東方迷子伝   作:GA王

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13輪目_何考えてるの?です

魔理「お前は下心あっただろ?」

海斗「いえいえそんなそんな。たまたま通りかかったら、楽しそうな笑い声と話し声が聞こえて来たんで、思わず足を止めてしまっただけですよ」

魔理「でもその声を『スマホ』とかいうのに記録しようとしたんだろ?」

海斗「ちょーっとした出来心なんです。別に『そのためにそこにいた』とか、『前々から計画していた』とかそんなんじゃないんです。ホントホント、深く深あああぁぁぁ……っく反省していますから」

魔理「って言っているんだが?」

 

 そうさとり様に尋ねる魔理沙さん。たぶん海斗君の言葉が本当かどうか確認したかったんだと思います。でもさとり様が海斗君を眺め始めた直後、

 

さと「はああああっ!!?」

 

 顔を真っ赤にさせて大絶叫です。

 

魔理「いきなりなんだよ、ビックリさせるなだze☆」

さと「破廉恥(はれんち)! 卑猥(ひわい)!! ドスケベ!!! ド変態!!!! 頭の中真っピンク! R18の塊!! こんな人の心なんて読みたくないです!」

海斗「酷いなー、俺の本気の気持ちなんだぜ? さ〜とりん♡」

さと「だとしたら大問題ですよ!」

 

 えー……、こんな時に海斗君何考えてるの……?

 海斗君に向けられた周りの人達の目の温度はもう絶対零度です。そこへ遅れて駆けつけて来た霊夢さん、事の経緯を魔理沙さん達から聞くと、

 

霊夢「後でアイツらが出てきたらちゃんと詫びてもらうわよ」

 

 と、真剣な表情で僕と海斗君の両方に。そして、

 

霊夢「アンタは覚悟してオキナサイヨ」

 

 と、拳をバキバキ鳴らして額に血管が浮き出た怖い表情で海斗君だけに。霊夢さん、ほどほどにしてあげて下さい……。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 博麗の巫女を先頭に歩き出す罪人達。向かう先は皆の目が届く場所、神社の入り口である。そこには鳥居が門の代わりに(たたず)み、訪れる者を歓迎してくれる。だが今は罪人を見下ろして威嚇(いかく)しているようにも見える。そこはヲタクがかつて心臓破りの階段を上り、汗を流してヘロヘロになっていた場所。博麗の巫女と初めて出会った場所、彼の幻想郷の暮らしが幕を開けた場所だった。

 

魔理「人騒がせな奴らだze☆」

 

 紅白巫女に連れられて行く二人の男の背を眺めながら独り言。それを拾ったのは近くにいた

 

??「まったくです。それにあそこまでネガティブな方を見るのは初めてです」

 

 片腕を拘束された覚り妖怪。

 

さと「あの二人も外来人だったんですね」

魔理「読んだのか?」

さと「ええ、深いところまで拝見させて頂きました。それで彼、優希さんの事なのですが」

魔理「男のクセにハッキリ話さなくてイラッとくるだろ?」

さと「その事なんですが、どうやら人見知りとかじゃなさそうなんです。対人恐怖症って分かります?」

 

 対人恐怖症、 人を目の前にすると「嫌がれないか」「不快感を与えないか」といった感情が無意識に働いてしまう事をいう。別名あがり症とも呼ばれる。

 この初めて聞く言葉に普通の魔法使いは、

 

魔理「ze☆?」

 

 「なんだそれ?」と首を傾げた。

 

さと「早い話、人との関わりを恐れているんです。特に人前に出たり、注目されたりするのが大の苦手みたいです。それもこれも、あるトラウマが原因で」

魔理「なんだよ魔理沙ちゃん達は何もしてないze★! 疑うなら能力で覗いてみろよ。どんと来いだze☆!」

 

 疑われている。そう思ったのだろう。彼女は身の潔白を証明するために覚り妖怪に胸を向け、「さあ覗け」と堂々と胸を叩いてみせた。

 

