東方迷子伝   作:GA王

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新章開始です。
舞台は花見へ戻ります。



Ep.8 幻想郷の花見_宴会編
一分咲き:さとり様、語られているところ申し訳ありませんけど、こっち色々と大変なんです


 さとり様が語られていく数年前の出来事は、この世界に来てまだ間もない僕に序盤から強い衝撃を与えました。

 

僕 「(地底に町なんてあったのー!? さとり様って地底の首相だったのー!? 魔法の森にケルベロスなんていたのー!? 僕そこ通ってたんですけどー!? 最近は見かけないって言われても、もう通りたくないんですけどー!! って今度は魔界ですとー!?)」

 

 他の人達が「そんなことがあったんだ」と(うな)る中、僕は驚きの連続で話が半分も入って来ていませんでした。けどそんな僕のことなどはお構いなしに話は進んでいきます。たまにクエッションやアンケートが入ったり、みんなで体操をしたりしながら。そのおかげもあってか、いつしか僕はさとり様の話に夢中になっていました。発言なんて出すぎたマネまでしちゃったりして……。

 やがて話が終盤になるころ、僕の大鬼さんを見る目は変わっていました。みんなもそうだったと思います。それは(あわれ)みだったり、同情だったり、中には涙ぐむ人まで。

 そしてさとり様は最後にこう投げかけてきたんです。

 

さと「もしあなたが彼だったら、今日この場で神奈子さんと遭遇した時、いったい何を思い、何を考え、どう動きますか?」

 

 僕は考えました。もし大鬼さんみたいに望みもしない強大な力を神奈子さんから与えられて、その力で大切な人を、家族を、友達を傷付けて失ってしまったら。僕はきっと()やんでも悔やんでも悔やみきれなくて、人間不信になって、(から)に閉じこもって、心に固くカギをかけて、毎日毎日泣き続けると思います。

 そんな最中に神奈子さんにバッタリ出くわしてしまったら。僕は……僕は………僕は…………。証拠(しょうこ)を集めて、訴訟(そしょう)を起こして、最高裁までいって、紙に『勝訴(しょうそ)』って書いて、ドヤドヤして出て来てやります。

 あの人みたいに殴りかかるなんて勇気ありませんから……。そんなことすれば返り討ちにあって、フルボッコになって、ボロ雑巾になるのが簡単に想像できますから。痛いのキライですから。

 そして今です。

 

さと「そうだ、何かご質問ありますか?」

 

 なんか質問タイムが始まりました。くるっと辺りの様子を見てみると、みなさん何か言いたそうな感じです。けど誰も手を上げようとしません。まるで何かを待っているかのようにも見えます。チラリ、チラリとこちらに視線を送りながら。

 分かりません、なんでこっち見るんですか? 何かの合図ですか? というか、そそそんなにみみみらみら見られたらぼぼぼぼぼぼく……。

 

??「…ノヨ」

 

 ん? 今何か聞こえたような——

 

??「…シテンノヨ…」

 

 ううん、聞こえる。気のせいとかじゃないです。確かに聞こえます。それもすぐ近く、45度下方から。おまけにドンヨリとしたオーラまで感じられます。いったい誰ですか……って、うええええッ?!

 

??「ナニシテンノヨ……ナニシテンノヨ……ナニシテンノヨ.…」

 

 あああアリスさん?! あのアリスさん?! いつも直視できない(まぶ)しい笑顔のアリスさん?!

 

アリ「キイテナイ……キイテナイ……キイテナイ….」

 

 どどどどうしたんですか頭を(かか)えてうずくまったりして。しかも身体が小さく(ふる)えてますよ!? 頭が痛むんですか? それとも具合が悪いのかな? でもさとり様の話が始まるまではいつもと変わらずキラキラしてたし……じゃあどうして?

 そういえばアリスさん、さとり様の話の途中に反応していたような……。

 

アリ「バカバカバカバカバカバカバカ…」

 

 もしかしてアリスさん、地底の騒動(そうどう)と何か関わりがあるのかな? だとしたら、みんなのこの視線の意味って……そうか! 僕じゃなくてアリスさんの発言をみんなが待っているんだ。「お前は何かあるはずだろ? 一番手は(ゆず)ってやるから早よ」って。

 って、アリスさんが『バカ』って言った!? いやいや何かの間違いですよ。そうですよ、きっと空耳ですよ。あのアリスさんに限ってそんなこと……言っておられまするーッ!!?

 

さと「では気になる事がある方は後でいらして——」

 

 まままマズイです。誰も何も言ってないのに、さとり様が終わらせようとしてます。みんなが「おいおいこのまま終わるのかよ」ってチクチク送って来てます。けどアリスさんは今それどころじゃないし、気付いてないだろうし、でもこのままだとアリスさんがみんなから……。ど、どうにかしないと。

 

僕 「あのー……」

 

 質問、ありません。聞きたいこと、特にございません。なんでこんな暴挙に出ているのか、教えて下さい。さとり様だって目をパチクリさせて、ゴシゴシこすられて、分かりやすい二度見までされて。

 

さと「はい、なんでしょうか? 優希さん」

 

 けど自分の本心ではありませんが、こうなってしまった以上は(のが)れようがありません。奥の手です!

