東方迷子伝   作:GA王

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ホントすみません。
投稿がかなり遅くなってしまいました。
そしてまた遅いご挨拶ではありますが、
どうぞ本年もよろしくお願いします。




裏_十二語り目_※挿絵有

 これは彼らから聞いた話です。

 

夢子「お覚悟を」

 

【挿絵表示】

 

 

 剣抜きながら向けられた視線は、()()まされた刃の様だったと聞いています。旧都民に動揺と緊張が走り、その迫力から多くの者が動く事を許されずにいたそうです。まるで蛇に(にら)まれた蛙のように。そんな中でも勇敢に立ち向かっていった方達がいました。

 

??「来るぞ」

 

 親方様と

 

??「勝とうなんて考えるなよ」

 

 ご友人、

 

??「みんなが逃げるまでの時間稼ぎってわけか」

 

 筋トレマン、

 

??「それが出来ればいいけど……」

 

 そしてそこの彼です。勝機は限りなく薄いと悟りながらも他の方々を守るために、その場から逃がすために進み出たんです。さらに、

 

??「待ちなよ」

??「そうはさせんぜよ」

??「カズ君達は関係ないでしょ……」

 

 一輪さん、雲山さん、村紗さんが深傷(ふかで)を負いながらも立ち上がったんです。「魔界に行こうとしたのは自分達だけ、他の者は関係ない」と説得しながら標的を自分達に向けようとしていたそうです。でも一輪さんが立ち上がる理由はそれだけではありません。

 

夢子「あなた達には思い知らせたはずだけど?」

一輪「たった数回倒されただけで(あきら)めがつくはずないでしょ」

村紗「(ひじり)が向こうで待ってる、絶対に会いに行くんだから!」

 

 やはり聖さんの下へ行きたかったんです。とは言っても、この時点では魔界にいる保証はありません、あくまで可能性を見出(みいだ)しただけでした。それが夢子さんの発言で確証へと変わってしまったんです。

 

夢子「誰も魔界へは踏み入らせない。それがあの人の関係者だと言うのならなおのこと」

一輪「やっぱり……」

村紗「聖はいるのね?!」

夢子「ええ、でも今会いに行かせるわけにはいかない」

 

 聖さんが魔界にいる事を認めながらも、魔界への侵入を(こば)んだんです。ともなれば一輪さん達が取る手段は一つだけ、

 

一輪「どうしても通してくれないって言うのなら——」

村紗「力尽くで押し通るまでよ!」

 

 立ちはだかる夢子さんをノックアウトさせて行くしかありません。一輪さん達は一斉にスタートを切りました。

 

雲山「ワシの全力をとくと思い知るぜよ」

 

 雲山さんは全身を巨大化させ、一輪さんはその雲山さんの分身を生み出してありったけの力を注ぎました。そうです、その技こそ当時の一輪さんと雲山さんの最終奥義、二体の雲山さんの目から発射される光線と特大の拳骨によるスペル、

 

一輪「『空前絶後大目玉焼(くうぜんぜつごおおめだまや)き』」

 

 です。さらにそこへ村紗の大技、

 

村紗「『(しの)()柄杓(ひしゃく)

 

 が加わりました。霊夢さん方もご存知の通りこの技は発動中、村紗さんは実体を失い無敵状態になります。なんでも雑念を捨て去り、意識を深く集中させて周囲の空気と一体化しているそうです。当時も夢子さんの背後へ、まさに幽霊のようにスッと音も無く現れては光弾を四方八方へ発射し、カウンターを受けもせず(かわ)しもせずにやり過ごし、再び背後へと回っては……と一方的な攻撃を繰り返していたそうです。

 

鬼助「みんな今の内だ!」

医者「おい鬼助、おぶっておくれ」

師匠「全員全速力で走れ!」

親方「ミユキ引くぞ!」

棟梁「え、ええ……」

筋ト「あと少しで——」

彼 「バカ、お前も行くんだよ!」

 

