東方迷子伝   作:GA王

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裏_九語り目

 これは彼らから聞いた話です。

 

 

 

 あ、せっかくですので皆さんも一緒に考えてみて下さい。

 

 Q.彼女はなぜ元の姿に戻っていたのでしょう?

 

 彼はその疑問を共に光の矢から逃れる事に成功した筋トレマンに尋ねたそうです。でも筋トレマンからすれば「何を変なこと言ってるんだ?」と疑問を感染させるだけ、

 

彼 「さっき自分でも言ってたじゃん? 『的が小さくなれば当たらない』みたいな事」

筋ト「知らねーよ、気分じゃないのか?」

 

 彼を満足させる答えを出すことはできません。そこで今度は切り口を変えて(たず)ねたそうです。

 

彼 「じゃあ何でまた——のさ?」

 

 それでも筋トレマンを苛立(いらだ)たせるだけだったと。

 

筋ト「だから知らねーって!」

 

 その所為で()()声を荒げてしまったみたいです。でもこれが回答を導く賢者を呼び寄せていたんです。その方というのが、

 

??「なんだ? どうかしたのか?」

 

 近くで逃げ回っていた彼の兄貴分さんです。息は切れ切れで汗はダラダラ、おまけに全身傷だらけで登場されたそうですけどね。

 

筋ト「あ、鬼助さん。コイツが急に変なところ言い出して」

彼 「何でコウモリの姿から戻ったのかなって。それにまた——」

 

 二人は事情を兄貴分さんに話しました。そして兄貴分さんもまた、彼女の何気ない仕草に違和感を覚えていたそうなんです。彼の抱いた疑問と兄貴分さんが覚えた違和感。この二つが重なり合い、混じり合い、その瞬間窮地(きゅうち)から脱却する活路へと変貌(へんぼう)()げたんです。

 

Elis「あっははは、お掃除最高。きっもち〜★」

 

 そうしている間もElisの手は休まることはありません。甲高(かんだか)い笑いをあげながら、はしゃぐ無邪気な子供の様に魔力の矢を降らせ続けます。その裏で一大プロジェクトが始まっているとは知らずに。

 

医者「治療が間に合わん。それに星熊と伊吹も早く手当てせんと」

棟梁「このままでは……」

店長「長老と棟梁様はもっと離れた方がいい!」

店員「あっしらで注意を引きつけます」

Elis「む〜だむ〜だむ〜だ、ゴミはみーんなお掃除しちゃうんだから★」

 

 そして機は熟しました。

 

Elis「きゃっ!」

 

 Elisは言っていました。突然襲われた感覚に思わず悲鳴を上げてしまったと。その感覚というのが——

 

Elis「っめたー……★」

 

 『冷たい』だったんです。そうです、彼女は何者かに雪玉をぶつけられたんです。誰の仕業? そんな事、考えるまでもありません。

 

??「へへっ、命中〜」

 

 兄貴分さんです。

 

Elis「ふっざけんな三下(さんした)ゴミムシ!」

 

 先程もチラリとだけお話ししましたが、Elisが彼らの前に初めて現れた時、彼女は傘をさしていたんです。コウモリの姿になり一度は手放した傘ですが、それをまたさしていたんです。それほど激しい雪でもないのに彼女だけが。しかも戦いの場でわざわざ。そこに彼は疑問を持ったみたいなんです。

 

Elis「もーホント最悪ぅー★」

 

 そして兄貴分さんが違和感を覚えた彼女の仕草というのが、コウモリから戻った時に執拗(しつよう)なまでに雪を払っていた事だったんです。

 ではここで私が皆さんに出したクエッション「なぜ彼女は元に戻ったのか」。その正解を発表しましょう。正解は——

 

Elis「どうしてくれるのよ★!」

 

 「コウモリの姿では傘をさすことができないから」です。そしてそこから導かれる活路、彼女の弱点とは——

 

Elis「服が()れちゃったじゃない★!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()という事です。

 え? なぜって……まあ私も好きではありませんが、なんでも——

 

Elis「これ高かったんだからね★!!!」

 

 魔界ではブランド物だったそうですヨー。着ていた服ガ。彼女ブランド志向が強くて持っている服のほとんどが高価な物ばかりなんですヨネー。お小遣いだって……。どこがいいのか私にはさっぱりですケドネー。当時もブツクサ文句を言いながら雪を払った後、ご丁寧にハンカチで水分を()き取っていたそうですシー。

 

 

ニンマリ〜……

 

 

Elis「なによ、気持ち悪い……★」

 

 でもまあ、そんな姿を露骨に見せてしまったら誰だって気が付きますよ。

 

鬼助「やっちまえ!」

 

 旧都民、一斉に反撃開始です。足下の雪で球を作り次々と彼女に投げ始めました。

 

Elis「ちょっと! わっ、や、やめなさいって★」

 

 四方八方から投じられる雪玉、そしていきなりの反撃に(あせ)ったでしょうね。その証拠に避けることで頭がいっぱいになっていたようですし。でもやられっぱなしは好まない性格ですから、

