やはり思い出してしまいますね、あの日のことを————
私 「お燐、お願いがあるの」
霊夢さんが近づいていると教えてくれたお燐へ「その事を勇儀さん達にも知らせて欲しい」と使いに出し、私は
私 「(いやに静かね)」
あれだけ暴れていたというのに、途端に静かになったから疑問に思ってはいたけれど、まさか八咫烏と体の支配権の争奪戦をしている時に、二人とも羽を羽ばたかせる事を忘れてしまい、真っ逆さまに落下して灼熱地獄の地面に頭を打ってそのまま気絶していただなんて……。まったく、カラスといえば鳥類の中でも頭のいい種だというのに二人して……。
私 「(もしまた暴れられたら……)」
そうとは知らずに一人で心細い思いをしていたけど、嬉しいことにお燐はすぐに戻って来てくれた。
お燐「☆……。。。ァァアアアャ二」
上から、くるくる縦に回転しながら。あれに気が付いた時は「なんで?!」という疑問よりも、
私 「(あー、ついにお燐までも……)」
といった感想が真っ先に浮かんできたもの。「心配はしなかったのか?」と問われたら、無情のように聞こえるかもしれないけれど「全く」とすぐに答えるでしょうね。
お燐「ビックリしたニャ、これが噂の……ニャ」
なぜなら彼女は猫、着地に関しては心配御無用。どんな体勢だろうと十点満点、綺麗に決めてくれるから。
華麗な着地を披露してくれたお燐、彼女が駆け寄って来るなり私は第三の目を向けた。霊夢さんの事を伝えてくれたこと、勇儀さんが考えた作戦のこと、キスメさんとヤマメさんが出発して間も無くに突破されたこと、さらに今度はパルスィさんと勇儀さんが足止めをすること。お燐が見聞きした全ての情報が、何列にも並んだ箇条書きとなって私に状況を知らせてくれた。
私 「(おかしい、何かひっかかる)」
あの時に覚えた胸騒ぎは今でも忘れられない。焦り、疑問、不安、心配、恐怖、違和感、次から次へと湧き出す負の感情が入り混じり、私はいてもたってもいられず、お燐に再び使いを頼んでいた。
私 「お燐、悪いんだけど——」
もう一度勇儀さんの下へと向かって欲しいと。そして、もし万が一勇儀さん達でも霊夢さんを止められなかった場合、真っ直ぐ地霊殿の正面から来るように導いて欲しいと伝えて。
お燐「分かりましたニャ」
また一人となった私、足下の灼熱地獄の蓋を眺めながら祈っていた。
私 「(このまま何事も——)」
けどその祈りが叶うことはなかった。突然背後から強烈な音が私の全身を駆け抜けたのだから。耳を塞ぎながらも小さく縮こまりながらも、そちらの方へ恐る恐る視線を向けてみると、屋敷の裏手の遠方で何度も何度も続け様に眩しい光を放つ稲妻が。さらに大気が破裂する音に多数の爆発音、煙まで上がっていて……。
私 「ボケ!?」
お燐からの報告で魔界の者達が旧地獄へ侵入して来た事は知っていたけど、彼の秘められた力の事は知っていたし、パワーアップして帰って来た筋トレマンもいた。何より「霊夢さんに敗れた方達が加勢に行く」という勇儀さんの作戦があったから「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせながら信じるしかなかった。その判断が彼らの身を危険にさらした。
私 「(お願い、どうか無事でいて!)」
あの時、彼らの下へすぐにでも駆けつけたかった。そうすべきだった。例えお燐に頼んだ後だとしても、八咫烏が再び暴れ出したとしても、霊夢さん達に扉のことを知られてしまったとしても————
むにー
急に両頬を
私の顔が怖いからって……え、それだけ? 私そんなに難しい顔してた?