さと「そうではなくてもっと前、外の世界での事です。そこでトラウマが……」

魔理「何が原因なんだze☆?」

さと「それは……怖い思いをした。とだけ言っておきます。それで、良ければ彼の治療を私に任せてくれませんか?」

魔理「はあああ?」

 いきなりの提案に呆れ顔にも似た表情。眉を八の字にして「お前が?」とも言いたげである。

 だが覚り妖怪はそんな彼女に御構い無し。片腕を拘束されたまま次の相手を瞳に写していた。

 

さと「少し拝見させて頂きましたが、あなたも何かトラウマを抱えてるみたいですね」

 

 「もう大丈夫だから」とブレザー兎から離れたもう一人の外来人である。

 

あゆ「えっと……」

 

 突然話を振られ、視線を外して困惑する少女。胸の奥に抱える暗く、重たい物の存在を初対面の者に言い当てられる。それは気味の悪い事でしかない。そこへ耳のいい少女の友人が、覚り妖怪の前に盾となって立ち塞がった。

 

てゐ「あゆみに何するつもりウサ!」

さと「誤解しないで下さい。私はトラウマの治療を提案しているだけです。無理強いはしません」

 

 治してあげたいだけ。そう答えるが彼女に向けられた視線には『信用』の二文字は無かった。というのも、

 

てゐ「治療ウサ〜? 医者でもないのにウサ?」

魔理「ましてやお前がだろ?」

 

 相手は超有名腕利き薬剤師と共に暮らす者、疑われて当然である。とは言え、彼女には

 

さと「実績はあります」

 

 これがある。精神、心、記憶の扱いについては右に出る者はいない。

 

あゆ「えーん、ど〜しよ〜」

 

 板挟み状態の少女。二人とも自分の事を思っているだけに、簡単に決められない、断れない。だがそんな悩める少女の所に救いの手が。

 

  『さとり様ー』

 

 覚り妖怪のペット、お燐こと火焔猫(かえんびょう)(りん)と、お空こと霊烏路(れいうじ)(うつほ)である。覚り妖怪は二人に気が付くと、悩める少女に

 

さと「後で伺いますので、その時に答えを聞かせて下さいね」

 

 とだけ言い残し、駆け寄るペット達へ向かって歩きだ

 

お空「さとり様大丈夫だった?」

お燐「さっきの音(ニャ)んでしたのニャ?」

さと「ちょっとね、敵襲とかじゃないから安心して」

お空「うにゅ〜? ヤマメーちゃんさっきお風呂行かなかった?」

ヤマ「まあ色々あってね。今から行くところだよ」

お燐「そうだ、さとり様お風呂行きましょうよ。お酒飲んだら入れませんニャ」

さと「ごめんなさい。私はやっぱりやめておきます」

 

 騒動の結末を見ておきたい。そう思い、片腕を拘束されたままペット達の誘いを断る覚り妖怪。そしてその片腕に視線を向けると、

 

さと「こいしはどうする?」

 

 しがみ付いて離れる様子のない妹に尋ねた。

 

お燐「こいし様いらしてたんですね」

お空「お久しぶり!」

お燐「一昨日会ったばかりニャ……」

こい「お姉ちゃんと一緒にいる」

 

 この返事に肩を落として「えー……」とガッカリする二人、まるで「話が違う」とでも言いたげな様子である。

 

??「温泉に行くの? だったら一緒に行かない?」

 

 そこへ彼女達の会話ん横耳に聞いていた自称仙人が輪の中に入って来た。

 

さと「最後まで見届けなくていいんですか?」

華扇「ええ、あとは霊夢がうまくまとめると思うし、温泉にいる彼女達に事情を話しておかないとね。出て来てから大騒動を起こされたら大変でしょ?」

さと「それもそうですね。温泉にいるメンバーを考えると、確かにそれはあなたが適任かもしれませんね」

 

 その後彼女は自称仙人に「よろしくお願いします」とだけ伝え、共に温泉へと向かう蜘蛛姫、猫娘、卵大好き娘に手を振って見送った。やがて4人の姿が神社の裏へと続く角を曲がり、姿が見えなくなった頃、

 

霊夢「みんなちょっと聞いて頂戴」

 

