東方迷子伝   作:GA王

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自粛宣言が解除され、営業を再開するお店が増えて来ました。お客さんも増えているようで街には活気が戻ってきつつあります。学校も会社も徐々に始まっています。つまり何が言いたいかというと、また満員電車に乗らないといけなくなると絶望しているのですorz


何かご質問ありますか?

私 「待ってください、どういう事ですか!?」

 

 出だしから怒鳴(どな)ったりして申し訳ありません、古明地さとりです。ですが今、そうも言っていられない状況なんです。それをこれから順にお話します。

 あれは私が全てを語り終えた直後のこと。ドンヨリとしてしまった場の雰囲気を変えようと、質問タイムを(もう)けたのが始まりでした–—

 

私 「重たい話をしてしまってごめんなさい。宴会(えんかい)を台無しにするつもりは無いんです。そうだ、何か質問ありますか?」

 

 とは言っても、すぐに挙手する方はいませんでした。皆さん隣同士で顔を見合わせたり、周囲の様子をうかがったりしていました。そんな状況がしばらく続き、やがて私の中で決めていたタイムリミットを超え、

 

 私「では気になる事がある方は後でいらして––」

 

 何一つ答えることなく打ち切ろうとしていました。結果雰囲気を変えられませんでしたが、私としてはこの上なく理想的な結末、

 

私 「(このまま終われる)」

 

 そんな想いからかため息が(こぼ)れ落ちた時でした。

 

??「あのー……」

 

 ホント、まさかでしたよ。目を疑いましたよ。何かの間違いかと思いましたよ。周りの空気に()まれやすい方なのに、注目されるのを嫌っている方なのに、静まり返る中を打ち破って一番手を買って出るなんて。

 

私 「はい、なんでしょうか?」

 そんな事をすれば視線は集中線のようになりますよ。分かりきっている事ですよ。

 

私 「優希さん」

 

 少し暑さを覚える気候だというのに体はガクガク、伸びる手はブルブル。それでも優希さんは言ってきたんです。

 

優希「さとり様は言われていました。そこの背の高い人がケルベロスを退治したって。それで地上に逃げたって。でもケルベロスは親方様達に吹き飛ばされてそのままになっています。その点を教えて下さい」

 

 と、

 

私 「ふむふむ。はい、分かりました。では今のを通訳しますと––」

 

 心で。

 声に出せた言葉なんてそれはそれは……。そよ風か季節を間違えた蚊の羽音かと思いましたよ。「だったら後で個人的に聞きに行けばいいのに……」なんて思ってはいけません。それも優希さんなりの気遣いなのですから。だから私はきちんと誠意を持って答えましたよ。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 あれは悲劇の直後、そこの彼は罪の重さに打ちひしがれ、頭を抱えて何度も何度も悔いていた時だったそうです。

 

パル「パッ?!」

ヤマ「なにアレ!?」

 

 彼の背後で積み重なった瓦礫の山が突如噴火を起こし、そこから……

 

??「ぬえええええんッ」

 

 涙を流しながら逃げるぬえさんと、

 

雲山「まさか本当におったとは……」

一輪「空想の存在でしょ?!」

村紗「キモっ!」」

ぬえ「目が覚めたらなんかいたんだけどーッ!」

 

 怒りに満ちたケルベロスが現れたのは。そうです、ケルベロスは彼のすぐ近くでずっとずっと待っていたんです。

 

和鬼「あのヤロー、まだいたのかよ」

 

 復讐のチャンスを! 数多(あまた)の獲物を捕らえ、血の色に変色した爪と牙を光らせて彼に襲いかかったんです。

 

鬼助「大鬼危ねぇ!」

 

 彼に危険を知らせる叫び声が一斉に上がりました。しかし現実を受け入れずにいる彼にその声が届くはずもなく……

 

彼 「僕が……僕が……」

ケル「ガァアアア!!」

 

 次の瞬間、寒気を覚える音が辺りに響き渡り、目を(おお)いたくなる光景が飛び込んで来たそうです。

 