 それが合図となりました。旧都民が一目散に町へと走り出したんです。背後の光弾の嵐に、自分達では敵わない次元の異なる戦いには見向きもせず、結果を待つ事なくただ前だけを目指して。きっと誰もが悟っていたんだと思います。それが最初で最後のチャンスだと。

 

夢子「何人(なんぴと)たりとも逃がしはしない」

 

 しかしそれも束の間だけ、差し込んだ一筋の光は、より強力な光によってかき消されてしまったんです。

 

夢子「『スターメイルシュトロム』」

 

 辺り一帯に光線が(うず)を巻いて飛び交い、逃亡を(はか)る旧都民の行手を(さえぎ)ったそうです。けれどそれは、

 

一輪「雲山今!」

雲山「言われずとも!」

 

 一輪さん方の大技を避け続ける夢子さんの動きが止まった瞬間でもありました。その一時を一輪さんと雲山さんは見逃しませんでした。ここぞとばかりに巨大な拳を夢子さんの両側から押し(つぶ)すようにして放ったんです。

 想像してみてください。あなたの周囲に光弾が密集している光景を、それが休む間も無く向かって来る光景を、そこへ見上げてしまう程の壁が左右から迫って来る光景を。

 ……はい、みなさん思いましたね「そんなの相殺しないと助からない」って。私もそう思います。だからこの話を聞いた時耳を疑い、理解が追いつかなかったです。あの人は……夢子さんは……その状況から抜け出たんです。一度も爆発音を上げることなく、いとも容易(たやす)く避け切ったんです。さらに——

 

夢子「あなたが再起不能になったら、煙のお爺さんはどうなるのかしら?」

 

 一輪さんが再び夢子さんを瞳に捕らえた時、彼女との距離は既に目と鼻の先だったと。そして追撃も防御も身構える事さえ許されないまま……。

 初めは腹部だったそうです。そこへ五感が激痛を感じる間も無く胸へ次弾が打ち込まれて。そこからは何処に当てられたのかでさえ認識出来ないくらいに、息つく暇もないくらいに次々と……。一輪さんは遅れて追いかけて来るダメージに耐えられず、そのまま意識を失ってしまったそうです。

 そして雲山さんは——

 

雲山「ぬらあああ!」

 

 辛うじて残された一輪さんの力を拳にのせて怒りの鉄拳を繰り出しましたが、

 

夢子「多少は動けるようね」

 

 避けられた? 違います。その前に攻撃を? いいえ、そうではありません。……はい、その通りです。渾身(こんしん)の一撃をスラリとした無駄のない綺麗な手一本で受け止められたんです。巨大化したあの雲山さんの拳をですよ?

 その瞬間、攻守が切り替わりました。

 

夢子「なら——」

 

 冷や汗を流す雲山さんが目にしたのは、夢子さんの反対の手に瞬間的に生み出された大きな魔力の塊でした。それを胴体に押し当てられ、立ち上る爆煙と共に……。

 そして村紗さんまでも——

 

村紗「あんたよくも一輪と雲山をッ」

 

 夢子さんの背後へ回り込んでいた村紗さんでしたが、

 

夢子「やっと捕まえた」

 

 目にも止まらない速さで後ろを取られ返されてしまい、腕を捕らえられてしまったのだとか。どんな攻撃も貫通してしまう無敵状態だった村紗さんを何故捕まえる事が出来たのか、その理由は先程もご説明したように、村紗さんはこのスペルを維持し続けるするには高い精神力と集中力を必要とします。それが一輪さんと雲山さんのお二人が倒された事で心が乱され、実体を戻してしまっていたんです。そこをご自身で悟るよりも早く夢子さんに……。

 

村紗「え??」

 

 もしかしたら夢子さんはそうなる事を予期していたのかもしれせん。いえ、一輪さんの攻撃から始まる一連の過程全てが夢子さんの思惑通りだったのだとしたら、高密度の弾幕を避け切れた事も、膨大な魔力を短時間で生み出された事も、村紗さんが実体を取り戻したといち早く気が付けた事も(うなず)けます。

