東方迷子伝   作:GA王

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東方の二次創作を書いている主として……。
小学生がカバンに『古明地こいし』のキーホルダーをぶら下げている現場を見て、



君達の何かになりたい




とざっくばらんに思う今日この頃。


表_十五語り目

◇    ◇    ◆

 

 

 「壊す」ではなんとも優しい表現か。例えるなら「爆砕」。少女達を捕らえ損なった光弾は歴史ある旧都を襲撃(しゅうげき)し、木っ端微塵(こっぽみじん)に粉砕していく。触れただけで跡形もなく吹き飛ばす光の砲弾は、種も仕掛けも無い純粋な力そのもの。(うるわ)しき女鬼の力の集合体であり結晶なのである。

 それが今、白黒魔法使いの少女を完全に(とら)えていた。

 王手を宣言された彼女の頭には、有効な打開策よりも先に『やり残したリスト』が次々と浮かんでいた。「食べてみたいキノコがあった。しおりを挟んだ魔導書を最後まで読みたかった。人形を持たせてくれた友人に言いたいことがあった」と。そして、

 

彼女「ZEEEEッ★!」

 

 「どうか叶えさせてくれ」とも。

 数秒後、煙が立ちのぼり粉塵(ふんじん)が舞っていた。巻き上げた対象物の残骸(ざんがい)の粉雪を辺りに降らせていた。予定着弾ポイントの遥か後方で。

 飛来物はターゲットを見失い、役目を果たせなかった(いきどお)りから、例によって家屋へ八つ当たりしていたのだった。ではそのターゲットは今——

 

彼女「ze☆?」

 

 十数メートル離れた場所で頭上に『?』を浮かべ「なにがなんだかさっぱり」といったご様子。それもそのばず、彼女は名前を叫ばれて反射的に腕を伸ばしただけで、(つか)まれたと脳が認識した時には既に景色が急変していたのだから。その上、

 

彼女「これって……」

 

 風になる力を分け与えられて。

 

 

◆    ◇    ◇

 

 

 一度に放てる数は拳の数だけ。(にぎ)()めた力を一発ずつ、素早く、繰り返し押し出す。パルスィ(ヤツ)との勝負ではそれで充分だった。それ以上を望んだことなどなかった。

 

私 「(かくなる上は……)」

 

 けれど相手は二人、

 

私 「(その倍)」

 

 しかも一筋縄ではいかない実力者達を打ち倒して来た猛者(もさ)ときた。

 

私 「(いや、足りない)」

 

 おまけに背後に三人ずつの支援役を従えて。

 

私 「(だったら……そうだ!)」

 

 反動は(いな)めなかった。身体が持つのか、そもそもいけるのかどうかすら怪しかった。やったことなどなければ、試そうとしたこともない。あの場面でふと(ひらめ)いたんだ。

 

私 「(うまくいっておくれよ)」

 

 物は試し、思い立ったが吉日、その上ぶっつけ本番。そうして——

 

 

◇    ◆    ◆

 

 

紅白「文の力!」

 

 無償ではないだろうが困った時にしっかり協力してくれる。そんな頼りになるサポート陣が(うらや)ましいのだろう。魔法使いの少女の口からは「いいよなー」と心の声がこぼれていた。さらに「それに比べて……」とため息混じりにジロリと瞳を並行移動。その先にはフヨフヨと浮かぶ無言の人形が。

 やがて人形に向けられた視線と愚痴は、(つな)がれた魔力の糸を伝っておんぼろ橋を通過し、長い長い大穴を抜けて地上へ飛び出し、魔法の森の中にある彼女の家に設置された機器で、

 

人形「{う゛っ……}」

 

 しっかりと放送されていた。

 

人形「{あと少しで——}」

 

 血の気がひいていた彼女の表情に温かみが戻って来た。休止に一生を得て安心しているのだろうが、まだ危機を突破したわけではない。一時は逃れられた鋭い視線がもう彼女達を捕捉(ほそく)していたのだから。

 

紅白「話は後!」

 

 ()き出しの敵意から身を隠すように、紅白巫女はぶーたれる魔法使いの(ほおき)へと飛び乗ると、後ろから顔を近づけて何やらヒソヒソ。そして——

 

紅白「任せた!」

 

 背中を勢いよく叩いてキーを差し込んだ。

 

珠 「{あのー、さっきのことなんですが——}」

 

 一方の白黒魔法使い、与えられた力を糧にして一気にフルスロットルへ。

 