彼 「!」

 

 彼は守られたんです、またしても。

 

??「くれてやるよ」

 

 我が身を犠牲にされながら。

 

??「腕の一本くらい」

彼 「あ……、う……」

 

 彼の師である萃香さんのお父様に。しかしその代償はあまりに大きく、片腕を食いちぎられてしまったんです。このことが引き金となりました。

 

彼 「イヌがぁあああ!」

 

 途切れていた力が再び目を覚まし、彼は感情の(おもむ)くままケルベロスを滅多打ちにしたんです。それはケルベロスが倒れてもなお止むことはなく続けられ、多くの方の脳裏に「やりすぎ」の文字が()ぎり始めていたそうです。そんな時です。

 

??「もういい、もういいんだ」

 

 深い傷を負った彼を(いや)してあげられる唯一無二の存在が到着されたのは。

 

彼 「ユー……ネェ……ボク……」

 

 彼はそこで膝から崩れ落ち、その間にケルベロスはふらつきながらも起き上がり、風のようにその場から逃走したそうです。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

私 「その少し後ですね、私もそこへ辿り着いたのは。で、よろしいですか?」

 

 一先ずこれくらいにしておきましょうか。最初の質問であまり時間はかけたくありませんからね。それに中途半端に疑問を残した方が––

 

??「おい、ケルベロスがなんで地上に来てたのかが抜けてるぞ」

 

 ほらね、質問もしやすいでしょ? けど妹紅さん、ちゃんと挙手してから発言して下さいね。生徒さん達の前なのですから、ちゃんと模範(もはん)となる姿勢は見せないといけませんよ?

 

私 「そうでしたね、失礼しました。ではお話しします。まず前提として、地底世界と地上を結ぶ道は大穴だけです。また当時は今日(こんにち)のように設備が整っていませんから、空を飛べない者が自力で地上に出る事は極めて困難な事でした。しかし、ケルベロスは空を飛べません。その上瀕死(ひんし)の状態です」

妹紅「それは分かってるよ。だからそれがどうやって来たかって聞いてるんだろ?」

私 「分かりませんか? 思い出して下さい。地底で騒動が起きたあの日、地底から怨霊以外に何が出たのか。それは空を飛び、大きさと意外さから地上では異変とみなされたそうです」

妹紅「それって––」

私 「そうです、『聖輦船(せいれんせん)』です。ケルベロスはあの船に乗っていたんです。誰にも見つからないようにヒッソリと。そして地上に出た所でピョーンとしてバッと。推測になりますが、考えられる可能性はこれだけです」

 

 想定外でしたよ。今日ここで消えたケルベロスの話を聞くことになるなんて。ずっと謎のままでしたからね。今更かもしれませんが、戻ったら皆さんにお知らせしておきましょう。っと、どうやらそれは私の役目ではなさそうですね。

 

??「はいはい、いくつかご質問が」

 

 ようやく出て来ましたね。

 

私 「どうぞ、射命丸さん」

 

 先程から何やらそちらで打ち合わせをされていたみたいですが……とすると、明日は花果子念報(かかしねんぽう)と合同でしょうか?

 

文 「えー、これは私共の間でも(いま)だ明確にされていない事ですが、聖輦船の封印はいつ解かれたんですか? 命蓮寺の方々は詳しく答えてくれなくて『偶然間欠泉に押し上げられて封印が解かれた』と(うわさ)されています。実のところはどうなんですか?」

 

 なるほど、やはり気になっていましたか。でも想定の範囲内です。それに––

 

私 「残念ながらそれは違うんです」

 

 もう隠す必要はありませんしね。

 

私 「あの封印は意図的に破られたんです。とても強固な術だったそうで、一輪さんと村紗さんが何度も破壊を試みていたそうですが、ヒビひとつ、傷ひとつ付けられなかったと」

