東方迷子伝   作:GA王

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表_十二語り目

◆    ◇    ◇

 

 

 手加減なし、持てる全ての力で相手をしようと決心した私の手札は、

 

私 「(出すとしたらこの時以外にないだろうね)」

 

 内で燃え続ける炎に燃料を与え、轟々(ごうごう)と燃え盛る業火へと進化させた。

 

私 「(熱い、けどもっとだ。もっと熱く)」

 

 それはその時が来るまで決して切り離せない(つな)がり、それは私自身が犯した罪への(いまし)めと罰則、そしてそれは下された裁きであり……呪い。

 けれど、それは切り離したくない繋がり、それは私と親友の間に出来た固い誓い、そしてそれは私に(ほどこ)された救済であり……(きずな)。そう、私と親友とアイツの確かな絆だ。

 

私 「(大鬼、力を貸しておくれ)」

 

 ようやく出来た私の四つ目のスペルカード、その名は——

 

私 「『枷符(かせふ)咎人(とがにん)(はず)さぬ(かせ)』」

 

 

◇    ◆    ◇

 

 

 勝気、意気、覇気。力の入った気が込められた雄叫(おたけ)びと共に現れる青い光の弾、それは隙間なく連なり真珠(しんじゅ)のネックレスの様に麗人を中心として巨大な輪を描いていく。一つ、二つ、三つと。

 そして輪の数が七つ目となった時、それらは身構える彼女達を一斉に捕獲にかかる。さながら投じられた投げ縄の様に。

 放たれたタイミングはほぼ同時、進路も力加減もあらかた一緒ではあるのだが、些細(ささい)なズレというのは発射地点から離れれば離れる程大きな影響を(およ)ぼすもの。彼女達の下へと辿り着く頃には、輪と輪の間には広い隙間が生じていたのだった。

 それを異変解決常連組のツートップが見逃すはずがない。ニヤリと微笑んでスペースへ飛び込み、向かって来る投げ縄を確実に避けていく。何の疑いも持たず、ましてや「これなら楽勝だ」と感想を残して。

 だが微笑んだのは彼女達だけではない。そう、余裕は大きな誤ちだったのだ。もう捕らえられていたのだから、迫る投げ縄を(かわ)し始めた時から既に。彼女達が通った抜け道は()わば(じょう)が外されている枷、そしてそこへ飛び込んだ二人は……咎人。

 そして今——

 

麗人「うおおおッ」

 

 再び()える麗人によって錠がかけられた。所狭(ところせま)しにばら撒かれる光弾、その量を見積もるなど馬鹿げた話、次から次へと放たれ計算が、脳が、目が追いつかない。

 そんな中彼女達は見つけた。残された唯一の逃走経路を。それは左右の高密度の弾幕の間に出来た細い道、まるで二人を招き入れるように出来た道、どう考えても罠としか思えない胡散臭(うさんくさ)い道。だが高密度の弾幕の中を進むなど自殺行為、やり過ごすにはその道を行くしかない。

 無言で視線を交わして力強く(うなず)く彼女達、心は決まった。無事生還となるか、はたまた飛んで火にいる何とやらとなるか。二色の少女達は弾幕で示された道を進み行く。

 決して道を外すことなかれ、少しでも外れればそこは奈落の底。行く手を束縛する弾幕こそ、目には見えない物こそが枷。咎人を捕らえた枷は徐々に彼女を追い詰めていく。

 で、

 

彼女「うぎぎ」

 

 歯ぎしり。ただ今絶賛悪戦苦闘中の紅白巫女である。その道、狭いのはさることながら右へ左へとカーブを繰り返す上に、標識も無しに時折りひょっこりと現れる弾幕に進行方向を阻害され、スピードダウンに加えバックも取り入れながら慎重に進む事を余儀なくされていた。だがそうこうしている間にも道は休まず湾曲する。

 

彼女「((じれ)ったい)」

 

 それが今の彼女の最大の悩み。イライラしながら、ワナワナしながら、ブチブチ額から音を上げながら蓄積されていき、

 

彼女「目の前をうろちょろと邪魔よ!」

 

 いよいよピークに。もう叫ばずにはいられなかった。

 

彼女「魔理沙ッ!!」

 

 それもこれも彼女の前を行く白黒魔女っ子が原因で。

 

彼女「行くならさっさと行きなさいよ! 前が見えないじゃない!」

魔理「っるせぇze★! こっちだっていっぱいいっぱいなんだze★ 霊夢が位置を変えればいいだろ!」

彼女「それが出来るならとっくにやってるわよ!」

 

 「二人()かりならば」と手を組んでスタートを切ったはいいものの、肩を並べて進んでいくにはギスギスで、かといって一列になってみればこのありさま。互いが互いの足を引っ張りあい『協力』という文字はその影を消そうとしていた。つまり彼女はこう考えるのである。

