東方迷子伝   作:GA王

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去年はオリンピックやらで翌年の夏休みをでワクワクしていたのに、現実はお先真っ暗。それでも希望はあるさと考えていたいです。


二分咲き:皆様、驚いているところ申し訳ありませんけど、僕はミッションをコンプリートしたいのでござりますです_※挿絵有

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

紫 「もっと大きな声で!」

 

 聞こえていないはずなどなかった。細波(さざなみ)さえ立たぬ水面に(しずく)が落ちれば、それは波紋となり広がっていくのだから。例えそれがどんなに小さなものであろうと。

 声を荒げる彼女は、にわかに信じ(がた)い落とされた雫の真意を確認したかっただけ、薄々(うすうす)察していたものが間違いではなかったと、真だったと確信(かくしん)に変えたかっただけ、ただそれだけのこと。

 それは全神経を傾けていた他の者達も同様だった。と、同時に考えてもいた。幼い少女とも見える鬼が発した言葉から導き出される答えを。

 しかしその答えは、なかなか表舞台には上がって来ない。戸惑(とまど)い、躊躇(ためら)い、理解したら負け、本能がブレーキを()んでいたのだ。

 だがそのブレーキも長くは続かない。もう答えは出ているのだから、理解してしまっているのだから、(さと)ってしまっているのだから。

 ()まれていたペダルはアクセルへと切り替わり、心臓は一気に高速ピストンを開始する。

 さあ、各車準備は整った。そこへ()り下ろされるチェッカーフラグは、二度目となるその言葉。

 

萃香「大鬼は私のダーリンなの♡」

 

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◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

  『ナニィイイイイイイイイイイイイイ!?』

 

 やっぱりーッ! 大鬼さんと萃香さんは付き合ってたー!!

 

文 「スクープ、スクープです! こいつぁ特ダネですよー」

椛 「萃香様と若様がそいうご関係だったなんて」

はた「差支(さしつか)えなければ()()めについて詳しく!」

 

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にと「若様? 次期四天王候補? ん〜……?」

早苗「新聞に書いてありましたよ〜」

諏訪「どーせ読まないで放ったらかしなんでしょ」

 

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てゐ「じゃあ話にあったソイツの想い人って――」

輝夜「なによ、色気ゼロじゃない」

影狼「お燐のこと応援したかったのになぁ」

蛮奇「……同じく」

あゆ「えー、萃香さんカワイイよー」

妹紅「幼女趣味なのか?」

 

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レミ「幼女趣味……身の危険を感じるわ」

パチュ「自覚はあったのね」

 

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藍 「うちの(ちぇん)には手出しはさせませんよ!」

橙 「あっ、私(しょ)っちなんだ……」

 

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海斗「くぅっそぉ、やっと会えたと思ったのにィ」

慧音「歴史的には幼い少女が(とつ)ぐ事は(めずら)しいものではないが……」

先生「…ふふふ、好みは人それぞれですよ」

 

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チル「だーりんってなに?」

サニ「1000mg配合?」

ルー「ファイト一発なのかー?」

リグ「それ、タウリンな」

ルナ「恋人さんのことです〜」

大妖「男性の方をそう呼ぶこともあるんだよ」

スタ「星空の下のデートとか(あこが)れちゃうなー」

 

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星 「恋、愛、バトル……。ゔっ、胃が……」

ナズ「到着しちゃいましたね。聖が出てくるのも時間の問題ですしね」

 

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小傘「うぅ、驚いたよー……」

リリ「はーるでーすよー♡」

レテ「そうね、正しいわ」

 

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 とんでもねぇです、旋風(せんぷう)どころかハリケーンを発生させました。というか、萃香さんの容姿のせいで大鬼さんにロリコン疑惑かけられちゃってますけど……。魔理沙さんなんて「アイツもか」って(つぶや)かれてますし……って、だぁ・かぁ・らぁ! 僕は違いますって何度も何度も言ってますよね?! 何でそういう目をこっちに向けて来るんですか!?

