ケルベロスとの決着はお燐が立ち去った直後でした。三つの頭と六つの目を持つケルベロスの注意を一点に集中させた事、それが彼らを勝利へと導いたのです。
そして決定打を放った筋トレマン。そこにいる彼から当時の様子を聞かされた際は驚かされましたよ。まさか技まで習得していただなんて夢にも思っていませんでしたからね————。
筋ト「誰に技を教えてもらったか? 誰というか、みんなですね。順を追って話すと、金棒を使えるようになったのは——三ヶ月くらい経った頃だったかな? それまで全然
そんなとんでもない人のおかげでさ、足腰が強くなって金棒を使えるようになったわけ。で、『ただ振り回すだけじゃ芸がない』って事でコンガラさんって方に
って。正体はニワトリ? それでいて神様?! えっ、マジ?」
まあエピソードは多々あったそうですが、これもどうでもいい話なので
さて、筋トレマンの最後の一撃を受けたケルベロスですが、かっ飛ばされてそのまま出てきた洞窟へホールインワンしたそうです。あるべき場所へと戻されたわけです。後に筋トレマンは「それが最善だと思った」と言っていました。私もその事については反対もしませんし、よくやったと
と、ここまで一気に話してきましたが、何かご質問等ありますか?
はい? 地上でケルベロスを見た? しかも襲われた?! それはいつ?
数年前?! ちょちょちょっと待って下さい。後にお話ししますが、ケルベロスは確かに逃亡したとは聞いています。でもその時にはかなりダメージを受けている状態で、翌日から地底を探し回っても見つからなくて、何処かで人知れず倒れたのだとばかり——。そんな傷でいったいどうやって地上へ……。
ん? でも襲われたのはあなた達ですよね? よく無事でしたね。
あたいが吹き飛ばしたあああッ!? いやいや、ウソはダメですよ。妖精のあなたにそんな事が出来るわけ——え、本当なの?
そこまで強くはなかった? またまたご冗談を。ケルベロスは妖精さん達を丸飲みにするくらいの大きさですよ?
四つ足で妖精さん達と同じ大きさくらい? そんなはずは……それでは全く別の——もしかして……。いえ、そうとしか考えられない。
これは私の推測になりますけど、かなり自信があります。彼達が見たケルベロスは
妹紅さんと
そうですか。フランさんも最近では見ていないと。何であなたが外を
……そうね。確かに襲われたとは言え、あなた達はお腹の中に赤ちゃんがいるケルベロスを傷付け、結果命を奪ってしまった。それを『当時は考えもしなかったから仕方がない』と受け取る? その子供にとっては今でも続いている問題だとしても?
私があなたに何を言いたいのか、分かるわよね?
湿っぽくなってしまいましたね、ごめんなさい。では続きを……ええ、話はまだ終わっていませんよ。ここまではまだプロローグにすぎません。
??「ケルベロスがやられたぞー!!」
当時誰がその先の展開を予想出来たでしょう。皆さんはこれまでの話から「扉はケルベロスを封じるためのもの」とお考えだったかもしれませんが、
筋ト「おいおいおいおい……」
彼 「こ、これって……」
そうではないんです。
筋ト「この事を知らせてこい」
彼 「え?」
筋ト「誰かに知らせて来いって言ってるんだ! すぐ来れる人に!」
彼 「お前はどうするんだよ!」
あそこは……
筋ト「なんとかしてみる」
彼 「そんなの無茶だ!」
筋ト「そう思うなら急げよ! 二人でも相手に出来ないだろ!!」
彼 「……くたばんなよ」
筋ト「お前じゃないんだ。一緒にすんな」
異世界へと繋がる扉なんです。
筋ト「さーってと」
そこから次に現れたのは二足歩行をする者達、手には凶器が
筋ト「どーするよ、この数……」
その数、確認出来ただけで100。そこからさらに増え続けていたそうです。筋トレマンは即座に「救援が必要」と考え、彼に「呼んで来い」と指示を出して一人残ることにしたんです。
輩①「だから言っただろ。最近ケルベロスが扉を引っ
輩②「なるほどな、そういう事だったのか。宣戦布告は受け取った」
輩③「ヘッヘッヘッ、宝があるんだってなぁ」
輩④「酒と食い物もな」
輩⑤「あと女だー!」
地底世界へ侵略して来た輩達を「ここで止めてみせる」と誓って。
筋ト「この先に行かせてたまるか!!」
一方助けを求めて走り出した彼ですが……こちらの状況に気を使ったんでしょうね。私には知らせずに町へと向かっていたんです。
ここで今一度おさらいを兼ねてアンケートです。
Q.あなたは前触れもなく、突然大切なものを失いました。そこへ罪を犯して外出を許されていない人物が目の前に現れました。しかもあなたはその人物が嫌いです。その人物があなたにこう言いました。「手を貸して下さい」と。あなたならどう思い、どう反応しますか?