話だって聞いてくれない? なるほどね、そっちが本音なわけね。
私 「
謝ってお願いしてみたけれど、無言で首を傾けて頭上に『?』マークを浮かべ、「何を言ってるか分からない」と。どうしようこれ、詰んだわ。
一輪「ごめん私からの話はこれでおしまい、後はよろしく。ちょっと村紗待ちなさって、何処に行くのよ!」
あーあ、とうとう行ってしまいましたか。何処にって、そんなの決まってるじゃないですか、ほらほら皆さんもそう思ってますから。一輪さんもお気付きでしょうに。という事は……逃げましたね。あ、ちゃんと戻って来て下さいね。レシピを教えて頂きたいので。
私 「仕方ないですね」
束の間の休憩でしたね。でもお料理は食べられましたから、良しとしましょう。で、式神さんとその式神ちゃんは間髪入れずにマークしにくるんですね。もう
私 「はー……、では続きをまた私から語らせて頂きます。これは彼とあの場にいた方達から聞いた話です」
とは言ったものの、皆さん首を傾けて頭上に『?』。こいし、いい加減に放してってば。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
棟梁「どういうつもりですか? 事態が終息して来ているのに、さらに問題を起こす気ですか?!」
筋ト「棟梁様すみません、ここは引けません。罰なら受けます」
師匠「和鬼、みんな訳が分からないままここに集まって、苦しい思いをして戦ったんだ。おっさんだってまだ状況が把握しきれていないのに、さらに騒ぎをデカくするってなら——」
親方「つまりそういう事だ。もうお前達の情や都合で勝手を起こされるわけにはいかねぇんだ。許される領域を超えてんだよ」
さて、一輪さん達が魔界へと通じる洞窟の奥を目指していた頃、その入り口ではちょっとしたいざこざが起きていました。筋トレマンが「ここは誰も通さない」と通せんぼをしていたんです。棟梁様と親方様、彼の師でもある筋トレマンの叔父さんが説得を試みたそうですが、自分のポリシーだかなんだかを語って退く気配が無かったみたいですよ。一大事だというのに。そうよね?
筋ト「それでも譲れません、例えこの場の全員を敵にまわしたとしても。オレだって漢です、惚れた女の味方を貫きます!」
師匠「だからよー、お前コウの話を聞いてなかったのか? もうそんな次元の話じゃ——」
あーもう、先にネタバレしないで!
棟梁「あなたもですか?」
そういうことです。今言われたように、彼にも飛び火したんです。近くにいただけなのに、筋トレマンの肩を持つつもりかと問われたそうです。
彼 「それは……」
けど彼は一輪さんにも答えたように筋トレマンの反対派でした。その時も「ノー」と答えるつもりだったのでしょう。でもすぐに答える事が出来なかったんです。なぜか、理由は単純です。
彼 「和鬼お前……」
彼は筋トレマンに弱みを
筋ト「(言っちまうぞ? 言っちまうぞ?)」
筋トレマンはそのことを持ち出し「味方しないのならバラすぞ」と不適な笑みを浮かべて眉を上下に動かしながら、無言でそう語っていたそうです。心を読めもしないのにそこまで伝わってしまうだなんて、これも幼い頃からの腐れ縁であるが故の事なのかもしれませんね。
彼 「あ゛ー、めんどくせー!!」
頭をかきむしって絶叫する彼、悩みに悩んだ末に選んだ答えは、
彼 「これっきりだからな!」
筋ト「へへ、サンキュー」
筋トレマンの隣に立つことでした。二人して自身の都合を優先にしたんです。もちろんそんな事が許されるはずがありません。
師匠「いいんだな、それで」
親方「こんなにも早くリベンジできるとはなぁ」
筋トレマンの師である親方様と、彼の師が進み出たそうです。身勝手な弟子にキツク指導しようと。
筋ト「今日で免許皆伝となるか」
彼 「破門の間違いだろ」
??「ちょっとそこ通して欲しいし」
そこへユキさんとマイさんが集まっていた方達の後方からやって来たそうです。一輪さん達の一撃が
ユキ「あんたらこういうつもりだったわけし?」
とね。「計画していたのか? 最初から魔界に行くつもりだったのか?」と聞きたかったんだと思います。もしその答えがイエスだったら全力で阻止に出ていたことでしょう。けど皆さんもご存知のように、一輪さん達は偶然知ったんです。
筋ト「事情が変わったんだよ。オレの彼女が向こうに用事があるんだってな」
筋トレマンはユキさんの問いに「成り行きだ」と答え、ユキさんもそれを信じて問い
ユキ「だったら今すぐ追いかけて止めに行けし!」
真剣な顔で、焦っていたのか少し早口で、
ユキ「もしあの人に知られたら、彼女達もあんたらもただじゃ済まされないし!」
と。ただそれを全部言い切れたかどうかは定かではありません。なぜなら
