これは彼ら聞いた話です。
輩O「ガハッ」
輩P「ギヒッ」
輩Q「グフッ」
輩R「ゲヘッ」
輩S「ゴホッ」
「急に上腕二頭筋が喜び出した」と言っていましたよ。そして何が起きているのか分からないまま、力の限り振り抜いたそうです。
筋ト「うぅぅぅリャアアアッ! はあああ!?」
ビックリしたでしょうね。筋トレマンを取り囲んでいた
ここまで話せば
Q.何が起きたと思いますか?
手が長くなった? あー、そっちに来ますか。あなたのスベルじゃないんですから……はい? 「そこはゴ◯人間じゃないってツッコミを入れるところ」と申されましても、何のことだか……。
筋ト「デカッ」
正解は「金棒が巨大化した」です。ただ長くなっただけじゃなく、太さも変化していたんです。
筋ト「あ、戻った」
当時筋トレマンはそれが金棒に隠された能力だと考えていたそうですが、実はそうではないんです。それが筋トレマンに芽生えた能力『触れた物を巨大化させる程度の能力』なんです。自分の能力に気付いたのはその後日、というか私が自覚させたんですけどね。さらにコントロールできるようになったのは、この話よりまだまだ先のこと。最近と言っても過言ではないと思います。
予測は簡単でしたよ。彼の家系は自身を巨大化させたり、小さくしたり、分裂する能力を持つ方々が多かったので。
まるで
ちょっと余談が過ぎましたね。彼の方の話をしましょう。
ボス「来い小僧ッ、余が直々に相手をしてやろう!」.
拳を振り上げてボスに飛びかかって行く彼。その距離が射程範囲に入るや、ご自慢の顔に向けて放ちました。
彼 「えっ!?」
でもその拳がボスにダメージを与える事はありませんでした。いえ、触れることも
彼 「いたたた……」
ダメージが。残されたのは「倒された」という結果だけ。ボスに拳を放ってから
彼 「ヤァーーッ!!」
その答えを探ろうとしたのでしょうね。
彼 「ぐあッ」
彼は何度も
彼 「オリャァァァッ!」
何度も
彼 「グヘッ」
向かっては倒され、拳を振るっては打ちのめされ、飛びかかっては返り討ちに
ちょっと想像してみて下さい。
ボス「まるで
格下の者が、本気で相手をするまでもない者が、幾度となく立ち向かって来る様を。
彼 「そんなの……やってみないと分からないだろ!」
…………
ボス「またか、もう飽きた」
ボスも同じ事を感じていたはずです。
ボス「光栄に思え、余の拳で終われる事を!」
ボスが初めて自ら攻撃に出たんです。
彼 「へへ、やっと来た」
彼はその瞬間をずっと、ずっと、ずーっと待っていたんです。私は先程こう言いました。「彼の戦い方は少し変わっているんです」と。「守りをメインとして相手の力を利用するものなんです」と。
彼が抱き始めていた「もしかして」という疑惑、「まさか」という否定は、カウンターを受ける毎に確固たる答えを導き出していたんです。
ボス「ナニッ?!」
ボスの戦い方、構え、技は彼が師から学んでいた合気道と
ボスは最初から遊び感覚で油断していた。でも、そこそこの実力があって同じ戦い方する者だと知られたらきっと警戒される。だから怒らせて反撃の機会を
そう
ボス「き、キサマ——」
そして始まる彼の反撃。それは皆さんの目の前で彼自身が実演していましたね。その名も……
彼 「
一歩目、全身の力を抜いて拳をゆらりと回避。
二歩目、ボスの
三歩目、開いた左手を引いて右手でターゲットをロックオン。その状態から放たれるのは、「町を救いたい」という想いを破壊力に変換させた強烈な一撃。
彼 「
へー、これは驚きました。その通りです。優希さんが言われたように、さっきの爆音と爆風がそれです。よく気が付きましたね。みなさん拍手です。あ……注目されるのは苦手でしたね。
さて、背中から倒れるボスへ
そこへ輩の雨が彼の頭上から降り注いだそうです。ちょっと前にお話しした筋トレマンの
筋ト「ったく、勝手に突っ走って行ったかと思えば」
筋トレマンも「アイツが立っているという事実に驚いた」と話していましたよ。
勝負あり、その場の誰もが考えていたことでしょう。
彼 「なっ?!」
盛り上がった
ボス「一つ失ったか」
