7つめのEpにして初めての異変の話。
そしてまた色々と挑戦したいと思っています。
色々と思うところはあるはずですが、
どうかご了承ください。
始まり_一話目
??「寒っ……」
その年の冬は例年より気温が低かった。部屋中は冷え込み、暖を取ろうと厚手の上着を羽織って聖地へと向かう。つま先から足をいれ、いざ天国へ。そこへ
??「(もう絶対に出てたまるか)」
と。押し寄せる安心感と幸福感から
だがその時間は、そう長くは続かなかった。
??「またコタツ?」
??「悪い? 何か用?」
??「少しは部屋の片付けをしなさいよ。いつもダラダラと過ごして」
??「余計なお世話」
話をスルーしてダラダラ続行。その様子に
しかし、それは許されなかった。二号、三号と現れる厄介者達。静かで
??「あ゛ーもう、うるさい!」
??「捕まえた!」
まずは一人捕獲に成功。捕らえられた獲物は狩人に一旦落ち着くよう
??「落ち着けですって? 人の休息を邪魔しておいてどの口が言うのよ?」
目を血走らせて噴火五秒前。四秒前、三秒前……。
だがそこに下から突き上げるような大きな揺れが彼女達を
彼女は瞬時に悟った。
??「これ温泉!?」
そして
??「使えるわね、これ」
その後のプランを組み立てた。脳内はがっぽり積み上げられた小銭で埋め尽くされ、その
しかしそうしていられたのも束の間、最初の一匹に気付いてから続々と現れるテンションの上がった異形の者達。
??「あややや、アレは怨霊ですか!? これは一大スクープです」
??「契約を破るなんて、地底の連中はいったい何を、まさか……」
??「……」
??「こんな時に異変だなんて……。やってくれるじゃないの」
博麗霊夢、地底冒険の幕開けである。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
またお会いしましまね、古明地さとりです。
地底が起こした異変、あなたにはどの様に伝わっていますか?
ある日突然、博麗神社に間欠泉が噴出し、それと共に怨霊が地上に現れたと。そしてその原因を調査するため霊夢さんが地底世界へと向かい、私達と戦って異変を解決した……ですか。
なるほど、確かにそれは間違いではありません。でも全てでもありません。その始まりと裏で起きていた事、何故私達が霊夢さんと戦わなければならなかったのか。
それをこれから順にお話しします。そして考えて欲しいのです。もしあなたが彼だったら……。いったい何を思い、何を考え、どう動きますか?
あれは約五年前、一人の少年がある事をきっかけに町中から嫌われ、私の屋敷で
??「寒っ……」
広い屋敷であるが
私 「はぁ〜、極楽極楽」
前・町の長の棟梁様からお借りした家具ですが、洋風な私の屋敷には似合わない物。それでも、冷え切った足を優しく溶かしてくれる熱と、反則的なまでに
私 「ぬくいぬくい、ビバ
そんな事を呟きながら、借り物の家具にうつつを抜かしていた時でした。
??「ミツメー」
無礼な厄介者がノックもせずに私の部屋に入って来たのは。
優しくて強くて、それでいて綺麗な鬼に大切に育てられ、ついには最強の名を手にした少年。それが彼です。
彼 「終わったから丸付けしてくれる?」
そしてこの時の私の最大の悩みの種でもありました。監視のしやすから謹慎先に我が家を選びましたが、問題はその食費。鬼の大人でさえもお腹が痛くなる量を、彼は毎食ペロリと平らげるのですから。その
私の家族の一人、お燐。彼女は猫の妖怪だけに猫舌です。熱い物はしっかり冷まさないと食べられません。そのため、いつも彼女の分は別にして取り分けているのですが、うっかり取り分けるのを忘れてしまい、気が付いた時にはもう後の祭。料理は全て消え失せ、お燐の分を再び作り直し。それをいい事に彼が便乗して十数回目のおかわりを要求してきて……。もう作らせる方はそれだけでヘロヘロでしたよ。
さらにその規格外過ぎる食欲のおかげで、当時我が家の家計は前代未聞の大ピンチを迎えていました。それこそあと少しで屋敷を売り払わなければならない程までに。
でも安心して下さい、今はすっかり元通りです。
話が脱線しましたね、続けます。
私 「あなたねー、部屋に入る時はノックをしなさいっていつも言っているでしょ」
彼 「あ、ごめん。気をつける」
町中を巻き込んだ彼の家出騒動、あの一件があってから彼は変わりました。ツンケンしてすぐ反抗的な態度を取っていた彼でしたが、今みたいに注意されても素直に謝るようになっていました。おまけに彼の保護者が
私 「分かればよろしい。次からは気をつけなさいよ」
そう言いながら、私は炬燵に入ったまま彼が持って来た参考書を受け取り、採点を始めました。始めたはいいのですが、
私 「(マズイ、答えを下に忘れてきた……)」
手元には解答がないという大失態。私は炬燵から出たくない一心で渡された参考書に書かれている問題を解き始めました。でも……。
私 「(全っ然分からない)」
この末路。私に学が無いとお思いかもしれませんが、それは断じて違います。彼、これまで全く勉学というものに触れた事がなかっただけで、いざやらせてみたら「この字はなんて読むの?」「なんでそうなるの?」「地球って何?」ってすごく興味を持ってしまいまして……。それで私が謹慎中の間だけ彼の教育担当になることにしたんです。
教える方も楽しかったですよ。教えれば教えるほど少しずつ自分のものにしてくれるんですから。でも止まない「なんでなんで?」には少々悩まされましたけど。
それが気付けば先生である私が頭を抱えるような問題でさえもあっさりと解いてしまう程までに成長してしまうとは……。
私 「(sinθ? Σ? π? 何これ、呪文? これ魔道書だったかしら?)」
彼 「ミツメ?」
私 「あっそうだ、ちょっと早いけどお昼ご飯にしましょう。ご飯が出来るまで仕事をしておいてね」
私は彼に仕事を言いつけて何食わぬ顔でキッチンへ向かいました。
何ですかその目は? はいはい、認めますよ。逃げましたよ。だから? 何か問題でも?