町民「何でここにいるんだ!」
町民「どのツラ下げて来てんだ!」
町民「お前の顔なんて見たくない!」
町民「とっとと失せやがれ!」
町民「消えろ!」
悩んでいる方、話くらい聞いてあげる、それでも手を貸す、そう思った方もいるみたいですね。でも現実はその他の方の頭によぎった言葉が浴びせられたそうです。
そんな状況下でも彼は
彼 「お願いします。助けて下さい!」
そこに偶然居合わせた彼の親しい方から聞いた話ですと、彼はやはりそこでも色々言われていたそうです。その方も彼を目にした時はムカッ腹が立ち、その場にいる事に疑問を持ったと話していました。それでも昔からの
??「どうした?」
なるべく優しく。
彼 「キスケ!? ……この際しょうがないか」
その方というのが、後の彼の兄貴分さんなんです。町では「みんなの弟分」として愛でられていますけどね。存在だけでも覚えてあげて下さい。
兄貴「今何か言ったか? そうだコレ、姐さんのだろ?」
彼 「
兄貴「向こうに落ちてたんだ。姐さんに届けておくれよ。あと鬼の宝なんだし、大切にするように伝えてくれよな」
彼 「ガツンと言っとく」
兄貴「まあ
彼 「しないって……多分」
兄貴「で、何があった?」
彼 「詳しい事は話せないんだけど、地霊殿の裏で問題が起きて人手がいるんだ」
切羽詰まった様子の彼に尋ねた兄貴分さんでしたが、「詳しい事は話してくれなかった」と語っていました。大方私に「扉の事は秘密にするように」と言われ、
兄貴「それってこの怨霊と関係あるのか? いきなり現れてオイラ達も戸惑ってるんだ。しかも聞いた話だと地上に向かっているヤツもいるって」
彼 「え、えーっと関係あるような、ないような……」
兄貴「何か知ってるなら話せよ。さとりさん達は地上と戦争を起こすつもりなのか? 町に火を放ったのだってお空だって聞いたぞ? いったい何を考えて——」
彼 「ミツメーは何もしてない!」
兄貴「じゃあ誰だよ怨霊を放ったのは?! やっぱりお空か? それともお燐ちゃんか? そう言えば前にお燐ちゃんが怨霊の管理をしているって聞いた事が……」
彼が話さなかったことで兄貴分さんは不審に思い始めたんです。「何か話せない事情がある」と察していたんです。そして同時に「コイツは全部知っている」と勘付いていたんです。お空が何故暴れていたのか、怨霊を放ったのは誰なのか、さらに一連の騒動は私の思惑なのか、その答えを。それは兄貴分さんのみならず、町の住民みなさんの疑問でもありました。
それを彼は……、
彼 「違う。違う、違う違う違う!」
彼 「お燐は悪くない!」
挙げ句の果てには、
彼 「自分が怨霊を放つように言ったんだ!!」
怨霊の件だけバカ正直に「自分の仕業だ」と。そうよね?
まったく……、だからややこしい事になったのよ。隠したり誤魔化したりして協力してもらおうなんて無理な話、あの場合は全部正直に話すべきだったの。
兄貴「バカヤローッ!」
その所為で兄貴分さんに殴られたんでしょ?
兄貴「ふざけるなよ。そんな事をしたらどうなるのか知らないわけじゃないだろ? 姐さんから聞いてるはずだろ!?」
彼 「っー……」
兄貴「オイラ達鬼はなぁ、人間に追いやられて
彼 「……」
兄貴「人間のお前には鬼の気持ちなんて分からないだろうけどなッ」
彼 「ボクは……だ」ボソッ
兄貴「は?」
彼 「その地底世界がピンチなんだって! 今行かないと取り返しのつかない事になるんだ。だから、だからお願いします。力を貸して下さい! 事情は全部解決したらちゃんと話すから!」
その上、地に頭を付けて頼み込んでも
兄貴「……無理だ」
断られて。
兄貴「お前が姐さんにした事、オイラだって許せないんだ。そこに怨霊を放つなんて事をしてくれやがって。そう簡単に協力なんてできねぇよ」
彼 「ちょっと待ってよ!」
その時あなたの兄貴分さんはこう考えていたみたいよ。
兄貴「自分で招いた事の落とし前くらい自分でつけてみせろ!
