夏はそういうものだって
分かってはいるけれど、
熱いものは熱い。
だから冷えたスイカがメッチャ美味い!
幻想郷の花見は出遅れたものの、まだ始まったばかり。和の演奏と能を終えた舞台では、次なる演目「人形使いによる人形劇」が行われていた。
そんな中、ビシッと正座でステージに熱い視線を向けている彼から少し離れた桜の木の下には、肩を並べるおかっぱ頭とお調子者の姿があった。誰からも声をかけられることもなく、二人だけの時を過ごしていた。それがお調子者のしでかした罰則なのである。
海斗「みょん、悪かったな」
しかしここで忘れてならないのが、二人が花見に参加している二つの理由だ。一つは純粋に楽しむため。そしてもう一つは——
妖夢「本当に、あんなマネ
幻想郷の存在を外の世界へ流している者を探すため。
海斗「でも名演技だったぜ? おかげでこうして二人きりになれ……もしかして、そこまで計算済みとか?」
妖夢「……だったらなんですか?」
海斗「みょん、ガチ
妖夢「ではその血迷った考えを
海斗「ハアー……」
妖夢「ふうー……」
おかっぱ頭が実行するその時までは。
海斗「ショック大だぜ」
妖夢「改めて整理させて下さい」
そしてこの日、お調子者は到着早々に博麗の巫女から「忘れ物」と
妖夢「本当にスマホというのには——」
彼はそれを「わりぃわりぃ、ずっと探してたんだぜ。見つけてくれてサンキューな」と受け取るや、すぐさまポケットに忍ばせておいたてモバイルバッテリーへと接続、さらに人気のない所へと身を隠してその成果を確認していた。
海斗「ああ、録音はしっかり出来ていたぜ」
するとそこには……
海斗「でも、短すぎだ」
彼は記録したデータの再生時間を見た瞬間、我が目を疑った。まさか、そんな、何かの間違いだと。少しでも記録時間を増やそうと、外の世界でかき集めた嫁候補達の画像や音楽を断腸の思いで、血の涙を流しながら削除をし、メモリ容量と
海斗「もっと録音できるはずなんだ」
彼はおかっぱ頭を呼び出し、その結果を周囲に誰もいないことを確認した上で伝えていた。
妖夢「それでも『何か手がかりがあるかも』と言われてましたね。それからしばらくお見かけしませんでしたけど」
一方の彼女、他に可能性のある容疑者はいないか、証拠となりそうな物はないかと調査を行なっていた。怪しまれないようにさりげなく、なるべく自然体で。
しかし彼から呼び出された時点では何も見つけることが出来ず、憶測で話をするしかなかった。そして彼女は涙ぐみながら彼にこうも伝えていた。「これ以上友人や仲間を疑いの目で見たくない、コソコソと泥棒のように物色したくない」と。
海斗「あー、あれな。ご想像通り一度中身を確認しに行ってたんだぜ。しっかし、まさか優希が来るだなんてな。声かけられた時はマジ耳から心臓が飛び出るかと思ったぜ」
妖夢「だからって
海斗「ひどいなぁ、俺はそんな男じゃないぜ? 最初から誰かに見つかることを狙っていて、その言い訳用に女湯の前でスタンバってて、あわよくばキャッキャッしてる声を記録して、
妖夢「やっぱり斬りましょう。
海斗「残念、そっちはたぶんすぐに回復するぜ」
妖夢「……」
海斗「……」
妖夢「はあー……」
海斗「フウー……」
そんな震える肩に、彼はそっと手を置いて
妖夢「それで、何か分かったんですか?」
海斗「……録音が止まったのは俺達が帰った直後だった」
妖夢「そうなんですか?!」
海斗「ああ、まるで狙っていたかのようにな。これ、どう思う?」
妖夢「何者かが意図的に止めた……と?」
海斗「だって最後まで霊夢がスマホの存在に気付いてる素振りはなかっただろ?」
妖夢「そう……ですね。でもそうなると——」
海斗「霊夢は黒だ。一枚
妖夢「誰だか分かったんですか?」
海斗「いんや、でも一番濃厚なのは『ユカリン』だって考え直したぜ。初めはみょんの考えを否定しちまったけど、思い出してみれば外の世界で買った物を幻想郷で売り
妖夢「はい、そうなんです……」
二人の中で
海斗「なんにせよ、少しでもヒントになりそうなものはないかと思って最後の部分を聴いてたんだぜ。そしたら……」
妖夢「何か気になるものでも?」
海斗「おうよ、変な音が入ってたんだぜ」
妖夢「変な音?」
海斗「途切れる直前にガシャだか、ガゴッだか、バカッっていうな。けどその音の正体が全然分からんのぜ」
だがそこまで。判明こそしたものの、その先には進めない。さらに判明したとは言っても、それらは全て彼の憶測の
しかし問いただしたところで、はぐらかされるのは確実。そして疑われていると知られた時点で警戒され、最悪の場合命が危険にさらされる。そんな事になれば進展はおろか、全て