白黒「よーし☆」

 

 さらにニヤリとイタズラな笑顔を浮かべ、

 

白黒「しっかり(つか)まってろよ!」

 

 ()の中へ友人を乗せ飛び込んで行った。

 

珠 「{話は最後まで聞いた方がいいですよー}」

 

 

◆    ◇    ◇

 

 

私 「(一つ目、問題ない。二つ目—— )」

 

 関節の一つ一つに意識を(めぐ)らせ、

 

私「(大丈夫だ。三つ目——)」

 

 筋肉の一つ一つに血を通わせ、

 

私 「(いける。四つ目——)」

 

 指の一本一本に能力を()わせる。

 

私 「(まだいける!)」

 

 (たくわ)えられた力は重なり合う程に反発し合い、閉ざされる空間を押し返し、なんなら拳もろども破裂させるまでにひしめいていた。そこへ——

 

私 「(五つ目……)」

 

 「耐えてくれ」と、いや「耐え抜いてやる」と誓いを立て、最後の一本となる親指を重ね合わせた。そして私は、

 

私 「五倍だあああッ!」

 

 私を超えた。

 開かれた左手から飛び出した五つの光弾は、中央を軸にして互いに一定の距離を保ちながら目標へ向かって行った。大きさも速さも単発時と同等、多少威力は落ちるだろうが人間の小娘達にしたらそれでも脅威に感じただろう。土壇場(どたんば)で閃いた私の迷案は、

 

私 「いよっしゃ!!」

 

 名案だった。そして出来ると知った、やり方も分かった、要領もつかんだ。

 

私 「もう一丁ッ!」

 

 続け様に右指の一本一本へ能力を行き渡らせて慣れたフォームで放つ。それを繰り返し繰り返し、息が続く限り、能力が続く限り、心が折れない限り。

 そうして仕上がったんだ。私の、私だけの……。

 

私 「大江山颪!」

 

 

◇    ◆    ◆

 

 

 流れが

 

白黒「なっ!?」

 

 変わった。明らかに麗人は驚愕(きょうがく)していた。間違いなく彼女達は麗人の意表を突いていた。「今度はこっちの番」 と笑みを浮かべて勝利を予感していた。

 それが突然に。例えるなら徒競走におけるスタート直後の大転倒。右肩上がりだったモチベーションが瞬時にねじ曲げられ、悔しさと(わずら)わしさが奥歯を噛み締めさせていた。

 

白黒「急にどうしたっていうんだze★」

 

 直接狙って来るものだけに注意すればよかった。対峙(たいじ)する麗人は幻想郷最速で動く的に狙いを定められていないと知っていた。いかに巨大でいかに威力があろうと、例えそれが瞬時に迫って来たとしても、それ以上の速度で(かわ)してしまえば、その先にあるのは開かれた空間のみ。

 それが今や同時に発射される数は五倍。おまけに照準を広範囲に展開させてきた。下手な鉄砲数あれば当たるとでも言わんばかりに。それはさながら連射機能付きの散弾銃、回避はこんなんを極める。

 この予想だにしない展開に紅白巫女の少女は、苦虫を噛み()めたような表情を浮かべ、

 

紅白「引きなさいって!」

 

 一時撤退を余儀なくされていた。しかしそれは彼女が立てた作戦の打ち切りと、上げられたばかりの反撃の狼煙(のろし)を消すのと同意でもある。

 

紅白「魔理沙!」

 

 その事は無言でただ前だけに意識を向け、回避を続ける魔法使いも理解していた。

 

紅白「聞きなさいよ!!」

 

 この戦闘における彼女の成果といえば、易々(やすやす)と受け止められはしたものの、スキルブレイクへと導いた十八番の魔法くらい。あとは邪魔呼ばわりされ、介抱され、おまけに不本意にスペルカードを一枚失い、友人の足を引っ張っるばかり。評価はマイナス点のはずである。それでも友人は彼女に言ってくれていた。

 

白黒「言ったなら最後まで信じやがれ!」

 

 「任せる」と。

 幻想郷屈指のスピード狂、「素早く動けるなら」と舌なめずりをしてレベルの上がった無理ゲーの攻略へと勇み行く。

 まとまって押し寄せる光弾を大きく躱し、続けて追って来る砲弾の下をかい潜り、荒れ狂う()隙間(すきま)を切り抜け、

 

白黒「もう少しだze☆」

 

