東方迷子伝   作:GA王

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表_七語り目

 博麗の巫女が交代してから立て続けに起きていた『異変』と呼ばれる怪奇現象。その異変を少女と呼べる年頃の彼女が、たった一人で全て解決して来たのか? 

 

霊夢「また頼んでもいないのに首を突っ込んで来て」

 

 答えはノーである。それもこれも力を貸してくれる者がいたからこそ。その中で断トツの出席率を(ほこ)るのが、

 

魔理「そう言うなよ。魔理沙ちゃんも仲間に入れろって」

 

 自称「普通の魔法使い」。騒がしい事が好き、(うたげ)と異変が大好き、キノコはもっと大好きな白黒魔法使い、霧雨魔理沙である。

 

霊夢「はー、まったく……」

 

 ただ紅白巫女の前に現れた彼女はいつもと違っていた。

 

霊夢「それよりあんた、その頭どうしたのよ?」

 

 

◇     ◇     ◇     ◇     ◇

 

 

 時は少し(さかのぼ)る。

 白黒魔法使い(彼女)は友人の家でホットミルクをご馳走(ちそう)になっていた。さらに心遣(こころづか)いで差し出される手作りクッキーに、サクサクと心地の良い音を立てながら舌鼓(したつづみ)を打ち、持参した本を開きながら何気ない会話に花を咲かせていた。これが彼女の何一つ変わらぬパターン化された日課、日常である。

 だがこの日は、この時から少しばかり非日常的だった。

 彼女がページをめくりながら、反対の手で残り少なくなったクッキーに手を伸ばしたまさにその時、ノック音もなく扉が開かれたのだ。

 彼女と友人は驚愕(きょうがく)した。なぜならそこにいたのは二人の知人、普段外を出歩く事がない者だったからだ。ましてや雪の降る寒い日なんてもってのほかのはず。

 その者が言うには、

 

??「(彼女の)家に行っても留守だったから、ここだと思って」

 

 との事。そう、彼女に用があって来たのだ。そしてその用件とは、

 

??「その本を今すぐ返しなさい」

 

 これ。借りパク品の取り立てである。いや、「借りパク」と呼ぶには丁寧すぎた。借りパクとは、相手に借りる意思を伝え、相手もそれに承諾している事が大前提。そして代物を返却せずに「お前の物はオレの物、オレの物はオレの物」としてしまう迷惑極まりない契約違反行為を指す。

 だが彼女の場合、承諾を得るどころか意思さえ伝えていない。つまり、彼女が読んでいた本は借り物ですらない。勝手に持ち去った物なのだ。こっそりと失敬した物なのだ。盗品なのだ。その被害にあっている者こそ、この彼女達の知人なのである。

 知人は話した。部下を彼女の家に向かうように指令を送った事を。今頃盗品は回収されているだろうと。残すは彼女が持っているそれだけであると。

 

彼女「ふざけるなーッ!」

 

 彼女、大激怒。やれ「不法侵入だ」やら、やれ「プライバシーの侵害だ」やら、挙げ句の果てには「泥棒だ」と(うった)え出した。だがこれは御門違(おかどちが)い、当然の(むく)い、俗に言う「逆ギレ」である。

 さらに彼女の横暴は続く。マジックアイテムを手に持ち、知人に向けたのだ。

 

彼女「今すぐやめさせろ! じゃないとマスパるze★」

 

 彼女、本気の眼差し。だが知人、この行為に顔色一つ変えずに構える。

 

??「賢者の石」

 

 赤、青、緑、黄、紫の五つのクリスタルを出現させ、呪文を唱え始めたのだ。(にら)み合う両者。緊迫(きんぱく)した状況、物音一つが開戦の合図となり得る状況、お互い拳銃を突きつけて引き金に指をかけた状況。

 だが忘れてはいけない。両者がいる場所は、

 

??「いい加減にして!」

 

 友人宅の玄関。開かれたドアの境界線を(はさ)んで内と外である。つまり始まってしまえばドッカーン、バッコーンとなり、彼女の友人宅が消し飛んでしまう。木っ端微塵(こっぱみじん)に、跡形(あとかた)もなく。

 家主の訴えに彼女と知人、我に返り突きつけた銃口を収める。だが攻撃の姿勢は(くず)さない。始まる「だって」「でも」「けど」のラッシュ。両者とも引く気なし、意見はぶつかり合う。だが最終的に出る言葉は一緒。

 

  『そっちが悪い!!』

 

 ここでもう一度考えて欲しい。誰が悪いのかを、喧嘩両成敗であるのかを。

 

