この煮物、冷めていても美味しいですね。いや、冷めた事によって味が染み込んだと考えるべきでしょうか? これならお燐でも……あとで一輪さんにレシピを聞いてみましょう。 あ、どうも古明地さとりです。語り手を一輪さん達と交代させて頂きました。さて、どんな風に語って頂けるのか、お手並み拝見させて頂きましょう。これは一輪さんと村紗さん、お二人の実体験です。ちょっとこいし、私のお皿からお料理を取っていくのやめなさい。
急にあの時の話をしてくれって頼まれても……。村紗はご覧の様に話せる状態じゃないから私が話す事になるんだけど、こういうの苦手だからあまり期待しないでよ?
じゃあまず村紗の方から話すと——
村紗「カズ君……♡」
ユキ「ちょっとおのぼせさん、余所見すんなし」
村紗「う゛ッ」
激しい肉弾戦だったみたい。村紗が相手していたユキって子は、私が見た限り最初戦意は無かった。本当に様子を見に来ただけだったと思う。でも、村紗の一方通行の復讐にとうとうカチンと来たんだろうね。
ユキ「喧嘩売られたからにはキッチリ買ってやるし」
村紗が元彼君に気を取られているスキに飛び蹴りを浴びて来たんだって。そこからはお互い殴るわ蹴るわ投げ飛ばすわで、もう絵に描いたような喧嘩だったみたいだよ。
村紗「はーっ?! 先に喧嘩売って来たのはあんた達魔界の連中でしょ!」
ユキ「だーかーらー! 私は無関係だって言ってるし!」
村紗「つぅー、でも地底世界が乗っ取られたらあんた達のものになっちゃうじゃない!」
ユキ「そんなのどうでもいいし! それよか早く帰って卒研のレポートやらないとヤバイし!」
パンチをすれば拳で、キックをすれば足で、掴みかかれば投げられて。お互い目には目を、歯には歯をの仕返し合戦だったんだってさ。けど戦況は五分という訳ではなくてね、私が村紗の様子をチラリと見た時はかなり追い込まれていたよ。
村紗「いったたたー、そっちの都合なんてどうだっていいの。あんた達はカズ君に酷い事をした。それだけで万死に値する!」
ユキ「こんなに面倒くさいリア充初めて見たし」
これは私の憶測だけど、たぶんユキって子は相当喧嘩慣れしていたと思うよ。村紗の攻撃のほとんどをガードして、綺麗にカウンターを決めていたから。
で、私の方は——
私 「『
雲山「ぬーん!」
一方的な弾幕戦だった。もちろん雲山と一緒にね。いや、私が一方的にやられていたんじゃなくて……えっと、ずっと私のターンだったって言えばいいかのかな?
私 「今度こそやった?」
雲山「一輪、それは——」
やりすぎだと思う? けどね、そのマイって子は一見大人しそうで、病弱な感じなんだけど、それはただ猫を被ってそう見せているだけ。実際は——
マイ「……で?」
雲山「フラグじゃぞ」
私 「またー?!
雲山「いや、さっきから確かに当たっておる。しかも全ての。なのになんじゃ、この手応えのなさは」
その正反対、雲山の拳が全く効いていなかったの。
私 「中途半端な威力じゃ通じないってことみたいね」
マイ「血祭りにあげる?」
おまけに挑発までして来やがって……、
マイ「こんな火力で? それでよく大口叩けたよね。これだったら足の小指をタンスの角にぶつけた時の方が断然痛いよ。しかもさっきから攻撃して来るの
あ゛あああっ! あのクソガキの事を考えただけでムシャクシャする!!