 

Elis「やめなさいって言ってるでしょ!★」

 

 反撃に反撃を。しかも今度は怒りを買った分、威力と速度を上げて雪玉に命中させていったそうです。

 しかしそれまで。旧都民を襲うことはありません。例え雪の弾幕をかい(くぐ)ったとしてもターゲットから外れた場所、もしくは少数、易々と避けられる程度だったとか。それもそのはず、彼女が応戦し始めた時にはもう——

 

鬼R「おりゃ!」

鬼S「次よこせ」

鬼T「はいよ」

 

 (じん)は整っていたのですから。三人一組になり一人が雪玉作りを、あとの二名が代わる代わる雪を投じて反撃が止まらないようにしていたそうです。もう流石としか言いようがありませんよ、

 

??「少しずつでよい、移動しながら放て!」

  『うおおおおッ!』

 

 棟梁様は。Elisの弱点を知るや即座に指示されていたみたいですよ。と、ここでちょっとその光景を想像してみて下さい。この世界で一番力のある種族の全力投球の猛攻(もうこう)を。

 

  『オラオラオラオラオラオラオラァッ!』

 

 それはハイレベルな弾幕、高度なスペルに匹敵していたでしょうね。そうですねー、名付けるのなら『怒鬼(どき)雪山颪(ゆきやまおろし)』と言ったところでしょうか。

 単なる雪合戦? その上どうでもいいと?

 ……続けます。

 

Elis「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁっ!」

 

 魔力と雪の弾幕合戦、始まった当初は双方とも互いに打ち消し合い、五分五分だったそうです。

 ですが、魔弾と共に消滅する雪玉は粉雪となってパラパラと地面に落ちていきます。この時風に乗って舞い上がる物もあったでしょう。そしてその回数が増す毎に粉雪は霧を生み出し、やがて白いカーテンとなって彼女の視界を奪っていきます。

 

Elis「イタッ、冷たっ、イタッ、冷たー★」

 

 そのおかげで彼女は雪玉を相殺することが敵わず、ヒット回数が増えて攻撃の手が次第に止まっていきます。まさに攻守交代のときです。そこへさらに旧都民に追い風が吹きます。

 

??「カッカッカッ、ほれ終わったぞい。行ってこい」

鬼U「長老さん助かったぜ」

 

 Elisの魔弾が相殺された事で長老様の治療が(はかど)り、倒れていた旧都民が次々と息を吹き返していったんです。しかもアクセル全開で。

 

鬼V「よっしゃ、アイツにキツイのをぶち込んでやる」

長老「カッカッカッ、女子(おなご)なんじゃから程々にのぉ」

 

 それはあのお二人も例外ではありません。

 

??「この借り、オシリペンペンじゃ済ませられねぇぞ」

??「仕上げはおっさん達で——」

 

 親方様とご友人、かつて地上にその名を(とどろ)かせた赤鬼と青鬼の完全復活です。お二人とも立ち上がるや額に血管を浮かばせながら、ボキボキと拳や腕を鳴らしてウォーミングアップを始めていたそうです。おとぎ話に出てくる恐怖の象徴がフルスロットルでお怒りになられたんです。そのご様子を想像しただけで……足がすくみますよ。

 けどお二人が直接手を下すことはありませんでした。棟梁様と長老様に止められたんです。「ここは若い彼らに任せましょう」とね。

 で、任されたその若者達はというと、何やらコソコソと(たくら)んでいたみたいですよ。そうよね?

 

??「よし、できたぞ」

??「本当に大丈夫なんだろうな?」

??「(たぶん)大丈夫だ」

  『不安だ』

??「(おそらく)問題ない」

  『スゲー不安だ』

??「心配ないってば、絶対うまくいくって(きっと)

  『モノスゲー不安だ』

 

 そして決着までのカウントがスタートを切りました。

 

Elis「あんた達……いい加減に——」

 

 氷点下の雪を当てられて下がる体温とは正反対に、怒りで沸点へと達した彼女に照準を合わせ、

 

??「うおおおおォォォ」

Elis「いいいィィィッ★!?」

 

 巨大な雪玉が発射されました。後に「あれはありったけの気合いを入れた渾身(こんしん)の全力投球だった」と兄貴分さん、ご本人は語っていました。

 

鬼助「ォォォオオオオオりゃーー!」

 

 その所為で大きな雄叫びを上げてしまったのでしょうね。投球直後Elisにその存在を知られてしまいます。ともなれば彼女だって黙ってなどいません。

 

Elis「こんな物真っ二つにしてやるわよ★」

 

 魔力を込めた手刀で巨大雪玉を割ってしまおうと考えたそうです。そして頭上高く手を振り上げて(せま)る巨大雪玉を一刀両断に——

 

??「どっこいヨイショーッ!」

 

 と、その時お祭りで聞くような威勢の良い掛け声が上がったそうです。ちなみにこれ、何だと思います? 兎さん。

 なるほど追加の雪玉ですか……、残念ながらそれは違います。でもそのように考えたのはあなただけではなく、当時の彼女もまた同じ事を考えていたそうです。ではその正体は何か、

