これは彼達から聞いた話です。
地獄の彼方からピンチの二人の前に金棒を
と言えば聞こえはいいのですが、種を明かしてしまうとそれまで『筋力強化合宿』という名目で、ヘカーティア様と共に本物の地獄に行っていただけなんです。期間にして半年程でしょうか。そこでの生活と修行を後に彼は――
筋ト「ヘカーティア様から紹介された人達がいて、いつもその人達に鍛えてもらっていたんだ。早朝は準備運動がてらの『積み石』作業。石って言ったけど掌に収まるような小さな物じゃない。あれは石というか岩だよ岩。それを毎朝背負って運んでさ。十段積み上げるんだけど、途中で
文字通り地獄だったと語っていましたよ。あ、でも「体作りのための食事は文句無しだった」と言っていましたね。何でもお魚が美味しかったらしく……そういえばその事についても何か言っていたような――
筋ト「三途の川に連れ出されてさ、そこで魚を捕まえて食べてたんだ。釣り? そんな生易しいものじゃない。泳いで素手で捕まえるんだよ。しかもその魚がスッッッゲーデカくてさ、超攻撃的なの。追い掛ける手間は
でもこれはどうでもいい事なので、今お話しするのはやめておきましょう。では本筋に戻ります。
彼 「へへ……、ナイスタイミング」
お燐「あ、ありがとうニャ。助かったニャ」
久しぶりの再会です。
『でも……』
厳しい合宿を終えた筋トレマンへの二人の第一印象は、
彼 「(またデカくなったな)」
お燐「(ガチガチのムキムキのモリモリだニャ)」
「マシマシだった」だそうです。実際私もそう思いましたしね。
彼 「帰ってたんだ」
お燐「いつからこっちにニャ?」
筋ト「ついさっき。ところでオレの腕を見てくれ。コイツをどう思う?」
彼 「すごく・・・」
お燐「大きいです・・・ニャ」
積もる話もあったでしょう。ですがそんな悠長なことをしている間なんてありません。なぜなら彼等が軽い挨拶を交わしていた頃、
ケル「ヴウゥゥゥ」
それは口から血を流しながらも起き上がっていたんですから。
筋ト「で、アレは何? さとりさんのペット?」
お燐「違うニャ、洞窟の中から出て来たんだニャ」
彼 「ヤバッ、もう動けるのかよ?!」
筋トレマンの一撃は中央の顔の牙をへし折っていたと聞いています。きっと脳へもダメージを与えていたはずです。でもケルベロスの頭は三つ。そのおかげで復活も早く、大したダメージにもならなかったんです。
私が考えるに、ケルベロスをダウンさせる方法は主に二つ。本体である頑丈な胴体に強い衝撃を与えるか、同時に三つの脳を揺さぶるかのどちらか。
ケル「ガウガウガウッ!!!」
当時の彼とお燐はその事に気付けずにいたと思います。考える余裕すらなかったと思います。例え気付けたとしても状況は変わらなかったかもしれませんがね。
お燐「またこっちに来たニャーッ!」
筋ト「んー……」
彼 「ボサッとしてないでお燐を連れて逃げろ!」
けど、筋トレマンは分かっていたんです。
ケル「ガーーッ!」
超スピードで目前に迫るケルベロスの攻撃を、振り下ろした爪を避けて下へ潜り込んだんです。さらに――
筋ト「重さ……だいたい800キロってとこか。ちょーどいい」
片手でケルベロスの毛を
筋ト「重りをしっかり掴んで〜。腕を上げ下げ上げ下げ♫ 上腕二頭筋が喜んでるぞー」
こう、腕を上下にブンブン振り回しだしたんです。ちなみに、この運動は二の腕を引き締め、バストアップにも効果的だと言っていました。
筋ト「よし、次は反対だ。ん〜喜んでる喜んでる。三角筋も幸せだあっ」
なおこの時、腕を曲げない事がポイントだそうです。そうそう、あゆみさんお上手です。
ではあと4つでその重りを思いっきり地面へと叩き付けて下さい。
筋ト「ヨッ!!」
ビターンッ!
筋ト「お次は両手で持って頭の上へ〜♫ 足を肩幅まで開いて〜……屈伸だー。
ここでもポイントです。
じゃああと4つでまた重りをビッターンと。太ましくなってしまった体への憤りと共にどうぞ。
筋ト「スーッ!!」
ビッターン!!