私 「このガキャア、今度こそ地獄に送ってヤラア゛ッ!」
ハァ、ハァ、ハァ……。とまあ、今みたいに怒り全開で雲山に命じていたわけよ。
私 「『キングクラーケン殴り』!」
拳のラッシュをおみまいしてやるようにね。
雲山「ぬううッ」
いつもしかめっ面だから頑固オヤジみたいな印象を受けるかもしれないけど、本当の雲山は温厚で怒ることなんてそうそうないんだ。むしろ調子に乗って怒られる事の方が多いくらい。そんな彼がね、あの時ばかりは本気で怒ってたんだ。
雲山「ヌラヌラヌラヌラ」
まあ私と一緒に色々言われたってのもあるんだろうけど、時が経ってからナズ伝いに聞いた話だと、私の酷い言われように耐えられなくなったんだってさ。自分で言うのもなんだけどね。
雲山「ヌラヌラヌラヌラヌラァア」
普段より長く浴びせられる拳の猛攻、それが絶えないように、威力が落ちないように、私も彼に力を送り続けた。
雲山「NUuuuuuuRAaaaaaa」
私 「いっっっっッけええええ」
けどそれでも、
マイ「……だから?」
雲山「なんじゃと!?」
アイツへは
マイ「やっぱり弱いじゃん。もういいや、少しは
って言い出して、そこで初めて攻撃の姿勢を見せたんだ。
ちょうどその時くらいだったかな? 村紗達の方から大きな爆発音と地響きがしたのは。放ったのは村紗自身、なんでも「肉弾戦では勝ち目が薄い」と思って弾幕戦に持ち込もうとしたみたいだよ——
ユキ「いきなりでビックリするし! そっちでやるならやるって先に言えし!」
村紗「喧嘩でわざわざ手の内明かすマヌケが何処にいるのよ!」
ユキ「もう
それで村紗の思惑通りにユキって子は弾幕を放った。マイって子が私に放つのとほぼ同じタイミングでね。
マイ「『魔法:——』」
ユキ「『魔法:——』」
おまけに二人とも全く同じ術で。
私達はその時まで自身の感情だけで戦っていた。「許せない」ただそれだけの思いで。けどその瞬間、私達に戦う意味が生じてしまった。引けない戦いになってしまったんだ。なぜならあの二人が使った術、あれは——
『『
姐さん、
村紗「どうして……」
私 「なんで……」
『あんたがそれを!?』
新顔君達も寺子屋に通っているのなら、慧音さんから聞かされた事があるかもしれないけど、大昔地上では妖怪や幽霊といった種族はひどく嫌われていてね、無意味に嫌がらせを受けたり、
そんなある日、救いの手を差し伸べてくれたのが姐さんだった。姐さんは妖怪との共存を望んでいて、私達みたいな妖怪に
けどそれをよく思わない連中がいてね、私達が警戒をしていないのをいい事に、大勢で押し寄せて
私 「村紗!」
すぐに悟ったよ。
私 「(姐さんは『魔界』にいる)」
ってね。永遠にも思える時間をかけてようやく見つけた手がかり、あんなに興奮を覚えることなんてこれから先もないだろうね。それで村紗を呼んで、
村紗「分かってる、
村紗もその事に気が付いていた。そうとなれば決断は早かったよ。「どんな事をしてでも切り抜けてやる」ってね。
私 「いい? 一気に行くよ」
繰り返し向かって来る光弾を避けきった時、私と村紗は互いに背中合わせで身構えていた。
雲山「承知した」
村紗「うん」
ユキ「ちょっとそこのお姉さんと煙のお爺さん、そこにいたら巻き添いになるし。それとも今度は団体戦って感じ? だったら、マイ」
マイ「……」コクリ
狙ったわけじゃない、そうせざるを得なかったんだ。村紗の正面にはユキって子が、私と雲山の正面にはマイっていう小娘がいてね、私達は彼女達の攻撃を避けているうちに挟みうちになっていたの。不利な状況に思えるけど、そのおかげで作戦が閃いたんだ。それに村紗と雲山へ小声で伝える事も出来たし、むしろ好都合だったよ。
あー、そうそう。この際だから教えておくと、姐さんが使う魔法のいくつかは彼女達魔界人から教えてもらったものもあるんだってさ。例えば、
『『魔法:
なんかはそうみたいだよ。
必要ない? いや、さっきから真面目にメモを書いてる新顔君がいるから良かれと思って。
