これはヤツから聞いた話だ。
【パルスィ談⑤】
巫女じゃなくて魔法使い!?
ヤツ「迷い込んできたの? だったら上を目指して帰った方がいいわ。輝かしい光の注ぐ地上へね」
じゃああの時二人も来ていたって事? それを勇儀が……さすがだね。
人形「{こいつは嫉妬心を操る妖怪。ちゃっちゃと倒しちゃって}」
彼女「………………ない」
ヤツ「パルパルパルパルパルパル……」ぶつぶつ
彼女「は?」
ヤツ「忠告したのに……。話を聞かないとか……」
彼女「ちょ、ちょっと?」
ヤツ「なんかもう色々と妬ましい! 『花咲爺:シロの灰』」
そうそう、それで妬ましさの臨界点を突破して先手を切った訳なんだけど——そのおかげでもあったのかな? いつも以上に花の弾を咲かせたし、追撃弾のキレも良かったんだ。だから彼女をそこそこ苦しめていたと思うよ。現に反撃も出来ずに弾を
ヤツ「(どうして当たらないの?!)」
『シロの灰』では彼女を苦しめるだけで着弾はなかった。一発もね。勇儀だって
ヤツ「(偶然? それとも運が良かっただけ?)」
そう考えてた。ううん、信じたかったんだと思う。けどその後何度か攻撃続けている内に分かったんだ。
ヤツ「(違う、これが彼女の——)」
実力なんだって。どれだけ密度の濃い弾幕を放ったとしても、囲んで逃走経路を断ったと思っても、隙間を縫う様にして回避していく。彼女の目には進むべき道筋が見えていたんだよ、きっと。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その時、地底世界の
??「上、上、下、下、左、右、左、右——」
チラチラと降り積もるこの季節ならではの白い雪。
??「ビー、エー……ビーエーってなんだよ!?」
そこに至る所で花咲く時期外れの桜の花。雪見と花見が同時に楽しめる実にお得な光景。その特等席にいる彼女は、さぞこの景色に
彼女「うわっち」
前言撤回、余裕などあんまり無かった。
人形「{言わずにはいられなくて
彼女「
人形「{次、左右を交互に5回ね}」
彼女「左右左右左右左右左右っと」
人形「{それで裏ステージに行けるから}」
彼女「モヤシィィ、いい加減に——」
人形「{あら、本を返さないでおいて、その上せっかくの助言にケチ付けるの? 魔理沙のくせにこなまいきね」
彼女「アリス、フォロー役代われ!」
人形「{ムチャ言わないで。人形との通信を保つのでいっぱいいっぱいよ}」
彼女「じゃあせめてもっと早めに的確な指示出して欲しいze★ さっきから回避がギリギリだze★」
人形「{ふむふむ、こちら側の映像と実際の環境とのDelayに課題有り……っと。これはいいデータだ}」
人形の助言に
彼女「あっぶな!」
そこそこ対応できる。
果たしてこれで何度目か、幾度も同様の騒ぎに参戦して来た彼女。そのレベル、経験値が勘となって道を示していた。そして訪れる
彼女「これくらいなら、、、楽勝だ、、、ze☆」
スキルブレイクの時。
ヤツ「妬ましい……」
全弾回避に成功である。苛立ちの表情を浮かべる相手に彼女「どんなものだ」と視線で語り、大きくドヤッ。
人形「{とか言いながら息上がってない?}」
彼女「うるさい、それよりこいつに弱点とかないのか?」
人形「{そんなにすぐには判らないわよ}」
彼女「しょうがないな。じゃ、倒している間に倒し方を調べてくれ」
構える彼女、「次はこっちの番だze☆」とマジックアイテムを片手に意気込むが、直後その気合いを異なる方向へと向けることになる。
輝きを増す緑の瞳、うねりながら逆立つ金色の髪の毛、全身から吹き出る陰湿でイヤな感じ。
彼女「
相手のターンはまだ終わりを告げていなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【パルスィ談⑥】
彼女の実力だって理解した私は出し惜しみをやめた。
ヤツ「パルパルパルパル……」
いきなりクライマックス、分身を作ってあのスペルで決着をつけようとしたんだ。勇儀も知っている通り、妬みの力で生み出した分身は私と瓜二つどころか全く一緒。簡単に見分けがつくものじゃない。でも彼女はこう言ってきたの。
彼女「分身か、そんなの服を見れば——」
ってね。けどそれは勇儀に101回目に負けた時に「分身の方が服が綺麗だ」って言われた事だから。今では汚れや色あせ、傷、シワ、
彼女「って……ん? ん? んー……?」
