これはキスメとヤマメから聞いた話だ。
【キスメ談①】
フッフッフッ……、勇儀に投げられた後の事だと? あの背筋が凍るような体験を思い出せと? フッフッフッ……、いいだろう話してやる。ただしお代はそれ相応にもらうぞ。
あの時、私が投げられたのは実に二度目の事だった——
キス「フッフッフウウウぅぅぅーー……☆」
萃香に続き今度は
キス「いやあああぁぁぁーー……☆」
顔面にのしかかる重たい風圧と思い出したくもないトラウマの
キス「ぶつかるうううぅぅぅーー……☆」
壁よ、壁。
ヤマ「キャプチャーウェブ!」
巨大なのに密度の高い
フッフッフッ……、さあね。人知れず練習していたのではないか? ぶっつけ本番って事はなかろう。
キス「フッフッふ〜……、間一髪」
時に勇儀よ、そこまでにかかった時間、どれくらいだった思う?
フッフッフッ……、ブー残念。その半分。
ヤマ「……いる」
キス「フッフッフッ……、まだ先だろうが近いな」
そんな速度で上へ向かっていたのだから、巫女の気配を察知感知出来る場所まではあっと言う間だったよ。
とはいえよ、
キス「フッフッフッ……、さすがに少し遅くなったか?」
失速していたのもまた事実。私としてはそのまま止まった所で巫女を待っても良かったのだがな、ちょうど穴の
ヤマ「キスメ聞いて」
フッフッフッ……、二度ある事は三度あるとはよく言ったものよ。まさかヤマメまであんな事言うとは思いもよらなかったよ。フッフッフッ……その通り。
ヤマ「投げるから先に行って足止めして」
まったく。萃香といい
ヤマ「うううりゃあああッ!」
まあよい、過ぎたことよ。それでヤマメの力が上乗せされて投げられた私は、巫女と話しをするために
キス「フッフッフッ……、見つけたぞ。博麗の巫女」
光の弾が一つ、二つと見えてからは直ぐだった。怨霊を残すことなく成仏させていた巫女を見つけたのは。巫女も私のことに気が付いたみたいでバッチリ視線が合ったぞ。
「話をするだけ」そう思っていたんだがな、巫女の方は攻撃する気満々。となればやる事は一つだ。私は
キス「『
たった一枚のスペルカード、『怪奇:
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
??「何でこんなじめじめした所に来なきゃいけないの?」
依然として機嫌の悪い赤白少女。
そこは雪の降る真冬だというのに意外にも湿気が強く、心なしか底へと近づく毎に暖かさを覚え始めていた。
行き着く先には何が待ち受けているのか。底なしに感じる深い暗闇の中へと慎重かつスピーディーに身を投じて行く。恐怖はないのだろうか。
霊夢「にしても……」
と、ふと思い出されるつい先程の出来事。
霊夢「さっきの
不可解な謎に首を
??「{あーあーあー、本日は晴天なり}」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【キスメ談②】
フッフッフッ……、思い出すと古傷が痛む。
私はスペルカードを宣言し、
戦いは激しさを増し、互いの力が底を
……なんだその目は? フッフッフッ……そうだよ、全部空想だよ。「そうだったら良かったのにな」って思っただけだよ!