 

彼女「(こんな事なら一人の方がまだマシだった)」

 

 と。

 

彼女「と・に・か・く、今度は私が前だから」

 

 

◇    ◇    ◆

 

 

 機を見計らい開いたスペースをすり抜けて前へと出る紅白巫女、彼女の横を通過する際に

 

紅白「まったく……」

 

 と小さな声で積もったストレスを投げ捨てて。もちろんこれを彼女が聞き逃すはずもなく、

 

彼女「す、少し油断しただけなんだze★」

 

 見苦しくも言い訳をしながら強がってみる。

 しかし聞こえているのかいないのか、そんな彼女には目もくれず終わりが見えない弾幕の道を鮮やかに、軽快に、額に血管を浮き上がらせることなく進んで行く博麗の巫女。それはさながらご機嫌に軽やかなステップで木漏れ日あふれる林道を散歩しているかの様。

 そんな様子を見れば誰でも気付くだろう。「自分は枷になっていた」と。そして思い出される一言。「目の前をうろちょろと邪魔よ!」この言葉が彼女に深く突き刺さる。

 

彼女「魔理沙ちゃんだって……」

 

 負けていられない。(しお)れる心に(むち)を打ち、向かって来る光を迎え撃つ。

 しかし巫女のような余裕は無く、避けるタイミングも間合いもスレスレで、あまつさえ(かす)める始末である。正面突破をモットーとする彼女にとって慎重を期すこの様なシーンは歯がゆく、ジレンマで、言ってしまえば大の苦手なのだ。

 だが彼女は決して一人の力でここまで来たわけではない、心強い味方がいるのだ。そう、彼女がピンチに(おちい)ったこんな時こそサポートの出番である。

 彼女、そばを浮遊する人形に救いを求める。

 

彼女「パチュリー、この弾幕を楽に攻略出来る方法ないのか?! さっみたいにナビして欲しいze★」

 

 名指しで召喚された紫モヤシ、さて現在進行形で危機に(ひん)している彼女を救うその手段とは……

 

人形「{……そんなにすぐには調べられない}」

 

 Nothing。いくらご都合主義の世界でも、便利な未来の秘密道具や、過去の天才が生んだ奇想天外な発明品がパッと出てくるほど都合は良くないものである。

 

彼女「(役に立たねー……)」

 

 結果、サポートにも運にもストーリーにも見放される始末。だが現実はガックリと肩を落とす彼女に同情してくれるほど甘くない。無慈悲かつ無情なもの、待った無しに光弾が続々と彼女の前に飛び出し行く手を(はば)む。

 

彼女「ちぃッ、こうなりゃ壊すまでだze☆」

 

 利き手に力を集め弾薬をセット、相殺を目論(もくろ)む。描くイメージは飛距離は(おと)るが高い威力と広い射程範囲を(ほこ)る散弾銃で。

 

彼女「『スターダストミサ——』」

 

 だがしかし、

 

紅白「魔理沙よけなさい!」

 

 その手を止めて咄嗟(とっさ)(ひざ)を曲げ、低姿勢で身を反らした。ご愛用の黒帽子のツバを掠めながら通り過ぎる眩しい弾丸を見開いた瞳で追いつつ。

 

彼女「あっぶなー、何で止めるんだze★?!」

紅白「アイツの威力が高すぎて相殺なんて出来ないの!」

彼女「はあああッ?! 相殺不可能だなんてそんなの無理ゲーだze★」

紅白「そう思うなら早くアイツをブレイクさせるしかないわ」

 

 二人の視線が交差する点、かけられた枷の鍵が隠された地点、そこは簡単に辿り着けそうで辿り着けないゴール地点。然程(さほど)離れていないが、三歩進んで二歩下がるの状況下でその距離を縮めるのは極めて困難な事である。

 

麗人「どうした、息が上がっているよ? もう降参かい?」

 

 余裕、強者としての余裕、圧倒的な余裕。額に汗を(にじ)ませる彼女達とは対照的に、さらさらすべすべな肌で、真剣勝負である事を全く感じさせない涼しい顔で、八重歯を覗かせて悪戯(いたずら)な笑みで今この時を楽しむ麗人。

 

麗人「まだまだいくよ」

 

 止まらない攻撃は止める気のない遊戯(ゆうぎ)。右手を振るっては彼女達の左側に弾幕の林が追加され、左手を振るってはその反対側に植林され、残された真ん中の林道は麗人の気まぐれで作られる。

 

彼女「あのヤロー……」

 

 歯を食いしばる彼女、幾度となく訪れる一方的でいて不利な状況に、心の奥底に築かれたダムは

 

