東方迷子伝   作:GA王

178 / 229
さて、いよいよ幕開けです。
上手く書けるか、予定通り進められるか、辻褄合わない事が起きないか。心配と不安だらけ……けど頑張る!

そしてPCが急にノロマに……。
ノートパソコンなのに電源ケーブル抜くとパーダウンするし、OSなんてとっくにサポート切れてるし、もう寿命かな?
そう言えばある芸人さんが言ってな「買いたい時が買い替え時」って。そういう意味で言うと主は……買い替え時ではないと思う。




裏_一語り目

 これはお燐達から聞いた話です。

 洞窟に入ってから程なく、何者かの攻撃を受けたお燐ですが、その時の事を彼女はこう語ってくれました。

 

お燐「洞窟の中は八咫烏(ヤタガラス)の所為でまだ凄く暑かったですニャ。床や壁、天井まで溶かされていたみたいで、(いた)る所に冷めたマグマみたいなドロリした黒い物が転がっていて、たまにまだ赤く光る物もありましたニャ。気をつけて()(ニャ)いように歩いていたら、低い音が聞こえて来たんですニャ。でもその時は『(ニャん)だろ? 風かニャ?』って軽く考えていて、さらに進んで行ったんですニャ。すると今度は正面から風が吹いて来たんですニャ。あまり涼しく(ニャ)くて、まとわりつくよう(ニャ)気持ちの悪い風でしたニャ。その直後ですニャ。ケバケバした物にぶつかったのは。木の(みき)の様に太くて、岩の様に硬くて、それでいて毛深かったんですニャ。その時点でイヤな予感がしていましたニャ。そ、そうしたら……そうしたら……すっ、すぐ真上から(うな)り声がして…………。恐る恐る見上げてみると、深い暗闇の中から視線が……鋭い眼光がアタイを見下ろしていたんですニャッ」

 

 と、言葉を詰まらせながら、表情を(ゆが)ませながら。そしてその後に起きた事を、体を抱きしめて震えながらも教えてくれました。

 

お燐「六つもですニャ! 全部がアタイを見ていたんですニャ!! 怖く(ニャ)って逃げようとしたんですけど、アタイが動き出すよりも前に強い衝撃を感じて……ニャ」

 

 それで洞窟の外まで一気に飛ばされたそうです。

 お燐が感じた六つの視線、そこから当初私は「既に複数の者に襲われていた」と解釈しました。

 

彼 「はーーーッ!? 何だコイツ?!」

 

 けど、そうではなかったんです。

 

彼 「あ、頭が……」

 

 それはたった一匹の獣が放ったものだったんです。触れた物を八つ裂きにする刀のような爪を持ち、見上げてしまうほどの筋肉質な巨体からは、食らいついた獲物を決して逃さないノコギリのような歯を()き出しにした顔が

 

お燐「頭が三つ……」

 

 三つも。

 お燐を弾き飛ばし、閉ざされた扉から出てきた獣とは、

 

お燐「ケルベロスニャッ!」

 

 地獄の番犬、ケルベロスだったんです。

 

彼 「これもミツメーのペットなのか?!」

お燐「う、う……」

ケル「ガウガウガアアア」

 

 洞窟から出てきたケルベロスは続け様にお燐へと襲いかかりました。本来のお燐であれば例えどんなに力が強くても獣なんて恐れるに値しない相手です。

 でも、ケルベロスが再び襲って来たその時、お燐は動けなかったんです。そこへお燐が『光の槍』から私を助けてくれた様に、

 

彼 「お燐危ないッ!!」

 

 彼が飛び込んできて紙一重で救われたそうです。

 

彼 「ギ、ギリギリセーフ。お燐大丈夫?」

 

 ではここでクエッションです。

 

 Q.何故お燐は動く事が出来なかったのでしょう?

 

 神奈子さんに与えられたダメージ?

 八咫烏が滅茶苦茶に放った光弾で怪我を?

 ケルベロスの一撃が予想以上に重かった?

 疲れ? 足をくじいた?