海斗「せめて物的証拠があればなー」
「お手上げでーす」と一度バンザイをきめて両手を後頭部へ。そのまま天を
??「ちょっと」
霊夢「丸っこいこれくらいの物、見なかった?」
空中に描かれる円は大きな物ではなく、片手で掴めてしまえそうな円だった。そして彼女の口調は
海斗「なんだそれ? そんなアイテム見たことも聞いたこともないぜ」
霊夢「妖夢、あんたも?」
妖夢「見てない」
霊夢「ホントに? 本当に知らない?」
余裕さえも失っているかのよう。
妖夢「知らない。見たことない」
海斗「なんなら探すの手伝うぜ。みょんならもう大丈夫みたいだから。ついでにスマホを——」
霊夢「いい! 一人で探すから! ついて来ないで!」
バンッと叩き付けるように言い放ち、回れ右をしてログアウト。その足からはズンッ、ズンッと
海斗「うわー……やっぱあんな事あった後だもんなぁ、そりゃ嫌われるか。スマホ返して欲しいんだけどなー」
妖夢「……」
と、二人がそんな真面目な話をしていた頃、また少し離れた場所ではお調子者に向けて突きさす視線が常時発射されていた。
??「ふんっ」
??「けッ」
妹紅「見せつけてくれんじゃないの」
輝夜「なにが『嫁にならない?』よ、片腹痛いわ」
さらに
と、そのワードにピクリと反応してしまった者がいた。そしていても経ってもいられず、身を乗り出し多少強引ながらも輪の中へ。
??「えっ、
『落とし物 見つけたのなら 命蓮寺』
紛失
輝夜「
星 「はい、そうなんです」
妹紅「お、お、おい……?」
硬直一歩手前、ギシギシと音を立てる首を回し、灰色の影に恐る恐る視線で語りかける。「
ナズ「いえ、それが本当なんです」
『落とし物 見つけたければ 命蓮寺』
度重なる主人の失態に呆れ、宝塔を首から下げる事を提案した張本人。ナズエモンことナズーリンである。
ナズ「私の目の前で求婚されていました」
事実、現実、真実。犬猿の仲でありながらその回答に対するリアクションは全く同じ。口をあんぐりと開けたまま思考が停止していた。
ナズ「信じられませんよね? 今までそんな物好きなんていませんでし。おかげでご主人の心は彼に盗まれてしまいまして」
星 「ナズやめてよー、恥ずかしいなーもぉ〜」
と、そんな彼女達の下にも
霊夢「ちょっと、一応あんた達にも聞くけど——」
紛失物を探している巫女が。おかっぱ頭とお調子者へ尋ねた時と同様に「これくらいの丸いヤツ知らない?」と宙に丸を描いて尋ねる。
『さー、知らない』
しかしリアクションは皆同じ、首を45度傾けて「何のことやら」と。巫女もさほど期待もしていなかったのか、ため息をこぼして「ならいい」とその場を後にしようとしていた。
だがそのタイミングで「ちょっと待った」と巫女を呼び止める者が。
輝夜「向こうの二人、何の話してた?」
せっかく来たので情報収集をというところなのだろう。だがこちらもまた、
霊夢「さー、知らない」
である。
霊夢「声かけた時には二人ともだんまりよ。なに、気になるの?」
輝夜「わわわ私じゃないわよ。妹紅が—— 」
妹紅「なっ、ちげーよ命蓮寺の虎が——」
星 「え、えええっ、私だけですか?!」
霊夢「ふーん、別にあんた達の好みに興味なんてないけど、チャラ男だけはやめておきなさい。アイツの『嫁にならない?』は
星 「
霊夢「まあね、だからって
「あんたらとはレベルが違うんだぞ」と腕を組んで見下す巫女。だが彼女達は知らない、その巫女でさえも我を失い真っ赤に染まっていたことを。未来を瞬時に想い描き、イヒヒのウフフのエヘヘをしていた事を。
と、そんなドヤドヤしている都合のいい巫女の近くから
??「あの〜、みなさんちょっとよろしいですか〜?」
フワフワとした少女の声が。紅白巫女の商売敵であり、異変解決の仲間であり、幻想郷で二人目である東風谷早苗だ。何を隠そう彼女もまた……
早苗「さっきから聞こえてたんですけど、それって海斗君のことですか〜?」
霊夢「ええそうよ。って、まさか早苗もなの?」
早苗「はい、言われました〜。それと——」
なのである。さらにその緑巫女が移した視線の先、背後に身を隠して絶賛ガクブルしながらブツブツと
??「
オームの法則を唱えて自爆している少女もまた……
妹紅「河童もか!?」
その被害者なのだ。
早苗「神奈子様にも言われてましたよ。聞き流されてましたけど〜」
輝夜「ホントに誰でもいいみたいネ!」
霊夢「そういうヤツなの。どこまで本気か分からないわ、何考えてるか分からないわ、働きもしないで