彼女「火力がご自慢だって言うなら——」

 

 とうとう決壊した。マジックアイテムを取り出し前方へ構えて詠唱するは、

 

霊夢「ちょっ、アンt——」

彼女「魔理沙ちゃんだって負けてないze☆」

 

 「弾幕は火力(パワー)だze☆」を決め台詞とする彼女の十八番。

 

魔理「『恋符:マスタースパーク』!」

 

 

◆    ◇    ◇

 

 

 それは突然私の目に映し出された。目が(くら)んでしまうほどの輝きを放ち、放った光弾を飲み込みながら一直線に向かってくるデカイ光線が。

 あの時は正直驚かされた。まさか人間に、ましてや小娘にあんな力があっただなんて思わなかったから。自慢気に数々の異変を解決して来たと親指を立てて豪語(ごうご)していた彼女に「あながち見栄(みえ)や強がりではないらしい」と納得させられたものだ。でも——

 

魔理「ZeeeeeeE★!?」

私 「こんなものかい?」

 

 火のついた私にとっては避けるに足りない。動くのも面倒だったから片手で止めてやった。引きずられる事も無く、その場から微動だにせず、頭をクシャクシャと()でる感じで。片手で、コレは自慢だ。後にも先にもいなかろう……女神様なら容易(たやす)いか、デコピンで弾きそうだ。

 とまあ、当時もしてやったり顔をしていたかもしれない。

 でもその一方で『咎人の枷』を封じられたのも事実、スキルブレイクというやつだ。想いを込めて作った技だけあってあの時は少しばかり胸が痛かった。

 そんな私の事など気にもせず、ようやく解放された呪縛(じゅばく)にさぞ喜んでいるだろうと思いきや、あの二人ときたら——

 

霊夢「あんた何いきなりぶっ放してるのよ!」

 

 味方に怒鳴り出すわ、

 

魔理「受け止めるってなんだよ」

 

 極度に凹み出すわで……。私としては願ってもない状況だったから、黙って事の成り行きを見守っていた。もっと言ってしまえば「いいぞ、もっとやれ」くらいな気持ちで。それがまさか……。

 

霊夢「反応出来たから良かったものの、あと少し遅かったら巻き込まれてたわよ!」

魔理「冗談キツイze★ マスタースパークだze★?」

 

 最初は違和感だった。言葉を発する度に濃度を上げながらまとっていく陰湿な気配に気が付いた時、ゾクリと背筋に電気が走ったのを覚えている。

 

霊夢「って、魔理沙聞いてるの?!」

魔理「おかしいだろ……、あり得ないだろ……、強過ぎるだろ……」

 

 次は予感だった。段々と黒い雲がかる表情に座っていく目付き、同じ系統の髪色をしていたこともあって、その頃には彼女に面影が重なり始めていた。

 

霊夢「魔理沙?」

魔理「チートだろ……、ずるいだろ……、その力……」

 

 そして確信した。あの目は、輝き出したあの緑色の目は——

 

【パルスィ談⑧】

 そうそう一度家に戻った時にね。勇儀にあげた(はかま)と一緒に持って行ったはずなんだよ。勝っても負けてもエネルギーの補充が必要になると思ってね、(ふところ)に入れておいたんはずなんだ。それなのにいざ使おうとしたら無いの。もうヤマメと一緒にすっごい探したよ。雪が降る中凍える思いをしてさ、上まで脱がされて探したんだから。けどそれでも見つからなくてね、「きっと何処かに落としたんだ」ってなったんだけど、まさかあの黒白にパクられていただなんて……。きっと突っ込んで来た時に掠め取られたんだろうね。

 

魔理「そのパワーが——」

 

 え? 盗られたもの?

 

魔理「ねェ・たァ・まァ・しィィイッ!」

 

 ネタミン1000パル配合の『ジェラシE』だよ。

 ……そんな目をされても私は悪くないでしょ? むしろ被害者なんだから————

 

彼女「パルパルパルパル……」

 

 敗北することその日で千回目。イヤというほど、完膚(かんぷ)なきまでに思い知らせてやったはずだった。

 

魔理「『嫉恋(しつこい):ジェラシースパーク』」

 

 それでもなお私に牙を()くヤツの力、彼女の力に上乗せされ渦を巻きながらドス黒い激流となって襲いかかって来た。ここぞとばかりに、まるで「この機会を逃してなるものか」とでも言わんばかりに。

 

私 「ホントにいい加減——」

 

 今でもその時覚えた感情が易々と蘇る。自ら宣言するだけあって

 

私「シツコイッ!!」

 

 ってな。




初めてのオリジナルスペカでした。
そして「ネタミン」実際に存在するさら困る。
でも一切関係ありません!

【次回:裏_十三語り目】

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