東方迷子伝   作:GA王

206 / 229
マスク不足、深刻です。
予防もそうですが、そろそろやつらがやって来る時期なんですよねー。
鼻も目も大変なことになって。
は…は…シャアーッ!


表_十三語り目

◇    ◆    ◇

 

 

 彼女の前で繰り広げられる光景は、にわかに信じ(がた)いものだった。

 

彼女「魔理沙——」

 

 異変の(にお)いにやたらと敏感(びんかん)でお節介極まりない友人の変わり果てた表情、放つダークで禍々(まがまが)しい雰囲気、そして魔力と妖力が混在した見たことも聞いたこともない高エネルギーのスキルが。

 

麗人「コォンノォヤァローッ」

 

 加えて、それを逃げもせず避けもせずに真っ向から受け止める麗人(れいじん)が。

 

彼女「あんた……」

 

 唖然(あぜん)としていた彼女だったが、頃合いを見計らうや意を決して足に力を込め、出陣への一歩を踏み出した。

 

 

◆    ◇    ◇

 

 

 (うず)を巻きながら(せま)濁流(だくりゅう)は私の手の中で回転を続け、じりじりと薄皮を削り取っていった。押し寄せる力は重さ、重さは威力。震える(ひじ)容赦(ようしゃ)なく曲げられては、負けじと腕に根性を注いで押し返す。それが幾度となく繰り返され、おまけに地面を(えぐ)りながら数メートル引きずられた。能力を解放したのにだ。けどそれも、

 

私 「いちちち……」

 

 決定打には遠く及ばず。

 やがて大木のように太かった光線は、徐々に力を失って最後には道端に転がる枝のように細くなり、ついにはその姿を消していった。

 ここで本来なら「何故彼女がヤツの力を使える?」と疑問に思うところだろう。けど私はそんな不可解な現象よりも、

 

私 「(二度目のスキルブレイク)」ニヤリ

 

 してやったりと満足気に勝ち誇っていた。そんな事をしている暇があったのなら先に手を打つべきだったと反省する前に。

 

魔理「嫉ーーーーー妬だze★」

 

 髪をバタつかされる突風が私を襲った。その正体はより強烈な威圧感。白黒の彼女からは黒々しくもキラキラと輝きを放つ力が垂直に吹き上がり、緑色に光る瞳はより鋭くギラつき、

 

魔理「パル★パル★パル★パル★パルze★」

 

 なんか色々と増していた。

 迂闊(うかつ)、そう思われても仕方がない。完全に忘れていたのだから。基本的なことを。ヤツの力の(かて)(ねた)む心であり、嫉妬すれば嫉妬するほど激しさを増すということを。

 (あき)れから驚きへ、驚きから(いきどお)りへ。順を追って様変わりしていく心中に歯を食いしばり、再び向けられた発射口とやがて迎える衝撃に備えていた。「来るなら来い!」と。

 

魔理「『嫉恋:ジェラシー——』」

 

 だがそこまで、二度目は無かった。

 

霊夢「いい加減にしなさい!」

 

 その瞬間、カコーンと鹿威(ししおど)しに似た心地の良い音が響いたものだ。

 博麗の巫女は人格が変わった彼女の背後に回るや、手にしていた棒切れを後頭部へと力任せに振り下ろし……つまり殴った。味方を殴った。既に大きなコブがあるにも関わらず殴った。

 そして札を(ふところ)から取り出すや姿勢を崩して前のめりになっていた彼女の背中へ、これまた音が上がる勢いで貼り付けていた。

 そこからだ。雪の上に倒れ込んだ、背中に紅葉跡が出来上がったであろう彼女に向けて、空中で複数の十字を描きながら

 

霊夢「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」

 

 何やらぶつぶつと(とな)え出したのは。不思議な光景に首を傾げていたが、その効果はすぐに現れた。

 

魔理「う、う〜ん」

 

 白黒の目から忌々(いまいま)しい色の光が弱まっていき、身体中から黒い霧だか煙のようなものが立ち上り、そのまま風にのって何処かへと。博麗の巫女が巫女だと改めて思い知らされた瞬間だった。

 

私 「(さすがだな)」

 