 

さと「もうっ、萃香さん発表が早すぎますって!」

萃香「だって〜♡」

 

 大鬼さんの腕に(ほほ)を寄せる萃香さん、幸せが(にじ)み出ていて、あふれ出ていて、吹き出していて、ラブラブラブラブです。一方の大鬼さん、照れくさいのか(ほほ)をかいたり、頭をかいたりなんかして。どうやらお二人は本当にそういうご関係のようです。

 いいなーいいなー、僕なんて僕なんて……。彼女、いたことありません。女の子と腕を組んだこと、ありません。

 

霊夢「そんな話一度も――」

萃香「えー、したよー。『花見にダーリンを連れて来てもいい?』って聞いたよ」

霊夢「いつ?」

萃香「ケーキもらったとき」

霊夢「そんなの初耳! ウソつかないで!」

萃香「ざんねーん、鬼はウソを言えませーん」

霊夢「ぐぬぬ、ダーリンだなんて……。どどどどどうせ、たたたたただの飲み友達程度なんでしょ? そうなんでしょ? そうよ、そうに決まって——」

萃香「それもざんねーん、私とダーリンは相思相愛(そうしそうあい)だも〜ん。そーれーにー」

 

 相思相愛、そんなの到底この先もないでしょう、ありえないでしょう。

 

萃香「昨日はあつ〜い夜を……(ちぎ)りを結んだんだから。ね? だーいき♡」

 

 契りを結ぶだなんて夢のまた夢………………ん?

 

  『チョォオオオッとまてぇぇえい!!』

 

 はわわわ……。『契り』って小難しいニュアンスだけど、つまりそういう事だよね? ゴールしたって事だよね? なんか想像しちゃいけないんだろうけど、あんな事やこんな事の妄想が広がっちゃいますよ。こんなのバレたら温泉の時以上に冷たい目で見られちゃう……。

 

美鈴「あらやだ、奥さん今の聞きました?」ヒソヒソ

咲夜「さすが鬼よね。お(さか)んよね」ヒソヒソ

 

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妖夢「ききききき斬りますッ!」

フラ「フラン、なーんか『ドカーン』したくなっちゃったナー」

鈴仙「二人ともストップ、ストーーーップ!」

 

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さと「ハレンチな思想がいたる所で……」

こい「お姉ちゃん!?」

 

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 もう大変です。一大事です。大惨事(だいさんじ)です。

 さとり様、真っ赤な顔で頭から湯気を上げてヘロヘロと倒られました。

 海斗君、orzして涙の噴水(ふんすい)を上げて強パンチで大地を連打です。

 霊夢さん、orzして甲子園で砂集めをしている高校球児になってます。

 アリスさん、お変わりありません。一人だけ真っ青です。ホントに大丈夫かな? そういえば、妖夢さんと挨拶(あいさつ)した時に永琳(えいりん)さんって方がお医者さんだって……。

 

神奈「で、何が望みだい?」

大鬼「ア?」

 

 確か赤と青の半々の服装だって……。たぶん白髪の()()みの人だと思うんだけど……。

 

神奈「また金かい? もう存分にくれてやっているはずだが?」

大鬼「ア゛アッ?!」

 

 いたーッ! 

 

神奈「それとも、ぶっとばされれば気が済むのかい?」

大鬼「ッのヤロー!!」

萃香「大鬼ダメッ!」

 

 反対側だけど、ぐるっと迂回(うかい)していけば、お邪魔にならないように行けそうです。

 

神奈「こっちは多額の賠償金(ばいしょうきん)を払って技術の提供までして、あの日の件はそれでもうケリがついてんだ。いまさら裏話を聞かされたところで——」

大鬼「まだ終わってない、終わらせられないっ! お前さえ来なければ、お空が暴れることも、魔界の連中が来ることも、誰も傷付かずに済んだんだ。お前さえ来なければ、自分は爺ちゃんを(あや)めることはなかったんだ。オマエさえ来なければナア゛ッ!」

 

 待ってて下さいねアリスさん、

 

神奈「ふんッ」

 

 今永琳さんを呼んできますから。優希、いっきまーす!