 

??「自分で言ったんだ」

鬼助「きっちり決めてこい!」

 

 それこそがElis戦にピリオドを打つ最後の切り札だったんです。

 

??「大江山——」

 

 巨大雪玉の後ろから追いかける様に放たれた切り札は、その姿を現すと決まり手となる技の構えを取りました。一方彼女、その後何が起こるのか悟ったのでしょう。コウモリへと姿を変え、急いでその場から逃げ出します。

 

蝙蝠「じょ、じょうだんじゃないわ★」

 

 後に投じた者は言いました。それは二人で交わした(ちか)いだったと。

 

彼 「見せてみろよ、お前のを」

 

 そして切り札の本人は言いました。まだまだ実力不足で筋トレが必要だけれど——

 

筋ト「(あらし)ッ!」

 

 ものにしてみせたと。

 

蝙蝠「イヤああああああああああああッ!★」

 

 筋トレマンが生み出した衝撃波は、巨大な雪玉に触れると瞬間的に粉々に砕け散り、口を大きく開けた怪獣の様にコウモリを一飲みすると、そのまま地面へと帰って行ったそうです。

 

筋ト「うおーーーッ!」

 

 勝負あり、筋トレマン拳を高々と(かか)げて勝利のガッツポーズです。

 

鬼助「こんにゃろー、心配さすんじゃねぇよ!」

筋ト「やる時にはやりますよ」ドヤッ

師匠「コウ、自慢の(おい)はとうとうやりやがったぞ」

筋ト「どんなもんよ」ドヤヤッ

親方「まさかこの日が来るとはな、恐れ入った」

筋ト「これも親方様のご指導の賜物(たまもの)です」ドヤドヤ

彼 「なにが『嵐』だよ。カッコイイじゃん」

筋ト「『(おろし)』を名乗るには早いと思ってな」ドーヤ

鬼W「よし、みんなで胴上げだ」

筋ト「そんなのよせよー」ドヤドヤドーヤ

鬼X「せーのっ」

 

 歓喜と驚きの雄叫びを上げて駆け寄る旧都民、筋トレマンの頭をかき撫で、称賛の言葉を送り、ついには胴上げまで。それもこれも地獄での厳しい修行と毎日の筋トレがもたらした産物です。

 そして筋トレマンは能力なしに親方様の衝撃波を成功させるという偉業を成し遂げていたんです。親方様自身でさえ、あの勇儀さんでさえ能力ありきでこそ使える大技を。とは言いましても、筋トレマンは当時両手でないとできなかったそうですし、威力も全然届かなかったのだとか。その上——

 

筋ト「(ふー、なんとか成功した)」

 

 成功率は三割以下だったそうですよ。

 え、あなた知らなかったの? 自分でそう言ってたわよ。でも、勝負が決まる重要なシーン。失敗を許されない土壇場でその役を買って出た。そして成功させた……ううん、成功できた。それはどうしてだと思う? あなたなら分かると思うけど? ……鈍感ね。

 

筋ト「(見ていてくれたか?)」

 

 恋人だった村紗さんにいいところを見せたかったからでしょ?

 

筋ト「(待たせてごめん。でもおかげで——)」

  『わーっしょい、わーっしょい』

鬼Y「もう一つおまけに〜」

鬼Z「せーのッ!」

筋ト「(オレは夢を(かな)えられた)」

  『わーっしょイ!』

筋ト「うおーーーッ!」

 

 と、これも本人が言ってましたよ。筋トレマンもまた、恋の魔力で成功率をグンと跳ね上げていたんですね。

 そうそう忘れるところでした。ここに来る前に筋トレマンから伝言を預かっていたんでした。村紗さん、あなたに。「全然会えてないけど元気してる?」だそうです。もう少し気の利いた言葉があったら良かったのですが、ご存知の通り脳筋なもので。あー、でも……クリティカルだったみたいですね……。

 さて、話の途中でしたね。その後の事を簡潔にお話ししましょうか。

 まずElisですが(おお)(かぶ)さった雪山の中からコウモリの姿のまま発見され、あえなく御用になりました。元の姿に戻った時には大事な大事な服がビショビショで、寒さのあまり震えていたそうです。どんなオシオキが待ち受けているのかだなんて考えられないほどに。

 次に吹き飛ばされて気を失ったボスとすっかり戦意を失って出番がなくなっていた輩達ですが、彼女同様に全員まとまってお縄に。これにて旧都を守る戦いは幕を閉じました。

 でもその一方で——

 

村紗「どうして……」

一輪「なんで……」

 

 また新たな幕が開けようとしていたんです。その事についてはご本人達、村紗さんと一輪さんから語って頂きましょうか。その時の様子も含めてね。私もお腹が空きましたし、少し休憩させて頂きます。……だから式神さん方、そこを退()いてくれませんか? あなた方の主人の方は見ませんから。

 

  『あんたがそれを!?』




【次回:表_九語り目】

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