と。ここからは私の推測になりますが、恐らくボスは瞬時にその物体を盾にし、衝撃波の直撃を回避したのではないかと。そう思うのには理由があるのですが、それは追い追いご説明するとして、続きをお話しします。
ボスの無事を知った輩達は歓声を上げて喜んだことでしょう。反対に彼らは一気にドン底へと叩き付けられた気分だったことでしょう。それもそのはずです。彼の勝機はボスが油断している事が第一前提なのですから。
ボス「まさか余と同じ戦い方する者だったとは。それでいてあそこまでの威力。ふふふ……」
手の内を読まれてしまっては、
ボス「一撃で仕留めるつもりだったのか?」
彼 「散歩——」
相手も警戒します。筋トレマンはそうなる事を心配し、耳打ちでアドバイスをしていたんです。「お前の散歩必殺は同じ相手に二度通じない。ここぞという時まで隠せ」と。それはボスも例外ではありませんでした。
ボス「もう見切ったわ!」
再度脱力した姿勢に入る彼でしたが、ボスは彼に近付こうともせず、その場で手から電撃を放ったと。はい、ボスは全然本気ではなかったんです。実力を隠していたのはボスも同じだったんです。
電撃は彼を逃さまいとその中に閉じ込め、楽しむかの様に彼に苦痛を与え続けました。
筋ト「ヤバッ」
苦しみ
輩T「おいおい、何処に行く気だ?」
輩U「お前の相手は俺たちだろうが!」
輩の集団に道を
筋ト「そこをドケエエェッ!」
そのまま突き進もうとしても反撃を受け、周りを囲まれ、
彼 「?」
筋ト「?」
突然止まったそうです。二人とも。「助かった」と脳裏をよぎったことでしょう。でも……
『!!』
それは大きな間違いだと気付かされます。傷だらけで戦意を
やがて二人の瞳に映し出されたのは、変わり果てたお互いの姿。そして、
筋ト「おいおい……」
彼 「
身の毛もよだつ景色。鋭く
??「グルルルルル」
ケルベロスです。ケルベロスが再び現れたんです。その存在に気がついたボスは輩達に「
ボス「何か言い残す事はあるか? 代わりに伝えておいてやる。町をいただいた後でな」
彼らは悔やみました。命が尽きてしまう事を、町を守れない事を、何より己の非力さを。
『ごめんなさい』
ボス「ふふふ、今更遅いわ!」
そんな想いからでしょうね。二人同時に謝罪の言葉が
『バーカ、お前にじゃねぇよ』
と
ボス「ヤレ」
静かな怒りで刑の執行を子分に命じるボス。彼は……はい、ちゃんと生きてますね。それは何故か。何を隠そう本当の救世主が現れたからです!
??「うをっ?! なんだあの犬、デカッ!」
『鬼助!?』
彼の兄貴分さんです。
兄貴「よっ、ピンチだった?」
まさかの登場人物に彼も驚いた事でしょう。助けを断られ、殴られた相手が来てくれたのですから。さらに兄貴分さんは、
彼 「ど、どうして?」
兄貴「だから言っただろ。手が離せないって。終わったから仕方なく来てやったぞ」
ボス「仲間か。一人増えたところでなにも——」
兄貴「あ〜ん? 誰が一人で来たって言ったよ?」
大勢の町の者を率いて来てくれていたんです。その多くは彼が幼い頃からお世話になっている建築の方や、
彼 「みんな……」
総勢50名。その上、
兄貴「だけじゃねぇぞ?」
??「カッカッカッ、二人ともえらくやられたみたいじゃのー」
町唯一のお医者様にして最年長の長老様に、
??「はー……、これでは秘密なんてありゃしないじゃない。もう頭が痛い」
先代町長の
彼 「爺さんとばあちゃん!?」
つまりあなたが原因なわけね……。
棟梁「今、何か言いましたか?」ピキピキッ
『(コエー……)』
話を戻しまして、戦力が大幅に増えた彼ら。でも不利な状況には変わりはありません。それは数的にというよりも、
輩V「ケケケ、お前達動くんじゃねーぞ」
輩W「動いたらこの二人を餌にしちまうからな」
彼らが人質になっていたという事実の所為で。一時は逃れていましたが、結果二人は危惧していた状況となってしまっていんです。これは輩達にとってもボスにとっても、予期せぬ嬉しい誤算だったことでしょう。ニヤニヤと笑みを浮かべて棟梁様達を見下していた光景が目に浮かびます。
??「二人とも歯ぁ食いしばれッ」
ですがそれも束の間の優越感に終わります。ざまあ見ろです。彼らも輩達も知らなかったんです。集まった者達の中に、
バチコーンッ!