そんな気遣いは無用? さっきの
––
まったく、桃色仙人から聞いてなかったら今頃仏にしてたよ。後で姉さんともう一人にも謝りなよ。二人共意気投合しちゃってもうしばらく出てこないかもしれないけど。いい? 姐さん怒らせると怖いよー。
さてっと、私から話せる事はあと少しかな。
私 「せーのっ!」
二人の二度目の詠唱が終わるタイミングで私と村紗は作戦を開始した。その作戦っていうのは、
村紗「『
私 「『
威力の高い技を二人同時に
マイ「!?」
ユキ「はーっ!?」
背後の相手に放つ事。相手をスイッチしたんだ。ご存知の通り村紗の術は重たい
雲山「お主には何の
私 「だから先に謝っとく」
ユキ「ざっけんなしー……☆」
私 「ごめん!」
この作戦は見事にはまったよ。ユキって子は「完全に裏を突かれた」って顔をするだけで避けることも出来ずに吹っ飛ばせたし、クソ生意気なガキンチョは
村紗「魔族はみんな同罪」
マイ「
村紗「だから私は謝らない」
にらんだ通り村紗の術の前では余裕がなかったみたい。けどその
ん? なんで彼女がそれまでノーダメージでいられたのか気になる? そう、人形使いが言うように、彼女は天人みたいに特別体が頑丈だとかじゃないんだよ。不思議に思うかもしれないけど、タネを明かせばどうという事はないよ。彼女、私とやり合う前から肉体強化の術を使っていたみたいでね、村紗にやられた時にバリーンって砕けちる音がしたんだ。術が解けたんだろうね。つまり私は何だかんだ言われながら、アノヤローに掌で踊らされていた訳。きっとそれを心の中でニヤニヤしながら楽しんでいたんだろうね。ふん、ホントいい気味。
私 「急いで!」
けどそんな
??「村紗さん、雲居さんお止まりなさい!」
魔界を目指してスタートしていたんだから。
あの場所がどんな所なのかは知っていたよ。村紗から「知る事さえ許されない秘密の場所」だって聞いていたからね。「私達が行ってしまったら、きっととても大きな問題へと発展するだろう」とは感じていたよ。けれど、それでも私達はその先へ、魔界へと進まなければいけなかった。姐さんと会うために、助け出すために。棟梁さんの制止を振り切ってでもね。
棟梁「誰かその者達を止めて!」
私達は走り続けた。地底の民が追いかけて来ているのを背中で感じながら。でも棟梁さんは少しばかり出遅れたね、指示を出した時にはもう私達はトンネルの入り口に足を踏み入れていたから。
やっと会えるって、あと少しでって、もう手の届く所まで。ようやく訪れた待望の時に、勝利にも似た感情を覚えたよ。でもそこに立ちふさがったのが、
??「ナミ達何処行くんだよ!」
??「これ以上行ったらダメなんだって!」
君と村紗の元彼君だよ。
雲山「ぬぅ、
一輪「どきなさい!」
君 「無茶言うなよ……」
元彼「ミナ、悪いけど——」
村紗「カズ君お願い、私達がずっと探していた人がこの先にいるの!」
そうそう、いつか聞いてみようと思っていたんだけど、あの時——
筋ト「分かった、行って来い」
あっさり通してくれちゃったけど……なんで?
村紗「ありがとう!」
一輪「恩に着る」
雲山「すまぬの」
私達としては助かったけど、君達の立場からすると通しちゃダメでしょ?
君 「はー?! お前なに勝手に許可してんだよ! 止めに——」
えっ、君は反対派だったの? じゃあすぐに追いかけ……て来なかったよね?
君 「放せよ! 本気でヤバイことに——」
そう……、元彼君が。ちなみになんて言われたの? 「世話になっただろ」とか? それとも格好良く「頼む、行かせてやってくれ」とか? あはは、そんなガラじゃないか。
元彼「オレの女が涙目で
驚いた、これは意外だね。って、え?
君 「問題のデカさを考えろよ!」
元彼「まあ、そんな訳で——」
ごめん私からの話はこれでおしまい、後はよろしく。
元彼「この先へは誰も通すつもりはないんで、よろしく」
ちょっと村紗待ちなさいって、何処に行くのよ!
【次回:表_十語り目】