 頭の中の僕、集まれーッ。

 

 【指令】

 さとり様への質問事項を考えよ、語られた事を分析せよ!

 

 はい、来ました。ミッションを通達してからミリ秒も経っていないと思います。わりと序盤の内容で助かりました。

 でも……こ、コレ……どどどどうしよう……。

 発言しようにも視線は全集中。肺が圧迫(あっぱく)されて、息が苦しくて、(あし)がガクガクで、手がブルブルで、汗がダラダラです。心臓なんか神社の階段を()け上がった時よりバックンバックン脈打ってますです。けど、けど、けどぉ……。

 

 僕 「ささ……た。そこ……ロス……って(ry」

 

 ()(しぼ)りました。結果コレです。伝わるはずがありません。理解できた方は超人的天才です。「もう少し大きな声で」とお願いされても、ごめんなさい、このザマで精一杯なんです。「緊張しなくていいから」と言われても、申し訳ありません、もうムリなんです。どなたか、誰か、助けて下さい。助けて下さいッ! 助けて下さーーーーーーーーーーー

 

さと「ふむふむ。はい、分かりました。では今のを通訳(つうやく)しますと——」

 

 ーーとり様あああッ! ありがとうございます。あなたは僕のヒーローです! 女神様です! 一生崇拝(すうはい)します! もしも彼女が出来て結婚して子供が出来たら後世に伝えるように言います!!

 あ、迷惑そう……。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 大役を果たした彼はその場でヘタヘタと(くず)れ落ちた。余韻(よいん)を残す小刻みな振動と、止まらない強いビートに、立ち上がることさえままならず、カリスマガードで沈んでいる少女の隣で小さくなっていた。

 そうこうしている間にも、彼が知らぬ間にも質問は次々にあがる。ある時は体育教師であったり、またある時は新聞記者であったり、外の世界からやって来たお調子者であったり。その成果が彼自身の成果だとは知らずに。

 そして最後に参じた博麗の巫女からの質問への回答は、この世界の者達を驚愕(きょうがく)させるものだった。

 やがて幕引きを迎えた質問タイムは、彼の心拍数が正常値を示すころには尋問(じんもん)タイムへと変わっていたのだった。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 なんか……ヤバイです。

 よく分からないけれど……ヤバイです。

 でも一つ分かることがあります……ヤバイです。

 紫さんとさとり様がバッチバチなんです。溶接してるみたいにバッチバチなんです。

 どうしてこんな状況になったのか。ボーっと(なが)またいただけだったので、低レベルな頭脳では何が何のことだかさっぱりなので、把握(はあく)できている範囲で一旦おさらいさせて下さい。

 

①紫さんがいきなりクスクス笑い始めた

②僕、そんな紫さんが怖くなった

③と思ったら、フッといなくなった

④僕、そんな紫さんがさらに怖くなった

⑤と思ったら、鳥居の真下にいた

⑥僕、そんな紫さんがもっと怖くなった

⑦と思ったら、眠っている萃香さんの腕を(つか)んだ

 

紫 「私に隠している事を話しなさい、全部!」

 

 今ココです。僕、そんな紫さんがミラクルスペシャルウルトラスーパーメガトン怖くなりました。

 紫さんの剣幕(けんまく)とキツイ声がアラームとなって、閉ざされていた萃香さんの(まぶた)はようやく朝を迎えたみたいです。目が開いてるところ、初めて見ました。大きな瞳で可愛らしいと思います。

 それと鬼の方にこんなことを思うのは間違っているかもしれまさんが…………海斗君にご注意下さい。ガン見しているので。ロックオンしているので。口が開きっぱなしでヨダレがダラダラなので。

 

萃香「さとり、ごめん。隠せそうにないや」

さと「萃香さん!?」

 

 今度は何ですか? 隠せないって何がですか? 

 うつむいて観念したかのように(つぶや)く萃香さんと、顔色が急変するさとり様。その二人に反して紫さんは何故か勝ち(ほこ)っているように見えます。ニヤリと白い歯まで見せて。

 

萃香「大鬼は——」

 

 僕、ついて行けてません。さっぱりです。でも、萃香さんが言おうとしている事がとてつもない事で、あたりに旋風(せんぷう)を巻き起こす予感がしています。きっとみんなもそう予感しているに違いありません。風に揺れる桜の音しか聞こえませんから。声を殺して、耳を傾けて、一字一句(のが)さないないように全神経を()()ませて待っているんだと思います。

 

萃香「大鬼は……ん、なの」

紫 「聞こえない!」

 

 


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