東方迷子伝   作:GA王

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おそらく年内最後の投稿となりそうなので先にご挨拶を。

投稿ペースが遅くなってしまったり、展開が遅かったりと反省すべき点はまだまだありますが、それでも本作を読んで頂いている読者の皆様には大変感謝しております。楽しんで頂けていれば光栄、暇つぶしになって頂けていれば至福でございます。本年もお付き合い頂きありがとうございました。



表_十一語り目

私 「まったく……」

 

 見せつけやがって————

 

 『和』を出発しようとした矢先、私の横を通過する影に見覚えがあったかと思えば、名前を思い出すよりも先に、彼女は筋トレマンにしがみ付いて泣いていた。やれ「会いたかった」だの、やれ「どうして会いに来てくれない」だの、やれ「手紙くらいよこせ」だのと()かしていたところから察するに、彼女が旧地獄(ここ)を去ってからずっと音信不通だったのだろう。

 あれから五年程、私からすればあっという間の時間だったが、出来立てホヤホヤの熱々バカップルにとってこの時間は長過ぎた。それにあの時の言葉は全員が聞いている。鬼だというのに約束を棚上(たなあ)げし、恋人を(ないがし)ろにしていた筋トレマンが全面的に悪い。筋トレやら釣りやら野球やらをしている暇があるなら会いに行ってやれってんだ。もし私が彼女の立場だったら、愛想を尽かして別の男を作っているところだ。

 

私「そらそろ頃合いか」

 

 実際彼女もそうだったようで別の男を……とまではいかないにしても、(あき)れて仲間内には「別れた」と伝えていたらしい。自然消滅というやつだ。とはいえあの(ざま)、声を上げて大泣きするくらい未練タラタラだったのなら、下手な意地なんか張らないで会いに来ればいいだろうに……。「会いに行ったら負け」とでも考えていたのか?

 

私 「よっと」

 

 それが何故突然今になって均衡(きんこう)が破られたのか、なんでも『あの話』が始まった所為(せい)で当時の記憶が蘇り、(おさ)えられなくなったのだと。

 

私 「あとは……っと」

 

 彼女が話題に出たという事は話はもう終盤、思った以上に早かった。さっさと用件を済ませて地上へと向かいたかったが、あのバカップルときたら外野のこっちが赤面する程の熱い接吻(せっぷん)を繰り返し、おまけにその場で押し倒しておっ(ぱじ)めそうなまで加速しやがって。お母ちゃんさんが——

 

お母「あらぁー、あなたがウチのバカ息子の彼女のミナちゃん? 可愛い子じゃない、お茶とお饅頭(まんじゅう)くらいしか出せないけど入って入って。和鬼! あんたはまだ営業時間中だってこと忘れるんじゃないよ!」

 

 ——って登場してくれたからいいものを……。

 

私 「さすがだよ……」

 

 アイツがもし女を連れて来たら、私はお母ちゃんさんの様にはいかない。あの時だって……。私は星熊勇儀、今肉の炒め物を作っている。

 

私 「あ、塩と砂糖を間違えた」

 

 そうだ、すき焼き風にしちまおう。

 

 

◆    ◆    ◆

 

 

霊夢「また頼んでいないのに首を突っ込んで来て」

魔理「そう言うなよ。魔理沙ちゃんも仲間に入れろって」

霊夢「はー、まったく……それよりあんた、その頭どうしたのよ?」

魔理「聞くな!」

霊夢「??」

 

 頭に大きなコブを作った白黒の少女は、私の前に姿を現すや博麗の巫女と親しげに話し始めた。アレがキスメとの接触によるものだと知ったのは後日のこと。そしてその時点では彼女が何者なのか、ましてや博麗の巫女と共に『異変』と呼ばれる騒動を解決して来た実力者だなんて知る(よし)もなかった。萃香から「博麗の巫女だけの力で異変を解決して来たわけじゃない」と聞かされていたが……。

 

