東方迷子伝   作:GA王

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『始まり』回、最終話です。長々とすみません。
また、この回で一つ答え合わせをしましょう。
そして次回からいよいよ……。


始まり_五話目

女鬼「あらやだ、そーなの?」

女妖「そーなのよ。それでそこから出てきたのが近所の奥さんと……」

 

 こうして何気なく歩いているだけでも(いた)る所から楽しげな会話が聞こえて来る。これこそが町の中心部。あれから月日は経ち、町はすっかり元の活気と(にぎ)やかさを取り戻している。いや、それ以上だろうか?

 ふと辺りを見回してみても、当時の傷跡は今となってはもう見る影もない。あの辺りも私が修繕作業を行った所だ。

 けど、記憶と胸の奥に刻まれた深い傷跡はそう簡単にはいかない。ただ時間に身をまかせ、記憶が薄れていくことを待つしかない。

 

鬼助「姐さん、昼飯どうしましょうか?」

私 「こっちに来たからたまには豪勢にいきたいところだけど……」

鬼助「あ、それなら前から行きたかった所があるんですよ。リニューアルしてから美味いって評判で――」

私 「悪い、せっかくだけど仕事終わりに予定があってな。ガッツリは食いたくないんだ」

鬼助「えー……思わせぶりですかー?」

私 「また今度な」

 

 こうして笑っていられる未来が来るだなんて、あの時は考えもしなかったな――――。

 

 

 

  『お空っ!?』

 

 長い棒に腕を入れてはいたが、背後の炎に照らされる大きな翼を広げた影は(まぎ)れもなくお空そのものだった。けど鋭い目つきに言葉使いがまるで別人、何より彼女がこの様な事をするだなんて微塵(みじん)も考えられなかった。

 

私 「違う、似せているだけでお空じゃない! お前は誰だ!?」

お空「失礼しちゃうな〜、本人だよ」

ヤマ「嘘をつかないで! お空は妖怪よ、でも今のあなたから感じるのは妖気なんかじゃない!」

キス「フッフッフッ……、あくまでシラを切るつもりか?」

ヤツ「ヘカーティア様と似た雰囲気あるけど、あんたが何者かだなんて関係ない。この(ねた)み、(そね)み、(うら)み、(つら)み、(にく)しみを晴らさずにはいられないから!」

 

 勢いよくスタートを切ったヤツに続いて飛び出す私達、それぞれが堪え切れずに爆発した感情を光弾に乗せ、惜しげもなく迷う事なく全力でぶつけた。何発も何発も何十発も。アイツが爆煙に(おお)われて姿が見えなくなろうと、休む事なく続けていた。それなのに……。

 

お空「鬱陶(うっとお)しいわッ!」

  『ッ!?』

 

 たったその一言、それだけで私達は攻撃の手を止めさせられ、瞬時に背後へと身を引かされていた。やがて守りの姿勢を取る私達の前に、粉塵の中から姿を現したアイツは……、

 

お空「女神様と似てるねぇ、そこまで分かってるならさ〜」

 

 アイツは無傷だった。微動だにせず。()けた痕跡(こんせき)も、相殺したり弾いたりした様子も、ましてやガードをした素振りさえも無く。全弾受け切っていたんだ。

 

お空「手加減なんてしたらダメでしょ?」

 

 その上(あご)を上げて私達を見下ろしながら笑いやがって――。

 

??「うっ……、やめ……」

 

 そこへ何処からか聞こえて来た弱々しく、今にも消えてしまいそうな声。注意深く周囲を眺めていると、地面に転がる黒い物体に視線が止まった。初めは木材の燃えかすかと思ったが、(かす)かな反応にそれが生き物であり、負傷者であると気付かされた。

 

ヤマ「大丈夫ですか!? ひどい火傷……」

キス「フッフッフッ……丸焦げ」

パル「早く手当てしないと」

 

 慌ててその者に駆け寄るヤマメ達。私の位置からでもその者が命の危険に(さら)されているのは一目瞭然だった。一刻を争う状況に、私は全員で慎重()迅速(じそく)に診療所へ連れて行くように指示し、私自身は……