コホン、話を戻します。
地霊殿の家事は全て当番制です。共に暮らすのですから、彼とて例外ではありません。でも彼の料理の成績はゆで卵程度しか作れないお空未満、戦力外通告の判断は一瞬でした。
さらに『彼』というのだから男の子です。しかも年頃の。女性の衣類を洗濯させるわけにはいきません。つまり彼は家事の四天王の『料理』と『洗濯』が出来ないという事です。
そこで、代わりに私のペット達の世話を一任する事にしました。
町の長となってからというもの仕事に追われる日々。ペット達とのスキンシップの時間が減り、困っていた私にとって、彼の登場はその点だけはメリットだったと言えるでしょう。初めは上手くいきませんでしたけどね。
私のペット達は彼が幼い頃にコテンパンにされ事があり、それこそ謹慎初日なんかは彼からずっと逃げ回っていました。でもこの頃にはもうすっかり仲良くなり、代わる代わる彼と一緒に寝ていたそうです。彼はよく言っていました。
彼 「すぐ喉をコロコロと鳴らす
と。
??「ご馳走様でしたニャ」
??「ゾンビー」
??「さとり様今日も美味しかったよ」
私 「ふふ、お粗末様でした」
彼 「ご馳走様、今日も食べた食べた」
お燐、ゾンビフェアリー、お空、私、そして彼。いつもの五人で囲むテーブル。本来であればその五人目は彼ではないのですが、例によってこの子はその時もふらふらとお散歩中。彼が屋敷に来て喜んでいたのに、ある日「すぐ戻るから♪」と言って出掛けたっきり。
もう、あの時何処に行っていたのよ? ……笑ってごまかさないの。
お燐「ねー、この後アタイの部屋で一緒にお昼寝しようニャ」
そうそう、忘れるところでした。彼が屋敷に住むようになってから「この大チャンスを有効活用しない手はない」と、お燐は彼に猛アタックを仕掛けていました。彼のそばから離れず、不意をついて胸から彼の腕にしがみついてみたり、下心丸出しで誘惑してみたり。偶然を
でも彼は、こんな時は決まって
彼 「また今度ね」
と、赤いお燐の頭を
彼の不思議な力、周囲の者を自然と
彼 「片付け終わりっと」
当番制で彼が活躍できる唯一の役割、食器洗いと掃除。これは以前からやっていたみたいで、安心して任せていました。
お燐「ニャ〜ン、大好きニャ♡」
私 「(あー……これは無理だ)」
って。その時に能力を使って彼の心を
彼とその想い人はある日を境に離れ離れになりました。その時に見せられた光景は、乙女心をキュンキュン締め付け、それでいて少し切ないものでした。今でも記憶に深く刻まれています。あれは
とは言え、お燐のようにああも積極的にされていては、火遊びくらいあっても仕方がないと思いましたが、まさかあそこまで一途だなんて……。想われる方は幸せですよね。
私 「ほらほら、お燐にはまだ仕事があるでしょ。それとあなた、また積もって来たから頼める?」
連日の雪で屋敷は真っ白。その厚みが一定量になる毎に、私は彼に雪かきを頼んでいました。謹慎処分中でしたが、ずっと閉じ込めてストレスも溜まっていたみたいですし、爆発でもされてペット達に火の粉が降り注ぎでもしたら困りますしね。いわゆるガス抜きです。それに、敷地内なので問題はなかったと自負しています。
いいように使っているだけ? そんな事ありません。彼も喜んでその仕事を引き受けてくれていましたよ。でも敷地中の雪を一箇所にかき集めて、大きな山を作った時には驚愕させられましたけどね。
いきなりですが、私の屋敷の裏にはある部屋へと通じる穴があります。部屋というよりも空間ですね。そこは地底世界がかつて地獄だった時の名残のもの。『
話を戻して彼が積み上げた雪の山、それを灼熱地獄跡に捨てるように指示して自室へ戻ったのですが、再び様子を見に行ってみると裏庭のど真ん中に巨大なオブジェが出来上がっていたんです。崩れもせずに絶妙なバランスを保って、雪の塊は『半』の字を描いていたんです。なんでも雪の山をスコップでガリガリ削って作ったのだとか。
素直に「器用な事するな」と思いましたが、その反面「なんで半?」とも。それで聞いてみたら
彼 「自分はこの字に助けられたんだってさ。半人前で中途半端な自分にはピッタリだと思わない? それにツノがあって鬼みたいで格好よくない?」
だそうです。感性がよく分かりません。
でも今思い返せば、きっとそれがきっかけだったのかもしれませんね。
私 「ついでにいい加減アレをなんとかしなさいよ」
とはいえ、ハッキリ言って邪魔でしたから包み隠さずバシッと言いました。
彼 「はいはい、分かりましたよ」
やれやれといった様子で身支度を始める彼。
私は今でもこの時の事を後悔しています。彼に雪かきを頼んだ事を、外に出してしまった事を。次に私が彼をこの瞳に映した時には、もうすでにエピソードは止める事が出来ないまでに加速していたのですから。
【次回:始まり_二話目】