人形「{あ、霊夢だ}」

霊夢「ん? その人形と声は……アリス?」

人形「{うん、魔理沙のサポートでね。あとパチュリーと……え、名前を言わないで? えっと、キュウリ好きの技師が」

霊夢「なによ魔理沙、あんたも調査を頼まれたの?」

 

 黙って二人の会話に耳を傾けていた。そのまま話し続けていてくれれば私の手間が(はぶ)けたから。

 

人形『{勝手に行ったの}』

霊夢「……」ジトー

魔理「そそそそんな事より、さっきから()きたかった事があるんだze☆」

 

 それが分が悪くなったからって突然私に人差し指を突きつけてしょうもない事を尋ねて来やがって。

 

私 「お? なんだい?」

魔理「いや、ここって地下だろう? なんで雪が降ってるんだze☆?」

私 「あん? まあ冬だから雪が降るのは当然だね」

魔理「なるほどだze☆」

 

 以上、これが私と魔理沙と呼ばれていた白黒の少女とのファーストコンタクト。ホントしょうもない。

 

人形「{魔理沙、ここでちょっと情報を仕入れた方が……}」

魔理「うむ、じゃあ早速会話だな」

 

 さらに続けて

 

魔理「お前は誰だze☆?」

 

 と尋ねられ、

 

私 「私は……」

 

 名乗ろうとした矢先だった。あの声が聞こえて来たのは。

 

??「{お〜、誰かと思ったら勇儀じゃないか〜。久しぶり〜}」

 

 (くも)った声で初めは誰だか分からなかった。

 

私 「あん? 私を知ってるって、お前さん……何者?」

 

 けどその波長に心地良さと(なつ)かしさも抱いていた。

 

??「私だよ私〜ぃ。暫く地上に遊びに行ってたからって忘れて(もら)っちゃ困るね〜ぇ」

 

 目の前に浮かび上がった(きり)のかかる黒いシルエットは、その頃にはすっかり輪郭(りんかく)を現し、影絵から白黒の水墨画へ、水墨画から色鮮やかに塗られた屏風(びょうぶ)絵へと変貌(へんぼう)()げていた。

 

私 「その声……」

 

 長い二本のツノ、腰まで伸びた栗色の長い髪、背丈は低く、大きな瞳に幼い顔、頭の後ろで手を組んだポーズは昔から見慣れたもの。忘れて貰っては困る? つい半年前に会ったばかりなのに忘れられるはずがないだろ。

 

私 「もしかして萃香!?」

 

 親友を。そう確信した時、私はやるせない思いにかられていた。だってそうだろ? アイツは親友を頼って、気が付いて欲しくて、来て欲しくて怨霊を放つようお燐に指示をしたというのに、それがあろう事か博麗の巫女に加勢していただなんて。おまけに……

 

??「{また、あんたら四人で山登りたいね〜ぇ}」

 

 ギリギリ呂律(ろれつ)は保ってはいたが、時折小刻みに聞こえて来た呼吸を詰まらせる音は、親友が何をしていて、どんな状態でいるのかと知るには十分過ぎる情報だった。しかも恐ろしく昔の話を持ち出すあたり、ほろ酔いとかそういう次元じゃない。完全に出来上がっていやがった。

 親友は鬼の中でも酒の強い方だ。焼肉会で周囲が倒れていく中、空けた酒樽(さかだる)に囲まれて上機嫌にしていながらも、ちょっとしたきっかけで瞬く間に平常心を取り戻したくらいだ。

 それが「何を話しているのか分からなくなるのも時間の問題」と思えてしまうまでに酔っ払っていた理由(わけ)、これには心当たりが……いや、確信があった。

 

私 「(萃香に()()(おく)ったのは失敗だったな)」

 

 そう思ってしまうのも無理はないだろう。

 