 

 確かにそれらも要因かもしれませんが、決定的なのはそこではありません。

 正解は過去に深く刻まれた心の傷、

 

彼 「お燐? お燐?!」

 

 トラウマです。お燐は元々、それこそ私と出会う前までは何処にでもいる普通の猫でした。その頃に犬に()えられ、追いかけ回され、怖い経験をしたのが原因で、犬が大の苦手なんです。私の唯一の犬のペット、トイプードルのような可愛いらしい小型犬でさえ、近付こうとしないくらいに。

 そんな彼女の目の前に現れた超大型犬のケルベロスは、トラウマを呼び覚ますには充分過ぎました。

 

お燐「イヌニャイヌニャイヌニャイヌニャ……」

 

 「顔面蒼白(そうはく)(うず)くまってガタガタ震えていた」彼は当時のお燐の様子をそう語っていました。そして犬に対し、強い恐怖心があるとその時悟ったそうです。

 そうしている間にもケルベロスは次の行動を起こしていました。事もあろうに、動けなくなったお燐を六つの瞳に映し、向かって来ていたのです。

 

彼 「おい、犬」

 

 そこで彼は決心したそうです。

 

彼 「相手になってやらあああッ!」

 

 お燐を守る事を、一人で戦う事を。

 彼は迫る巨大な牙に向かってスタートを切りました。そして噛まれる直前で全身に右の回転を加えて攻撃を回避し、その遠心力に決意を握りしめた拳をのせて、

 

彼 「だりゃああああッ」

 

 全力の左ストレートを中央の顔、その(ほほ)に放ちました。

 

ケル「キャウン」

 

 甲高い悲鳴を上げて真横へ吹き飛ぶケルベロス。ですが、そのダメージは大きなものにはならなかったようで、すぐに起き上がったそうなんです。

 え? よく覚えていましたね。はい、確かに私は「彼は最強の名を手にした」と言いました。だから「大したダメージにならなかった」という点に疑問を持つのは当然だと思います。ですが彼の戦い方は少し変わっているんです。守りをメインとし、自身の力をあまり使わず、相手の力を利用するものなんです。

 合気道? へー、そういう武術があるんですか。流石武術の達人さんですね。ではその名をお借りしましょう。

 彼は幼い頃から自身の非力さを補うため、ある方の下で合気道を学んでいました。そして異変が起きたその年の夏、地底世界のお祭りの催し物、力比べで合気道のスキルを駆使して最強となったんです。だから彼は最強ではあるものの、最弱でもあったんです。

 

ケル「グルルルッ」

 

 最強の彼が放った最弱の拳は、ケルベロスの怒りを(あお)るくらいにしかなりませんでした。でも彼はそれを既に見越していました。元々仕留めるつもりはなかったんです。ケルベロスの注意をお燐から自分に向ける事が目的だったんですから。

 

ケル「ガーッ!」

 

 ケルベロスは彼の思惑通りに動きました。標的をお燐から彼へ変え、怒りを(あら)わにして向かって来たんです。

 さて、ここでアンケートです。

 

Q.ごく普通の大型犬でさえ、瞬間最高速度が時速70kmになると言われています。では、それが力も大きさも桁違いのケルベロスの場合、瞬間最高速度はどれくらいになると思いますか?

 

 答えは私にもわかりません。ですが、想像するにその速度は少なく見積もっても――

 

彼 「!?」

 

 倍以上、時速160kmは優に出ていたと考えられます。その証拠に彼が全く反応出来なかったのですから。

 速さは重さ。そこに加わる見上げる程の巨体に比例した体重。彼はケルベロスの突進を避ける事も、防ぐ事も、ましてやガードをする事も許されないまま直撃を受けたんです。

 

彼 「ガハッ、、、」

 

 あまりの破壊力に彼は(わず)かな時間意識が飛んでいたそうです。でも飛んでいたのは意識だけではなかったんです。彼自身もまた宙を飛んでいたんです。そして気が付いた時には――

 

彼 「ふざけ――」

ケル「ガアアアア゛ッ」

 

 追撃です。彼が地に着くよりも早く、ケルベロスは二度目の突進を仕掛けていたんです。

 

彼 「んなあああぁぁぁ。。。」

 

 今度は間一髪身を丸めて守りの姿勢を取ることが出来たそうですが、その破壊力の前にはほぼ意味を成さなかったと彼は語っています。この時横に吹き飛ばされていればまだ良かった方、体勢を立て直す事が出来ますからね。ですが運の悪い事に、彼は再び上空へと打ち上げられていたんです。