文 「となると、壊したのは相当な実力の方ということになりますよね?」

私 「はい、常識を超えた異質な力……それこそ神様に匹敵する力でないと」

文 「ふむふむ、それでそれで?」

私 「しかしその力を持った方があの日、あの場にいたんです」

文 「して、その方とは?!」

私 「それは……」

文 「それは?」ゴクリ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私 「魔界の長、神綺様です。神綺様が聖輦船の封印を解かれたんです」

文 「な、なんと!?」

 

 流石は記者と言ったところでしょうか。その気にさせるのがお上手ですね。でもこのままでは神綺様にご迷惑をかけてしまう事になりかねないので、補足説明をしておきましょう。

 

私 「一輪さん達は神綺様に相談を持ちかけたんです。聖さんを救うべく、どうしても魔界に行きたいとね。断られるのは承知の上、例えそれでも頭を下げて、地に頭をへばり付けてでもお願いするつもりだったそうです」

文 「つもりだった、とは?」

私 「そんな事にはならなかったという事です。意外に思うかもしれませんが、神綺様はあっさり承諾されたんです」

文 「あややや? だとしたらおかしいですね。異変の時に村紗さん達が魔界へ向かう意味が……。それに聖さんは既に救出されていた事になりますよね?」

私 「そうですね、でも村紗さん達は地上に出た後に聖輦船と共に魔界へ行きました。それはなぜか、理由は簡単です。当時村紗さん達は魔界へは行かなかったからです」

文 「あや?」

私 「神綺様は承諾こそして頂けたものの、こう言われたんです。『今行っても意味がない』とね」

文 「意味がない?」

私 「おわすれですか? 皆さんが聖輦船を目撃された頃、ナズーリンさんと寅丸(とらまる)(しょう)さんが何をされていたのかを」

星 「そうだ私はナズに––」

ナズ「『飛倉の破片』と『宝塔(ほうとう)』を––」

私 「つまりそういう事です。聖さんにかけられた結界は非常に厄介なものだったそうで、強引に破壊すれば聖さんの生命に関わるものだったらしく––」

ナズ「確かにそうだけど、どうしてその事を魔界の長様が知っていたんだね?」

私 「それは神綺様、マイさん、ユキさん、そして夢子さんが聖さんの下へ代わる代わる訪れていたからです。いつ解けるとも分からない結界に(とら)われ、誰も近づこうとしない何も無い暗闇にたった一人だけ。そんな状況に置かれた聖さんに心を痛め、話し相手くらいになれればと足を運ばれていたそうです。その時に結界のことを。ご存知でない方にご説明しますと、聖さんの封印を解くには鍵となる複数のアイテムが必要でして、それらは地上にあったんです。神綺様はこの事を村紗さん達に説明し、一度地上に出て封印を解く鍵を集めるよう(さと)されたんです。しかしそのためには大きな障害が……」

文 「村紗さん達にかけられた封印ですね?」

私 「ええ、村紗さん達にかけられていた術は、聖輦船にかけられた術とリンクしていたんです。つまり地上に出るという事は聖輦船を解き放つ事でもあったんです。そして今度は村紗さん達から事情を聞かされた神綺様は……」

文 「それで聖輦船の結界を壊したと?」

私 「はい、『聖さんを助けてあげて』と送り出したんです」

 

 地底の異変の舞台裏、今だから明かされる真実、新聞記者にとってこれほど魅力的なご馳走(ネタ)はないでしょう。筆が止まりませんよね。

 ……でも、なんであなたまで忙しそうにメモしているんですか? その上質問まで?

 

私 「……何か?」

 

 関係のないあなたが興味持つようなところなどなかったと思いますが……地底の壁に埋まっていた聖輦船の救出方法?

 

私 「掘り起こしたんです」

 

 以上。

 誰がって?

 

私 「大勢で」

 

 以上。

 どんな風に?