かつて最強と言われた鬼がいた事に。
??「よっと、二人とも無事か?」
そしてその鬼と対等に渡り合える鬼がいた事に。
日本中に伝説を残し、人間達からは赤鬼と青鬼と呼ばれて恐れられた二人の鬼。
彼 「じいちゃん!」
筋ト「
親方様とそのご友人、彼らと筋トレマン双方の師がその場にいたんです。
彼は言っていました。「何処からか聞こえて来た声に身構えた直後、破裂音と共に吹き飛ばされた」と。
これは本家本元、親方様による例の衝撃波です。その衝撃波は二人のみならず、近くにいた輩達とケルベロスまでを飛ばしていたそうです。そこへ親方様のご友人、彼の師匠さんが二人を空中で両脇に抱える形で捕まえてくれたのだとか。
その後二人は棟梁様達の下へ運ばれて、
棟梁「これはどういう状況ですか?」
その時にようやく全てを話したそうです。扉の事、怨霊の事、
棟梁「状況は把握しました。二人共よく耐えてくれましたね」
事情を知った棟梁様は二人に
彼 「なんでさ! みんな自分の事嫌ってたんじゃないの? 話だって聞いてくれなかったのに!」
怒りをぶつける様にして尋ねていたそうです。「自分の事が許せないんじゃないのか?」とね。その答えは、
鬼助「あ? 勘違いすんなよ」
鬼A「寝言は寝てから言え」
店長「今でもお前の事は嫌いだし許せねーよ」
紅鬼「それはワシとて同じだ」
店員「顔だって見たくないんだ」
蒼鬼「実を言うとオッサンもな。萃香の件もある」
棟梁「残念ながら私も気乗りしませんでした」
医者「カッカッカッ、自業自得じゃな」
満場一致でイエスだったそうです。
鬼助「けどな」
それでも来てくれたのは、
『一つ、鬼は仲間を見捨てない、裏切らない!』
鬼助「だろ?」
ボス「暑苦し……」
棟梁「異世界の者よ、ここは痛み分けという事で引いてはくれませんか? 協定を破ってしまったことは意図的ではないのです。どうか、どうかこの通り」
ボス「はっ、何を今さら。余をここまでにし、子分達もかなりやられた。このまま引き下がれると思うか?」
棟梁「どうしても、ですか?」
親方「よせミユキ、話が通じる相手じゃねぇ。それに——」
師匠「こっちだって頭にきてんだ」
ボス「ふふふ、いいのか? あの屋敷と町を全てくれるって言うなら、傷付けずに帰してやるが? と、言ってしまう器の大きな余はどうだ?」
『Beautiful Over Special Sugeーです!』
鬼助「ふざけたヤツらだな」
医者「カッカッカッ、随分な物言いじゃのぉ」
棟梁「交渉は決裂、ということですか」
ボス「そうなるな」
交渉の余地なし、待った無し。その場の温度はたちどころに跳ね上がり、
棟梁「皆の者!」
ボス「お前ら!」
誰にも止められない第三ラウンドが
『迎え撃てーッ!!』
始まりました。
もし知らない方のために。
「洩矢諏訪子のスペルカード」
土着神:手長足長さま
そしてこっちの話もとうとう始まっちゃいました。
【次回:表_五語り目】