ナズ「ほらご主人、言われてるじゃないですか」
星 「でもさ、あんな
にと「真っ直ぐな眼……グハッ」
ナズ「ゔぅっ、ご主人のクセにぃ……」
本音を零しながら生毛が逆立つ耳を両手で
ずっと平常心を保ち続け、第三者的ポジションから会話に参加し、冷ややかな視線でことの次第を見守っていた彼女。だが、こんな分かりやすい反応を見せられてしまえば誰もが悟る。
『(オマエもだったのか)』
と。だがそれでもまだまだ氷山の一角。その中でも忘れてはならない一番の熱を帯びているののが——
??「かっこいいな〜♡」
ポヤポヤ〜っとビームを送り続けるこの少女だ。
星 「えっと、そちらの方はー……」
輝夜「ああ、あゆみよ。アイツと会うなり抱きついたのよ」
星 「そうなんですか!?」
妹紅「顔がモロ好みなんだと」
にと「顔が……グハッ」
霊夢「なに、あゆみってメンクイなの?」
星 「あゆみさん、見た目だけで人を判断してはいけませんよ? これは仏教の根本思想の一つでして——」
ナズ「ご主人のクセにぃ、ご主人のクセにぃ……」
話題はポヤポヤ娘へ。ともなれば同じ立場の者として、ライバルとして、仲間として、自己紹介がてらの挨拶が欲しいところ。が、そこはやはりと言うべき、
あゆ「イケメンだな〜♡」
聞こえちゃいない。マイペース、ゴーイング・マイ・ウェイ、入ったら出てこないポヤポヤ
イラッ
拳ドリルにスイッチを入れる紅白巫女、さらに背後に回って3・2・1……
早苗「確かにイケメンと言えばイケメンですよね〜。話してみると楽しいですし〜」
それは奇跡と言うべきだろう。拳がかかる間一髪のところで、ポヤポヤ世界がガシャリと音を立てて
重なり合う視線、流れる無言の時間、
『ねえ〜〜』
共感、共鳴、共振。シンクロするソプラノのハーモニーは新たな友情の証、そしてそれは他の者を圧倒させるフワポヤ世界が展開された瞬間でもあった。
早苗「外来人なんですよね、ネズミ派ですか〜?」
ナズ「む?」
早苗「ネコ派ですか〜?」
星 「むむ?」
あゆ「ん〜、それよりも富士山の方が〜」
早苗「きゃーっ、いっしょ〜」
『負けた……』
始まってしまった同世代による外界ネタのガチガールズトーク。緑巫女の盛り上がり度はお調子者の時とは比ではない。例えるならダムの決壊、流れ出したら勢いをそのままに
『いえ〜い、エビ〜』
踏み込める者は他にいない。
そんな二人は一旦棚上げし、話を共通の敵に戻す一同。次々と飲み干していく物のせいもあってか
が、事態が急変したのはその矢先だった。腹ワタが煮えくり返った一同がすっくと立ち上がり、敵に視線を向けた次の瞬間、その敵に動きがあったのだ。
輝夜「い、今の見た?」
妹紅「ああ、アイツら——」
星 「て、手を……」
にと「手と手を……グハッ」
霊夢「重ね合わせたわね。しかも妖夢から誘ってるようにも見えたわ」
ナズ「あんな
早苗「アレは恋人つなぎですよ〜。外の世界では仲のいいカップルがああやって指と指を
あゆ「ん〜?」
この日、運命のイタズラによって導かれ開催されたサミット。それはお調子者のお調子者によるお調子者のためのサミット。人呼んで『被害者サミット』。当初から暗雲が立ち込め、局地的に嵐を巻き起こそうとしていた。
にと「わわわ私は別になんとも……ネッ」
輝夜「私達をどうしようって……ネッ」
妹紅「人の心を
星 「信じてたのに……ネッ」
ナズ「この想いを晴らさずには……ネッ」
霊夢「ちょいとあんたら?」
早苗「霊夢さんこちらだけじゃないみたいです。あちらの方々の様子も——」
あゆ「早苗ちゃ〜ん、どうかしたの〜?」
だからこそ、そんな場所だからこそ、新鮮でジュースィな香りを撒き散らす場所だからこそ、
『ネタマ
??「
ヨダレをダラダラと垂れ流し、
??「パルスィダメだってば! 勇儀がいないっていうのにぃッ!」
??「温泉飛び出していきなり何なのよ!」
パル「
緑の瞳をギラギラに光らせ、
こい「無意識に——」
さと「こいし待って! お燐はお空と一緒に——」
お燐「お空早くしてニャ!」
お空「うにゅぅーッ」
ドス黒いエナジーをガンガンに燃やして。
紫 「藍と橙、いったん引くわよ」
橙 「はいで
藍 「ただちに!」
だがそれでも、
永琳「あなた達はコレを!」
鈴仙「師匠ありがとうございます」
てゐ「助かったウサ」
影狼「私まですみません」
はた「椛つかまって!」
文 「久々に飛ばしますよぉ」
椛 「お願いしますッ」
本当の嵐は——
白蓮「
一輪「ダメだ姐さん、もう間に合わない!」
直後に
パル「パ〜ルパルパルパルパルパルパル♡」