友人「魔理沙が悪いでしょ! 私の本も返しなさいよ!」

??「シャンハーイ、シャンハーイ」

??「ホラーイ、ホラーイ」

 

 そう、争いが起きる時点でおかしいのだ。さらに家主の意見に同意する意思を持つ二体の人形は、片手をあげて「そーだ、そーだ」と彼女を追い詰める。

 彼女大ピンチ。このままではせっかくの盗品(戦利品)が全て回収されてしまう。「せめてコレとソレだけでも」と悪知恵を働かせていると、

 

??「おーい、いるかーい?」

 

 そこに来客が。またしても彼女の客だろうか? 答えは否、正真正銘この家の主の客。その用件は共同開発中の代物についての打ち合わせ。進捗状況と問題点の洗い出し。だが他にもう一つ、それがこの家に辿り着く途中に目にした出来事について。

 

来客「たくさんの怨霊が飛んでいてさ、アレ地底に封じられていたやつだと思うんだ。それと(もみじ)が『博麗神社の方で水柱が上がってるのが見える』って。あと『硫黄(いおう)の臭いも(かす)かにする』ってさ。もしかしたら間欠泉が吹き出たのかもね。下で何かあったのかな?」

 

 異常事態、緊急事態、異変発生。ともなれば彼女は黙ってなどいられない。まだ終止符を打たれていないその場から(かばん)を手に地底へと旅立った。

 

来客「盟友どこ行くの?!」

知人「ちょっと本を返してから行きなさいよ!」

友人「はー……、こうなるだろうと思ったわよ」

 

 やがて彼女は地底への入り口に到着した。一度止まって大きく深呼吸をして「いざ行かん」と己を震え立たせるかと思いきや、速度を上げてそのままダイビング。綺麗な90度、見事なコーナリングである。

 彼女は(あせ)っていた。来客の話にあった怨霊が道中一匹もいなかったからだ。来客の見間違いだったのか? だが来客はこうも言っていた「たくさんの」と。一匹二匹であれば見間違いや勘違いの可能性も考えただろう。しかし群れをなしているものを見間違える者などそうはいない。ならばなぜいなかったのか、その答えは一つ。

 

彼女「先を越されたze★」

 

 彼女より前に地底へと向かった者が全て消滅させた以外にない。数々の異変を共に解決して来た博麗の巫女に。

 

彼女「解決してんじゃねぇzoooーー……☆」

 

 故にさらに加速。前方を(さえぎ)るものが無いため、なお加速。進行方向は星の中心、重力をも味方につけ、彼女の速度は歴代最高速を叩き出していた。はっきり言って危険である。飛び出して来るものがあれば間違いなく事故を起こす。

 

彼女「お?」

 

 そして、

 

??「☆……ぃぃぃいいい!?」

 

 その時は訪れた。

 速度と距離から時間を導き出す計算において、反対方向からやって来る物体Aと物体Bの速度は加算される。ここで物体Aを彼女、物体Bを飛来物としよう。そして彼女が物体Bを目視した時の距離を100mとする。この時、物体Aと物体Bが出会うまでに要する時間の式は、

 

100m÷(歴代最高速+とんでもねぇ速度)

 

 となり解は、

 

= 間に合わない

 

 で、

 

 

ゴッティイイイィィィーーーンッ!

 

 

 ゴッツンコ。両者吹き飛ぶ。

 飛来物は意識を失い、大穴の壁にできた(わず)かな(くぼ)みにドサリ。

 一方彼女、頭上で星を回しながら真っ逆さま。ピクリとも動かず力を失ったまま深い闇へと落ちる、落ちる、まだ落ちる。行き着く先は役目を終えた地獄か、はたまた稼働中の地獄か。

 加速度9.8m/s2に身を(ゆだ)ねたまま地下666階を目指す彼女。半ばを通り過ぎ、クライマックスを迎えるお手製糸ドームの横を通過し、やがて見えてくる終着駅。このままでは彼女の人生も終点を迎えてしまう。その時はもう目前だった。

 

  『魔理沙(盟友)ッ!!!』

 

 彼女、この二種類の叫び声に目を覚ました。勘、直感、第六感でマジックアイテムを手にすぐさま放つ。

 

彼女「『恋符:マスタースパーク』!」

 

 攻撃的なブレーキではあるが、そのおかげで命拾い。そしてゆっくりと地に足を付け、ジンジンと痛む頭をナデナデ。そこにはぷっくりと(ふく)らんだ大きな大きなタンコブが。ブレーキの衝撃で飛ばされた愛用の黒帽子を拾い上げてはみるが、もう入らない。だがそこは意地なのだろう。彼女、コブの上に三角帽子をセットオン。帽子、コブ、頭と並び、そのシルエットはさながら串に刺さったおでんである。

