これは一輪さんと村紗さんから聞いた話です。
ご無沙汰してます。お元気でしたか? ええ、そこにいるのは彼ですよ。積もる話はあると思いますが、今はあの時の話をさせてください。
旧都民の危機に現れた一輪さんと村紗さん。あ、もちろん雲山さんも。お三方ともその日はご自宅に……って、今更隠す必要もありませんね。当時の一輪さん達の自宅は一緒に地底世界へ封印されていた『
ひっそりと暮らしていた一輪さん達。その日もいつもと変わらない平和な一日を過ごそうとしていた事でしょう。でもそこへ
ええ、そういう事です。私がさっきお話しした間欠泉の目撃者というのは一輪さん達の事です。覚えて頂いて光栄ですカリスマさん。さて、ここで息抜きにクエッションです。
Q.聖輦船は当時地上でいうどの辺りにあったでしょう?
薄々気付いている方がいるみたいですね。間欠泉は聖輦船の近くで噴き出たのですからつまり……はい、そういう事です。私達の足下、博麗神社のちょうど真下くらいに位置していたわけです。
余談はさておき、「大変な事が起きている」と察した一輪さん達は旧都へと駆け出します。そして到着するなり至る所で上がっていた火を消していって頂いて。
そうですそうです、まさに彼が旧都で小さなドラマを繰り広げていた時です。でも残念ながら出会う事も影を見かける事もなかったみたいです。もしあの時会う事ができたとしても……いえ、大きく変わっていたはずでしょうね。
さて、「旧都はもう大丈夫だろう」と人知れず帰宅された一輪さん達ですが、平和な日常を取り戻すことはできませんでした。それは地震で荒れ果てた部屋の片付けをしていた最中だったとか。
「大変だー大変だー。なんかすごく大変だー。とにかく大変だー」と外から声が聞こえて来たそうです。
その声に導かれて表に出てみると、今度は旧都の反対側でピカピカチカチカと光る稲妻と光弾の豪雨を見たと。「誰かが戦っている」そう悟るのに時間は必要なかったそうです。そして様子を見に行ってみれば、あまりにも悲惨な景色が広がっていたと。
Elis「ユーちゃん!?」
それで到着早々にぶっ放していたそうですよ。
ボスですか? 無事なわけないじゃないですか。そこで吹き飛んでKOですよ。雲山さんだけならともかく、村紗さんの一撃も加わったんですから。特に村紗さんは相当ご立腹だったと思いますよ。
何でって……。
??「カズ君!」
筋ト「ミナ!?」
あの、これ言ってしまっていいですか?
村紗「帰ってたなら会いに来てよ。ずっと、ずーっと、ずーーー……っと待ってたんだからね」
筋ト「ごめん、すぐに行けなくて。ミナ、オレもすごく会いたかった」
ご本人がそう言われるのでしたら……。
村紗「うん……」
筋ト「寂しい想いさせて悪かった」
村紗「うん」
えっと、村紗さんと筋トレマンは、
筋ト「ただいま」
村紗「おかえり」
当時恋人同士だったんです。それもかなりラブラブな関係の。だから筋トレマンの傷付いた姿を見て激怒したんです。おまけに半年間地獄へ修行に行って会えずにいたのですから……。あの、本当に話してしまっていいんですか?