ヤツ「見破れるものなら、見破ってみなさいよ! 『舌切——』」
で、大口叩いたクセに結局その時点では見分ける事が出来なかったみたいでさ、それで「マズイ」とか危機感を覚えたんだろうね。続けてスペルカードを宣言する私に、
彼女「こうなりゃ当てずっぽだze★」
初めて攻撃をしてきたの。今思えばその時まで攻撃されなかったのが救いだったのかもね。そうじゃなかったら『シロの灰』の時点でやられていたかもしれないし。
彼女「マジックミサイル!」
でもそれが放たれたのは分身の方、私には一切のダメージなし。その手応えの無さで気が付いたんだろうね、ハズレだって。
彼女「こっちじゃない?!」
目を丸くしてそんな事を
相手が攻撃している時が最大のチャンス。スキだらけの彼女に勝機を感じた私は、ここぞとばかりにあのスペルを放とうとしたんだけど……。
ヤツ「今のは分身。今度こそ『舌切雀——』」
彼女「チィッ!」
えっとそれが彼女、煙幕を出してさ。それで煙が晴れた時にはもう橋の上にはいなかったの。うん、見失っちゃったんだ。
ヤツ「えぇー……」
でもすぐに何処に行ったのかわかったよ。嫉妬の臭いがしたし、声が聞こえてきたし。しかもその声がなかなか大きくてさぁ。
ヤツ「(あれで隠れてるつもりなの?)」
バレバレなんだよ。でね、
ヤツ「(また独り言? よくこんな状況で——)」
しばらく彼女の独り言を聞いていたんだ。でもあれは……
ヤツ「(!? 違う、これ……)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
戦略的撤退と言えば聞こえはいいだろうが、
彼女「はぁ、はぁ……。何なんだよアイツ」
実のところは勝てる見込みのない戦いから身を引いただけ。
人形「{厄介な相手ね}」
人形から聞こえてきた「厄介」という言葉、これには二つの意味が込められていた。一つは文字通りの「面倒な」という意味。もう一つが「弾幕は火力ze☆」と語る力押しな彼女にとって「相性が悪すぎる」という意味。
その事は彼女自身が感じていた。だからこその戦略的撤退。
彼女「本当に何も違いはないのか?」
そして始まる作戦会議。なお、この状態を俗に「ちょっとタンマ」とも言う。
人形「{今照合結果が出たよ。あちゃちゃー……一致率99%だってさ。超上級の間違い探しだね}」
彼女「考えろ、考えるんだ魔理沙ちゃん……」
人形「{見た目以外に違いはないの? 実体がないとか」
彼女「残念ながらそれもハズレみたいだze★ さっき弾が当たった音がしたからな」
だがいい回答は得られず。「あーじゃない? こーじゃない?」と三つの声で孤独に議論を進めていく小さな人形。その
彼女「そういえばアイツさっき——」
暗い道に微かな光が差し込んだ。「善は急げ」とふよふよ宙に浮かびながら、依然議論を続ける人形を
彼女「おい! 急いで——」
ヤツ「みーつーけた」
が、これが痛恨の大失敗。
彼女「!?」
彼女の目に映るのはまだ会いたくない相手、確実なゴールが見出せずにいる相手。その懸念すべき相手は今、
ヤツ「私のお気に入りスペースに勝手に潜り込むなんて……。妬ましいわ!」
ルパルパ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【パルスィ談⑦】
独り言なんかじゃなかった。明らかに彼女とは違う声が三つ聞こえたし、相談しているみたいだった。他には誰もいないはずなのにさ。小人でも連れてたのかな?
え、通信? 地上と会話してた……ってなにそれ。妬ましい、欲しい。
……そうだよ、別に地上と連絡取り合う相手なんていないよ……。妬ましいわ!
彼女「おい! 急いで……」
って感じで彼女を妬んだ。
あ、ごめん間飛ばしてた。それでそのまましばらく彼女を泳がせていたんだけど、急に大声を出してさ。まるで「答えを見つけた」みたいなトーンでね。だから邪魔しに行ったんだ。
ヤツ「みーつーけた」
って。
彼女が隠れていた場所? あれ、話していなかったっけ? 橋のど真ん中の下、私の
って具合に彼女を妬んでいた訳。それで
彼女「や、ヤバーーッ!」
距離はそう離れていなかった。爆音も爆煙もあがったし、確かな手応えがあった。絶対命中していたはずなの。それなのに爆煙から出てきた彼女は、擦り傷どころか服も痛んでいなかった。さも何事もなかったようにそこにいたの!