 

??「{魔理沙無事?!}」

 

 激しい頭痛に見舞われる中、どこからか彼女を呼ぶ声が。キョロキョロと辺りを見回しては見るものの誰もいない。存在するのは岩や石、そして

 

彼女「なんだこれ?」

 

 ふよふよと浮遊する小さな人形だけ。そう、小さな人形。

 

??「{……魔理沙? 聞こえるかしら……}」

 

 彼女は(しゃべ)れる人形を知っている。しかしそれは「シャ」と「ン」と「ハ」と「イ」、「ホ」と「ウ」と「ラ」と同じく「イ」しか言語を発せない未完成品。それが友人の自信作のスペックでもある。よって、

 

彼女「聞こえない聞こえない。私はまだ正常だ」

 

 己の耳を、どちらかと言うと頭を疑う。まだ壊れていないと自身に言い聞かせる。だが薄々も気が付いていた。

 

??「{……あっそう。人形を返してもらうわよ?}」

 

 これは友人(人形使い)の声であると。

 そう、この人形は彼女が飛び出して行く直前に、友人が彼女の(かばん)にこっそりと忍ばせていたもの。彼女が今回のようになる事態を予期し、必要になるだろうと入れてくれていたのだ。なんという良妻。おまけにこちら、小型カメラ搭載(とうさい)の通信機能付きであり、攻撃のサポートもしてくれるという優れ物。そのお値段はプライスレス。なお技術提供はこの方、

 

??「{河童(かっぱ)の技術力は世界一ィィィィーー!}」

 

 通信が成功し歓喜する来客(技術者)によるもの。そして知人(ひきこもり)の方は、

 

知人「{仕方ないからフォローはしてあげる}」

 

 今のところ特に何もない。

 人形と会話を進める彼女、一先ず今置かれた状況を報告しようとするが、

 

彼女「ze☆?」

 

 返事なし。少し(にぎ)やかくらいだったのがピタリと静かに。人形もどこか元気を失った様にも見える。なお、この状態を俗に『圏外』という。

 彼女、後頭部をかきつつ困惑しながらも人形をポケットにしまい、先に進んでいると思われる巫女を追う。事故を起こしていながらも再び速度を上げる。(あわ)てる、焦る、急ぐ。

 だがこの時既に追い越していた事を彼女はまだ知らない。故に、先程とは打って変わってドッサリ現れる怨霊の群れ。しかしそんな物は彼女にとってはあって無いようなもの。夕暮れ時に飛び交う頭虫のようなもの。魔力で生み出した光弾を展開させ、なぎ払いながらひたすら直進する。と、

 

人形「とうおるるるるるるるる」

彼女「うをぅ!?」

 

 突然奇声を上げてテンションを上げて荒ぶり出す人形。どうやら電波を再び受信したようである。

 

??「{……おーい、聞こえているかねぇ}」

彼女「……聞こえていないかもしれない」

??「……聞こえているな」

 

 戦闘を続けながらも器用に会話を始める彼女。人形からは「よしよし」やら「チャンネルは21か」やら「周波数は521っと」やら聞こえてくる筒抜けの独り言。どうやら相手は技術姫のようだ。そしてこの独り言に小難しい事には(うと)い彼女も悟った。

 

彼女「(まだ調整が必要だったのか)」

 

 と。事前準備もなく飛び出して来たのだから仕方がない、納得である。だが、

 

??「{おっ、映像も良好良好。えっとここは……あとちょっとで旧都だね}」

彼女「旧都?」

河童「{我々の仲間——でいる地底都市——}」

彼女「なんだって?」

 

 それでもなお走るノイズとプツプツ音を立てて途切れ途切れの通信に、

 

彼女「(世界一が聞いて呆れるze★)」

 

 その技術力を疑い始めるのだった。

 そして彼女は目撃する。

 

彼女「!」

 

 突如襲い来る光の壁を、

 

彼女「ふー……、一時はどうなるかと——」

??「『嫉妬:緑色の目をした見えない怪物』」

 

 緑色に光る蛇を。

 

彼女「?」

 

 やがて出会う。

 

??「もしかして人間? 人間が旧都に何の用?」

 

 緑色の瞳の村人A、第一の刺客(守護者)に。

 

??「パルパルパルパルパルパル……」




今回は表回のサイドストーリー的な感じでしょうか?
ストーリーとしては全く進んでいませんね…。すみません。

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