これは彼らから聞いた話です。
一方、たった一人で100人以上の異世界の者達の相手をしていた筋トレマンは——
筋ト「
迫る輩達を次々と打ち上げ、
筋ト「
かっ飛ばしていました。
輩A「この野郎……」
地面には異世界の者達が所狭しと倒れていたそうです。たった一人で30〜40は打ちのめしていたと。はい、私も当時疑問に思いましたよ。よくそこまで相手に出来たなと——
筋ト「ヘカーティア様の勧めで、多人数を相手する戦い方も学んだんです。名目上は、ですけどね。本当はヘカーティア様の妹分さん、
ってんで付いて行ったら、袿姫さんの部下の
だから合格なのか不合格なのか分からず終いってわけ。ところでさっきから何でこんな事を聞くんですか? 関わった方へお礼を? それならウチの肉も一緒にいいですか? 近頃誰かさんのお陰で店が大繁盛してましてね。高級な肉も扱うようになったんですよ。母ちゃんにはオレから言っておきますから」
でもまあ、一言で言えば既に経験済みだったそうです。とはいえ数が数です。いくら倒せども倒せども、キリがありません。
厳しい修行に耐え抜いたとはいえ、体力は
筋ト「ゼェー……、ゼェー……」
底は必ずあります。振り回していた金棒を杖代わりに、息を切らせていた事でしょう。筋トレマンの体力はギリギリだったはずです。ただ幸いだったのが、その時まで一打もダメージを受けていなかった事だったと。そう語っていましたよ。
??「随分とイキのいい兄ちゃんだこと」
異世界とはいえ、私達地底の民の様なはみ出し者はいます。筋トレマンが相手をしていた輩達はそういった中でも、暴力的な思考を持つ荒くれ者達だったと聞いています。
自分達のおかれた環境に不満を抱き、片隅でしか生きる事のできない者達。そこは強き者が上位に君臨し、弱き者を服従させる完全なる実力主義の縦社会。日々争いが起き、その順位が激しく入れ替わる場所です。
私は先程筋トレマンがやっつけた人数は20〜30だと言いました。その数に「少ない」と感じた方もいるはずです。ですが輩は皆、筋トレマンと同様に厳しい環境を生き抜いた実力者達だったんです。それこそこの世に生を受けてからずっと。
そして、その輩の中で常に頂点に君臨する者が筋トレマンの前に現れたんです。輩は皆、その者をこう呼んでいたそうです。
『ボス!』
と。え?
ボス「時に、今日の
『Beautiful Over Special Sugeーです!』
と言われましても……。コホン、続きいきます。
ボス「そーだろ、そーだろ。しかしまあ、子分供をコテンパンにしてくれて」
輩B「ボ……ス……」
見下ろせる程の低い背丈、ゆったりとした
ボス「お前達もいつまでも寝てんじゃねぇ、とっとと起きネェカッ!」
『はいッ!』
たった一度吠えただけで傷付き、倒れていた者達を瞬時に蘇らせたと。輩を蘇らせたもの、それは威圧感において他なりません。目前で繰り広げられる目を疑う光景、ボスの威圧感に触れた筋トレマンは、
筋ト「(コイツ絶対強い。勝てる気がしない)」
考えを改めさせられたんでしょうね。その場で
ボス「はっ、今ので腰でも抜かしたか?」
輩C「ならボスが直接下すまでもねぇ」
輩D「10倍返しにしてやらあッ!」
やられた怒りを剥き出しに武器を握り直し、殺意に満ちた雰囲気を放ちながら、ぞろぞろと彼に近づいて行ったそうです。きっと筋トレマンは命の危険を感じていた事でしょう。
でもその時、ボスが意外な事を言い放ったそうなんです。
ボス「殺すなよ」
「生かせ」と命令したんです。けどそれは束の間の安息でしかありませんでした。
ボス「生け捕りにしろ」
『はい?』
ボス「その方が楽に進むからな。そうだな、手始めに——」
人質です。筋トレマンを盾にして地底世界を侵略しようと考えていたんです。そしてボスが最初に目をつけた場所、拠点として選んだ場所、指し示した場所というのが……
ボス「あそこの屋敷を頂くとしようか」
地霊殿だったんです。
ボス「と、考えてしまう余はどうだ?」
『Beautiful Over Special Sugeーです!』
餌を見せつけられた輩達はニヤリと笑い、
輩E「へへ、大人しく捕まれよ」
輩F「痛い思いをしたくなければなぁ」
自分の所為で更に状況が悪化する。捕まったら本当に地底世界を、故郷を失う。筋トレマンはその時そう感じたと話していました。
筋ト「させねぇよ」
そして
ボス「
ですが、こうも思っていたはずです。
筋ト「(早く戻って来いよ)」
未だ帰らぬ彼への不満を、ね。
険しい表情で構える筋トレマン。対するはボス率いる100を優に超える異世界の荒くれ者達。圧倒的に不利な戦力の中、いつまで耐えられるか分からない第二ラウンドのゴングが鳴ろうとしていました。
そこへ——
??「☆……。。。ぁぁぁあああわ」
乱入者です。彼が
いえ、彼は飛べませんよ。そうですねー……。簡潔に言ってしまうと、
ドッカーン!
彼 「あっぶねー、着地成功っと」
地底世界ではよく見られる光景なんです。これ以上は聞かない方が身のためですよ?
