東方迷子伝   作:GA王

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表_九語り目

 あの時もう一人地底にやって来た魔法使い、彼女についてヤツはパルりながらも話してくれた。その一方で博麗の巫女については、

 

ヤツ「全っ然見てない。いつの間に通ったのって感じ」

 

 知らんと。確かに大穴と旧都を(つな)ぐ道はあの橋だけ。けどそれは地面を行く場合のみで宙を飛べるとなればその限りではない。あの二人は自由自在に宙を飛んでいた。大穴に飛び込んだと聞いた時点でその可能性に気付くべきだった。もし気付いさえすれば何か変わっただろうか? いや、何も変わらん気がする。ヤツもあの二人を同時に相手する事になって即・敗北する結果しか見えないな———–

 

??「……ん、……さんってば」

私 「うーむ……」

??「ねェーさァーんン!」

 

 怒鳴り声にも似た呼び声に意識を今に戻して振り向いてみれば、(はる)か先に片手で拡声器を作って手招きする弟分の姿が。

 

鬼助「行き過ぎですって、戻って来て下さい!」

 

 いかんいかん、またまたボーッとしていたみたいだ。進路を戻してクスクス笑い声が聞こえてくる町中を駆け抜ける。ハズイ、にしても今日はこれで何度目だ?

 

鬼助「ホント今日どうしたんですか? 心ここにあらずって感じで」

 

 そりゃ不審(ふしん)に思うわな。

 

私 「いやな、実は……」

鬼助「あ、分かった。早く花見に行きたくて仕事に身が入らないんでしょ?」

私 「いや、そうじゃなくて——」

鬼助「じゃあ五月病ですか? まだ早いですよ?」

私 「そんなんじゃないって」

 

 別に隠すほどでもない、いつにも増してあの時の事を思い出してしまうだけ。ただそれだけの事だ。それなのに正解をしゃべるスキがない、というかしゃべらせる気がないと見た。的を外れっぱなしの弟分に「いい加減とっとと正解を発表して頭を切り替えよう」と考えた矢先の、

 

鬼助「となると……、ハハ〜ン」

 

 これだ。ニヤニヤしながら親指と人差し指でアゴを挟み込んで、私の顔を(のぞ)き込んで来やがる。

 

私 「な、なんだよ?」

 

 なにやら確信めいた表情をしているが、どうせまた——

 

鬼助「さてはアイツのことでしょ?」

 

 おっとこれは予想外、当たらなくも遠からず。

 

鬼助「昨日出て行ったばかりじゃないですか。町のみんなも言ってますよ? 『姐さんはアイツと離れると三日も持たない』って」

 

 弟分の口から放たれた言葉に思わず目が点になり言葉を失った。頭が理解するのをためらった。

 待て待て、一旦落ち着いて思い返せ。今何て言った? 私が三日と持たない? 何の事で? アイツと——

 脳内にばらまかれた言葉を拾い集め、結び合わせて(かすみ)がかった記憶を呼び起こす。だが弟分は完成を待ってなどくれない。

 

鬼助「謹慎(きんしん)中の時だって三日おきに必ず会いに行ってたそうじゃないですか。さとりさんが『三日以上来なかった日は無かった』って言っていやしたし」

私 「え? え?? えぇぇェッ?!」

 

 熱い、顔から火が出そうなほどに。

 知らなかった、自分の事とは言え全く。確かに当時はアイツに会いに行っていた。「たまには様子を見に行ってみるか」くらいの軽い気持ちで。それがたまにではなく三日おきに……必ず? これか、ヤツの「えー」の正体は、(あき)れ顔の理由は。「また三日かよ」って思ったに違いない。十中八九そうだ。おまけに他の連中までもって……ハズッ!!

 

鬼助「姐さんダメですよ〜」

 

 しっかしコイツもまた……、

 

鬼助「いい加減子離れしないと」

 

 いつにも増してペラペラペラペラと。

 

鬼助「アイツもいい歳した男なんですから、その辺はわきまえてやらないと——」

 

 ほほぉ〜、その上説教する気らしい。この私に、弟分のクセに。よろしい、ならば——

 

 

ニンマリ〜……。

 

 

鬼助「な、なんすか急に?」

 

 かぁーらぁーのぉー。

 

 

ガシッ!(鬼助の服を掴む音)

 

 

私 「覚悟はできてんだろうな?」

 

 子離れ……か、

 

鬼助「あ、ヤバ……」

 

 アイツが巣立っていく。まだピンと来ないけど、もしそんな日が実際に訪れたのなら、

 

私「『絞技(しめわざ):頭施錠』」

 

 私は今みたいに笑って送り出せてやれるだろうか? それとも……。

 

鬼助「姐さんギブギブギブギブ!」

 

 まあでも、

 

私「続きましては——」

 

 会おうと思えばいつだって会えるんだし、

 

私「『闘魂(とうこん):寺院記号固め』」

 