 博麗の巫女による判決が下されようとしていた。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 霊夢さんは僕と海斗君を鳥居の下まで連れて来ると、みんなにそう切り出しました。そして僕達二人が裏で何をしていたのかを順を追って話されました。その間僕、疲れてもいないのに足がガクブルです。集まる視線が怖いです。

 

霊夢「以上よ。それでみんなにこの二人の判決を下して欲しいの。まずはコッチ」

 

 そう告げると霊夢さんは僕の背中をドンッと押して「前へ出ろ」と合図を送って来ました。というか強引に出されました。

 

霊夢「許す、許さないどっち?」

 

 下される僕の判決。その結果は…………みんな頭上で親指を上に突き立ててGood Job。何これ? どっちなの?

 謎の判決にポカーンとしていると、

 

??「おい優希、みんな許してくれるってよ。こっちに戻って来い」

 

 前列にいた魔理沙さんに呼ばれました。とぼとぼと歩いてそちらへ向かう僕。到着するなり、

 

魔理「よかったな」

あゆ「おかえりなさ〜い」

 

 と、魔理沙さんとあゆみさんが笑って迎えてくれました。でも罪悪感は抜ききれません。霊夢さんにも言われたけど、後で温泉にいた人達にちゃんと謝っておこうと思います。

 

霊夢「じゃあ次はコイツ」

 

 海斗君の番が始まりました。目を閉じたまま空を見上げる海斗君の姿は、温泉の前で見せた脳内バーチャルリアリティに入った時と同じ姿。でもこの時の海斗君からは「全てを受け入れる」といった覚悟が伝わって来ました。

 そして僕の時と同じ様に、周りの人達は拳を作って頭上へ。そこから立てられた親指は……

 

  『ブウウウッ!』

 

 ブーイングと共に地へ向けられ急降下。これってつまり……。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 古代ローマのコロッセオにおいて、過酷な試合を行った剣闘士の生死を観客達が決めていたという。その際、死を与える者に立てた親指を下へ向ける仕草をしていたという。

 今彼に置かれた状況は、死を宣告された剣闘士そのものだった。

 

霊夢「まあ当然よね」

 

 博麗の巫女が彼へと向けた半分程閉じられた視線冷たく、目尻は切れ味の良いナイフの様に鋭く研ぎ澄まされていた。

 

海斗「仕方がないか。でもworstは避けられたから良しとするか」

 

 だがそんな状況下にも関わらず納得したような、それでいて嬉しそうな表情を浮かべる彼。どこか余裕すらも伺える。

 

霊夢「チャラ男、あんたいったい何を考えてるの?」

海斗「なーんにも。強いて言うなら……霊夢、嫁にならない?」

 

 性懲りも無く嫁の勧誘に精を惜しまないお調子者の彼に「またそれか」と大きくため息を吐く博麗の巫女。感のいい彼女でさえも彼のペースにはお手上げといったところだろう。それでもこの場をまとめ、一連の騒動に終止符を打たなくてはならない。

 彼女は掌を上にして彼へと突きつけると、

 

霊夢「一先ずそのスマホとかいうの、預からせてもらうわ。出しなさい」

 

 問題となった精密機器を「よこせ」と命じた。

 

海斗「出せって言われてもなー……。これじゃあ両手が仕事出来ないぜ」

 

 しかし彼は只今絶賛『中身の長さを間違えたカッパ巻き』の(ごと)し。蜘蛛姫の糸で縛られたままである。

 

霊夢「もう、じゃあどこにあるのよ?」

海斗「ズボンの右ポケットだぜ」

霊夢「まったく面倒くさいわね」

海斗「優しくしてね♡」

霊夢「黙ってなさい!」

 

 彼女は「コイツから取り上げるため」そう自分に強く言い聞かせ、いざ彼のポケットへと手を……。

 

海斗「ギャハハハ。くすぐったい、くすぐったい!」

霊夢「ちょっと動かないでよ!」

海斗「そんな事言われたって、いひひひぃいいい」

霊夢「耳元でうるさい! ん? この固いのがそうかしら?」

海斗「あっ、そこ。そこもっと強く……」

霊夢「イヤぁぁあああッ!!」

 




【次回:】考え中……

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