筋ト「さらに続きまして――」
はい、ではみなさんあと4つでまたまたいきますよー。日頃の悩み、ストレス、
『フィーアァァァッ!!』
と、この様に筋トレマンも
筋ト「いい感じに温まってきたぞ〜」
筋トレを終えた筋トレマンは満足そうに肩を回していたそうです。その足下には目を回したケルベロスが地面にめり込んでいたそうですよ。
ではここで思い出してみて下さい。私が言ったケルベロスを倒す条件を。
はい、そうですね。筋トレマンはこの時、その二つの条件を一度に苦もなくやってのけたんです。振り回した事で三つの脳を同時に揺さぶり、固い地面に叩きつけて本体にもダメージを負わせて。
ケル「ウ……ウー……」
筋ト「お、まだ気を失ってないのか?」
彼 「今のうちだ、また起き上がるぞ!」
筋ト「へいへい、お燐立てる?」
お燐「腰が抜けちゃったニャ……」
筋ト「オッケー」
お燐「ニャ!?」
絶好のチャンス到来です。そのすきに筋トレマンはお燐と彼と共にその場から逃げ出しました。
お燐「(不服ニャ)」
筋ト「なあ、アレあのままでいいのか?」
彼 「しょうがないだろ。お燐は怖くて戦えないみたいだし、自分達二人じゃどうにもできない」
お燐「(アタイ、レディー……ニャ)」
筋ト「そうか? 結構楽勝だと思うけど」
彼 「あのなー、アイツだってバカじゃないと思うぞ? もうさっきみたいに正面から突っ込んでは来ないだろ。気付かない間に背後取られたらそれこそ終わりだぞ」
お燐「(運び方をどうにかして欲しいニャ……)」
筋ト「じゃあどうするつもりなんだよ?」
彼 「助けを……誰かに手伝ってもらう」
お燐「(これじゃあお
筋ト「誰かって誰に?」
彼 「ミツメーは取り込み中だから……」
これからどうするのか。その事を考えながら走っていたそうです。その結果、彼らは『頼りになる者』に協力を求める事にしたんです。でも、その答えが出て間も無く――
筋ト「うああああぁぁぁ。。。……」
お燐「ニャあああぁぁぁ。。。……」
大気が破裂する音と屋敷からの強烈な向かい風に襲われ、なすすべなく三人とも飛ばされてしまったのだとか。
ちょうどその頃、私は勇儀さんの協力のおかげで八咫烏を灼熱地獄へと追い込んでいまして、彼等を襲った突風はその時に彼女が起こしたものなんです。その事にいち早く気が付いたのが、やはり彼でした。
彼 「(これ、大江山颪だ。しかもこの感じ……)」
そしてそれは彼等にとって大きな誤算でもあったんです。
筋ト「なんだ今の?!」
彼 「姐さんだ、姐さんの大江山颪だ!」
お燐「!?」
筋ト「じゃあ勇儀さんがあそこに……しかも戦ってるのか?! でも誰と?」
彼 「お空だよ。町に火をつけたのも……」
お燐「ちょ、ちょっと二人とも……ニャ」
筋ト「はあああッ!? お空ってさとりさんのところの、頭の悪そうなアイツぅ?!」
彼 「正確にはお空の中に入った変なヤツの仕業なんだけど。きっと姐さんはミツメーと何処かで会ったんだ。それで二人でお空を……。しかも大江山颪を使うってことは相当苦戦しているんだ。でもそうなると――」
突風を発生させた方が協力を仰ごうとした『頼れる者』だったのですから。そこから彼は他の協力者を脳ミソフル回転で考えようとしたそうです。ですが、
お燐「ニャーーーッ!! 二人とも聞くニャ!」
いきなりお燐が叫び出し、思考を止められたそうです。そして視線を向けると、人差し指を下へ向けて真っ青になったお燐がいたと。彼等はその指に導かれるまま視線を落とすとそこには……
『!?』
ゴワゴワ、ケバケバした肌触りの悪い
ケル「ウ゛ゥゥゥ」
『げええええええ!』
お燐「逃げるニャッ!」
呼吸を忘れて逃げ出す三人。この時筋トレマンは時間稼ぎにと、ケルベロスを投げ飛ばしていたそうなのですが、
ケル「ガウガウガウガウガアアアッ!!!」
それでもたった数秒の逃亡劇。あっという間に追いつかれ、
『お燐ッ!』
お燐がとうとう……。噛みつきやひっかきこそなかったものの、背後から大きな前足でもいい押し潰され、身動きが取れない状態になってしまったんです。