で、ではお言葉に甘えて……。コホン、再会した時は人目もはばからず、熱い
皆さんのお気持ちはすごーっく分かります。だからあの時、その場にいた全員が皆さんと同じ事を思ったみたいですよ。
『(
ってね。
鬼助「ケッ、見せつけやがって」
彼 「なんだ、誰かと思ったらナミか」
村紗「蹴り飛ばすわよ? ほら帽子、貸すからちゃんと被っておきなよ」
彼 「あ、うん。ありがとう」
雲山「それよりこれはどういう状況じゃ?」
棟梁「あなた方は……」
一輪「こうして面と向かってお話するのは初めてですね。私は雲居一輪、彼女は村紗水蜜、そしてこの入道は雲山です。『封じられた者』とでも言えば貴方なら分かるでしょうか?」
棟梁「そうですか、村紗さんは以前お会いしましたよ。和鬼の彼女さんだそうで」
一輪「ええ、見ての通りです。ご迷惑をお掛けしてます」
雲山「おい一輪、程々にした方がええぞ」
全員、敵味方関係なくです。もちろんそれは旧都民を追い込んでいたElisとて例外ではありません。自身の存在感を無きものとして進められる話に「面白くない」とでも思ったのでしょう。
Elis「ユーちゃんを吹っ飛ばしておいて、おまけに私を無視して世間話とかイチャイチャとか。全滅寸前のゴミムシの分際で随分と余裕じゃない★」
村紗「は〜あ? ねえカズ君、みんなに酷い目を合わせたのはさっきいたヤツとアイツ?」
筋ト「ああ、それとその辺で伸びてる下っ端達もだ。アイツ達この世界をのっとろうとしてるんだ」
Elis「そーゆーこと。で、どーする? あんたもそっち側?」
彼女は村紗さんと一輪さんにも喧嘩を吹っかけていたんです。
Elis「味方するのなら
と。恋人と同じ世界に住む方達を傷付けた上にこの挑発的な口調と態度。誰だって頭にきます。
村紗「……なにコイツ、超ムカつく」
Elisと村紗さんの視線はバチバチと火花を散らせてぶつかり合っていたことでしょう。第六ラウンドのスタートのカウントダウンが始まっていました。
一輪「村紗待った!」
でもその時一輪さんが止めに入ったんです。戦いを止めるため? いいえ、違います。違和感を覚えたからです。
一輪「あそこに誰かいる」
確か「(魔界への)洞窟から強い視線を感じた」と言っていましたよね? そして「そこには重なり合った二つの人影があった」とも。さらに「放つ雰囲気只者ではなかった。自然と身構えていた」と。ですよね?
Elis「あっちゃー、来ちゃったよ★」
Elisも一輪さんの声に視線をそちらへ移します。そして瞳に影を映すと同時にその者達の下へと飛んで行き、丁寧にお辞儀をしながらこう言ったそうです。
Elis「こんにちはユキさんにマイさん。いらしたんですね★」
はい、そうです。同名の他人ではありません。間違いなくそのお二人です。黄色の髪に黒い帽子を被ったユキさんに、白いドレスに白い羽が生えたマイさんです。その時マイさんがユキさんの腕にしがみついて隠れる様にしていたそうです。
どうして? なんでも偉い方のお使いだったみたいですよ。
ユキ「あの人に言われてねー、様子を見に来ただけだし。で? スラム街のヘッドはやられちゃった感じ? ちょっとマイ、いつまでくっ付いてるし。トンネル抜けたんだからいい加減離れて欲しいし」
マイ「……」
Elis「はい、あそこの二人に★」
輩達とは違い魔界の
はい、想像通りユキさんとマイさんは都で暮らす方々だったんです。しかもかなり身分の高い。ユキさんとマイさんの正体が、まさかそんな御令嬢だなんて地底世界に住む方々は知るはずがありません。彼も筋トレマンも棟梁様も、当初お二人を見た時はこう思ったそうです。
??「……あなたもそいつらの仲間?」
とね。それを代弁してくれたのが村紗さんだと聞いています。その問いにユキさんはキッパリ「ノー」と答えたそうです。
ユキ「あっははは、違う違う。知り合いなだけ」
村紗「……知り合い?」
ユキ「うーん、知り合いって言うのも変かな? 遠い親戚のような姉妹のような他人って感じ? うちら魔族はみんなそんな感じ」
加えて「ただ同じ魔族なだけ」とも。でもその答えだけで充分過ぎたみたいなんです。
村紗「……魔族?」
ユキ「そう私達同じ魔族だし」
村紗さんの怒りの矛先となるには。
村紗「……許さない、カズ君を傷つけた奴は誰も。例え直接手を出していなくても同族なら同罪……」
一輪「村紗落ち着きなさい!」
村紗「そのムカつく女も、ヘラヘラしてるあんたも絶対に許さない!」
ユキ「ちょっと待つし! 別に私達はあんた達とやり合うつもりないし、見に来ただけだし。もう帰るし!」
村紗「うるさい! 魔族は全員沈めてやる!! 『道連れアンカー』!」
ユキ「はあーっ?! ムチャクチャだし!」
『恋の魔力』とでも言うべきなのでしょうか。戦意はないと説得するユキさんの声も、落ち着くように諭す一輪さんの声をも振り払い、村紗さんは内からメラメラと燃え上がる業火を全身にまとってユキさんに向かって行ったんです。あの巨大な錨の光弾を放ちながら。ですよね?