 その事は前向きに考えておこう。

 真夜中の町中で泣きじゃくっていた小僧が、気付けば成人を迎えてさらには次期鬼の四天王候補に。今日まであっという間だった。私がこれまで歩んで来た道のりを考えれば、ホントあっという間……。けれど一言では語られない時間を共に過ごして来た。楽しい事も、悲しい事も、嬉しい事も、苦しい事も全部一緒に。

 私は星熊勇儀、これは私の実体験だ。あ……いかん、やりすぎた。

 

 

◆     ◇     ◇

 

 

 旧地獄街道を行く

 

 忘れ去られた地が、役目を終えた地獄が、人知れず栄えた町がそこにあった。

 ひっそりと地下深くに身を隠すその町は、豪快な種族と一癖二癖ある妖怪達で(にぎ)わう(みやこ)。日常的に笑い声があがり、祭の時期は熱気と活気が渦巻く土地。人はそこを『旧都』と呼んでいた。

 だが今はその面影もない。目に映るのは白い化粧を(ほどこ)した軒並(のきな)みの続く通りと蔓延(はびこ)怨念(おんねん)(かか)えた霊だけ。住人の姿は皆無(かいむ)である。

 そんな寂しく恐ろしげな地を訪れる者など……

 

??「{そろそろ着くよ}」

 

 いた。依然(いぜん)として独り言の多い少女が。

 

少女「へ、何処へ?」

??「{我々が住む世界へ}」

少女「ああん? 一体何処に向かっているのよ?」

 

 地上からの指示は不明確。(ゆえ)に目的地すら把握(はあく)出来ず、ただ闇雲に突き進むだけ。やがて少女は都に辿(たど)り着く。向かって来る怨霊の相手をしながらも、その目に静寂(せいじゃく)に包まれた都の姿を焼き付けていく。さてさて、その感想は……

 

少女「ふーん」

 

 以上。可もなく不可もなくといったご様子。

 

少女「で、こっから先何処に行けばいいわけ?」

 

 来る所までは来た。次なる指示を地上の者に(あお)ぐ。

 

少女「もしもーし」

 

 返信はない。その結果「適当に進んでみよう」と気の向いた方角へ(かじ)を切ることに。

 だがそこでエンカウト発生、少女の行く手を(はば)むように現れる怨霊の群れ。時間差を置いて襲って来たこれまでの現れ方とは異なり、まとまって一斉に現れたのだ。それも突如(とつじょ)として九時の方角から。

 

少女「!?」

 

 これには少女も驚きながらも察していた。何者かの仕業(しわざ)であると。

 そして難なくやり過ごした少女は瞳にその者の姿を映し出す。黄金色の長髪をなびかせ、額から赤い一本の角が生えた第一町人を。異性はおろか同じ女性をも魅了(みりょう)し、パルられる抜群(ばつぐん)のスタイル。それはまさに非の打ち所がない美の象徴。その者を見ればきっと誰もが見惚(みと)れてため息を(こぼ)すだろう。そんな麗人(れいじん)を前に少女もまた例外ではなかった。胸を(ふく)らませて大きくため息をついてこう(つぶや)いた。「まあなんて——」

 

少女「まあなんて変な格好」

 

 

◇     ◆     ◇

 

 

私 「ちぃッ」

 

 あの瞬間、確かに私と彼女は目があった。気付いていたはずだ。立ち止まっていたから。なのに……。

 

私 「無視すんな!」

 

 スルーしてそのまま行きやがった。鬼である私を、四天王である私を、エネルギー注入してヤル気満々のこの私を。屋根から屋根へ飛び移りながら弾幕をバラまいてみたり、たまたま近くを飛んでいた怨霊を投げてみたりはするものの、彼女はこちらにチラリとだけ視線を向けて迎撃(げいげき)するだけ。こちらに向かって来る様子は全く無かった。

 

私 「コノヤロー……」

 

 何をしても私をスルーし続ける彼女に(いきどお)りを抱き始め、「このまま突き進まれたら」と悪い展開が脳裏をよぎった頃、なんとか無事に彼女の前に出る事に成功した。その時の表情といったら……また迷惑そうにしやがって。

 

私 「あんた……、なかなか……やるね」

 

 おかげでこっちは始める前から息が切れ切れだったてぇの。

 

私 「(彼女が新しい博麗の巫女——)」

 

 呼吸を戻しながら視線を下から上へ、また上から下へと一往復。間近で彼女を見た感想は——

 

私 「(なるほどな、それくらいか)」

 

 納得。いつだか親友から聞かされた通りだと。女の子と言っても差し支えない年頃、まだまだ成長途中の年頃、けれど女を主張し子供扱いを嫌う年頃でもある。その証拠に、雪の降る真冬なのに肩を出した服装は色気を意識してのことだろう。そこがまた必死に背伸びをしているようにも見えて、

 

私 「(いいね、キライじゃない)」

 

 「可愛らしい」という感情を抱きながらクスクス笑っていた。

 