 

神奈「で、その薬とやらはやっぱりあんたが作ったのかい?」

永琳「ええそうよ、ずいぶんと大昔にね」

大鬼「え?」

 

 すみませーん、通して下さーい。前失礼しまーす、通りますよー。なんか低い姿勢でコソコソ動き回って忍者みたい……。

 

神奈「その薬、また作ってやれないのかい?」

永琳「……ムリよ」

 

 ニンニン、ニンニン。おっとお話し中でござった。

 

神奈「どうしてだい? 月の頭脳とあろう者が」

永琳「もう材料となる植物がこの地球(ほし)から絶滅(ぜつめつ)しているから……。いくら私でも材料がないんじゃ作れない」

大鬼「それじゃあ、あなたが……あなた様が……」

 

 終わったでござる? 声かけても平気でござりまする?

 

僕 「ぁ、あのー……、ぇぃ——」

永琳「ん?」

 

 

ガッ!

 

 

 なんだろう、服を(つか)まれたでござる。

 なんでだろう、イヤな予感しかしないでござる。

 どうしてだろう、みんなが小さくなってるでござりまする。

 って、

 

僕 「どわあああぁぁぁ。。。……」

 

 ムササビの術ぅッ!?

 

魔理「ったく優希のヤツ、コソコソ何やってんのかと思えばだze★」

霊夢「少しは空気読みなさいよ……」

 

 飛んでるーッ! 飛ばされてるーッ!! この高さで落ちたらし、し、し、死ぬぅーーッ!!!

 

僕 「ああああって、あれ? ここは……」

 

 さっきいた場所です。アリスさんのお(となり)です。定ポジです。

 訳がわからず周囲をうかがってみれば……不思議ちゃんが無表情のままお腹を抱えてケラケラと。赤髪の白いスーツの方なんて手まで(たた)いて。綺麗(きれい)な声の鳥みたいな女の子も、バカデカい声の女の子も、その他楽器持った人達もそんな感じです。僕、ツボられてます。恥ずかしいです。

 でもどうして……そうだ、夢だったんですよ。さっき頑張ったから疲れて寝ちゃったんですよ。あーよかった、夢で。

 あっ、魔理沙さん。僕、今眠っていたみたいで……そうじゃない? 紫さんのスキマ? へー、そういう能力なんですか。チートですね。

 

紫 「はー、世話が焼ける」

永琳「あなたいきなり何を——」

 

 大きな声が聞こえて来たのでそちらに目を向けて見れば、

 

大鬼「自分が今ここにいられるのは、あなた様のおかげです!」

 

 土下座です。大鬼さんが両手両膝ついて地面スレスレまで頭を下げてます。

 

永琳「今度はいったい何の話? あの薬のことなら彼への餞別(せんべつ)として簡単に作っただけであって——」

 

 というか、僕を投げ飛ばしたのって、もしかして大鬼さんですか? 何でバ○ルーラみたいな事されるんですか? 僕、何かしましたか? 大鬼さん、怖いです。鬼、やっぱり怖かったです。もう近寄るのはよそ……。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 彼にとってオタクはチョウやガ程度にしか写っていなかった。突然視界を(さえぎ)目障(めざわ)りな虫をポイッと(はら)()けただけのこと。

 

大鬼「違うんです!」

 

 では何故その彼が今、こんなにも(へりくだ)り、こんなにも頭を下げ、こんなにも興奮しているのか。その答えはただ一つ。

 初めて地上の里を訪れた時は会う事も、見つける事も、探す事も出来なかった。恋人達と共に恩返しをしに行ったまではよかった。だが問題はその後、小腹を満たすため店を探している最中に激しい疲労に襲われ、直帰を余儀なくされ、自宅に到着するなり倒れ込んだのだ。その原因は地底にはない輝き、太陽光によるもの。地底から出たことがない彼にとって陽の光は(まぶ)し過ぎて強過ぎたのだ。

 しかし次のチャンスはまもなく訪れた。だが今度は決められていた勝負ごとから背を向けられず、地上に出ることさえ断念せざるおえなかった。

 そして(きた)る三度目のチャンス。きっかけはある小さな好奇心からだった。それが仲間達から話を聞けば聞くほどに希望は予感へ、予感は確信へと姿を変えていった。

 

大鬼「自分はこの日を迎えられることを……」

 

 ずっと心に決めていた。いつか、必ず、絶対にと。

 

大鬼「あなた様にお会いできる日を……」

 