霊夢「一応言っとくけど、あんたが話している相手は私じゃないから。あいつは地上よ。何? あいつと知り合いなの?」

私 「ああ、その(たま)から聞こえて来ているのか」

魔理「なんだなんだ? そっちは萃香がサポートしてるのか?」

珠 「{お〜、魔理沙も来てたのか〜}」

人形「{うぐっ、萃香……}」

霊夢「さっきは(あや)だったけど引っ込んだみたいね。あともう一人いるけど」

珠 「{文なら新聞の編集してるよ〜。『フォローしながらだと集中できない』って言うから交代してね〜}」

霊夢「それで、萃香(あいつ)と知り合いって事は、やっぱりあんたも鬼なのね?」

私 「もちろん。私は萃香と同じ山の四天王の一人、昔は『無能の四天王』なんて呼ばれ方されていたけど、今は『力の勇儀』って呼ばれてる。ま、山って言っても今は山に居ないけどね」

人形「{無能の……? 四天王……??}」

霊夢「ふーん」

魔理「うむ、質問タイム終わり。街の人との会話なんてそんなもんだze☆」

私 「ずいぶんと淡泊(たんぱく)じゃないか、じゃあ今度私の方から質問してもいいかい?」

  『どうぞ』

私 「霊夢だっけ? お前さんは今の博麗の巫女で間違いないんだね?」

霊夢「何よ、ご不満?」

私 「いいや、不満なんてないさ。それでそっちの白黒は……マリスだっけ?」

魔理「マリ()だ! 霧雨魔理沙! ややこしい間違いすんな!!」

私 「ああそうそう、魔理沙な。お前さんも人間のようだけど地底(ここ)は厄介な連中達の住処(すみか)、普通人間は恐れて近づこうだなんて考えないものだよ。問おう、お前さんは勇者なのかい? それとも(おろ)か者なのかい?」

魔理「お、よくぞ聞いてくれたましたze☆ 魔法の森の中にある『霧雨魔法店』の店主にして、霊夢と一緒に数々の異変を解決して来た可愛いヒーローとはこの魔理沙ちゃんの事だze☆ まっ、一言でいえば『正義の商人』ってとこだze☆」

  『あくどい盗賊(シーフ)でしょ?』

私 「あん?」

 

 後に彼女の手癖(てぐせ)については色々と聞かされた。なんでも吸血鬼の屋敷では日常的に被害に合っているらしい。盗む方も盗む方だが、盗まれる方も盗まれる方だ。警備はどうした? いないのか? 狙われていると知っているのなら何故何も対応しない? それとも屋敷の主が仏の様に寛大(かんだい)なのか?

 

 

霊夢「それよりあんた」

 

 軽い挨拶と互いの自己紹介はそこまでだった。あのまま世間話にでも発展してくれれば(おん)の字だったが、それはこちらの都合であり夢物語でしかない。仕切り直し、方向転換、軌道修正。いきなりにして絶妙なタイミングで、彼女は和紙の連なった棒切れの先を向けて本題へ一歩足を踏み入れた。

 

霊夢「ここの連中は地上を攻めようとしているの?」

私 「あはははは! 何で今更地上を攻める必要があるのさ。地獄だったここも今や我々の楽園。地上の賢者にも感謝しているよ。邪魔も入らないしね」

 

 だから「そうはさせまい」と笑いながら話の行く先をねじ曲げたつもりだった。彼女が言わんとする事は察していたし、もうそれ以上踏み込んで欲しくなかったから。万が一その先で真剣に二択の問を投げかけられることがあれば回避は不可能、それは認めたと同意となる。ウソをつけない種族にとってその状況はなんとしても阻止しなければならなかった。「まだ会話で時間を(かせ)げるはず」と見込んでいた私にとって、それが最良の手段であると信じて。

 

霊夢「……だって、良かったわね」

 

 その甘い考えが

 

霊夢「(めずら)しく感謝されてるわよ」

 

 自分の首を締め付ける事になった。

 

霊夢「何か言ってあげたら?」

魔理「お、おい霊夢まさかそのもう一人って——」

 

 珠に向かって話しかける博麗の巫女に当初、「萃香は関係ないだろ?」と疑問を抱いていた。けど再び彼女が声をかけた時、珠から聞こえて来た声は私のよく知る声とは別のものだった。

 

珠 「{……私は地上の妖怪を進入させない約束をした}」

魔理「(ゆかり)か!?」

 