 と。だがしかし同時に、

 

私 「(殴る必要あったのか?)」

 

 と首をより傾げていたのも事実。ちなみにあの時、流されていく黒い影が『ルううううぅぅぅぅぁぁぁぁ。。。……☆』のようにも映ったが、これは気のせいだろう。

 

魔理「ze☆? 魔理沙ちゃんは何を……!?」

 

 ヤツの力を手にしていた彼女の表情はすっかり元通りに。けど、まるで眠りから覚めたばかりかのようにキョロキョロと辺りを見回し、ヒントとなるものを探していた。おそらくあの間の記憶が無かったのだろう。

 

霊夢「あんた急にどうしたっていうのよ。今——」

 

 そこへ博麗の巫女が説明しようと……それも束の間、彼女の顔色がどんどん血の気の引いた色へと変化していき、

 

魔理「ちょ、ちょっとタンマze★」

 

 とか言って小道に駆け込んで行ってしまった。

 

  『は??』

 

 残された私と巫女、対峙(たいじ)する者同士が互いに顔を見合わせてしかめっ面で頭上に『?』。そんな私達の間には微弱ながらも冷たい季節を感じさせる風が通り抜けていた。

 そこへ響き渡る音は季節感無視の、雰囲気ぶち壊しの、

 

魔理「ZZZZEEEEeeee★★★★」

 

 聞くに耐え難いもの。誰かに「何があった?」と問われたら……ふっふっふ。実はその時の答えはもう用意してある。とびっきりのな。いつかお披露目(ひろめ)したいものだ。

 

私 「あれ、大丈夫かい?」

 

 それはそうと今だから言えるが、ヤツお手製の訳のわからん物を飲んだのだから、当たり前と言えば当たり前だな。自業自得ってやつだ。当時は敵ながら心配させられたものだ。

 

霊夢「一旦ストップ、あんたそこで待ってなさい!」

私 「ん、ああ構わないよ」

 

 白黒が回復するまで休戦。私も熱を帯びて擦り切れた手を冷やそうと、足下に積もる雪を拾い上げ、ヒンヤリとする感覚に心地よさを覚えていた。そんな時だった。私を呼ぶ声が聞こえて来たのは。

 

??「勇儀さん……ニャ」

 

 相手は誰だかすぐに分かった。けれど周囲を見回して見ても彼女の姿はなかった。今さら隠す仲でもないのにどうしたものかと疑問に思っていたが、後から事情を聞けば……なるほどなと。

 

お燐「そのままで聞いて下さいニャ」

 

 なんでも変化(へんげ)に失敗していたらしい。その姿を(さら)したくなかったのだと。

 

勇儀「何で戻って来た? さとり嬢に——」

お燐「さとり様には伝えましたニャ」

 

 おまけに極めて(まれ)に起きるケースであるが故、元に戻るのに手間がかかると。そうまで言われると余計に見たくなっでしまうのが私、今度頼んで見せてくれないものだろうか。

 

勇儀「ならどうして?」

お燐「それはさとり様が——」

 

 そんなお燐はさとり嬢の考えを話してくれた。聞かされた時は「随分と信用されてないんだな」と不服に感じたと記憶している。さらにお燐はもう一つの騒動についても——

 

お燐「ここに来る途中、向こうの方で稲妻(いニャづま)が見えましたニャ。爆発音もですニャ」

 

 悔やんだ。悔やんでも悔やんでも悔やみ足りなかった。私が立てたその場(しの)ぎでツギハギだらけの作戦に、半人前のアイツら二人に(たく)してしまった事に、その結果に。そして私も一緒に行くべきだったと。

 

私 「(今からでも遅くない)」

 

 張り裂けそうな胸の内に身を(ゆだ)ねて一歩、また一歩とアイツの下へと足を運んでいた。勝負がついていない博麗の巫女達に背を向けて。そう、私は取り返しのつかない過ちを起こそうとしていた。それを止めてくれたのもやはりお燐だった。

 

お燐「勇儀さん待って下さい、最後まで聞いて下さいニャ。棟梁様と親方様、大鬼君のお師匠様、それに大勢の町の方々が向かっているのを見たんですニャ」

勇儀「え、父さん達が?」

お燐「あと和鬼君の彼女さん達もですニャ。だからきっと大丈夫ですニャ」

 