 

彼 「ぐぅううう……」

 

 たった二撃。その二撃で既に彼の全身は悲鳴を上げていたはずです。口の中は血の味が広がり、呼吸もままならなかったはずです。けど、その場に情などありません。ルールがあるゲームや試合とは違い、負ける事は死を意味します。

 次の瞬間、死神の鎌が彼の首にかかりました。

 

ケル「ガーーーーーーーッ!!!」

 

 ケルベロスが彼の後を追って宙へと飛び上がったんです。そして長い湾曲した――それこそ鎌の様な爪を立てて、未だダメージが引かずに苦しむ彼目掛けて勢いよく振り下ろしたんです。ガードなどしても腕も足も失うのは確定、五体満足でいられる術は避ける事だけ。ですが空を飛べない彼ではそんな事などできません。

 

彼 「チクショーーーッ!」

 

 彼はその瞬間、楽しかった思い出と想い人の笑顔、そして「『ムカつくアイツ』の顔まで浮かびやがった」と話していました。死の直前に見ると言われているフラッシュバックですね。

 でも彼はちゃんとこの場にいます。それが答えです。はい、結論から言うと彼はその攻撃を受ける事はありませんでした。

 

 

ドーーーンッ!!

 

 

 光の弾、妖気が凝縮された塊がケルベロスを吹き飛ばし、彼を救ったんです。誰が放ったのかは、語るまでもありませんね。

 

お燐「こっちニャ。アタイが相手ニャ」

ケル「ヴゥゥゥ……ッ」

 

 光弾はケルベロスに確かなダメージを与えていたと思います。ですがその分怒りを買うことになるのは当然の結果。そうだと分かっていても、例えトラウマだとしても、お燐は彼を救いたかったんです。

 ケルベロスは標的を再びお燐へと戻しました。六つの瞳に閉じ込められ、蘇る恐怖に束縛され、足がすくんで立っているのもやっとだったそうです。そのせいでしょうね。

 

お燐「『スプリーンイーター』ニャッ!」

 

 攻撃を……使う技を見誤ったんです。

 その時放ったものは相手の位置を次々と特定し、その場所に光弾を取り囲むように展開させ、徐々に集束させるもの。目にも留まらぬ速さで移動するケルベロスの前では――

 

お燐「ど、何処いったニャッ?!」

 

 使えたのは最初だけ。二回目はありませんでした。

 

彼 「お燐後ろッ!」

 

 彼からの指摘でようやく気が付いた時には、ケルベロスは三つの大きな口を開け、すぐそこまで迫っていたんです。彼が助けに行くには程遠い上、攻撃、回避、防御、逃亡、どの選択肢を選ぶにしてももう手遅れ。自分では何も出来ないまま、ケルベロスに食べられてしまう悪夢が見えていたと語っていました。

 けどその悪夢が正夢になる事はなかったんです。

 

 

SMAAAASH!!

 

 

 一筋の光が差し込んだです。希望が、運が、流れがやっとお燐と彼に味方をしたんです!

 

??「いきなりあちこちで火事が起きるわ、火柱が上がるわ」

 

 真(しん)に捉えた高い金属音を辺りに響かせ、ケルベロスを外野まで打ち上げたのは、

 

??「やーーー……っと帰って来られたのに、また地獄の様な光景。息つく暇もありゃしない」

 

 彼が「ムカつくアイツ」と(こぼ)し、子供の頃から顔を合わせれば喧嘩を繰り返していた(くさ)れ縁。それでも唯一無二の親友にして永遠のライバル。

 

??「いったい何が起きてんだよ?」

 

 この中でその者をご存知なのは神奈子さん達守矢神社の方々と、天狗さん、河童さんくらいでしょうか。絶対絶命の大ピンチに現れた救世主(ヒーロー)。その救世主こそ、そこにいる彼と同じく『次期鬼の四天王の候補』の一人、

 

  『和鬼ッ?!』

 

 『豪腕の和鬼』です。

 

和鬼「よう、相変わらず細せぇな」

 

 またの名を

 

和鬼「筋トレしてる?」

 

 『筋トレマン』。




はい、出ました。かなり前にチラッと出た珍獣が。
この件は近々明かされます。
そして帰って来ました筋トレマン!

【次回:表_一語り目】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。