 紫、それだけで向こう側の相手が誰だか悟った。母さんと数々の契約を交わし、幻想郷(この世界)を作り上げた賢者の一人、八雲(やくも)(ゆかり)であると。

 

珠 「{そして貴方(あなた)達は地底に大都市を築いた。ただ、その代わりに地中に眠る怨霊達を出てこないように(しず)める約束だった(はず)}」

 

 離れた所にいるのに、声だけのはずなのに、浴びせられるプレッシャーは重く、まるですぐそこにいるかの様で、私の全神経に緊張が走り「慎重にいけ」と脳へ指令を送っていた。そして続く沈黙(ちんもく)は私の返事を待っているサインであり、八雲紫が私の出方を探っている証でもあった。

 

私 「まあな、そういう約束だね」

 

 悩みに悩んだ末、私は自分から語る事を放棄し彼女へ順番をそのまま預けた。下手な事を言えば全てを見透かされそうで様子見に出たんだ。強く脈打つ心臓、額から(にじ)み出る汗、拳には自然と力が入り、博麗の巫女の隣に浮かんだ珠を(にら)みつけながら、彼女の次の出方をうかがっていた。

 

珠 「{なのに、間欠泉と一緒に怨霊が()いてくるなんて、約束が違うんじゃないの?}」

 

 「来た」真っ先にそう思った。と同時に、四方八方を壁で(ふさ)がれた私の下に、暗闇からスラリと伸びた巨大な腕が迫る映像が頭の中で映し出された。

 

私 「(これ以上の会話は危険ってことかい……)」

 

 だがそこへ一筋の光が。しかもその救いの手を差し伸べてくれたのは意外にも、

 

??「ちょっと、質問してるんだから答えなさいよ」

 

 私の黙秘(もくひ)(しび)れを切らせた巫女だった。

 

霊夢「まあいいわ。さっきの勝負の続き、私が勝ったらそこを通してもらうのは当然だけど、知ってる事を洗いざらい吐いてもらうわよ」

 

 あの時ばかりは彼女に感謝する。

 

魔理「勝負? そういやさっき何かやってたな」

霊夢「どんな手を使ってもいいからあいつの持ってる(さかずき)に注がれたお酒を(こぼ)せばいいんだって。少しでもね」

魔理「へー、面白そうだな。それじゃあ魔理沙ちゃんも」

 

 首の皮一枚で(つな)がったのだから。

 

私 「…………やめだ」

 

 安堵(あんど)、間違いない。気分転換、したかった。(のど)(かわ)き、それもあっただろう。

 

私 「あんなのとっくに時間切れだよ。負けを宣告されなかっただけありがたいと思いな。それよりあんたら——」

 

 私は口に杯をもっていき、見せつける様にして一気に飲み干してやった。その時の二人の表情といったら……くくく。

 

霊夢「は?」

魔理「ze★?」

 

 ハトが豆鉄砲をくらったような表情を浮かべやがって。

 

 

私 「(『文』という名に『新聞』という単語から察するに天狗の事だろう。キュウリ好きの技師? そんなの河童(かっぱ)以外にいるまい。かつての部下が(そろ)って上司の、ましてや四天王様にたてつくとはいい度胸じゃないか。そこに顔も名も知らない二人と八雲紫。おまけに――)」

 

私 「萃香とも知り合いみたいだし、久しぶりにわくわくしてきたよ!」

人形「{霊夢と魔理沙、気を付けて! パチュリーが調べてくれた! 『無能の四天王』って……」

 

 あの日、地上からやって来たのは二人。

 

私 「お遊びはお終いだよ!」

 

 そして私が相手をしたのは…… 

 

私 「スペルガード三枚勝負、全力で相手をさせてもらうよ!」

 

 八人だ。

 

私 「さあ、思いっきりかかってきな! さもないと、べそかいても知らないよ!」

霊夢「……どうして私の周りはこんな奴ばかり集まってくるのよ」

 




そしてよいお年をお迎えください。


【次回:裏_十二語り目】
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