 当時和鬼の彼女の実力は定かではなかったが、お燐が「大丈夫」と断言したからそれを信じることにした。さらに父さんと萃香の親父さん、血の気の多い鬼一族が加勢してくれるとなれば、魔界の連中が束になろうが負けるはずがない。と確信めいたものを抱いていた。

 安心、安堵(あんど)安泰(あんたい)。目まぐるしく変化する状況で、火花散る戦いの中で、不安と心配と焦りが渦巻く心中でようやく得られた安らぎは大きかった。

 

お燐「相手は二人、アタイも一緒に相手しますニャ」

 

 そのおかげで落ち着いて考える事が出来たのだから。

 

私 「(もし私とお燐で相手をしたする。そこで仮にも、よしんばにも、万々が一にも敗れてしまったら彼女達は行く先を見失う。そうなったらどうなる? 十中八九闇雲に旧都の上を飛び回るだろう。そして目にするはずだ。八咫烏(やたがらす)に破壊された家屋の数々を。地底でただならぬことが起きていると感づくだろう。それだけならまだいい。その上で地底中を調べ始めたら? 行く手を(さえぎ)る者なしに、所構わずお構いなしにやたらめったら大捜索を始めたら? それこそ一環の終わりだ。絶対に知られる。向こうで起きているもう一つの騒ぎを。その可能性を下げる術は、誰かが彼女達の気を引きながら別の場所へ誘導しないと)」

 

 そして()み切った頭で出した結論は後々(こう)(そう)することになった。

 

私 「いや、さとり嬢の考えに乗ろう。ここは私一人で相手をする」

 

 とはいえだ。

 

お燐「けど二人——」

私 「そんでもって勝つ!」

 

 「どうぞどうぞ」と楽々道を(ゆず)る気なんて毛頭なかった。いや、負ける気なんてさらさらなかった。

 

お燐「……分かりましたニャ。アタイは遊びに行ったゾンビフェアリーを探して来ますニャ。どうかそれまで」

私 「必勝!」

お燐「頑張って下さいニャ」

 

 何処かにいたであろうお燐への返事と第二回戦を迎える自身に気合いを入れるため、私は親指を立てた拳をビシッ高々と(かか)げて勝利宣言をしていた。その姿に我ながら「決まった」と酔いしれたものだ。それを彼女と来たら……

 

「……あんた、一人で何やってるの?」

 

 とは口にしなかったが、物陰から(のぞ)かせる冷え切った視線がそう語っていた。

 

私 「……なんだよ?」

彼女「別にー」

 

 

◇    ◇    ◆

 

 

 ローグライクゲームにおいて、戦闘後に敵がアイテムをドロップするのはもはや当たり前のシステムである。それらを活用して迷宮、ダンジョンを攻略する。これは常識中の常識。食糧しかり回復薬しかり強化薬しかりである。しかしそれらが必ず正義の商人にも使用可能な物であり、プラスに働く物なのか? その答えを我が身を持って知った白黒のト○ネコさんは……

 

彼女「あ゛ー、気持ちワル……」

 

 げんなりとしながらもようやくご帰還。なおそれまで彼女の背中をさすり続けていた女房役の紅白ネ○さんは……

 

巫女「あ゛ー、嫌なもの見せられた……」

 

 やはりげんなり。大きく精神的ダメージを受けていた。そしてそれはこちらでも……

 

人形「{ちょっと変なもの見せつけないでよ……}」

珠 「{ぎゃははははッ!}」

 

 常に彼女達の側から離れない、

 

人形「{自動モザイク処理機能を入れておくべきだった}」

珠 「{ふむふむ、これはトクダネですね}」

 

 いや離れられない人形と珠。

 

人形「{もういや、具合が……}」

珠 「{(らん)、酔い止め頂戴……}」

 

 その向こう側の遠く離れたサポート陣営にもダメージを負わせていた。

 ともあれ彼女、両手で(ほほ)わー二度叩くと瞳に力を込めて

 

彼女「うしッ、お待たせだze☆」

 

 戦場へ舞い戻った。

 