地底世界の危機はあなたが招いた事だって。その場にいた他の方もそう考えていたはずよ。
兄貴「どっちにしてもオイラ達は町の消火で手が離せないんだ。頼むなら他をあたってくれ」
さて、町中を駆け巡り協力者を探し続けていた彼ですが、兄貴分さんにも断られてしまいそこでとうとう悟りました。「自分でどうにかしないといけない」とね。一人残された筋トレマンの下へ最短距離で、全速力で戻ります。その途中、ようやく出会う事が出来たんです。野暮用で町へと戻っていた彼が最も信頼を寄せる方、
彼 「姐さん!」
星熊勇儀さんに。そしてその場には彼の『お姉ちゃん』達、
??「フッフッフッ……、何故にそっちから?」
キスメさんと
??「え? え? え? ケルベロスは?!」
黒谷ヤマメさん、
??「なんであんたが勇儀の盃持ってるのよ?」
水橋パルスィさんまでみんないたんです。
勇儀「あ゛ーーーッ!」
彼 「コレ放ったらかしって
キス「フッフッフッ……。お説教タイム」
ヤマ「勇儀、それはないよ」
パル「お宝……妬ましい」
勇儀「はい。はい。申し訳ない」
??「あのー……ニャ」
さらにその場にはお燐もいたんですが、
彼 「しかも鬼の宝なんだよ? みんなの宝なの。だから-——」クドクド
キス「フッフッフッ……。まだターンは終わらない」
ヤマ「当たり前でしょ」
パル「勇儀のライフはもうゼロ」
勇儀「はい。はい。おっしゃる通り」
お燐「アタイも
少々いざこざがあったそうで、なかなか輪の中に入れなかったみたいです。
彼 「って聞いてるの?! ちくわ耳にしてるでしょ!」
勇儀「してないしてない! ちゃんと聞いてるし反省してる。もう絶対失くさないから」
彼 「……約束だからね」
勇儀「ああ、約束する。ところで、お前さんケルベロスと戦っていたんじゃないのか? 和鬼はどうした?!」
彼 「ケルベロスの事知ってるんだ。だったら話が早いや」
そしてそこでお燐は知ったんです。
彼 「和鬼が
『……』
彼 「ざっと話したけど今ので分かった?」
自分が立ち去った後の出来事を。さらに彼は続けてその場にいたみなさんにも「手を貸して」と頼んだそうです。事前に状況を知っていた勇儀さん達は彼の話を信じ……はい? なぜ知っていたか? それはお燐が私に教えてくれた時に、たまたま皆さん集まっていまして、その時に私も扉の存在と『三つの約束』についてお話ししたんです。
一つ、地底に封じられた怨霊を地上に出してはならない。
二つ、地底に仕掛けた術を解いてはならない。
三つ、他の世界へと繋がる扉を開けてはならない。また扉の事は内密にし、干渉する事は以ての外である。
これが鬼さん達が地底世界へ移住する際に賢者様と当時の博麗の巫女、そして町の長だった棟梁様と交わされた約束です。特に三つ目は極秘中の極秘、でもあの局面で隠す事は出来ませんでした。それこそ話さなければ、そこの彼の様に協力は得られなかったと思います。
ヤマ「——君、捕まって!」
パル「急ぐよ!」
話を戻して、ヤマメさんとパルスィさんが彼らの助太刀へ行く事になったのですが、
お燐「待ってくださいニャッ!」
運命の歯車はもう止められない速度までに加速していたんです。
お燐「お伝えし
私はお燐にあるお願いをしていたんです。それは勇儀さんが町へと戻った直後に彼女がいち早く知った事、怨霊の声を聞ける彼女だからこそ察知できた事を伝えて欲しいと。
『ええええええええッ!?』
霊夢さん、あなたがすぐそこまで来ているとね。
怨霊は放たれ、扉は術と共に破壊されました。偶然にしろ、悪意がないにしろ、私達は約束の全てを破っていたんです。それをあなたが知ったらどうされましたか? きっと全てを解決させた後に私達地底の民に立ち退きを命じ、彼には厳しい罰を与えたでしょう。
勇儀「こうなったら……」
そこで勇儀さんは決意したんです。
勇儀「隠し通すぞ」
扉の件をあなたから隠し、
キス「『怪奇:——』」
自分達で解決しようと。
ヤマ「おお?」
だからあの時、
パル「もしかして人間?」
私達はあなたの前に立ちはだかったんです。
勇儀「駄目になるまでついてきなよ!」
少しでも時間を稼ごうと、
私 「……来客」
勘の鋭いあなたに悟られないようにと、
お燐「じゃじゃーん」
全力で。
いよいよ突入しますが、次回はワンクッション挟むかもしれません。