『きゃーーーッ!!』
洞窟の奥から爆発音と悲鳴が上がり、
筋ト「ミナ?!」
彼 「煙の爺さんに——」
棟梁「雲居さん?! これはいったいどういう……」
村紗さん、雲山さん、一輪さんが吹き飛んで来たからです。全身から煙の上がった姿で。それが誰の仕業なのか、ユキさんは瞬時に見抜いたのでしょう。
ユキ「早くここから離れろし! 来る前に、見つかる前に!」
地底の住人に向けて「逃げろ」と叫んだそうです。でも、全てはもう手遅れだったんです。
マイ「あ……あ……」
震えるマイさんが向けた指の先、
??「そこに大きめの石があるのでお気を付け下さい」
??「ありがとう。あら、こっちは雪がいっぱい積もっているのね」
魔界へと通じる洞窟から二つの影が近づいていたんです。その正体は……
マイ「
魔界最強クラスの夢子さんと、
ユキ「お母様まで……」
魔界の長であられる
いいえ霊夢さんに魔理沙さんに人形使いさん、これは真実です。あの時、あのお二人が旧地獄へいらしていたんです。
夢子「……少し失礼します」
神綺「はい、いってらっしゃい」
余裕すら感じさせるゆっくりとした足取りで姿を現したお二人に、誰もが只者ではないと察知して警戒体勢をとっていたそうです。何かあればすぐ応戦できるように、逃げられるように。
そんな中夢子さんは周囲を見回した後、神綺様に一礼をしたそうです。
『えっ?』
辺りから零れる声は理解できていない証でした。地底の民が夢子さんの姿を瞳に映した時、彼女はもう
夢子「お怪我は大丈夫ですか? 縄を解いて差し上げます。こちらの救急箱に消毒液と
ボスを含む捕らえられていた魔界の荒くれ者達の救出へと向かっていたんです。
ボス「あなた様は……」
夢子「ここから先は私めにお任せを。皆様はどうぞお引き取り下さい」
さらに部下を引き連れて魔界へと帰るように
ボス「Elisが……」
夢子「はい?」
その時にElisの名前も上がったそうなのですが、日頃の行いというのはこういう時にものをいうのでしょうね。
ボス「いえ、なんでも……」
いなかった事にされたのだとか。
Elisですか? ええ、その場にはいませんでしたよ。「服がビショビショになって風邪をひくといけない」という器の大きな棟梁様の優しい計らいで、縄に繋がれたまま一人の鬼さんと一緒に棟梁様のお屋敷へ向かっていたんです。なんでも到着するなり「早くお風呂に入りたい」だの「温かいココアが飲みたい」だのわがままを言っていたみたいで……。ご飯だって気に入らないとぶつぶつ文句を言うし、というかキライな物が多過ぎるのよ……コホン、続きいきます。
夢子「ただいま戻りました」
神綺「おかえりなさい」
夢子「スラムの一派の拘束は解きました。応急処置セットを渡し、身を引くようにも伝えました」
神綺「はい、ご苦労様」
彼 「見えた?」
筋ト「ダメだ全然追いつかなかった」
用件を済ませて神綺様の下へ戻った夢子さんですが、やはりその姿を目で追うことは誰も出来ません。
夢子「ユキ、あなたも帰りなさい。レポートがまだなのでしょ?」
ユキ「あ、うん」
夢子「それとマイ、ゲームがやりっぱなしだったから片付けおいたけど、よくて?」
マイ「へーき……」
その後、魔界の輩達は地底の住人の突き刺す視線に見送られながら、次々と洞窟の奥へと歩みを進めていったそうです。そしてユキさんとマイさん達も。ユキさんは去り際に、
ユキ「スキを見つけて逃げろし」
と助言を残し、マイさんは
マイ「……」
黙って素通り。最後に地底世界の乗っ取りを
ボス「終わったな、お前ら」
不適に笑いながら、そう不穏な空気を残して行ったそうです。
神綺「彼女で最後?」
夢子「はい、そのようです」
あとは神綺様と夢子さんのお二人だけ。しかし
棟梁「間違っていたら申し訳ありません。もしかして魔界の長様でしょうか?」
とね。なんでも
神綺「ええ一応ね。それで? あなたは
さらに棟梁様は神綺様にこれまでの経緯を話したそうです。足りない情報は彼に尋ねながら。その上で説得を試みたんです。
神綺「ふーん、そちらも大変だったのね」
棟梁「どうかここは痛み分けという事で引いては頂けないでしょうか?」
この事はなかった事にして欲しいと。頭まで下げられて。それに対する神綺様の返事は……
神綺「私はそれでも構わなくてよ」
イエスでした。互いに手を引くことを承諾して頂けたんです。地底世界の存続が危ぶまれ、怪我人まで出て。心を痛めていた棟梁様にとって、その言葉はどれだけ救いだった事か。
神綺「でもねー」
ですが、
神綺「夢子ちゃんがねー」
承諾して頂けたのは神綺様だけだったんです。
夢子「この罪は重い……あなた方を敵と見なします!」