彼女「なによ変服」

 

 まあその所為(せい)眉間(みけん)に力をこめて(にら)まれた上に、あの服装を(けな)されたわけだが。いや、共感してもらえたと考えた方がいいか。

 

私 「(おっ、仲間ができた)」

 

 (いきどお)りよりも喜びを感じたことを覚えている。とは言えだ、

 

私 「ちょいと、何処へ行く気だい?」

 

 また私を無き者として進もうとするのはいかなものか。

 

彼女「まだ何か?」

私 「(とりあえずさっきの場所まで戻るか)」

 

 これが私と彼女の出会い。そして——

 

私 「これ、何だと思う?」

彼女「何ってただの紙——まさかそれ……」

私 「あんたが考えたんだって? おかげで(たの)しませてもらってるよ。せっかく会えたんだしここは一つ、四枚勝負でどうだい?」

彼女「それはどうも、けど今は先を急いでるから。それに私がアンタとやり合わなきゃならない理由なんて無いし」

私 「くくく、そう言ってくれるなって」

 

 地底の未来がかかった勝負は、

 

私 「暴れる奴には暴れて迎えるのが礼儀ってもんさ!」

 

 私の先制攻撃から静かに始まったんだった。

 

私 「『鬼符(おにふ)怪力乱神(かいりょくらんしん)』」

 

 

◇     ◇     ◆

 

 

??「吹っ飛べぇぇぇ!」

 

 彼女は勝った、遭遇(そうぐう)した第一の刺客に。変化球だらけの苦手とするタイプの相手に。実時間にすると然程(さほど)長くはないが、体感していた時間はその倍強といったところだろう。濃密で苦戦を強いられた時間だった。

 その彼女は今——

 

彼女「おりゃあぁぁぁーー……☆」

 

 勢いを殺さず高速移動中。レーシングカーが通過した時の音が聞こえて来そうな程に。そんな最中でも、

 

人形「{今の彼女、わかったわ}」

彼女「もう倒しちまったze☆」

人形「{嫉妬に駆られたペルシャ人……かな?}」

彼女「何でペルシャ人が土の下にいるんだze★」

 

 人形との会話は(おこた)らない。黙って進めばいいものをそれができない。なぜか、おしゃべり大好きの『かまってちゃん』だからである。暗い所に一人でいるこの状況が寂しいのである。勝手に乗り込んで行ったにも関わらず。

 その事を知ってか知らずか、会話が途切れる度に人形からは間髪入れずに別の話題が提供される。

 

人形「{ふむ、映像を見る限り……もう旧都に入ったみたいだね}」

彼女「おお? やっと目的地か? ダンジョンが短いのは良い事だze☆」

 

 チラリまたチラリと姿を現す家屋は、木と和紙で作られた窓と扉をカタカタと()らして彼女が通過した事を知らせて行く。その音が連続的に(かな)でられるようになった頃、

 

彼女「へー、これが旧都か。古くさいけど人里より栄えてそうだな」

 

 彼女、忘れられた雪の旧都へと到着。だがここでアクシデント発生。

 

人形「{ごめん魔理沙、私がダメみたい}」

 

 説明しよう。彼女の近くをフヨフヨと飛んでいるこの人形、技術と魔導の集合体で構成され、遠く離れた場所からでも操る事ができる上に通信まで可能な優れ物である反面、その仕組みは実にシンプル。人形が発する信号を魔力伝いにアンテナが受信して増幅させ、映像と音声のデータへと変換。また操る時にもアンテナ経由でジョイスティック付きコントローラーからの信号を魔力に乗せて送っているだけなのだ。

 無線技術と聞こえはいいかも知れないが、実態はそんな高度な物ではない。早い話が魔力の糸電話なのである。そしてそのアンテナ兼、増幅器となっているのが、

 

人形「{ちょっと……、休ませて}」

 

 息を切らせて額に汗を(にじ)ませる彼女の友人兼、女房役の人形使いなのである。これが日々の仕事だとするのなら、そこは大変なブラック企業である。早々にダウンするのも無理はない。なお、この通信方式を(ひらめ)いたブラック企業の開発者は、

 

人形「{ポリポリ}」

 

 コントローラー片手に緑バーを頬張(ほおば)りながら早くも休憩モード。で、今のところ特に何もせず会話にだけ参加する『動かない大図書館』は——

 

人形「{メモメモ}」

 

 メモるだけ、やはり動かない。

 

彼女「あ、おう」

 

 冷静になって考えてみれば、それは自分では到底真似できない繊細(せんさい)な匠の技。さらにさっきの戦いを思えば、この先も友人達のサポートは必須であると容易に予想できた。

 

彼女「仕方ない」

 

 猛スピードで駆け抜けて来た彼女、ここに来てようやく

 

彼女「ほいじゃ、魔理沙ちゃんも少し休憩にするze☆」ゴクゴク

 

 一時停止。


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