彼 「あっ、和鬼! 無事か?!」
さて、満を持して再登場した彼。筋トレマンも喜んでいるかと思いきや……
彼 「おーい」
口をあんぐりと大きく開け、
筋ト「
「いきなり怒鳴られた」彼はそう語っていましたよ。それはそうですよね。帰りは遅い上に誰一人として一緒に来なかったのですから。
ええ、そうなんです。当時パルスィさんとお燐も、勇儀さんの指示で彼と一緒に駆け付けるはずだったんです。ですが、お燐は私に状況と作戦を伝えるために
彼は筋トレマンにその事を包み隠さず、全て話しました。
彼 「悪い自分の所為で……。嫌われ者の話なんて誰も聞いてくれなかった」
筋ト「勇儀さん達は?」
彼 「博麗の巫女の相手。時間稼ぐから二人で耐えろって。後で絶対来るって」
筋ト「待て待て待て待て、なに? 博麗の——」
急展開過ぎて理解が追いつかなかったそうですけどね。と、その時です。
??「小僧オオオオオッ!!」
怒号と共に凄味の大波が彼らに押し寄せたのは。その発信源は他でもないボスです。
あ、では息抜きにクエッションです。
Q.ボスの身に何が起きたのでしょう?
……簡単過ぎましたね。はい、その通りです。
ボス「よくも……よくもよくもよくもよくも」
彼が上から降って来た時に運悪く……いえ、運良くに直しましょう。ボスの上に踏み付ける形で着地していたんです。そのお陰でボスにワン・ダメージが入っていたんです。
ボス「余の美しい顔に傷を付けてクレタナーッ!」
ご自慢の顔に。鼻からは血が出ていたそうです。
ボス「許さぬ……。お前達地獄に送ってやれ!」
輩G「ボス、生捕りは?」
ボス「んなもんなしだ!」
怒り狂うボスは彼らを人質にする事をやめ、その場で痛めつけるよう命令を下しました。
『うらあああッ!』
殺意の声を上げ、武器を手に迫る輩達。
筋ト「その地獄から帰って来たっつーの」
彼 「どんな所だった?」
筋ト「そんな事聞いてる暇あるなら構えろよ」
そしてそんな中でも何処かリラックスした雰囲気の彼ら。
筋ト「あ、そうだ耳貸せ——」
筋トレマンは直前に一言二言彼に助言をし、
『わああああッ!!』
第二ラウンド開始です。
彼らは押し寄せる輩の波に飛び込んで行きました。
振り下ろされる凶器を回避しては脚をかけ、服を引っ張り、時にはタックルで弾き飛ばし、一人二人、三人四人と次々に姿勢を崩していく彼。囲まれる危険があったにも関わらず、
一方、体制の崩れた輩に間髪入れずトドメとばかりに痛烈な一撃をお見舞いしていく筋トレマン。これまでとは違い、
この息の合った連携プレー、お互いの実力を知っている者同士だからこそ、殴り合いの喧嘩ばかりを繰り返していた者同士だからこそ、ライバルであり幼馴染同士の彼らだからこそなせた妙技なのでしょう。普通はそうも上手くいきません。
やがて彼の目に切れ間が写し出されました。最後尾に辿り着いたんです。その瞬間彼は一気にゴールを目指して駆け抜けて行きます。そしてそのゴール地点は、彼のスタート地点でもあったんです。
??「来い小僧ッ、余が直々に相手をしてやろう!」
他でもないボスです。彼はボスとの一騎打ちを仕掛けに行ったんです。
ボス「お前達、余計なことするなよ」
それが二人の狙い? さあ、どうでしょうね。ただ一つ言える事は、彼がボスと戦う事で筋トレマンはまた一人で多人数を相手にしなければならなくなった。それは間違いないでしょう。
筋ト「チィィ……ッ」
その上、筋トレマンは四方八方を囲まれていたと。これは一対多において最もやってはいけない事、筋トレマン自身も危惧していたはずです。状況を打破しようとあれこれ考えていたことでしょう。いえ、そんな余裕もなかったかもしれません。
輩H「……若僧が」
輩I「さすが
輩J「でももう終わりだ」
輩K「とっととつぶれろ!」
十数人分の凶器を金棒で受け止めていて身動きができなかったと。それをいいことに横から背後から
輩L「けけ、背後がガラ空きだ」
筋ト「ぐぅ……」
打撃、
輩M「こっちもな!」
筋ト「ゴハッ」
弾撃、
輩N「キィィイェエエエ!」
筋ト「イッッテェエエエ!」
斬撃を。けれども筋トレマンは倒れません。そこは「さすが鬼だ」といったところでしょう。元々体が頑丈な種族であり、その上鍛え抜かれた鎧をまとっていたわけですから。おかげで耐え続ける事が出来ていたのではないかと。もしそれが並の人間であれば、一撃目でアウトだったと思いますよ。
とはいえ、その強靭な体もそれ以上の力が加われば怪我だってします。昔、別の鬼さんがそう言っていました。筋トレマンが受けた傷は致命傷にこそなってはいなかったものの、全身は
筋ト「(これ、かなりヤバイ)」
目の前が
もう四の五の言っている場合ではありません。筋トレマンは残されたありったけの力を絞り出し、金棒にのしかかる凶器を輩ごと押し返すと、
筋ト「あ゛ああああッ!」
金棒を持ったままコマの様にくるくると回り出したんです。
はい、そうですね。そんな事をしても苦し紛れのその場しのぎでしかありません。一人、二人には当たったかもしれませんが、距離とタイミングこそ見極めてしまえば攻撃を与える事は
一斉に放たれれば防ぎようがありません。不気味に笑いながらその時を待つ輩達に囲まれる中、筋トレマンは願ったそうです。
筋ト「(もっとリーチがあれば)」
「周囲を一掃できるだけの長さが欲しい」と強く、強く、より強く。
輩O「全員放てッ!!」
ドガガガガガガガッ!!
直後、一帯に鈍い音が響き渡りました。
筋トレマンにいったい何が?
そしてそれが分かった時、
誰かのエピソードで……。
【次回:表_四語り目】