現実は……
キス「kいいいぃぃぃ……☆」
止まらなかったんだよ!! 勢いが強過ぎてブレーキが出来なかったの! 巫女の横を通過しただけなの!! その後気が付いた時には……って、笑うなああああッ!!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
封じられた妖怪。
地底世界に住まう妖怪の多くは、その能力から地上では
霊夢「便利なような邪魔なような」
周りには誰もいない。群れとなって立ち向かって来ていた怨霊でさえも、今や姿を消している。あるのは闇と静けさ、そして彼女自身だけ。つまりは独り言、そのはずなのだが……。
??「{
明らかに彼女とは異なる口調に声質、まるで別人である。二十人格? いや違う、彼女は会話をしていたのだ。近くで浮遊する
彼女にとって陰陽玉は慣れ親しんだ物だった。まだ彼女が博麗の巫女に就任する前、共に武者修行に行った日もあれば、就任後にも共に異変を解決した日もあった。だがそんな旅のお供に会話機能があるとは初耳だった。
それもそのはず、その機能が追加されたのはすごく最近のこと。というか彼女が出発する直前のこと。甘い物には目がないスキマを操る何者かによって『通信出来る程度の機能』を勝手に追加させられたのだ。
彼女の話し相手は地上にいる。今頃は愛用のペンとメモ用紙を準備し、事が起きるのを今や遅しと待っているだろう。ネタになりそうな出来事を聞きつけては首を突っ込まずにはいられない『清く正しい』を売りにしたマスゴミ
そうとは知らず、不思議そうな顔で巫女に近づく者が。
??「おお?」
興味深々、さらにその者は親しげにこう尋ねた。
??「腹話術? 何処から声を出していたの?」
地底世界、そこは行き場を失った(Lost Place)者達の最後の楽園。
??「{何か変なのが来ましたね}」
霊夢「陰陽玉の向こうからワクワクしている様子が伝わってくるわ」
??「{ワクワク}」
第二の
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とまあキスメは当時の事をその様に語っていた。そう言えば話をしてくれた後「すごく怖かったんだからね」って涙ぐんでいたっけな。「フッフッフッ……」と不気味に笑うキスメが、桶の中にグロテスクな物体を忍ばせているあのキスメが。普段見せない表情なだけに、胸を強く
でも一方でヤマメは————
【ヤマメ談①】
ああ、あの網? 「きっと投げられたら直ぐに張らないと間に合わない」と思ってね。タイミングはバッチリだったでしょ?
えっ、そうじゃない?
あははは、練習なんかしてないよ〜。あの時が初めてだよ。なんとなくね、出来そうな気がしてさ。あ、この事キスメには言わないでよ? 「狩るッ」って追いかけ回されたイヤだもん。
あ、狩るで思い出した。飛ぶスピードが落ちて来たことに気が付いてね。私、キスメに「先に行って足止めして」って頼んだんだ。地上に近い所で足止めした方が下で起きている事、知られるリスクが低いでしょ?
あー……。うん、投げた。でもでもそれはキスメだって……
ヤマ「投げるから先に行って足止めして」
キス「フッフッフッ……、任されよ」
って承知してくれたよ。だから私はキスメの桶に糸を付けて、
ヤマ「うううりゃあああッ!」
ぐるぐる回って勢いを付けて投げたんだから。けど問題があってさ。キスメがね、
キス「殺すつもりで狩るッ!」
ってヤル気満々だったんだよねー……。もう手を離れる直前だったからそのまま投げちゃった。あ、一応注意はしたよ?
ヤマ「キスメー! 話をするだけではだからネー!!」
でも予想以上に勢いよく行っちゃったから、声が届いていたかはどうか……。
ヤマ「大丈夫かな?」
それから少し経ってからだよ。うん、例のアレが聞こえたの。
ゴッティイイイィィィーーーンッ!!