あの……、しょんぼりされのでしたらもうやめておきましょうか? まあ確かにここまで話してお終いにしてしまうのも中途半端な感じがしますけど……。
すみません、気を遣って頂いて。村紗さんの事が気になると思いますが、どうか察してあげて下さいね。
では改めて話の続きを。
村紗「『ディープヴォーテックス』」
ユキ「ちょい待ってって言ってるし! 話を聞けし!』」
村紗さんの炎は誰にも消せません。戦いの幕開け直後は村紗さんの怒涛の弾幕のラッシュをユキさんがかわし続ける一方的な展開だったそうです。
村紗「『シンカブルヴォーテックス』」
ユキ「だーかーらっだし!」
一方残された一輪さんと雲山さん、それにマイさんです。一輪さんは村紗さんとユキさんが繰り広げる光景に立ち尽くしていたマイさんへ、詫びるつもりで優しく声かけたそうです。
一輪「えっと、なんかウチのが熱くなり過ぎてごめんね。今止めに——」
でも……。
マイ「……よ」
一輪「ん?」
マイ「……っせえって言ってんのよ」
一輪「!?」
雲山「なんじゃ雰囲気がガラッと変わったのぉ」
マイ「……話すなハゲジジイ。ジジイ
雲山「ぬをッ」グサッ
一輪「ちょっと、確かに雲山は頭皮の薄いお爺さんで」
雲山「ぬををッ!?」グサグサッ
一輪「最近
雲山「ぬををををッ!!」グサグサグサグサッ
一輪「そんな言い方しなくても——」
態度が一変し攻撃的な口調になったと。それでも一輪さんは怒りをグッと堪えて丁寧に諭したそうです。「そんな言葉を使ってはいけないよ」とでも言われたのでしょう。けどこれが仇となってしまったんです。
マイ「は? 私に説教するのやめてくれない?」
逆ギレとも言える態度で突っぱね、おまけに禁断の言葉を放ったんです。
一輪「ヨーシお望み通り血祭りに上げてヤラァァァ!」
仏の顔も三度まで。一輪さんの堪忍袋の緒はとうとうブチリと音を立て、
一輪「『
雲山「心苦しいがこれで反省せい!」
雲山さんと共にマイさんへ愛ある鉄拳で
その時の決定打ですか? そんなの言えるわけないじゃないですか。ご本人がいらっしゃるんですよ? 知りたいのならご自身で直接聞いて下さいよ。
と、そんなこんなでお二人のバトルが勃発してしまったわけです。そしてここで忘れてはいけないのが彼女の存在です。
??「ユキさんとマイさん頑張って〜★」
Elisです。
『何でいんだよ!』
私も話を聞いた時耳を疑いましたよ。てっきりユキさんと一緒に戦っているものだと思い込んでしまいましたから。彼女は事もあろうに御令嬢であるお二人に成り行きを任せ、悠々と旧都民の前に再び現れたんです。
Elis「もー、さっきも言ったでしょ? 私は戦うつもりは無いって。争い事が嫌いな平和主義者なの。あの二人強そうで焦ったけど、ユキさんとマイさんが相手をしてくれてる。だーかーらー、続きをしましょ★」
声を上げて笑いながら行われる無情な行為。旧都民はなす術がないまま、活路を見いだせないまま、彼女が心変わりをして手を止めてくれるその時を耐えて待つしかありませんでした。でもそんな奇跡が起きるはずがありません。降り注ぐ光の矢は止まるどころか数を増していきます。
筋ト「ぐぅ……、そろそろホントにヤバイぞ」
旧都民、正真正銘の大ピンチです。
彼 「なあ」
筋ト「何だよ?」
ただそんな中、彼だけは彼女のある事に疑問を抱いていたそうなんです。そしてまさかその疑問こそが活路に繋がるだなんて、当時の彼自身も全く思わなかったでしょうね。
彼 「あいつ、何で元に戻ったんだ?」