 

私 「壁をバーンとして」

 

 以上。

 

??「おわり?」

 

 ……はいはい、わかりましたよ。ちゃんと答えますよ。例えそれが話したくなどない相手だろうと、顔を見ただけで吐き気を(もよお)す相手だろうと、卑猥(ひわい)でドスケベで救いようのないド変態だろうと、質問タイムを設けた以上は––

 

??「なぁさとりん、もう少し詳細を話して欲しいぜ」

 

 答えねばならない義務なのですから。ガンバレ私。

 

私 「後から駆けつけた勇儀さんが壁をバーンしたんです。無論素手で。そして旧都民達で瓦礫(がれき)を取り除きながら聖輦船を引きずり出したんです」

 

 今度こそ以上です。私さとりはやりきりました。平常心を保って耐え抜きました。皆さんのその温かい心の文字のおかげです。

 

海斗「なるほどねー。そこでも勇儀姐さんが絡んでいたわけか。いやー、勉強になるな。あ、じゃあもう一つ」

 

 まだあるんですか? 

 

海斗「さとりん金にピンチだったらしいけど、騒動のおかげで大丈夫になったって言ってたよな。なして?」

 

 細かいですねー、そんなところまでメモしていたんですか?

 

私 「臨時収入があったから」

海斗「あのさ、そんな露骨に嫌わないで欲しいぜ。泣いちゃうぜ?」

私 「……お宝を受け取ったからです。山のようにね」

海斗「宝? 宝なんて話に全然出て来なかったぜ?」

私 「鈍いですねー、聖輦船ですよ。聖輦船は宝船だったんです。当時多くの宝が、貴重な骨董品の数々が、金銀財宝が納められておりまして––」

??「ちょっと待ったーッ!!」

 

 なんですかいきなり。ビックリするじゃないですか。

 

??「私が入った時にはスッカラカンだったわよ?!」

 

 霊夢さん。おっと目が怖い。狩人の目をされてます。視線で狩られてしまいそうです。この先を話しても大丈夫でしょうか?

 

私 「ええ、それは聖輦船を引きずり出したのはいいものの、長年封印されていたせいもあってか浮力が弱まっておりまして……それで負荷となっていた積荷を–—」

霊夢「宝も?」

私 「え、ええ」

霊夢「その宝は?」

私 「全部あげると言われたので私がもらいました。家計もピンチでしたし、町の復興にも使いたかったので、すぐに売り払ってしまいましたけど」

霊夢「ふっっっざけんじゃないわよ! こっちは毎日貧乏暮らしなのよ?! 山菜で食いつなぐ毎日を送ってるのよ! 私があの宝船にどれだけ期待していたか、ワクワクしていたか想像できる?! 少しくらい残しておいてくれたら今の生活が変わってたかもしれないのに! 全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部あんたの––」

 

 (うった)えが理不尽です、困りました。この勢いだと納得できないまま成敗されかねません、大変困りました。せめて怒りの矛先を別の方向へ……そうだ! 確かあの時––

 

私 「霊夢さん、霊夢さん。落ち着いて思い出して下さい」

霊夢「なにを?」

私 「さっき言ったじゃないですか、聖輦船には予期せぬ乗客がいたって。しかも超重量の」

霊夢「あん?」

私 「お忘れですか? ケルベロスですよ。ケルベロスの体重は筋トレマンの見立てでは800キロはあったそうです。そんなものが浮力の弱まった船にいたんですから、その分荷物を引かないといけませんよね? そうですよね? ね? ねぇ?」

霊夢「うぎぎ……」

 

 ふー、危なかった。我ながらナイス考察です。きっとそうに違いないでしょう。

 けど、そうなると今私達が地霊殿で不自由なく暮らせているのは、ケルベロスのおかげという事になりますね。正直複雑です。

 

私 「質問タイムももうそろそろ終わりにしましょうか。次で最後に––」

霊夢「それなら私から言わせてもらうわ」

私 「どうぞ」

霊夢「ふっっっざけんじゃないわよ!」

 

 二度目、今度は何ですか?