 捕らえられた村紗さんは(あせ)ったでしょう、思考が追いつかなかった事でしょう。打って変わって(すき)だらけとなった彼女へ、夢子さんは聖さんのスペルにもなっている強力な魔法を……。

 

夢子「『マジックバタフライ』」

 

 全弾命中だったそうです。衣服はボロボロ、肌は熱で焼かれ、その上力も体力も底をついて身動きすら出来ない満身創痍に。至近距離で放たれた魔力の豪雨は村紗さんの決意をへし折るには充分過ぎました。

 遠のいていく意識、そして(かす)む視界で村紗さんが次に見たのは、剣を構える夢子さんの影だったそうです。

 

夢子「この罪は死をもってしか(つぐな)えない」

 

 標的を旧都民に移して。一輪さん達だけならまだしも、なぜそこまで執拗(しつよう)に旧都民を狙うのか、理由はいたって単純明快です。

 

夢子「(ほこ)り高き魔族に手を上げた罪を!」

 

 夢子さんは怒っていたんです。魔界の仲間が傷を負い、(とら)われていた事に。それが例え輩達が発端(ゆえ)だとしても。()しくも旧都民達がそこの彼と筋トレマンに手をかした理由と同じだったんです。

 剣を両手で握りしめて腰元で構え、姿勢を低くし重心を前へ。さらに鋭利な視線で目標を定め、湧き出る迫力で逃さぬように取り押さえて。夢子さんが動き出せば皆無事では済まない、棟梁様はその未来を回避しようと神綺(しんき)様に説得を試みました。

 

棟梁「どうかお願いです、彼女を止めて下さい!」

 

 とね。その回答は——

 

神綺「うーん、と言われてもねー。彼女身内への情が厚くてねー、ああなっちゃうと聞いてくれないのよー」

 

 残された僅かな希望の灯火を吹き消しました。

 

棟梁「そんな……」

神綺「ごめんなさいね」

 

 神綺様は棟梁様に「止められない」と告げたんです。

 

夢子「裁きを実行します」

棟梁「やめてーッ!」

 

 棟梁様の悲しみに暮れる悲鳴と共に夢子さんは姿を消しました。旧都民は絶望したでしょう。ターゲットは全員、数秒後には誰かが裁かれ、その生存を確認する間も無く次の者が裁かれる。逃亡のチャンスを失い、圧倒的な力の前に対抗する術もなく、いつ自分が裁きを受けるのか分からない。次々と仲間が斬られていく惨状と、返り血で赤く染まりながら突然目前に現れる執行人の姿が脳裏を過った事でしょう。

 しかし、そんな地獄絵図の未来に待ったをかけた者がいたんです。

 

 

ガッキィィィーンッ

 

 

 金属が強く衝突し合う高い音が辺りに響き渡り、夢子さんが姿を現しました。顔の前に剣を構えた守りの姿勢で。その剣に圧力をかけていたのは黒い鋼鉄の塊、超重量の金棒でした。

 

??「させるかよ」

夢子「よく追いついたわね」

 

 夢子さんを止めたのは——

 

??「へへ、それだけじゃないぞ。『コンガラ流——』」

 

 筋トレマンだったんです。筋トレマンは村紗さん達の戦いを見ていただけで、たった数分間という短い時間の中で成長を()げていたんです。

 

筋ト「『振り子刀法』」

 

 さらに夢子さんの戦い方、ステップ、立ち回りに至るまでを研究していたのだとか。日々の鍛錬の成果、天性の才能、はたまた若さ故なのか。もう体を動かす事()()の吸収力はピカイチ、正直脅威(きょうい)すら覚えますよ。

 

筋ト「『串盛りバイキング』!」

 