 ずっと心待ちにしていた。会いに来てくれたなら、会いに行けたなら、会うことができたならと。

 

大鬼「どうしても直接この口から……」

 

 そして、ずっと心に(ちか)っていた。

 

大鬼「自分はあなた様に作って頂いた『死ぬほどニガイ薬』のおかげで——」

 

 一生分の『ありがとう』を伝えるんだと。

 だがその言葉は、花の香りに乗せて届けることはなかった。

 

永琳「わかった、わかったから」

 

 彼の肩に手を()えて頭を上げるように(うなが)す天才薬剤師。黒く塗りつぶされたグラス()しにうかがえる(あふ)れんばかりの想いをその目に映し、

 

永琳「そう、元気ならよかった」

 

 大きく、ゆっくりとうなずいてニコリと微笑んでみせた。

 

萃香「ほら、あっち行って乾杯(かんぱい)しよ」

 

 そこへ途切れてしまっていたダーリンの腕を迎えに来た小さなハニー。そのまま急かすようにしながらも、彼と共に仲睦(なかむつ)まじくその場を後にするのだった。

 そして、

 

神奈「なんの話だい?」

紫 「その話、気になるわね」

永琳「少し前に旧友が来てね、その時に薬を処方したのよ。それだけのことよ」

神奈「また薬かい」

紫 「なんの薬?」

永琳「簡単に言えば解熱剤(げねつざい)よ。それとも材料から製法にいたるまで、化学式を使って長々と丁寧に説明した方がいいかしら?」

 

 能力者が暮らす幻想郷でも、ずば抜けた能力を持つ者達が集まった小さな神社。その一角で、うっすらと漂わす不穏な空気を

 

幽々「ん〜、穏やかじゃないわね〜」

 

 ガッツリと、ただならぬ食う気でモグモグ感じ取る食いしん坊さんだった。

 

 

◇    ◇    ◇    ◇    ◇

 

 

 あっ、またお皿が空になった……。ペース変えないで食べてるのピンクの髪した人だけなんですけど……。他の方達は飲み物置いて、お箸まで置いて、シーンとしちゃって……。このままだとあの人に全部食べられちゃいますけど……。

 というか今日はお花見であってますよね? 宴会(えんかい)であってますよね? ワイワイやる場であってますよね? なんか想像していたものと180度違うんですけど……。とはいっても、こんな重苦しい雰囲気をパッと明るく(はな)やかに盛り上げてくれる人なんているはずが——

 

??「そろそろ始めさせてもらえへん? うちと義姉(ねえ)さん人里の方でも呼ばれててさ」

 

 僕の近くにいた方が進み出て霊夢さんに尋ね始めました。焦茶色(こげちゃいろ)のショートヘアでカチューシャしている方です。お姉さんもいるそうです。で、誰? そいで、何の話ですか?

 

霊夢「あーはいはい、なら順番はそっちに任せるからチャッチャと始めちゃって」

 

 霊夢さんは何の事だか分かってるみたいだけど。そういえば魔理沙さんが何かを楽しみにしてろって……もしかしてその事と——

 

??「うおおおっい!」

 

 な、なんですか急に雄叫(おたけ)びみたな声で。ビックリですよ。え、さっきからずっと呼んでた?

 

僕 「すみません、考え事してて聞こえてませんでした……」

魔理「ったく、邪魔になるから早くこっちに来いよ。それともまだ注目されたいのか?」

 

 いえ、今のでだいたい理解しました。大至急ココから立ち去ります。僕この場所、すっっっごく苦手なので。あ、でもその前に……

 

僕 「アリスさん行きますよ」

魔理「あー、アリスはいいんだze☆ おいアリス、もう始めるってよ。そろそろ帰って来いよ」

アリ「ふぇっ! あ、うん」

 

 アリスさんと一緒にいたかったのに……ぐすん。

 一緒に花見を楽しめると思ったのに……ぐすん。

 僕の料理を食べて欲しかったのに……ぐすん。

 アリスさん、頑張って下さいね。僕、待ってますから。ずっと見てますから。最後まで応援してますから。

 今から花見で何か始まるらしいです。

 

 




《挿絵についての補足説明》
海斗のモデルはカイトです。
そこは譲れません!
理由は特にありませんがね。

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