 

私 「あれをやったのはお前か?」

お空「そうだけど? 彼女だったら本気を出せると思ったのに、準備運動にもならなかったよ」

 

 アイツを両方の目で真っ直ぐに捕らえていた。

 

私 「こんな事をして何がしたいんだ?」

お空「ん〜、強い奴と戦ってこの力がどれ程の物か試したい、かな? それでその後に用が無くなった地底世界(ここ)を燃やし尽くして、(にく)き地上の連中を根絶やしにしに行くとしよう」

 

 町に危害を加え、被害者まで出し、それでもなお……。けどそれ以上に、それが些細(ささい)な事だと思えるほど大きく、重い罪をアイツは犯した。

 

私 「強い奴がご所望(しょもう)だって?」

 

 ヘラヘラと笑いながらそう告げたアイツは……

 

私 「相手にナッテヤラアアア゛ッ!!」

 

 私の理性をぶっ壊した。

 

??「――ん、――さん、姐さん!」

私 「ハッ!?」

??「どうかしました? さっきから呼んでるのに、早くしないと蕎麦が伸びますよ? あとそれ……」

私 「あ……」

 

 目の前で蕎麦を頬張(ほおば)る弟分の指先へ視線を移すと、手の中の(はし)がパキリと割れてはならない方向に割れていた。ついつい力んでしまったらしい。いかん、いかん。すぐカッとなってしまうのはダメな(くせ)だ。あの時も――――。

 

 

 

 暴走した怒りを拳に宿らせて放った渾身(こんしん)の左ストレートは、アイツの横っ面を()らえていた。あの時の感触は今でも忘れない。()でた卵の様にツルツルで、それでいてフニフニと柔らかくて。きっとずっと触っていても飽きないだろう。それなのに……

 

お空「やっぱりこんなものなの?」

 

 あの手応えの無さ。アイツはまるで「虫が止まって(わずら)わしい」くらいの表情しか浮かべていなかった。

 

私 「そんな……そんなはずないッ!」

 

 (あお)られ、(あき)れられ、(あわ)れられ。

 私は込み上げる(あせ)りと(いきどお)りと苛立(いらだ)ちから、

 

私 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ」

 

 グツグツと煮えたぎる頭のまま、同じ過ちを繰り返そうとしていた。

 

??「――さんダメです!」

 

 (ひざ)に手をついて息を切らせる、もう一人のお嬢様に止められるまでは。

 

さと「はぁ……、はぁ……。――さん、それでは……ダメです」

私 「さとり嬢コイツいったい何なんだ?! 何でお空の姿を――」

さと「説明は後でします。私もお聞きしたい事がありますが、まずは……」

お空「ん〜? いいよ二人でも。相手に()()()()()だけどね〜、楽しませてくれなかったらもう地底世界を灼熱地獄に変えちゃおうかな? みんな弱いし、なんか()きてきたし」

私 「ふゥ・ざァ・けェ・ンナッ!」

さと「待って下さい!」

 

 あの時は本当に危なかった。何がって、さとり嬢が振り上げた腕に(つか)みかかって全身で止めに来たのだから。腕に違和感を覚えて思い(とど)まったからこそいいものの、あのまま気付かずに放っていたら……さとり嬢は星になっていた。ヤツの様に。

 

さと「挑発に乗らないで下さい。それでは思うツボです」

 

 そう言われて私はこう思った。

 

私 「(けどそれじゃあ……このまま指を(くわ)えて見過ごすつもりか!?)」

 

 と。

 だがそれは放たれる事はなかった。

 

さと「そうではありません」

 

 食い気味でもなく、言葉が発せられるよりも、(のど)を通過するよりも早く、さとり嬢が答えてくれたからだ。「心を読んだ」と気付いてから理解するまでは数秒だった。彼女が「なぜ私の口を封じるような真似をしたのか」その理由を。

 今思い返すとあそこから始まっていたんだろうな、

 