 旧都の皆さんはさぞ目を疑ったでしょうね。のんびりとのほほんと(なご)やかに、お茶をすすりながら店番をしていた小生意気な子が、母親に(しか)られてばかりだった問題児が、ほぼ毎日そこの彼と喧嘩をしていた(ひね)くれた少年が、親方様の十八番を習得しただけでなく、誰も目で追えなかった夢子さんの動きを捕らえ、ましてや追いついて止めたのですから。

 

筋ト「熱苦(ねっく)刃羅(ばら)

 

 きっと夢子さんもそんな筋トレマンに、その時ばかりは歯痒(はがゆ)い思いを強いられていた事でしょう。その証拠に夢子さんは金棒の猛攻を剣で受け止めるだけで防戦一方だったそうですから。

 

筋ト「盆散裏(ぼんちり)突苦音(つくね)狩流毘(かるび)

夢子「この力に身のこなし、技のキレ——」

 

 筋トレマンは金棒を振るい続けました。

 

筋ト「迦死羅(かしら)迦和(かわ)難呼突(なんこつ)鬼喪(きも)!」

夢子「おまけに剣に多少の覚えがあるとは……」

 

 息が続く限り、体力が尽きてもなお気合いと根性で。がむしゃらに。

 

筋ト「死路(しろ)本塁打ァ!!」

 

 しかし運動能力とバトルセンスが高いのは筋トレマンに限ったことではありません。

 

夢子「でも、まだまだ未熟」

 

 金棒が空を切り、筋トレマンの脳が「背後を取られた」と認識し、夢子さんを瞳に捕らえた頃にはもう……。

 

夢子「それに……」

 

 剣を引いて構え終えていたそうです。振り上げられれば筋トレマンは背後から真っ二つ、運が良くても大惨事は(まぬか)れない。そう誰もが予感したでしょう。

 

筋ト「ゔォォオオオッ!」

 

 辺りに雄叫びが(とど)きました。生きたいと願う者の魂の雄叫びです。筋トレマンはその残された(かす)かな間に振り向いて金棒を盾にしたんです。夢子さんの剣を受け止めるべく。迫る剣と迎える金棒、両者の距離は秒も経たない間にゼロとなり、その瞬間——

 

筋ト「なっ——」

 

 打ち鳴らされ続けていた金属音が終わりを迎えました。ドシンと重々しい音が響き渡り、筋トレマンの手には上半身を失った金棒が取り残され、

 

夢子「この程度の金属、わけない」

村紗「ぃ……ゃ……」

 

 振りかざされた剣が次に捕らえたのは……。

 

夢子「散りなさい若き鬼」

村紗「ぃゃ」

 

 右肩から左脇腹にかけて引かれた直線から吹き出るものは、降り続く雪に付着し、流れ落ちるものは白かった地面を染め上げ、筋トレマンの周囲を瞬く間に赤一色の世界へと豹変(ひょうへん)させました。

 

彼 「和鬼ッ!」

村紗「いやああああッ!」

 

 きっとこの先も村紗さんはこの悪夢に苦しみ続ける事でしょう。先程心の中を(のぞ)いた時、当時のことが色濃く浮かび上がっていましたから。それに夢子さんに対する感情も。

 ……ちょっとドスケベさん、このタイミングで何でそれを言ってしまうんですか? 少しは空気を読んで下さい。はい、今言われたように、皆さんも既知の通り筋トレマンはそんな事がありながらも、今もなお筋トレを欠かさない日々を送っています。今頃お店で客寄せでもしていると思いますよ。村紗さんが来るとは知らずにね。

 でもこの事がこの物語の終焉(しゅうえん)に向けて大きな意味を持つ事になるんです。と、その事を語る前にクエッションです。

 

 Q.金棒をも切断した夢子さんの斬撃、それを受けた筋トレマンが真っ二つにならずに済んだのは何故でしょう?

 

 

 

 

 

??「いったたたー。あれ、ここ何処?」

 

 




【次回:表_十二語り目】

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