人形「『オプティカルカモフラージュ』時間切レデス」
彼女「サンキュー、助かったze☆}」
人形「{盟友、これ一度きりだから。次はないよ}」
彼女「ああ、覚悟しておくze☆」
もう訳が分からなかった。決まったと思ったのにまさかの無傷だなんて。今でも思い出しただけで……
ヤツ「パルパルパルパルパルパル……」
ねーたーまーしーいッ!
ーー嫉妬鎮静中ーー
ふーッ、ふー、ふー……。うん、落ち着いた。
それで今みたいに妬ましさ爆発でさ、その力をあの技に全てぶつけてやったんだ。
ヤツ「『
私の自慢にして最高のスペルに。でも彼女、それに驚くどころか指をパチンと鳴らしてニヤリと笑いながらこう言ったの。
彼女「思った通りだze☆」
って。
人形「{盟友、さっき頼まれた件三人で意見が一致した}」
彼女「どっちが当たりだ?!」
人形「{小さい方!}」
彼女「なら、こっちが本物だze☆」
耳を疑ったよ。まさか見破られただんなんて……
彼女「『恋符:マスタースパーク』!」
彼女が放ったレーザーは一直線に小さな弾幕を放つ私に向かっていった。なんでか分からないけど、そっちが本体だと確信していたんだろうね。
ヤツ「残念、今のも分身」
けどそっちは分身の私。本体の私じゃない。その事だって勇儀から「本体が固定されてる」って指摘されたからね。995回目に負けた時に。
そりゃそうだよ。忘れるわけないじゃない。勇儀からの愛のメッセージなんだから。
彼女「そんな……」
ヤツ「しかもこうして……」
彼女「!?」
奴1「シャッフルすれば」
奴2「どっちが本体か」
奴 『もうわからないでしょ?』
彼女「ぐぬぬぬ、おまけに両方とも喋るのかよ」
もー、勇儀は素直じゃないなぁ。でもそこがか・わ・い・い♡
奴1「私のスペルはまだ終わってない」
奴2「続きいくから!」
ごめんごめんごめんごめん、ごめんってば。お願いだから壁ドンはやめて!
人形「{潔く負けを認めて戻って来たら? それで私に本を返してくれればいいんじゃない?}」
彼女「その答えは……、どっちもお断りだze☆ イリュージョンレーザー!」
えっとそれで本体の私と分身とで撒き散らす大きな弾幕と小さな弾幕は、徐々に彼女の逃走経路を奪っていったんだ。その頃には彼女も弾幕を放って相殺したり、スキがあれば攻撃もしてきた。でもその攻撃がね、
人形「{だったら悩まないで両方に攻撃しちゃえば?}」
彼女「それはさっきからやってるze☆ でもこれじゃあ……」
中途半端なの。私と分身両方に向けた光弾でさ、分散していたから楽々避けられたよ。正直拍子抜けだったね、ヤマメとキスメの二人を突破して来たから全力で相手しに行ったのに、防戦一方なんだもん。「博麗の巫女ってこんなものなの?」って思っちゃうのも無理ないでしょ? まあ実際は別人だったんだけどさ……。
彼女「打つて無しかよ」
人形「{せめてどっちが本物か見極めたいところだね}」
彼女「そしたら一撃で——ッ!?」
人形「{盟友?}」
彼女「……どうやらチェックメイトのようだze☆」
それで最後の最後で彼女に王手をかけたんだ。挟み撃ちにしたの。
奴1「私のスペルもこれで最後」
奴2「でもあなたももうお終い」
奴1「追い込んだ」
奴2「追い詰めた」
奴1「前と」
奴2「後ろで」
奴1「挟まれて」
奴2「同時に攻撃されたら——」
奴 『避け切れないでしょ?』
前からは大量にばら撒かれる小さな弾幕、後ろからは勢い飛び出す大きな弾幕。それで終わらせるつもりだった。
彼女「『魔符:——』」
だけど彼女、私の方に……
ヤツ「パッ!?」
本体の私の方に突っ込んで来たの。
彼女「『スターダストレヴァリエ』ェェェ!」
当てずっぽ? 勘? 違うよ、彼女どっちが本体か分かってたんだよ。私さ、弾幕を放つ時に一歩踏み込んでいたみたいで、その時に……
ミシミシッ
って音がね。私も見逃してたよ、見た目は一緒、声も送れる実体を持った完璧なまでに仕上げた分身に
彼女「吹っ飛べぇぇぇ!」
ヤツ「ルううううああああぁぁぁぁ。。。……☆」
で、いつも通りに飛ばされて目が覚めたら……。
??「あ、気が付いた?」
ボロボロになったヤマメに引きずられていました。以上!
【次回:裏_九語り目】