば)られ、イモムシの様に横たわる影。しかもこの者、縛られているというのに、

 

??「ヤマメちゃーん、地底のアイドルのヤマメちゃーん。これ解いてくださーい。山より高く谷より深く反省していますからー」

 

 どこか余裕を感じさせる。口では反省の意を伝えるも、色はない。今まで何処へ行っていたのやら。花見初参加にして本日の要注意人物の一人、

 

  『海斗?』

 

 オタク。

 

海斗「あ、魔理沙師匠。これ解いて下さいよ」

 

 ご指名され「やれやれだze☆」と頭を()きながらお調子者のリクエストに応えるべく、出力先を彼へ向けて魔力の調整を始める『いつの間にか師匠』。目標威力は本気とは程遠い『ため無し近距離マスパ』。だがそこへ

 

??「待った!!」

 

 裁判の開始を告げる声が。白黒魔法使いの正面から現れたのは、お調子者を縛る細くても頑丈な糸の生みの親、蜘蛛姫こと黒谷ヤマメだった。

 

ヤマ「あ、ちょうどいい所に」

海斗「すげぇー! さとりんとこいしまでいる」

さと「ヤマメさん、これはいったいどういう……」

ヤマ「不届き者!」

 

 普段は温厚で優しく、面倒見も良い蜘蛛姫。その蜘蛛姫が険しい表情で、お調子者を犯罪者扱い。その気になる罪状は……。

 

ヤマ「女湯(のぞ)いてたの!!」

 

 お察しの通りである。

 

  『はあああああッ!?』

ヤマ「あとこっちも!」

 

 再び上がる鈍い音。そこにはお調子者と同様の姿で無言の、

 

??「……」

 

 否、耳を澄ませば聞こえて来る

 

??「僕は……僕は……僕は……」

 

 ぶつぶつ音。博麗の巫女を探しに行っていたのではないのか? 花見初参加にして踏んだり蹴ったりの一日になりそうな

 

  『優希!?』

 

 ヲタク。

 




??「『恋符』」
??「『難題』」
??「『不死』」
??「『兎符』」
??「『波符』」
??「『寒符』」
??「『奇跡』」
??「『神具』」
??「『蘇生』」
??「『奇祭』」

それぞれ誰のスペカでしょう。答えは次回に。

【次回:11輪目_話しますです】

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