 

◇    ◆    ◇

 

 

 華のさかづき大江山。

 その昔地上には、王族達でさえも(うわさ)を聞きつけただけで、財産と家来を置いて一目散に逃げ出す種族がいた。

 

麗人「もういいのかい? まあそっちがいいって言うならいいけどさ」

魔理「情けはご無用だze☆」

彼女「そうゆっくりもしていられないの。早くこの異変を解決しないと」

 

 その強さと風貌(ふうぼう)から彼らは災害、恐怖、悪役の象徴として()み嫌われ、想像を絶する豪快(ごうかい)さと暴れっぷりから数多(あまた)の伝説となり、その地を(にぎ)わせていた。

 

麗人「なるほど、さすがは——」

彼女「コタツに戻るために! で、寝るために!!」

魔理「奪われた本を取り戻すためにだze☆」

麗人「……ああそうかい」

 

 その地、山の名を——

 

麗人「それじゃあ続きといこうか、こっちのスペルカードはあと二枚、そっちはあと一枚。よく考えて使いなよ」

魔理「ze★? 残り一枚? 三枚勝負のはずだze★?」

彼女「あんたさっき私が前にいたのにぶっ放してくれたわよね?」

魔理「マスタースパークをだろ? だったら——」

 

 『大江山』。

 

麗人「その後に連続して使ったんだよ。嫉恋なんたらスパークって」

魔理「はーッ?! そんなの魔理沙ちゃんのスペカじゃないze★」

彼女「でもあんたしっかり宣言してたわよ?」

魔理「そんなのは無しだ無し! ノーカン! ノーカン!」

 

 そして数ある伝説の中で、今もなお多くの人間の間で語り継がれる猛者(もさ)が二名。人呼んで『赤鬼』と『青鬼』。

 

麗人「悪いけどそれは飲めない相談だね。いかなる理由であれ、勝負事で出ちまった結果は変えられないよ」

彼女「そうね、出目に文句は言えないわ」

魔理「霊夢はどっちの味方なんだよ!」

 

 今冷静を(よそお)う彼女の前に立つは、その片割れ『赤鬼』の愛娘(まなむすめ)

 

麗人「へー、言うじゃないか。やっぱり気が合うみたいだね。こんな事なんてやめて今から酒でも一緒に——」

彼女「お断り、それよりも随分と余裕みたいだけど忘れてない? 私はまだあんたとの勝負で一枚もスペカを使っていないんだから」

 

 心の一番近くにアイツからの贈り物を忍ばせて、彼女の行く手を(さえぎ)る鬼門と化す。

 

麗人「あ〜ん? だからどうしたってんだい?」

魔理「霊夢おまえ……」

彼女「スペカあと四枚防げて?」

 

 その出会いは偶然か必然か、はたまた運命の悪戯(いたずら)か。

 

麗人「なっ、三枚勝負だって——」

彼女「あら、一人三枚って受け取ったけど? 二人で三枚なんてやりにくくて逆にハンディよ」

魔理「そーだze☆ そーだze☆ 霊夢の言う通りだze☆」

 

 ここは秘境の地、幻想郷。その地下666階に栄える都。

 

麗人「バカ言うんじゃないよ! そんなの認められるわけ——」

彼女「まさかたかだか人間の小娘二人に()()()を設けるつもりだったの? 四天王って案外器が小さいのね。それにちゃんとルールを決めないで始めて来たのはアンタでしょ、文句は言えないはずだけど?」

 

 同時に起こる二つの騒動、入り乱れるそれぞれの思惑、やがて迎える結末。

 

麗人「……いいだろう」

 

 そこへ吹く風は暴風、台風、嵐とて生易しい。

 

麗人「鬼を、四天王を、私を怒らせた事を後悔させてあげるよ!!」

魔理「ヤリィ、さっすが霊夢だze☆」

彼女「気を抜かないで、これでも勝ち目は五分以下なんだから」

麗人「私の二枚目」

 

 さあさあ制限時間いっぱい。本日、地底世界に吹く風は……。

 

麗人「『力業(ちからわざ)大江山颪(おおえやまおろし)』!!」

 




【次回:裏_十四語り目】

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。