お燐「ニャ、アアァァァ……」
背中にのしかかる重力に骨がビキビキと悲鳴を上げ、呼吸もままならなかったと話していました。そこへ畳み掛けるように状況は悪化します。
お燐「ひいいいいっ」
ケルベロスが爪を立てたんです。
お燐はこの時、運良く爪が伸びる方向の直角に倒れていまして、直接触れる事はなかったそうなのです。でも、想像してみて下さい。目の前に獲物の血を吸い続けて赤黒く変色した、太くて鋭利な凶器が現れた瞬間を。それは身の毛もよだつ恐怖の瞬間だったことでしょう。
お燐「(も、もうダメニャーッ!)」
その時です。
筋ト「おう?」
彼 「じ、地震?」
救出に駆け出していた二人の足を止めさせ、巨大な獣をキョロキョロと周囲を気にさせ、横たわるお燐を上下に揺さぶった現象が起きたのは。やがてそれは立っているのも辛いと感じてしまうほどまでに激しさを増します。灼熱地獄に閉じ込めた八咫烏が暴れ出したんです。
その時私の周りでは地面に亀裂が生じ、その隙間から蒸気が吹き出ていましたよ。……はい、その通りです。これが間欠泉の予兆です。そしてこれは彼等の方でも――
ケル「キャウンキャウンキャウン」
筋ト「しめた!」
彼 「お燐早く!」
ケルベロスのすぐ側で蒸気が噴き出し、一つの顔に直撃したんです。そのおかげでケルベロスはお燐から手を離してその場から離脱、雪で冷やしに行っていたそうです。その間にお燐と彼等は合流を果たしますが……。
後にお燐は、
お燐「あの時、もう薄っすらと気付いていましたニャ」
と話していました。私が屋敷に戻っていた事も、八咫烏を灼熱地獄へと閉じ込めた事も、そしてその八咫烏が灼熱地獄ごと壊そうとしている事も全部。さらにそれを確信へと変えたのが――
彼 「今の何?! 何処で!?」
筋ト「ビビったー」
大爆発音です。間欠泉が地上に上がったんです。この時はまだ私も彼等も何処で何が起きていたかなんて想像もしていませんでしたけどね。でもその爆発音で間欠泉が上がったのは確かです。目撃者がいましたから。その目撃者の事は追い追い話すとして、悪い予想が確信へと変わってしまったお燐は、これまでの経緯と共に話したそうです。私がお燐に話した作戦の事を。
筋ト「屋敷ごと沈めるって……マジで?」
彼 「……」
お燐「アタイ、イヤニャ。お空がい
筋ト「お燐の話からすると下に閉じ込めたって事は、さとりさんと勇儀さんの二人でも止められなかったって事だろうな。それにその変な女が味方してくれるなんて考え難いし。そうなるとヤマメやパルスィが加わったところで止められるかどうか――」
お燐「アタイ、どうしたらいいか……」
お燐はきっと涙ながらに話したことでしょう。
お燐「お空を助けたいニャ……」
出来損ないの二人の少年達に救いを求めたことでしょう。
彼 「……いるだろ?」
筋ト「は?」
お燐「ニャ?」
そしてその胸の内を聞かされた彼は、
彼 「まだいるだろ。自分達には頼れる人が!」
一世一代の
彼 「呼ぶんだ」
とんでもない作戦を思い付いたんです。それは彼が絶大な信頼を寄せる勇儀さんと同じくらいの実力を持つ方を地底世界へ呼ぶ事だったんです。そこで彼はお燐にこう指示を出したんです。
彼 「お燐、地上に怨霊を放つんだ!!」
と。その方というのが……。
いいえ霊夢さん、あなたではなかったんです。その方は地底から地上へ移り住んだ方、そして勇儀さんと同じく鬼の四天王。そうです、あの時地上へ放たれた怨霊達はそこでスヤスヤと眠っている伊吹萃香さんへのSOS信号だったんです。
早速、新作より二名登場して頂きました。
地獄でのストーリーですしね。
mmdで既にモデルがいたのが驚きでした。
もう一方はまだ無さそうだったので見送りましたが、見つけたら使わせて頂こうと思ってます。
そして原作では「地底異変の始まりは、お燐が地上へと知らせるため」とあります。そこをアレンジさせて頂きました。
【次回:表_二語り目】