私 「(じゃあどうしたら?)」

さと「私に任せて下さい」

私 「(何か策があるのか?)」

 

 作戦というのが。

 

さと「はい、そのためにはあなたに冷静でいてもらわないと困るんです」

 

 それをアイツに悟られないようにしていたんだ。

 さとり嬢はそこまで告げると最後に

 

さと「あなたの能力(ちから)だけが頼みの(つな)なんです」

 

 そう言い残し、前へと進み出た。

 

お空「まずはそっちから? 二人同時じゃないの?」

さと「自惚(うぬぼ)れるのもいい加減にしなさい。私がその気になればあなたの攻撃なんて(かす)りもしませんよ」

 

 私を残して始まる二人の戦い。相手の心を読めるさとり嬢は、向かって来るアイツの攻撃を余裕で(かわ)しては、光弾を命中させ続けていった。けれどもそれもやはり(ぬか)に釘、勝敗は目に見えていた。

 

私 「すぅー……。ふぅー……」

 

 肩で息をしていたさとり嬢が体力切れを起こすのも時間の問題。「早く加勢にいかないと」と(はや)る気持ちをグッと食いしばり、鼻から大きく空気を吸い込み、沸点にまで上った頭の温度を急速で冷やす。

 そして瞳を閉じて思い浮かべる。あの時の想いを。

 心がバラバラに(くだ)け散ったあの日、愛用の(さかずき)を受け取ったあの日に知った私の能力の発動条件。それは――――。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

――祭の後の宴会で――

 

 

私 「声が聞こえて来たんだ」

  『声?』

私 「聞こえたっていうのも変か、伝わって来たんだ。あれは――の心の声、本心だよ。夢とか気のせいとかじゃない、分かるんだよそれが。何というか、アイツと意識が繋がった感じがしてさ」

さと「ふむ、実に興味深いですね」

ヤマ「テレパシーってやつかな?」

お燐「勇儀さん超能力者だったニャ?」

キス「フッフッフッ……、まっがーれ↓」

ヤツ「勇儀と心で繋がるなんて、――のクセに(ねた)ましい」

私 「そんな胡散臭(うさんくさ)いものじゃないって。それに私は普通の鬼だよ」

  『普通……の?』

私 「なんだよみんな(そろ)ってその目は?」

  『別にー』

私 「ったく、話を続けるぞ。それでその後、なんかこう……胸の奥がガッと熱くなって、酒に酔って気分が良くなったというか、じっとしていられないっていうか……こういうのなんて言うんだ?」

ヤマ「興奮状態?」

私 「あー、うん。そんな感じだ。そしたら体の底からグワァァァって力が込み上げて来て、気が付いたらみんなに(おさ)えられていたってわけだ。分かるか?」

  『まったく』

私 「だよなー……。どうやったら伝わるのやら……」

さと「勇儀さん、勇儀さん。その時の事を思い浮かべてみて下さい」

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 私の胸の奥に直接流れ込んで来たアイツの声。

 

 (口うるさくて……)

 

 おっとここは余計だった。

 

 (強くて、かっこよくて)

 

 ありがとうの感謝の気持ち。

 

 (綺麗で優しい)

 

 照れ臭くなる嬉しい気持ち。そして……

 

 (鬼の血を受け取った鬼だ!)

 

 胸いっぱいに満たされる幸せな気持ち。

 やがて産まれた三つの感情は一つになり、新しい想いへと形を変える。

 「守りたい、助けたい、力になりたい」そう強く、強く、より強く思えば思う程、力が奥底から噴水のように()き出し、私をより強くする。

 当時私の心を読んでいたさとり嬢は、その事に腹を抱えて笑いながらこう尋ねて来た。

 

さと「あははは。勇儀さん、それをなんて言うのかご存知ないんですか?」

 

 『怪力乱神』。暴力的で破壊的で恐ろしげな私の能力、その発動条件は――。

 

さと「『愛』って言うんですよ」

 




勇儀姐さんの件、どうでしたか?
きっと予想通りの方が多かったはず。
という主の勝手な予想。

【次回:裏_一語り目】


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