すごい大きな音でいい音が……ね。もう直ぐに分かったよ。
ヤマ「キキキキキキキキスメ?!」
やっちゃったって。それは慌てたよー。音からして相当硬い何かにぶつかった感じだったから。
……ちょっと勇儀? キスメの前では笑っちゃダメだよ? 「役に立てなかった」って気にしてるんだから。
もー……、あとで謝りなよ。
何処まで話したっけ? そうそう、それで私キスメの下に急いだんだ。手から出した糸を壁に引っ掛けて加速させながらね。そしたらね、見えて来ちゃったんだ。
ヤマ「アレってもしかして……」
うん、博麗の巫女が。悪い予感は的中してたんだ。
ヤマ「キスメ……」
キスメは巫女に何も出来なかったんだって。私、すごく後悔した。自分の判断ミスが原因でキスメに大怪我させた事を、勇儀が考えた作戦を台無しにしちゃう事を、みんなに迷惑をかけちゃう事を。
ヤマ「勇儀、パルスィ、お燐、さとりちゃん、——君、みんな……ごめん」
だからキスメの分も頑張るって、
ヤマ「埋め合わせは必ずするからッ!」
「どんな事をしても止める」って
ヤマ「おお? 腹話術? 何処から声を出していたの?」
「何してるの?」って感じでいつも通り笑顔で話したよ。けど彼女ったら私の事を変なの呼ばわりするわ、無視してワクワクって独り言を言うわ、ついには……
巫女「やり場のない私の
って、失礼しちゃわない?! 博麗の巫女かもしれないけど初対面だよ? しょ・た・い・め・んッ! 普通そんなこと言うぅ!? ——君でもそんな事言わないよ?! もう
ヤマ「妖怪の力がどれほどの物か、良く見るが良いわ!」
攻撃しちゃってたんだよねー……。
ヤマ「『
始まっちゃったらもう止める事は出来なかった。彼女も一気に戦闘モードにスイッチ入って反撃して来たよ。
ヤマ「『蜘蛛:
うん、全力で相手した。出し惜しみなんてしてない。
ヤマ「『
能力を使ったスペルだって……へ? 私の能力?
ちょっと、それ冗談でしょ?
「鬼だから冗談は言わない」じゃないよ。はー……、私の能力は『病気を操る程度の能力』、糸を出すのは能力じゃなくて特技みたいな物だから。それでその能力を使って光弾にイ◯フルエ◯ザとか
ま、まあそれはそれとしてね。そこまでやっても彼女には一回も当たらなくてさ。
ううん、勘がいいとか避けるの上手いとかじゃないの。それ以前の問題。
ヤマ「また?! いつの間に」
彼女、すっっっごく早かったの。目では追いきれないくらいに。右にいると思ったら左にいたり、移動したと思ったらもうそこにいたり、前にいると思ったら後ろにいたりで。まるで瞬間移動みたいだったよ。だから狙いが定まらなくて……。
それに彼女の攻撃もさ、巫女って言うだけあって霊力が込められた攻撃だったから、当たる度にビリッとしたよ。やっぱり妖怪に霊力は相性悪いね。ずっとやられっぱなしだもん。
ヤマ「ハァ……ハァ……」
三枚目のスペルカードが破られた時にはもうヘロヘロ。息も上がってたよ。
巫女「はいはい、よく見ましたよ。
玉 「{そこにいるのは土蜘蛛ですね}」
そんな私を
巫女「もう勝負はついたでしょ、大人しく引いてくれない?」
ってね。そのまま引き下がるべきだったのかもしれない。でもさ、
ヤマ「(そんなこと……出来るわけないじゃない!)」
イヤじゃない? みんなを裏切るみたいで、約束を破るみたいで、自分にも負けるみたいで。
ヤマ「キャプチャーウェブ!」
私、さっき言ったじゃない? 「どんな事をしても止めてみせるって誓った」って。だからね、
ヤマ「もう速さなんて関係ない!」
私と彼女の周りを糸で
ヤマ「『
弾幕を三箇所に集めて一気に
それは私も例外じゃないんだ。自分の技でやられちゃう可能性もある
けど結果はあっけなく惨敗。彼女やっぱりすごいよ。きっと勘で分かったんだろうね。弾幕が彼女に触れる前に、糸に触れる前に、菌が飛び散る前に、
巫女「『
全部を無に返しちゃったんだ。それこそドームごとね。それで彼女を怒らせちゃったのかな?
巫女「人がせっかく
ものすっっっごく怖い顔で
巫女「『
ノックアウトさせられちゃった。
こんなところかな。ごめんね、私の力が
えっ、ちょっ、ゆゆゆ勇儀?! 苦しいって、恥ずかしいって。
……うん、ありがとう。優しいね。
そ、そうだ勇儀の方はどうだったの? その時の事、教えてくれない?
STAGE CLEAR
CLEAR BONUS
友情
【次回:裏_五語り目】