 

霊夢「聖輦船の話はいいとして、このおかしなヤツの話はでっち上げもいいところよ!」

私 「それは心外ですね。私は真実のみを語りましたよ。多少大袈裟(おおげさ)に言った箇所もあるかもしれませんが」

霊夢「だいたいおかしいじゃない! 魔界のアイツらが……ましてや神綺が来ていたって言うなら、私が気付かないはずがない。あいつの放つ異様な雰囲気は独特で強烈なんだから。おまけにコイツが暴発した力がそれほどまでに強力なものなら、私でなくとも魔理沙だって気が付くわよ!」

魔理「そーだze☆ そーだze☆ 魔理沙ちゃんは何も感じなかったze☆」

私 「……」

 

 まったく、

 

霊夢「返事がないなら……ウソ、ってことでいいわね?」

私 「ハァー……」

 

 敵いませんね。

 

私 「何かと思えばそんな事ですか」

 

 自信過剰な方には。他の方も同じく、と言ったところですか。

 

私 「あなた方は気付かなかったのではありません。気付くことが出来なかったんですよ」

魔理「ze★?」

霊夢「……」

私 「お二人はあの騒動の翌日、山で初めて会ったと認識されているようですが、実は違うんです」

魔理「何の話だze★?」

霊夢「……いたのね?」

魔理「だから誰が––」

霊夢「『こいし』よ。こいしが近くにいたのよ」

私 「ええ、そういう事です」

魔理「はあー!? そんなはずないだろ? 霊夢はこいしのこと見えなくても『いる』って分かるんだze★?」

私 「それは今でこそです。当時は無意識を操作する能力を持つ者が存在するなんて知る(よし)もありません。警戒のしようがありません。だからこいしが近くにいても気が付かなかったんです。多少の違和感を覚えたかもしれませんが、気のせいか自然現象くらいに留めていたのでしょう」

霊夢「……」

私 「例えば気付いたら人形が全部そろっていたり、屋敷の窓ガラスが突然割れたり、扉が出迎えるように勝手に開いたりね」

魔理「おいおい、地霊殿に到着する直前だze★」

霊夢「その時から私達はこいしに?」

私 「はい。神綺様がいらしたのもその頃だったそうで、間一髪でした。そしてそのままこいしの能力にかかったお二人は神綺様の存在にも、暴走した彼の力にも、扉をめぐる騒動にも最後まで気付くことはなく、お空の中に住み着いた八咫烏を無力化して地上へと帰って行った、というわけです。こいしがあの時帰って来てくれたのは、私達にとっても完全に想定外でした。けどそのおかげで今日まで扉の件を隠し通せたんです」

こい「えへへ〜♪」

魔理「じゃあ何であの時二人でかかって来なかったんだze★? 魔理沙ちゃん達を地上に追い返したかったはずだろ?」

私 「それは最終防衛ラインの勇儀さんが敗れた時点で作戦を変えたからです。お空のことはお二人に解決してもらおうと(ゆだ)ねたんです。もちろん私の独断でね。そのためにはこいしの能力が必須でしてね、なにしろ灼熱地獄へお二人を向かわせるには一度屋敷の裏庭へ出ていただかないといけませんから。それに帰りもね。こいしにはずっと能力を持続してもらう必要あったんです」

霊夢「じゃああんたが私達と戦ったのは、『あくまで時間稼ぎだった』ってわけ?」

私 「そうなりますね。けど手なんて抜いていません、全力でした。ちなみにお燐もそのつもりでしたよ。しかしさすがでしたね、私を超えた後に二手に分かれるだなんて。しかもお燐の相手を買って出て、お空の相手を……異変解決の手柄を魔理沙さんに(たく)すだなんて。お見それいたしました」

霊夢「簡単な話よ。パッと見てお燐の方がコイツより頭良さそうだった。それだけよ」

魔理「おい、今サラッと魔理沙ちゃんをディスっただろ?」

私 「ふふ、そうですか。ではこれで質問は一旦打ち切りにしましょう。他にどうしても聞きたい事があれば、後で個人的にいらして下さい。それで––」

 

 質問タイムまで設けて時間を作ったんです。状況を整理する時間も、審判を下す時間も充分にありました。

 