 とうとう麗人の表情がうかがえるまでに。

 額には汗を(にじ)ませ、苦しそうに歯を食いしばってはいるが、その眼差しからは猛攻を止める気配など微塵(みじん)も感じさせない。今麗人を支えているもの、それは確固たる決意において他ならない。

 迎える正念場、次に放たれる光弾の颪が勝負の分かれ目。優れた反射神経と正確な読みでやり過ごせれば、少女達は麗人の下に辿り着ける。それが出来なければ……。

 魔法使いの少女、目前に迫っていた砲弾を瀬戸際の間合いで避け、すぐさま全神経をその時に備える。

 

白黒「なっ、力が——」

 

 だがここでまさかの急ブレーキ。

 

珠 「{だから言わんこっちゃない}」

 

 羽の効果が切れたのだ。その時を、

 

 

ニヤァ〜

 

 

 麗人がどれほど待ち()びていたことか。

 

麗人「もらったーッ!」

 

 彼女は血眼になって探り続けていたのだ。いずれ少女の身に起きるであろう変化を。例えどんなにささいで小さなものだろうと見逃さないように。そして少女の焦る表情と突然の失速から全てを悟ったのだ。しかも少女達は二人揃って絶対的射程距離範囲内。

 訪れた絶好の機会に喜びを隠せず笑みがこぼれる。だが決して油断はしない。瞬時に砲弾を充填し、着火までのカウントを開始した。引き金を引くまで三、二、

 

紅白「充分!」

 

 そこへ後部座席で(ひか)えていた少女が飛び出した。右手の人差し指と中指の間に神々しい光を放つ一枚の札を構えて。

 

紅白「あんたも萃香(アイツ)と同じだって言うなら——」

 

 それは彼女が麗人に初めて披露するスペルだった。そのスペルは対鬼用として開発されたものだった。そして、彼女をサポートする鬼に決定打を与えたスペルカードだった。

 

紅白「これは効くでしょ!」

 

 そのスペルカード、名を……

 

紅白「『宝具(ほうぐ)陰陽鬼神玉(おんみょうきしんぎょく)』」

 

 宣言と同時に投じられた札は、瞬く間に麗人の身長を凌駕(りょうが)する巨大な陰陽玉へと姿を変え、青い輝きを放ちながら標的に向かって一直線に飛んでいった。

 

白黒「いっけーッ!」

 

 だが麗人とて黙ってやられはしない。

 

麗人「ハアアアアアッ!」

 

 それに対抗するは拳に集められし怪力、神をも(おびや)かす力、怪力乱神の能力。

 

麗人「大江山颪ッ!」

 

 目には目を、歯には歯を、巨大光弾には巨大光弾をと同等サイズの五つの砲弾を放つ。両者が衝突し合ったのはその数秒後。決着は……

 

麗人「!!」

 

 ミリ、いやマイクロ、いやナノ秒単位だった。押し合う事もなく、激しい火花を散らす事なく、まるで何事も無かったかのように陰陽玉は邪魔者をかき消して突き進んでいく。そしてついに、

 

麗人「オオオオオ……」

 

 麗人の下へ。

 

麗人「ラァアアア゛ッ!」

 

 が、麗人またしてもこれを素手で受け止める。押しつぶされそうになりながらも、額と腕に血管を浮かばせながら持ち(こら)える、耐える、耐え(しの)ぐ。しかしそれも時間の問題、麗人の姿は徐々に光に飲まれていきやがて……

 

 

ドシン……

 

 

 気のせいだろうか?

 

 

ドシンッ

 

 

 否、断じて気のせいなどではない。

 

 

ドシンッ!

 

 

 間隔が空きつつも連続的に地を破壊する音は紛れもなく(まこと)である。なんたる怪力か、なんたる能力、なんたる精神か。麗人は一歩、また一歩と大地を踏みしめ押し返し始めていたのだ。「これさえ|凌《しの}げば」そんな想いからだろう、険しい表情を浮かべながらも麗人の顔には不敵な笑みがこぼれていた。そして最後に投げ飛ばそうと大きく一歩を……

 

 

ドシンッ!!

 

 

 が、そこで麗人は見てしまった。

 

麗人「ナニイイイイ!?」

 

 足下で小さく(うずくま)る紅白服の少女の姿を。そう、全ては少女の読み通り、計画通り、イメージ通り。

 

霊夢「と——」

 

 少女が(くわだ)てた作戦、それは——

 

霊夢「『神技(しんぎ)八方鬼縛陣(はっぽうきばくじん)』」




次回、ちょっと未定

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