私 「八雲紫様、扉の件を許して頂けますか?」

 

 どうか、どうかその返事が私達地底に住む者達にとって、明るいものでありますように––––

 私は待ちました。全てを語り頭を下げてその第一声を。この日が来る事をどれほど覚悟したと思っているんですか、どれほどビクビクしていたと思っているんですか。それを……

 

紫 「ふーん」

 

 って。しかも関心や納得から出たものではなく、それはあたかも-–

 

私 「えっ、それだけ……ですか?」

 

 興味がないみたいに。

 

紫 「だって以降争いはないのでしょ?」

私 「でも私達は約束を破ったのですよ?! 強い術で硬く閉ざされた扉を破壊し、多くの方にその存在を知られ、魔界の方々と干渉してしまったのですよ?!」

紫 「まあ、そーなんだけどねー。けどあれは元々力のある鬼が魔界の力を得ないようにしたものだし、鬼が地上に害をもたらさないと知った今日では、破られたからと言って大騒ぎする程でもないわ」

 

 拍子抜けでしたよ。今までの苦労が無になった瞬間でしたよ。でもその反面やっと呪縛(じゅばく)から解放され、何の心配もなくストレスを感じる事なく、熟睡できる健康的な日々を過ごせる。そう思っていました。

 

紫 「それより––」

 

 その時までは。

 

紫 「かなり準備していたみたいね。さっきの温泉の騒動の時とはまるで別人のようよ」

私 「ええ、それなりに。お聞き苦しくないように、誤解のないようにと」

紫 「誤解しないようにねー。皮肉ねー、語り手があなたでなければ、そう思えたかもしれないのにねー」

 

 そして

 

私 「何が言いたいんですか?」

紫 「ふふ、じゃあ尋ねるわ。あなたが語ったこれまでの話、萃香とじゃじゃ馬お嬢様にも出来て?」

私 「私はウソはついていませんよ。扉の件も神綺様の件も聖輦船の件も––」

紫 「ふふふっ……」

私 「なにが可笑(おか)しいんですか?」

紫 「あなた、能力に頼って心を読めない者がどうやって他人の心を察するのか考えた事もないでしょ?」

 

 私の視界を(しもべ)(さまた)げ、

 

私 「……だったらどうだと言うんですか?」

紫 「目は口程にものを言うってご存知? さっきから視線が泳ぎっばなしよ」

私 「なっ……」

 

 気配でしか様子を探れなかった彼女は、

 

紫 「それと話を聞いていて思い出した事があるの。あなたと初めて言葉を交わしたあの日、あなたは私に尋ねたわね。音、暗闇、目、女、そして電車。これらの単語から連想されるものに心当たりはないかと。私はそれに『知らない、心当たりがない』と答えたわ。その言葉に(いつわ)りはない。当時はどうしてそんな事を聞くのか疑問に思ったけど……」

私 「……?」

紫 「––––…………ふふふふふふふふふふふふふ」

 

 不適な笑い声だけを残して忽然(こつぜん)と消えたんです。私の中に不吉な予感が芽生えるのに時間は必要ありませんでした。

 

私 「待ってください、どういう事ですか!?」

 

 けれどそれ以上に早く彼女は……

 

彼 「何しやがる手ぇ放せ!!」

紫 「さあ、本当の事を話してもらうわよ」

 

 次の手に打って出ていたんです。

 

紫 「起きなさい萃香」

萃香「ふあ?」

彼 「おいっ、起こすんじゃねぇ!」

紫 「そこの彼、いったい何者なの?」

萃香「ああ大鬼だよ。次期四天王候補で––」

紫 「そんな事は百も承知よ。私に隠している事を話しなさい、全部!」

萃香「……さとり、……ごめん。隠せそうにないや」

私 「萃香さん!?」

萃香「大鬼は––」

 

 

 

EP7.東方地霊殿_裏   【完】




この回をもって裏のお話はおしまいになります。
そして次回は……

【次回:花見へ_ver.勇儀】

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